学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──っ!?」
痛みは無かった。
次の瞬間、俺の身体から幾つも青い火の玉が浮かび上がった。
「こ、これって……!?」
「にょほほ、数百年前。この地に流れ着いた
「それって──」
以前の辻斬り事件の黒幕だったザンゲキ・マッハアーマーの能力に似ている。
他にも存在していたのか……!
人の身体じゃなくて、魂を切る剣。恐らく、それがクロスギアの力なのだろう。
「こうして切り取った煩悩をワシの紫電でじっくりコトコト増幅させる」
紫電の剣が宙を舞った。
斬りつけられた青い火の玉が大きくなっていき、そして空へ飛んで行く──
「火の力は混沌と情熱の力! 言わば、人間の心根に最も近い力! 貴殿の煩悩は今、この修練場の中に解き放たれた!」
「それって、全部で幾つなんだ……?」
「6つじゃ。煩悩にも様々な種類があるが、そのうちでも取り分けて強い6つを貴殿の中から浮かび上がらせた。貴殿のやることは唯一つ、手段は問わぬ。全ての煩悩を集める事じゃ!」
修練場とは言うが、これ山なんだよな。
大丈夫か? 全部集めきれるのか……?
「ちょい待て! 煩悩って、さっきの人魂みてーなやつだろ!? どうやって集めるんだよ!」
「にょほほ、手段は問わぬと言ったはずじゃ。それは知恵を絞り考える事じゃな。煩悩を集める事は必然的に己の中の欲望と向き合う事。そうすらば、貴殿の神力は次第に研ぎ澄まされていくことじゃろう。それとも何? まっさか、この程度で音を上げるわけじゃあるまい」
「……へっ上等だぜ」
良いだろう。
手段を問わないというならば、幾分か気が楽だ。
今の所どうすれば良いのかも思いつかないけど。
それでも──この言い方なら守護獣達の力を借りても良いって事だよな。
「それともう一つ。煩悩が現れるのは朝の鐘が鳴ってから、夕の鐘が鳴るまでの間じゃ」
「ってことは──」
「朝の5時から、夕方の5時までの間だ」
「1日12時間しか猶予が無いのか……何で?」
「そんなの決まっておろうが!」
にょほほ、と巌流齋の爺さんは言ってのけた。
「この術はワシが起きとる間にしか使えんから──ほら、老人って寝るのが早いって言うじゃろ?」
「あんたはもう死んでんだろーが!!」
どう考えてもウソである。
どうやら、火の力である以上は日光に依存するからだとか何だとか。
それならそうと最初っから言ってくれればいいのに……。
※※※
「で」
修練場に入り、早2時間。
既に俺は音を上げそうだった。
登山って、こんなにしんどかったんだな。
それを道着ひとつで登ってる俺って何なんだ。
そもそも頂上に登ったところで目的のものがあるわけじゃないだろうが。
「チョートッQ、何か感じたりするか?」
「いーや、特には……そもそもマスターに煩悩なんてあるのでありますか?」
「何か腹立つ言い方だな……」
「そもそも、神力だのなんだのは我よりも桃太刀達の方が適任だと思うでありますよ。我には感じ取れないであります」
「俺もそう思う、でもあいつら何処行ったんだ?」
そう言った矢先だった。
しゅんしゅん、と木々から飛んで来る影が俺の目の前に降り立った──
「呼ばれて飛び出て参上!」
「我ら桃太郎の懐刀!」
「桃太刀三人衆、見参!」
お前ら毎回それやるのか?
出来れば最初っから出てきてほしかったんだけど……まあ良いか。
「テメーら何処行ってたんだよ?」
「この修練場での修行と聞き、一足先に立ち入っていたのだケン」
曰く。
ケントナークによって、凡そこの山の地形は把握しているんだと。
凄いな、見直したぞ。この辺りは動物型クリーチャーの独壇場じゃないか。
これなら道に迷う事も無いかもしれない。
「桃太郎を目覚めさせてくれたってなら、俺達も協力しねぇとなぁ!」
「山の事ならボクらに任せてほしいキャン!」
「お前ら……役に立つ時は役に立つじゃねえか……てっきり只の非常食三人衆かと思ってたぜ」
「非常食はケントナークだけだッキィ」
「犬を食べても美味しくないキャン!」
「身の危険を感じるケン」
強く生きろ桃太郎のお供のキジ。
さて、と。桃太刀達も揃った事だし、煩悩探しに出向くとするか──
「あれ? 今度はチョートッQがいねぇぞ」
「う、うらめしや……」
桃太刀達の足元を見る。
そこには、3人によって下敷きになった哀れな新幹線の姿があった。
「ウッス、パイセン! 脚マッサージはどうだッキィ?」
「貴様ァーッ!! 根に持ってるでありますなーッ!! さっさと退くでありますよーッ!」
どうしよう。折角安心したと思ったのに……今度はチームワークが不安になってきた。
「コイツら何時か痛い目見せてやるでありますよ!」
「あぁ!? やるのかヘンテコ頭ァ!」
「お前らマジでやめろや! 酒呑童子が完全に覚醒するまで2週間なんだぞ! 今回の試練は1週間でクリアしなきゃいけねえっつーのに」
「アホ共は放っておくケン。このケントナークのナビゲートに掛かれば、山の危険ポイントを全て把握できるケン」
「お前は頼もしいな……」
いがみ合う二人を他所に俺達はどんどん進んでいく。
なんかだんだん藪が生い茂ってきたな。ヒルとかマダニとかが心配になって来るぞ。
「それで? 山の危険ポイントってのは?」
「例えば熊の生息地ケン」
「成程、確かに出会ったら一巻の終わりだぜ。下手したらクリーチャーよりも怖いかもしれねえ。で、俺達は今どっちに向かってんだ?」
「僕達は神力で動いているんだキャン。だから、煩悩の匂いも嗅ぎ取る事が出来るんだキャン」
「おお! それなら、この試練もすぐに終わるな! あの爺さん、手段は問わねえって言ってたし!」
「だが一つだけ問題があるケン」
「何なんだ?」
藪を払いながら、俺は彼に問い返す。
先行するのはリーダー格のケントナーク。
翼で藪を払いながら進んでいる彼は振り返るなり──
「此処がまさにその熊の出没ポイントだケン」
「何でそれを先に言わねえンだよ!!」
──蒼褪めた顔で言ったのだった。
払いのけた藪の先から唸り声が聞こえてくるんだが!
「ケントナーク、前、前ェーッ!!」
「えっ? あっ、ふーん──」
「悟ってんじゃねえ、逃げるぞ馬鹿共!!」
俺達は一目散にその場から駆け出す。
間もなく、着ぐるみのような黒い熊が飛び出してきた。
『ツキノワグマ。本州や四国の一部に生息するとされている熊デス。
一般的に巨大な熊と言えばヒグマ、グリズリーが思い浮かばれますが、こいつも侮るなかれ。
デカい個体は1m~1m80cmに成長するとされ、時速は凡そ40kmと自動車並み。
ヒグマに一歩劣るというだけで十二分に超危険生物なのデスよ! 死ねマスね!(ブランのメモ書き・山に入る時の注意点より抜粋)』
「煩悩の気配は確かにこの辺りからしたんだケン!」
「だとしても言うのがおせーよ、焼き鳥野郎!! 鬼じゃなくて熊に襲われて死んだとか話にならねえ!!」
「マスター、此処は任せるでありますよ!!」
すぐさま、ゴートッQに変身したチョートッQが熊ととっ掴み合う。
しかし──すぐさま彼の身体は投げ飛ばされてしまい、藪の中へ。
「ほげぁーっ!?」
「チョートッQ-ッ!?」
「むっ、判ったぞ。あの熊に貴方の煩悩が憑りついているんだケン!」
「はぁ!? 嘘だろーッ!?」
クリーチャー相手に勝っちまったって事は、つまりそう言う事か!?
あの熊は今、俺の煩悩を吸ってクリーチャーみたいになってるってこと……って、そんな馬鹿な!
ああ、キャンベロとモンキッドもいねぇしどうしたら良いんだ!?
……いや、落ち着け。今此処で俺が冷静さを失ったら、全部お終いだ!
「ケントナーク、俺を背中に乗せてくれ!」
「了解ケン!」
熊の拳が俺の髪を掠めた。
間一髪、何とか空へ逃げ込むことは出来た。
だけど──あの熊の中に一つ目の煩悩が居るのは確実だ。
このまま地上に降り立つのは危険だし……そもそも煩悩ってどうやって取り出せば。
「……白銀殿、あれを見るケン!」
「んあっ!?」
ケントナークの翼が指差す方向。
そこには、先程の熊が何かを咥えて走り去っていく姿──
「ひぇぇぇーん、誰かたすけてぇぇぇーっ!」
「キャンベロォーッ!?」
……考えてる暇は無い!
早く行かねえと!
「っチョートッQ! 寝てる場合じゃねえぞ!」
「あ、あいつ、強過ぎでありますよ……」
「キャンベロが連れ去られた! このままだとマズい!」
「っ……それは聞き捨てならないでありますな!」
藪の方から再びチョートッQが飛んで来る。
早く熊を追いかけないと、見失う……!
「ケントナーク! あの熊には何の煩悩が憑りついてるか分かるか!?」
「貪……言わば万物への欲望、”強欲”だケン!」
「強欲か……レアカード欲しいとかそういうのが実体化したのか……?」
思い当たることが無いわけじゃない。
いや、そんな事は今はどうだって良い!
キャンベロを助け出す為に煩悩を引き剥がす方法……あの熊がクリーチャーだったら、エリアフォースカードでデュエルに引きずり込めるんだけど!
……待てよ、動物のクリーチャー化? 前にもこんな事あったような……あ。
「ケントナーク、熊を見失わないようにしてくれよ!」
「え、ま、待つケン、まさかマスターっ!?」
「背後から奇襲を掛ける! 前に一回、似たようなことを経験してるんだ。もし俺の推測通りなら、あの熊から煩悩を引き剥がせるかもしれねえ!」
「それってまさか──」
四足歩行で疾走するツキノワグマ。
それに目掛けて、俺は意を決してケントナークから飛び降りる。
その手には──
「
<Wild……DrawⅣ,EMPEROR!!>
※※※
「《勝熱龍モモキング》でダイレクトアタック!!」
その一撃で勝負は決した。
熊の身体が吹き飛ばされ、そこから青い人魂が抜けていく。
「欲しい……欲しい……あの弾のつよつよSRが4枚欲しい……」
そんな声が人魂から聞こえてくる。
これってもしかして俺の内心とか言うんじゃないか?
俺の物欲って全部カードのそれで構成されてたのか? ショック。
「マジでカードに対する物欲だった……」
「マスターはデュエマ馬鹿でありますからなあ」
それに加え、敵が使って来るカードもジョーカーズだったことか。
ただし──キリフダッシュを持つ、見た事の無いカード達だったわけだが。
「苦戦はしなかったでありますな」
「ああ。紫月が調整してくれたデッキのおかげだぜ」
「所詮はまだ、力任せに捻じ伏せる事が出来る程度の煩悩だったというわけだケン」
人魂が俺の中に吸い込まれていく。
これで、一つ目の煩悩ゲットだ。
熊に追いかけられて死ぬかと思ったけど……これよりも手強いのが待ってるっていうのか。
「キャインキャイン、死ぬかと思ったキャン……」
「もう大丈夫だぞー、頑張ったな」
「それに加えて、熊が使っていたカード達が落ちているのでありますよ」
《熊四駆 ベアシガラ》。
熊はこのカードを使って俺に立ち向かってきた。
こいつもジョーカーズで、しかもモモキングや桃太刀達と同じチーム切札のカードだ。
「何でこんな山の中にカードがあるんだろう……?」
「この山には、そもそも我らと同じ切札の力を持つクリーチャーの残滓が残ってるんだケン」
「残滓?」
「封印された後も、クリーチャーの神力だけが漏れ出して、それがカードになっているんだケン」
「へえ……成程なあ」
桑原先輩から今朝聞いた、十王の昔話。
それにまつわるクリーチャーが、この修練場には封印されているんだとか何とか。
ベアシガラは、そのうちの1枚なのだろう。
そして、力を認めた者にはカードとして力を貸してくれる……という訳か。
「とにかく、キャンベロも助け出したし……次の人魂を探そう」
「ところで白銀殿。此処が何処か分かるケン?」
「あ?」
俺は周囲を見渡す。
ひょこ、ひょこ、と藪から黒い着ぐるみが次々に姿を現した。
「……もしかして」
「熊の……縄張り、テリトリーだケン……」
「ガクガクブルブル……」
「何でそれを早く言わないのでありますかーッ!?」
「逃げるぞーッ!!」
結果。
命からがら山から下りた頃には、既に午後の5時となっていた。
俺はもう二度と、不要不急の山登りはしない事、そして熊のテリトリーには近付かないと心に決めたのだった。
「し、死ぬかと思った……であります」
「しかし、全員無事だったケン」
「無事だったから良いってモンじゃねーよ! この調子で明日以降も煩悩を集めていきたいところだけど、後何回死にかけるんだ? 俺達……」
「ところで僕達、何か忘れてる気がするんだけど気の所為キャン?」
うーん、確かにそんな気がする。
だけど、忘れてるってことは多分大した事じゃない気が──あ。やべ。
「助かってないッキィィィーッ!!」
金切り声が後ろから聞こえてきた。
木の枝を杖代わりに地面に突くモンキッドがよれよれのまま下山してくる。
あ、あばばばば、完全に忘れてた……!
「お、お前、今まで何処に行ってたんだ!? 探したんだぞ!?」
「探してないだろッキィ!! あの後熊に踏み潰されて、伸びていたら、今度は別の熊たちに連れ去られて相撲取らされたり何の肉か分からないもの食わされたりしたッキィ!!」
「良かったな、歓迎されてるケン」
「嬉しくないッキィ!!」
「エサと認識されるよりマシだキャン……」
「……ドンマイ! でありますな!」
「じゃねーよ!! 死ぬかと思ったッキィ!!」
今日の教訓。
人にしたことは自分に帰って来る……ってところだろう。肝に銘じておこう。
※※※
5時の鐘が鳴るころには、フラフラのまま俺達は力の座に戻ってきた。
し、死ぬ……とにかく風呂入って飯食って寝たいんだけど……。
「白銀先輩っ!」
ああ、愛しい後輩の声が聞こえてくる。
良かった。酷い事続きだったけどオアシスは確かにあった。
これで明日も頑張れる気がする。
「大丈夫ですかっ、顔が死に掛けてますけど……」
「へーきへーき、ちょっと熊に追いかけられただけ──」
一目、彼女の顔を見ようと顔を上げて絶句した。
「……お前、その服……」
「えっ、あっ、これは……一応、此処が神職の修行場だからということで……女子はこれを着ろということになってて」
紫月が身に纏ってたのは──巫女装束。
白い小袖に緋色の袴のシンプルなものだが、清楚な服が大人しめな容姿の紫月に凄く似合う。
「えと、先輩? 目が怖いですけど……」
「誰が着せたんだ……これ」
「えと、巌流齋さんが──」
爺さん、グッジョブ!!
「あの、似合ってなかったなら着替えてきますけど」
「何言ってんだ! これだけで今日起こった事全部チャラだっての!」
「そこまで言われると逆に恥ずかしいのですが……先輩、よっぽど大変だったんですね」
「あ? ああ……熊に追いかけ回された」
「死に掛けてるじゃないですか。よく生きて帰れましたね」
「守護獣が居なきゃ今頃死んでるよ」
だけど、残りの煩悩はもっと強いものが残っているのだという。
恐らくそれで俺は、自分の中の「歪み」と否応なしに向き合わされることになる。
いや、それ以上に恐らく集めるのが大変になるはずだ。
今回みたいにデュエルで引き剥がせるのなら、準備は万全にしておかないと。
「まあ良いです。ご飯の時に、今日の話……いっぱい聞かせてくださいね」
「おう! 勿論!」
「何や、苦労してきたのに巌流齋の爺さんはおらへんのかー?」
突如、向こうから声が響いてくる。
振り向くと、声を発したのは背の高い少年だ。
しかし、オレンジ色のパーカーに身を包み、「疾風」と書かれたサンバイザーを頭に付けている辺り……修行者じゃないようだけど。
「ワシいっつも言うとるんやけどなぁ、嫌いな言葉ワースト1は待つ、その次が遅い、や。おーい、幽霊のじいさーん、もう寝とるんかぁーっ?」
「巌流齋さんは、お弟子さんに稽古を付けると言っていましたが」
「ハァ!?」
紫月の言葉に腹を立てたのか、少年はつかつかと近付いてくる。
「何やと!? あの爺さん、アポ取ったのにまだ稽古やっとるんかいな! マイペースで忘れっぽいのは変わらへんなホンマに! おい姉ちゃん、ちょっと巌流齋の爺さん呼んできてくれへんか!?」
「え、えーと……それは」
「オイ、あんまりしつこく絡むんじゃねえよ。要件なら此処の事務の人にでも……」
「別に絡んどらへんわ。わざわざ大阪からこっちに来たっちゅうのに、まーた待たされるこっちの身にもなってほしいっちゅうねん」
何かすっごくイライラしてるな……余裕が無いというかなんというか。
「まあええわ。丁度ええ。それやったら暇潰しに付き合って貰かな」
「……暇潰し? 一体何をするんだ」
「ハッハッ、決まっとるやろ! あんたらも、デッキ下げとるやないか! 紙しばいとるんやろ?」
言った彼が取り出したのは──デッキケースだ。
そこから流れるように紙の束を取り出すと、それを俺達に向ける。
デッキの頂点にあったのは……モモキングと同じ、金色の刻印が押されたカード……!
「ワシと勝負せぇへん? まあ、断るっちゅう選択肢はあらへんけどなァ!」
「それって……十王のカード!?」
「ははっ、ニブそうやけどそれくらいは知っとるみたいやな兄ちゃん」
「貴方、一体何者なんですか……!?」
「かぁーっ、ワシの事は知らへんのか。はぁーあ、これやから素人は困る」
少年はにっと口角を上げるなり言ってみせた。
「──ワシは矢継ハヤテ。大阪の妖祓いの名門・矢継家の跡継ぎにして──《爆龍皇》の使い手や!」