学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR86話:力の座──爆龍皇/契約王

 ※※※

 

 

 

 一方、力の座の施設にて。

 或瀬ブランは大きな溜息を吐いていた。

 

 

 

「ああああ~、疲れたデース……」

 

 

 

 耀が修行をしている間、力の座で待機という事になった残りのメンバーは一先ず、施設内の資料を調査していた。

 目標は勿論、神類種に対抗するためのヒント探しである。

 しかし、丸一日掛けたものの結果はと言えば大外れ、スカも良い所だった。

 唯一、昨日桑原に見せて貰った「十王列伝記」のみが有力な手掛かりだっただけで、後は空振りだったのである。

 ──まあ、そう簡単に見つかったら苦労しないんデスけどね……。

 活字中毒で痛む頭を抑え(尚、殆ど代わりに黒鳥が解読していた模様)、廊下を曲がったその時。

 ぽふん、と何かが胸にぶつかってきた。

 

「きゃふっ」

 

 小さな声が漏れる。

 視線を降ろすと──小学生と見紛う程、小柄な小動物のような少女が困ったような顔でこちらを見上げていた。

 

「ひぅっ、堪忍!」

「Sorry! 疲れて、よく前を見てなかったデス! 怪我は無いデス!?」

「うちは……大丈夫やけど……」

 

 少女はブランの顔を見るなり、見惚れた様子で見つめてくる。

 自分の容姿に自信があるブランではあったが、こうもまじまじと見つめられると気恥ずかしい。

 

「あ、あの、私の顔に何か付いてるデス?」

「ちゃ、ちゃうよ!? え、えと、その、外人さんって珍しいなあって思うたんよ……いや、悪いって思うとるわけやあらへんよ!? お客さんが来とるのは知っとったから、えと、えと、あの、うち、英語苦手で」

「私は日本人とイギリス人のハーフなのデスよ! 国籍は日本人デース! だから、大丈夫デスよ!」

「そやったん!? ああ、良かったぁ、安心したぁ」

 

 ──まあ、現代文も苦手なんデスけどねー……。

 とは言わないのが華。

 目の前の少女は、一先ず意思が疎通することに安堵しているようだった。

 

「でも残念やわぁ、うち、外国とか行ったことあらへんから……」

「それなら心配Nothing! 私、イギリス出身デスから!」

「そうなん!? じゃあ、色々教えてくれはる!? イギリスの……そう、美味しい料理とか!」

「ハハハ、そんなの無いデスよ」

「!?」

 

 最初は人見知りそうだと思っていたが、雑談をしているうちに想像以上に彼女は打ち解けてくれた。

 故郷の事。互いの高校の事。趣味の事。

 何より意外だったのは、デュエマが好きだったことであり──

 

「デュエマ部!? そんな部活あるん!? すっごく楽しそう!」

「そうデス! 皆でデュエマしたり、大会に向けてガチガチにデッキを研究したりデスね……」

「ほわぁ……!」

 

 嘘である。

 この少女は殆どデュエマせず推理小説か探偵紛いの活動をしているのだから。

 それを知るサッヴァークが白い目でデッキケースから覗いてきてるが、ブランは敢えて知らないふりをした。

 だが、それにしても互いに共通の話題であるデュエマの話はとても弾み、時間を忘れる程だった。

 

「ねえねえ、好きなデッキは何なん?」

「メタリカも好きなんデスけどぉ、やっぱり《デスマーチ》を《落城》で引き剥がした時のカイカン、デスよ!」

「分かる分かる! うちも《ミステリー・キューブ》とかでドカンと大きいの出すの好きなんよ!」

「それだけデュエマが好きなら、私の後輩とも仲良くなれるデスね!」

「後輩?」

「そうデス! とってもデュエマが強い、私の自慢の後輩なのデス!」

「ふぇえ、そんなに強いん!? 戦ってみたい! ……あ」

 

 雑談もそこそこに、彼女は何か用事を思い出したように腕時計を見やる。

 

「い、いけない! もう行かんと!」

「何か用があるんデス?」

「う、うん……巌流齋のお爺ちゃんも行く言うとってな……まあどーせ、遅れてくるし」

「そうデスか……それじゃあ、今度私の後輩を紹介するデスよ! 私達、まだしばらく此処に居るデスから!」

「ほんま!? 楽しみにしとく!」

 

 そう言うと、彼女は急いで廊下を駆けていく。

 消え去っていく背中に手を振りながら、袴のままよく走れるなあ、と感心する。自分なら転んでしまうだろう。

 そして──ブランは一つ、自分の失態に気付いた。

 

 

 

「あっ、名前聞くの忘れてたデス!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──爆龍皇──!?」

「伝説に伝わる、十の王……矢継家は代々《爆龍皇》を祀ってきたんや」

 

 

 

 爆龍皇……それが、十の皇の一角。

 こいつがその使い手だって言うのか……!?

 しかも()()()って言ってる辺り、彼は坂田さんと同様神職の名家というやつの末裔なのだろう。 

 

「まあ、コイツも一発暴れたい言うとんねん。ワシと一戦、やってみぃひんか?」

「俺は──」

「それとも何や。仮にも神職の端くれっちゅうのに、デュエマの一つが怖いってわけやないやろーな?」

「俺は別に神職じゃ……」

 

 こ、こいつ、ぐいぐいと絡んで来るな……。

 正直、もう大分疲れてるんだが。身体はフラフラだし。

 

「タダの暇潰し言うてるやろ? それやったら、盾1枚オチでやっても構へんで。まともにやって、ワシに敵う奴なんてそうそう居らへんからなぁ」

「……いい加減にしてください。白銀先輩は鬼退治に向けた修行で疲れてるんです。デュエルなら、この私が受けます」

「良いんだ紫月、別にデュエマくらい……」

「鬼退治ィ? 随分と自信ありげ……待てよ」

 

 見兼ねた紫月の一言に矢継は反応した。

 そして、怪訝な目で俺を見ると──薄っすら鋭い瞳に光が走る。

 

「ツンツン頭に、しかめっ面の顔面の少年……」

「え?」

「ちょい待ち! 写真……げ、完全一致。まさか、お前か? 桃太郎を従わせた西洋の魔術師っちゅうのは!」

「ちょっと待て」

 

 強ち間違ってはいないのかもしれないが色々間違っている。

 その情報には明らかに齟齬があるぞ! そもそも俺は西洋の魔術師じゃねえし、ましてやまだ従わせてすらいないんだけど!

 この情報伝えたの誰だよ、伝言ゲームが下手くそなんじゃないか!?

 

「おい、桃太郎持っとるんやろ? なあ? 何でお前みたいな素人が、桃太郎使えるんや? ええ?」

「いや、あの、確かに持ってるけど──」

「ほうほーう、そんで鬼を挑発して怒らせた言うやないか! どないしてくれるんや! ええ!?」

「ちょっとやめてください! 先輩は口先での戦いはそんなに得意じゃありません! それはきっと挑発じゃなくて素で怒らせたのかと」

「待ってェ!! 援護のフリして火に油を注ぐのやめて紫月さんや!!」

「あっ……ごめんなさい、つい、癖が……」

「もう許せへん、鬼の前にお前から退治したるわ! 覚悟しぃや!!」

「やめろ! 放せ! マジでやめろ! 服脱げるから!」

「あ、あわわ、私の所為だ……先輩があらぬ姿に……!」

「紫月、おーまえーっ!!」

 

 何もかも全部が間違ってて訂正のしようが無いんだが!?

 もうやだこの人! 勘弁してほしいんだけど! 不幸ここに極まれり! 恨むぞ神様!

 

 

 

「お客さんに何やっとるんよ、すかたんハヤテーッ!!」

「ほげぇあっ!!」

 

 

 

 俺が呪詛を吐き出す寸前だった。

 脇から何かが走って来たかと思えば、崩れ去る矢継の身体。

 突如、すっ飛んで何かが彼を思いっきり地面へ蹴っ飛ばしたのである。

 

「……」

「……」

 

 それは、栗色の髪の女の子のドロップキックであった。

 小袖に赤い袴という、紫月と同じ巫女装束ではあるが、背丈はかなり小さい。まるで小学生、じゃなかった小動物のようだ。

 しかし、キッと眉毛を釣り上げた目は思いの外しっかりとしている。何となくだが、年下ではないような気がした。

 

「ほんまにっ、ほんまに堪忍な! この人、せっかちで生き急ぎで、話聞かんアホってだけで根は悪い人やあらへんの! せやから、これで手打ちにして、な?」

「……あ、うん、俺は良いんだけど」

 

 石の床の上で口から泡吹いて伸びている彼の安否が……真面目に心配です。 

 大丈夫? これ生きてる? 

 よくよく考えたら、このナリで凄い運動神経だな。しかも袴で走ってドロップキックだろ。

 助かったのは良いが、蹴られた彼が心配だ。紫月もドン引きしている。

 

「先輩を助けていただきありがとうございます。でもアレ、大丈夫なんですか?」

「多分平気や。ハヤテ、無駄に頑丈やもん。台所に出る黒いアレ並みに死なへんから、放っておいたらまた復活してやかましくなるよ」

「本当にすまねえ、仲裁に入ってくれて」

「ええんよ。あれくらいせんと、ハヤテは分からへんもん! 言葉で分からへんなら身体で教えんと!」

 

 仲裁にしては一方的なバイオレンスだった気がするが気にしないでおこう。

 助かったのは事実だし、今はこの幸運に甘んじておくとするか。

 それにしても……びっくりだな。

 紫月よりも小柄な女の子だけど、何となく小学生とかではないのは分かった。体つきはしっかりしてるし。

 同い年……くらいなんだろうか?

 

「俺は鶺鴒学園高校の白銀耀。此処に来てるデュエマ部の部長だ。紆余曲折あって……クリーチャーや鬼の退治することになっちゃったけど」

「暗野紫月。デュエマ部の1年です」

「っ……デュエマ部!? もしかして、廊下で出会った金髪の人の……」

「え? 君、ブランと出会ってたのか?」

「ブラン……ブランって言うんやね、あの人」

 

 どうやらこの子はブランとも会ってたらしい。

 あいつ、すぐに人と打ち解けるからな。

 それに加えて、元が引っ込み思案だったのもあって、この子と何か通じ合うものがあったのかもしれない。

 

 

 

「う、うちは……牧野メイって言います。この力の座で、巫女さんをやっとるんよ。二人の事は聞いてはるから」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「にょーほっほっほっほ、そんな事があったのか! せっかちなのは相変わらずじゃのう、疾風の小僧!」

「仕方あらへんやろ! 鬼が目覚めたって聞いて、矢継の家は当然大騒ぎや。今日も調査に向かわせた妖祓いが帰って来ぇへん! ほんま一大事やで!」

「まあまあ、よく効く薬と思う事じゃな! にょほほほほ!」

 

 遅れてやってきた巌流齋の爺さんは全ての経緯を聞くなり笑い飛ばす。

 どうやら、せっかちなのは御家柄という奴らしく、伊勢から送られた情報を飛躍して解釈した結果、こうなってしまったらしい。

 おかげで俺は、大阪の妖祓いの界隈では「鬼を挑発し、京都を危機に晒した西洋の大魔術師」と言う事になってるんだとか。最悪だ。

 

「まあええ、あんたに関する情報が色々間違っとったんは認める。せやけどな、ワシはお前みたいな素人が桃太郎に選ばれたってのは納得しとらへんで!」

「もうハヤテ! 酒呑童子が完全に目覚めるのは二週間後なんよ!? 今更、桃太郎の使い手が誰なのか探しとる場合!?」

「そ、そうやけど……」

 

 俺に突っかかるなり、耳を引っ張られる矢継。

 誰に対しても強気な彼だが、どうやらメイにだけは尻に敷かれているらしい。

 取り合えず二人セットにしておけばバランスが取れて良さそうだ。

 

「で、お前は一体全体何をしに来やがったんだよ……」

「現状、京都に潜んどる酒呑童子達は手の付けようがあらへんのや」

 

 曰く。

 鬼達が何処に潜んでいるかもわからず、京都に踏み込んだ妖祓いが行方不明になっている始末らしい。

 

「やから、吉備津桃王のカード……《モモキング》っちゅうんやな。その使い手を見極めに来いと言われた」

「その役割は力の座が果たすと言ったはずじゃが?」

「自分らの家の視点からでもっちゅうことや。バッサリ言うけど、あんたは他人に甘い所があるからな」

「その結果、ハヤテみたいな我儘で、向こう見ずで、せっかちで、いけずで、すかたんの妖祓いが出てくる始末」

「うっ……そこまで言わんでもええやんか……」

「あ、あのう……? ワシも一緒に全方位放火すんのやめて……? 幽霊だけど心が痛むというか」

「事実やから」

「アッハイ」

 

 大丈夫なのかこの爺さん。

 師匠としての威厳はあるのだろうか。

 

「それに加え、力の座を守っとるメイちゃんにも一週間後、鬼との戦いに向けて招集が掛かっとる」

「うちにも……」

「牧野の家に戻らんとあかんってことや」

「……そう、やね」

「ん? 力の座を……守ってるってどういうことだ?」

「あ、うん。正確には、うちの十王のカードやね」

 

 ッ……!

 此処にも十王のカードの使い手が居たのか!

 意外と集まるもんなんだな。

 

「メイちゃんは、波濤の軍勢の王《キング・マニフェスト》に選ばれた巫女なんや」

「なんか、凄く横文字っぽい名前ですが」

「しゃあらへん。一説によれば異国から来た百獣の王らしいからなあ」

「それで、何で巫女をやってるんだ?」

「牧野家は、代々《キング・マニフェスト》に選ばれた孤児を養子に引き取るんや。そして、巫女に選ばれた子は成人するまで力の座を守る……っちゅうことやな」

「じゃあ、メイさんは高校には行ってないんですか」

「うん……そうなるんかな」

「ハッ、行かんで正解や! 勉強とかダルいしなあ。受験勉強とか今から考えても頭痛くなるっちゅうねん。こっちは妖祓いの仕事もあるっちゅうのに……やから、メイちゃんが気にすることなんか一つもあらへん」

「うちは……羨ましいけどなあ」

 

 成程。

 家の決まりとはいえ、学校に通えないのは辛いのかもしれない。

 世の中には勉強したくても出来ない子もいるって事か。

 

「特にデュエマ部とか楽しそう! 毎日デュエマしとるんやろ? 探偵……の女の子がそう言いよった!」

 

 よりによって、あいつがそんな事を……! 後でお灸を据えてやらねえと。

 ブランの奴、まともに部室でデュエマしてる事の方が少ねえんだぞ!

 しかもデュエマ部の活動も、最近はクリーチャー退治みたいになってたし……。

 

「何だろう、凄く罪悪感が……」

 

 そして思わぬところに被弾していた。

 紫月も紫月でゲーム三昧だったからな。存分に反省するが良い。

 

「? どないしたん?」

「な、何でもありません! それで、二人はどういう関係なんですか? 随分と親しいようですが」

「親しい? ハハッ、腐れ縁や。小学、中学、一緒やったっちゅうだけ。この子、抜けとるところあるからなあ。ワシが居らんと、すぐに泣いて」

「むっ、ハヤテのすかたん!」

 

 げしっ。

 

 凄い勢いで足の小指に踵が落とされた。

 悶絶して床を転げ回る矢継がだんだん可哀想になってきた。

 この夫婦漫才を見てると、喧嘩する程仲がいいってやつなんだろうな。

 

「ま、これでワシらの事は大方紹介した。そういう訳やから白銀はん。ワシはあんたの実力を確かめたいっちゅうわけや」

「十王のカード……興味深いです」

「そやろ? めっちゃ強いんよ! うちのカード見てみる?」

「マジかよ、見る見る!」

「あのー? ワシの話聞いとる? もしかしてシカト?」

「にょほほほ、それなら直接相見えれば良かろう!」

 

 突如、そんな事を巌流齋の爺さんは言い出した。

 それってつまり……デュエマしろって事か?

 確かに俺としても十王のカードとやらの強さはしっかりと確認しておきたい。

 そして、矢継としても俺の実力を見ることが出来る……それなら手合わせはうってつけだ。

 

「はっ、爺さんにしては良い提案やないか! まあでも勝つのはワシやけどな!」

「もうハヤテったら、何でそうやってすぐ調子に乗るん?」

「あだだだ、耳を引っ張るのやめてメイちゃん!!」

「ツンツン頭の小僧。大丈夫か? 修行の初日の後のデュエルじゃが……」

 

 ……正直、疲れはピークに達している。

 だけど、新しく手に入れたカードを使ってみたいという気持ちが無い訳ではない。

 相手は十王のカードというだけあって不安だけど……やってみる価値はある。

 それに、此処で逃げたらデュエマ部部長の名が廃る!

 

「良いぜ、勝負だ矢継!」

「望むところや。掛かってこいや!」

「え、えと……」

「紫月で良いですよ。対戦、よろしくお願いしますね」

「う、うんっ、うち、頑張るから!」

 

 こうして──俺と矢継、そして紫月とメイでデュエマが始まったのだった。

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