学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
唱えられたのは、特大級の呪文。
黒鳥さんは、仏頂面だ。何を考えているのか分からない。
だけど――この時ばかりは、彼の顔に悪魔を見たような気がした。
「そ、それって――」
「効果発動。僕のクリーチャーを全てマナに送り、マナゾーンから進化ではないデーモン・コマンドと進化デーモン・コマンドを場に出す」
なっ!?
何だその無茶苦茶な効果――!?
「まず、マナゾーンから《邪霊神官バーロウ》を出す。そして、今度はマナから進化クリーチャーを場に呼び出す。《邪霊神官バーロウ》を進化」
その時、俺は黒鳥レンが何故ここまで恐ろしく強いのかを垣間見たのかもしれない。
この人は只者じゃない。
何故かは分からなかったが、この時の俺は――
「──蘇れ、生命を蹂躙する冒涜と深淵の王。その名は、《覇王ブラックモナーク》」
――ただ、カードのゲームをしているだけという感じはしなかったのだ。あの空間でデュエルをしているときと同じような緊張感が俺を襲っていたのだ。
カードの名前の響きに、ただただ身の毛がよだつような感覚を覚えた。
何なんだ、このカード。見たところ、コスト10でパワー17000の超巨大進化クリーチャーのようだ。
「あれが――紫月の師匠の切札か」
「いえ、あれは私も初めて見ました。前までは入っていなかったカードです。あの人の切札は、闇の進化クリーチャーが中心なので、これといったものは無いのですが、どれも恐ろしく強いですよ」
「解説をありがとう、紫月。これで《大地と悪魔の神域》の効果は終了。次に、《バーロウ》能力を解決し、墓地から《バロム》の名を持つ進化クリーチャーを場に出す。進化元はマナゾーンの《ダークマスターズ》だ」
「っ……マナ進化!?」
マナゾーンから出てきたカードの頂に、禍々しい悪魔のカードが重ねられた。
「──破滅への恐怖で大地が震える。その名は、《悪魔神バロム・クエイク》」
次の瞬間、俺の場のクリーチャーが全て消し飛んだ。
《バロム・クエイク》はマナゾーンのデーモン・コマンドを進化元にする上に、登場時にデーモン・コマンド以外を全て破壊する凶悪な進化クリーチャーだ。
俺のジョーカーズ軍団は当然、全滅――
「だが、悪魔の戯れはまだ終わらない」
言った彼は、《覇王ブラックモナーク》に手を掛ける。
「《ブラックモナーク》で攻撃するとき、効果発動。その時、墓地から闇の進化ではないクリーチャー、そして闇のクリーチャーを場に出す」
またリアニメイト。
もう、嫌な予感しかしなかった。
「墓地から《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》を出し、そのまま進化だ」
「また進化……!?」
「《ブラックモナーク》で出す2体目のクリーチャーの指定は”闇のクリーチャー”。進化クリーチャーも問題なく場に出せる」
これで3度目。
現れ出たのは――
「──悪夢の革命よ、怨嗟の果ての悲劇となれ。その名は、《革命魔王 キラー・ザ・キル》」
ぎょろり、とした単眼が俺を睨んだ気がした。
デーモン・コマンド・ドラゴンで、革命軍のクリーチャーの《キラー・ザ・キル》は、確かシールドが減っている時に効果を発動する革命を持っていたような気がするが――待てよ、今の黒鳥さんのシールドは0じゃないか!?
「これが僕の切札達だ。《キラー・ザ・キル》の革命2が発動し、僕のシールドが2枚以下の為、墓地から闇のクリーチャーを全てバトルゾーンへ」
「なっ……!?」
「《カナシミドミノ》、《ホネンビー》を復活させる」
なんてことだ。
結局、最終的に場の数はターンの最初よりも悲惨になっている。
「これで効果の処理は終了。《ブラックモナーク》でシールドをT・ブレイク」
シールドが3枚、叩き割られた。
トリガーは、来た。《バイナラドア》だ。こいつで殴り手を除去すれば、次のターンに《ダンガンオー》で押し勝てる!
「S・トリガー、《バイナラドア》を召喚――」
「《バロム・クエイク》の効果発動。相手はコストを支払わずにクリーチャーを出す時、代わりにマナゾーンに置く」
「なっ……!?」
希望は、あっさりと挫かれた。
あんなに進化条件が簡単なのに、何て恐ろしいクリーチャー!
S・トリガーどころか、革命0トリガーや侵略ZERO、自分のターンの革命チェンジや超次元も封じられるじゃないか! 場に出す代わりってことは、登場時効果も発動できない。
「そして、《キラー・ザ・キル》でシールドをW・ブレイク」
「っ……!」
──俺は追い詰められている。着実に。
確かに恐ろしい相手だ。
下手したら、あの火廣金以上かもしれねえ。
経験も、戦略も、そして純粋にデュエリストとしての格も。
何もかもが上だ。
だけど。
「……まだだ」
だけど、こっちだってやられっぱなしは嫌なんだ!!
「まだ終わってない! S・トリガー、《タイム・ストップン》!」
「……何?」
こいつは呪文だから、《バロム・クエイク》の効果では無効化されない。
それだけじゃない。この窮地を脱して、次のターンにトドメを刺す布陣を整えることが出来る!
「その効果でコスト6以下のクリーチャー、《ホネンビー》を山札の下に置きます!」
「それだけでは止められないな」
「いや、俺のシールドが無いからスーパー・S・トリガー効果が発動! 黒鳥さんのクリーチャーは、もう攻撃できない!」
「……ほう」
スーパー・S・トリガーは、トリガーした時にシールドが0枚なら発動する効果だ。
こいつの場合は、相手のクリーチャーの攻撃を文字通りストップさせる。
「これで反撃だ!」
「やるじゃないか。その勝負運は評価してやろう」
首の皮1枚、繋がった!!
次の俺のターンでやることは1つしかない。
もう何も守るものがない黒鳥さんに――弾丸を、ぶち込む!
6枚のマナをタップし、切札を出す!
「これが俺の
《
こいつも、場に出たターンに相手を攻撃できるクリーチャー。
これで一気に決める!
「《ダンガンオー》でダイレクトアタック!!」
渾身の一撃は――
「ニンジャ・ストライク6、発動。《威牙の幻 ハンゾウ》。効果で、《ダンガンオー》のパワーをマイナス6000して破壊」
通らなかった。
黒鳥さんに届く一歩手前で、《ダンガンオー》は破壊されてしまった。
握ってたのか――《ハンゾウ》を……!
「《ダンガンオー》のパワーは7000。本来なら《ハンゾウ》では破壊出来ない。しかし、こういうこともあろうかと《カナシミドミノ》を立てておいたのさ」
「丁度、パワーマイナス7000……!」
「そうだ。《ハンゾウ》だけでは討ち取れない範囲を、こいつでカバーする。これがカードとカードの連携だ。僕のデッキは、決してエースカードだけの為にあるものではない。40枚や超次元カード、全てで織りなす、1つの芸術作品」
「芸術……作品……?」
「よく覚えておけ。デッキは、1枚1枚が切り札だ。貴様が選出した1枚1枚が全て切り札だ。デュエマはカードで戦うのではない。デッキで戦うゲーム。絵も、色や構成要素が1つでも欠ければ崩れてしまう絶妙なバランスの元で成り立っている。それが僕のデュエルの美学の1つだ」
俺はその時、はっとした。
カードだけで戦うんじゃない。
例え、マスターカードが無くっても――俺のデッキの切札は、こいつら全部――!
「これで終わりだ。《悪魔神バロム・クエイク》で、ダイレクトアタック」
※※※
結果は俺の負けだった。
だけど、今度はあんな理不尽な負け方ではなく、精一杯あがけたからか……とても清々しい気分だった。
「ああ、もう! 惜しかったデス!」
「そうだ。健闘していたぞ、白銀!! 見ててすっげぇ熱かったぜ!!」
「で、でも、やっぱり強いです、黒鳥さんは……」
「フン、まあな」
あ、そこは否定しないんだ。
だけど、それは自惚れとかじゃなくて――
「このデッキは、僕が今まで歩んできた軌跡だ。そう簡単には、負かせはしないさ」
──彼の経験に裏付けされた確かなる自信。そう分かった。
凄いデュエリストなんだな、名実ともに。
「軌跡……」
「だが、貴様のデッキもいずれはそうなる。歩みを止めなければ、な」
そう言うと、黒鳥さんは再び丸椅子に座った。
「馬鹿でいろ。貴様はそのままで居ろ。真っ直ぐなのは、良い事だ」
何かサラッと馬鹿にされた感じがするけど……励ましてくれてるんだろうか。
「しかし……危なかった。早期に《ジョリー・ザ・ジョニー》が引かれていたら、もっと違っていたかもしれない」
俺の額に汗が伝った。
ああ、いや……その件なんだけど……。
「実は俺……デッキにそのカード、入ってないんです」
「……何?」
俺達は、色々な不幸があって結局《ジョニー》が手に入らなかった事を話した。
「そうか……僕も昔は不幸体質か何か知らないが、パックでやたらとハズレアばかり出たりパックのカードが全部コモンの微妙なカードだったりしたことが何度もあるから気持ちが分からんでもない」
凄い!!
まさか、同じ日本に俺以上に不幸体質の人間が居るなんて!
「とはいえ、強い者には強いカードがいずれ来る。巡り合おうと思えば、いつか巡り合えるさ」
「そんなもんですか?」
「ああ」
まあ、気にしないで追い求めていればいつかは手に入るか。
深く気にする事でもないだろう。
「と、ところで、次は私と対戦してもらって良いデスカ!?」
「いや、此処は俺が……」
「ちょっ!? お前らみっともないからやめろよ!?」
「やれやれ。私も師匠と久々に対戦したいのですがね」
「良いだろう。相手になる」
画して――黒鳥さんには敗れた俺だったが、一日限りの師匠による特訓がみっちり始まったのだった。
何だかんだで黒鳥さんも楽しそうだったし、俺も対戦相手に合わせたデッキ構築のアドバイスを貰った。
あと、桑原先輩は何か絵の事について黒鳥さんに色々教えて貰っていたみたいだけど、何話してたのかはその時ブランや紫月と対戦していた俺には分からない。
まあ、そんなわけで、それぞれに意味のある特訓となったのは間違いないだろう。
こうして、すぐに半日は過ぎ去ってしまったのである。
※※※
帰りの電車の中で、俺達は揺られていた。
ブランはすっかり疲れて寝ていたし、桑原先輩はどこか上の空で窓の外を見ていた。
俺は、隣に座っている紫月をちらり、と見る。珍しく寝ていない。
「なあ、紫月」
「何ですか? 先輩。私は結局、今日も師匠に勝てなかったのでご機嫌斜めです」
「……あ、あはは……でも、俺は今日一日なんつーか……すっげー、楽しかったぜ。強い人と戦うのって、怖いだけじゃなくて滅茶苦茶楽しいんだなって。色々教えて貰ったし、少しは前に進めた気がする」
「そうですか。それならこっちも企画した甲斐があるというものです」
「だから、ありがとな」
照れ隠しか、紫月はそっぽを向いてしまった。
「別に、お礼を言われることはしていません。うじうじしている先輩が見ていられなかった。それだけです」
「悪かったって。月曜日。もう1回、火廣金に挑む。その為に、紫月。頼みがある」
「はい。分かっています。エリアフォースカードですよね」
やれやれ、というと紫月は俺に白紙のカードを手渡した。
「元々、先輩が負けるのがいけないんですよ。自分の決着は自分でつけて下さい。でも、そのためなら私達は先輩に幾らでも力を貸します」
「何でだ?」
「先輩が頑張っているのが、目に見えて分かったからですよ」
「お前が機会を与えてくれたからだ」
「生かしたのは先輩です。だから、負けるのは許しません」
「ああ。もう、負けねーよ」
そうだ。
紫月も、ブランも、桑原先輩も、俺の為に付き合ってくれたんだ。
絶対に負けられない。今度こそ、だ。
「――次は絶対に、火廣金に勝つ」
※※※
「――白銀耀……」
黒鳥レンは、月明かりに照らされたキャンバスを眺めながら1人ごちっていた。
「レアカード運が壊滅的に悪い……そして無色……ジョーカーズ使い……」
何かを憂うように、彼は言う。
「これは僕の杞憂であってほしいのだが……」
投げかける言葉の先は誰なのか。
あたかも旧友に投げかけるようなそれは、虚空へ吸い込まれていく。
「……あいつらに色々教えたが……まだ、教えていないことがある」
彼の手には――白紙のカードが握られていたのだった。
「……頼むから、悪い予感はこれ以上当たらないでほしいものだな」