学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──やっと、着きましたよ……」
苛立ちを隠せない様子で紫月はケントナークから降りるなり、地面に手を突く。
既に首から太腿にかけて藪蚊に吸われた痕がぽつぽつと並んでおり、本人も空の上で揺られ過ぎた所為かグロッキーであった。
辿り着いた先に待っていたのは、広大な森林に覆われた木造の塔と建築物の数々。
そして──
「アカル! 早く、引き上げてくだサーイ!」
「分かってるって! チョートッQ頼めるか!?」
「えー、我水に濡れるの嫌でありますが……」
「んな事言ってる場合か! それなら俺が飛び込んで助けあばばばばばばばば」
「ギャーッ!! 要救助者がまた一人増えたデース!!」
「マスター、何で飛び込んだでありますか!!」
「やれやれ寒中水泳しに来たんじゃないんだがな」
(なんでしょう凄く帰りたいんですが)
目の前で繰り広げられている修羅場を前に頭を抱える。
おまけに、建物の方には何故かその場から走り去っていく翠月。
これだけで、桑原と姉の間に何があったのかは大体察せた。
しかし、放置しておくわけにもいかず己の守護獣を早速向かわせるのだった。
「シャークウガッ!」
「あいよ、マスター!」
すぐさま水の中に潜った鮫の魚人の腕が桑原と耀を捕まえる。
そのまま二人は橋の上にずぶ濡れのまま放り出されたのだった。
「げほっ、げほっ、エラい目に……って何だテメェは!?」
「あん? あー、あんたこの姿見た事無いんだっけか?」
「そ、その声ってまさか……」
「そのまさかですよ」
亡霊でも見る目で彼は紫月を見上げる。
長らく再会していなかった後輩の妹である彼女を。
「お久しぶりです、桑原先輩。弁明はありますか?」
※※※
伊勢神宮に帰っていた紫月は力の座への行き方を教えて貰った後、こっちに向かっていたらしい。
全員が無事だったことは聞いていたようだが、俺の顔を見るなり泣きそうになっていた。
「白銀先輩は毎回毎回、どうして危ない事に巻き込まれるのでしょう……」
「今回はマジで死ぬかと思ったんだよ……しかもまだ何も終わってないからな」
「それでも、シヅクが無事でよかったデース! うりうり」
「ちょっとブラン先輩、暑苦しいからやめて……心配したのはこっちもです。皆空から落ちて大怪我したそうじゃないですか」
「桑原のおかげで命は取り留めたといったところだな」
「師匠達を助けたのは良いですが、何で寒中水泳してるんですか貴方は」
「したくてしてたんじゃねーんだよ、ぶぇっくしょい」
タオルを抱きしめると、桑原先輩は自分がずぶぬれになった原因を話す。
しかし──当然、紫月が先輩の擁護をするわけもなく。
「自業自得でしょうそれは」
「ハァ!?」
全ての経緯を聞いた紫月は一先ず安堵しつつも、桑原先輩に訝しい目を向ける。
此処に来て新しい問題が浮上してしまった。
翠月が、桑原と再会するなり池に突き飛ばしたくらいには怒っている事である。
「みづ姉は怒ったら私よりも怖いんだから早いうちに謝っといた方が良いですよ」
「ンでだよ! 俺が悪ィってのか!?」
「悪いと思います」
「右に同じく」
「デース!」
「……チェッ、分かってるけどよ」
舌打ちした先輩は背を向けてしまった。
どっちにせよ、置手紙して勝手に伊勢まで行って心配かけたのは事実だからな。
取り合えず落ち着いた事だし、座の中の宿舎のような建物に案内された俺達は、会合所に集まっていた。
修行者たちの憩いの場所である此処は、道着を身に纏った神職の見習いたちが行き交っている。その中に私服で姦しく喋る少年少女達の姿はさぞ異質だっただろう。
だが、その中に翠月さんの姿は無い。完全に機嫌を損ねて部屋に籠ってしまっている。
黒鳥さんに彼女の様子を見に行かせ、俺たちは此処までの状況について整理していた。
「桑原先輩、そもそもどうやって伊勢まで来てたんすか?」
「この山ン中で行き倒れてたところを拾って貰ったんだよ」
「……マジで何やってんだよアンタは」
「仕方ねえだろ! 修行っつったら山籠もりだろ! 伊勢の近くにピッタリな場所があるって噂をネットで拾ってな」
変なところで俗っぽいなあ……しかもネットに載ってるのかよこの場所。
だけど見つからなかった辺り、本当に噂の書き込みでしかなかったのだろう。恐らく半ばヤケクソだったんだろうが、この行動力には脱帽する。真似したくはないけど。
この場所は結界によって外から簡単に入ることは出来ないらしい。一般人に見つけることができるはずはない。
「探してたんだが一向に見つかりやしねえ。道中は猪と熊と猿と何度も遭遇したしヤバかったぜ」
「何回死んだんデスかね……」
「ピンピンしてるぜ。山籠もりはそもそも写生で慣れてる」
「このしぶとさは白銀先輩とは別ベクトルですね」
「勿論、テメェらが紫月を探しに行ってる間に好き勝手してたのは悪ィと思ってる。だけど……俺はどうにかしてゲイルを蘇らせられねえかって思ってたんだ」
彼は力のエリアフォースカードを卓の上に置いた。
それには金色のマスターの紋章が刻まれている。しかし、彼の表情は浮かばれない。桑原先輩が此処での修行で得たのは──必ずしも望んだ結果ではなかったことは表情が物語っていた。
「まあ、無理だったんだけどよ……色々あって俺はQXを
「……色々? その色々の中身が知りたいんですけど」
「それは、これからテメェがやる修行の中身に関わって来る。俺の口から言っても仕方ねえこったな」
「はぁ……」
一体何をやらされるんだ俺は……。
今の俺が鬼に勝てないのは、精神面が原因とは言ってたけど。
「今日だけで三連敗、か……」
「ですが、そのうち1回は私が組んだデッキが原因のようなものです。中途半端でしたし……」
「そんなに気負うなよ。そもそも時間が無かったんだから」
「そうデスよ! シヅクなら、桃太郎のスペックを引き出してデッキを構築できるはずデス!」
「正直……悔しいんです。私、それでも白銀先輩の戦術を研究して研究して、その上でデッキを組んだはずなんです。余計な混ざりものが入って、尚且つ必須カードが抜けでもしない限り、ベガスのテック団で全滅してロスト・ソウルで全部手札を落とされて負けるなんて有り得るでしょうか?」
そう言って、彼女は俺のデッキケースをひったくるなり卓上に並べていく。
1枚ずつ、カードの種類ごとに分けていき整理した結果、綺麗にデッキの構築が明らかになった。
そして──
「何なんですかぁ……このデッキは……!」
──紫月、キレた!!
傍から見ても、イライラが抑えきれていないのが目に見えて分かる。
話しかけるのが怖いほどに。
というか、鬼よりも怖いかもしれない。
「あ、あの、紫月さん、一体どうしたんでせう……?」
「白銀先輩。あの
「此処の人間が桜桃(モモキング)と一緒に今分析してるって……」
「ええ私は確かにデッキを未完成のまま先輩に渡さざるを得ませんでしたよ。でもね、でもですよ──真っ先に入れた切札が抜かれてるんですよ!」
彼女はモモダチのカードとモモキングを指差すなり、激昂する。
コンセプトカード? 火ジョーカーズを語る上で欠かせない切札のカードに違いない。
俺はもう一度デッキのカードを見たが──見慣れたカードが無い事に気付く。
「あっ、《ジョジョジョ・マキシマム》と《ルネッザーンス》が無い!!」
「度し難いと思いませんか? しかも、この《勝熱龍モモキング》はマッハファイター持ち、バトルに勝てばアンタップとありますが……《メラビート》でどうせ全破壊するのにマッハファイターは要ると思いますか?」
「メラビートで全部事足りるな……」
「《モンキッド》はまだ良いとして、《キャンベロ》と《モモキング》の枠を、わざわざその2枚を抜いて入れたのが白銀先輩の敗因と言っても過言ではありません」
「でも俺《オニカマス》積んでたしなあ、白銀がそいつら入れててもカマス立てたら俺の勝ちだったんだぜ」
「引けていれば、です」
「ねぇよ。今の白銀は精神の不調で著しく魔力が落ち込んでいる。空間でのデュエルの引きは魔力の差に左右される……ジョーシキだろ?」
事実、その通りだった。
俺たちが格下のワイルドカード相手に勝ちやすいのは、この魔力の法則があるからだ。
逆に言えば魔力差が拮抗しやすいエリアフォースカード同士の戦いならば、今回は不調のある俺が不利になる。
桃太郎に認められていなかった件や、アバレガンの件も加味すると勝率は更に落ち込んでいくだろう。
仮にデッキが万全だったとしても、俺が桑原先輩に勝てたかどうかも怪しい。
「精神の不調って思い当たることが多過ぎデス。アカル、最近立て続けによくない事が起こったデスから……」
「あん? まだ他にもあんのか? そういや、火廣金や刀堂、後テメェの孫がいねぇが……まさか」
「それは──」
言わなきゃ、とは思った。
だけど、言おうとする度に──胸がきゅぅと締め付けられる。
二人の件は俺に想像以上のダメージを与えていたのかもしれない。
思い出すだけで、辛い。
この決意は嘘じゃないはずだし、後悔はしていないはずだ。
だけど──二人を捨て置ける程、俺は強くない。
「白銀。顔が青いぞ」
「……いや話します」
「やめとけ。ただでさえ今日は厄介ごとが沢山あったってのに、こんな所で吐いてどうするよ。あいつらが生きてるなら……俺はそれで良い」
「でも──俺、後悔はしてません。俺は……自分の選択に責任を持たなきゃいけないから」
「……白銀先輩」
「だから、これは誰の所為でもない俺の心の問題なんです。桑原先輩のデッキは恐ろしく洗練されてたし──桑原先輩は間違いなく強くなってる」
悔しそうに紫月は口を歪める。無理もない。
デッキが完成していれば、という気持ちが少なからずあるのだろう。
だけど、こうなった以上たらればは言ってられないんだ。先に進めなくなってしまう。
「紫月。起こってしまったことはもう仕方ないだろ? 俺はお前のデッキ構築に全幅の信頼を置いてる。これからのデッキ構築を一緒に考えていこう」
「アカルはデッキ組むの不得意デスけど、アカルのデッキを組むなら本人が居なきゃダメってことデス!」
「……一緒に。そうですね。私だけがカードと睨めっこしても仕方なかったです」
「やっと、デュエマ部らしくなってきたデスね! 私も協力するデスよ! シヅクなら、カードを見るだけで色々思いつけるはずデス! それを私たちが形にすれば良いんデスよ!」
「テスト相手ってことですか?」
「Thats right! その通りデス!」
確かに、これだけ人がいるんだ。テスト相手にも困らない。
デッキは、ビルダーとプレイヤーだけが作るものじゃない……ってことか。
「分かりました。私……皆さんと一緒にモモキングのデッキを作り上げてみせます」
「その意気だぜ! 早速、カードを見て何か思いついた事は無いか?」
「カード……そうですね。モモキングもキリフダッシュも、ジョーカーズの変化形です。でも、この変化形というのが非常に厄介極まります」
気を取り直したように紫月は、カードを見比べながら難しそうに言った。
「《モモキング》は、既存のジョーカーズとの相性があまり良いとは言えません。この、攻撃後にコストを支払って場に出す能力……キリフダッシュが召喚である以上は《ドンドド・ドラ息子》の効果も乗るはずですがそれくらいでしょう」
「書いてることは十分おかしいと思うデスよ! こんなのいきなり出てきたらビックリデス!」
「だけど所詮ビックリってだけだ。所詮、W・ブレイカーのマッハファイター、しかもキリフダッシュを使うターンにはマナを残してなきゃいけねえ。今までのジョーカーズは、白銀のスタイルを見てもそのターン中にマナを使い切っちまう事の方が多かった」
そこがキリフダッシュの難しい所だ。
全く新しい能力である以上、今までとは全く違うプレイングが求められる。
そして、全く違うプレイングが求められる以上は今までとは違う構築を組まなければならない。
「ってことは専用構築か……」
「はい。そもそも、モモキングと一緒に見たことのないジョーカーズのカードが多数、デッキに入っていました。これらも考慮すれば、今までとは別のデッキになるかと」
「……書いている事は強いんだがな……」
「デュエマにおけるカードの強さは単品のカードパワーだけではありません。組み合わせですから。ただ、それにしても本体の物足りなさはありますが……このキングマスターという称号に負けてしまっている感があります」
そういえば、酒呑童子も言っていた。
桃太郎にしては弱すぎる、と。
そして巌流齊の爺さんの言う事が本当ならば──
「モモキングは、まだ完全な姿じゃない……ってことか」
「ならば、その完全な姿を見て吟味したいところです。もしこれで、苦労して手に入れたのに威力がショボかったマダンテ並みのスペックだったら、私は即刻抜けと言いますよきっと」
紫月の目は──マジだ。
仕方なかったとはいえ、ジョマキとルネッザーンスを抜かれたのを大分根に持っているらしい。
「そしてマスターがモモキングに認められるなら、恐らく本気でモモキングやモモダチと向き合わなければならないと思うでありますよ」
「モモキングを覚醒させるなら、モモキングを軸にしたデッキを使うのが手っ取り早い、か……そりゃそうだよな」
「幸いモモキングはジョーカーズである以前に火と自然の多色であるドラゴンです。その方向性にデッキを寄せる事もできます。モモキングが真の力を見せた時が私の腕の振るいどころです」
「その時は頼むよ。だけどまずは──キリフダッシュを極めねえと」
明日からは修行に入るらしい。
どんな事が待ち受けているか分からないけど……やるだけはやらねえとな。