学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──《ゴールド・キンタックス》!!」
その時。
窓が割れる音が響き渡った。
部屋の中に飛び込んできた何かが、一瞬でうちの家族だったものを薙ぎ払う。
血塗れの子供部屋に差す一筋の光。
うちは、ううん……うちだけが──
「大丈夫ですかっ! 怪我は──」
──助かったんや。
※※※
「っ……そんな事が……」
「頼れる親戚も居らへんから、うちは天涯孤独になった。あの時、うちが助かったんはすんでの所で妖祓いさんのクリーチャーが飛んで来たからなんよ。それが──金助さんなんや」
「金助って……坂田さんか!」
「うん。やから、うちだけが助かった。でも、うちはその時のショックで立ち直れなくなって、学校に行けへんこなった。頼れる親戚も居らへんから、施設に預けられた。そこではうちは一人。でも──ハヤテはいつもうちに会いに来てくれた。そんで、すっごく悔しそうに言うんよ」
彼女は苦笑いしながら言った。
「──ワシが、強かったら……メイちゃんの事、ずっと守ってやるのに……何でワシは術の一つも使えへんのや、って……」
……同じだ。
俺の脳裏には、守りたい人と無力感の天秤に悩まされた非力な少年の姿が浮かんでいた。
「うちが助かったんは、あの日ハヤテが引き留めてくれたかもしれん。門限守ってたら、うちも皆みたいになってかもしれん。ハヤテは一個も悪くない。悪くないのに……自分を責めるみたいに言うんよ。やから……うちも、強くなりたかった」
「それで、牧野の家に?」
「うん……施設にやってきた牧野の家の人に志願したんよ。うちの霊能力は、凄く強いみたいで、すぐにキング・マニフェストのカードを渡された。それを知ったハヤテは──すっごく怒ったけどね」
「まあ、そりゃそうだろうな……」
それはそうだ。クリーチャーの事件で家族を失っているのに、どうして生き残った彼女まで巻き込めるんだって思うはずだ。
俺だって──きっと止める。
だけど、彼女は止まらなかった。
かつてクリーチャーに肉親を傷つけられたノゾム兄のように。
「でもな、うちも何時までも守られてるだけなのは嫌なんよ。過去は……何時か乗り越えなきゃいけないから……それに、うちみたいな思いをする人を出したくなかったんよ。うちの力が役に立つんやったら、巫女にでも何にでもなるつもりやった。でもな、ハヤテはうちにだけ負担は掛けられないってその日から力の座に志願して修行を始めたんよ」
「ってことは、矢継さんが必死で努力したって言うのは……」
「うん。矢継の家で、爆龍皇の使い手に認められるため。元々の神力の器が小さいから、それを引き延ばすのにすっごく苦労してたんよ」
「うむ。あの頃のあやつは今にも死にそうな勢いじゃったわい。ワシも何度か叱り飛ばしたが、全然でな……」
この穏やかな爺さんが怒るってよっぽどだな……。
それだけ恐ろしい修行を積んで、ようやく十王のカードに認められたって事か。
「あの小僧は、メイが巫女に志願した理由は自分が弱いからじゃと思っておるフシがあったからのう……」
「勿論、うちはそんな事思ってへんよ! ……ハヤテの気持ちを考えんで巫女になったのは、ちょっと反省してるけど」
「まあ、当時のあやつは……死に急いでおったぞ」
「……うん。それだけ自分を追い詰めてたんやと思う」
「あやつが自他に厳しいのは……誰かの悲しい顔を見たくないからじゃろうな……一度失った命は、戻って来んからのう……このワシとて、生身は戻って来んわけじゃし」
死んだら、それで終わり。
この爺さんみたいに誰もが幽霊になれるわけじゃない。
命は一個っきりだ。矢継は──それを守るのに必死だ。
そこに妥協は無い。
あいつは、俺の中の甘さを見通しているんだ。
……今の話を見ると、あいつの見方も変わって来る。
まるで──なりふり構わず復讐に身を投じたノゾム兄みたいだ。
「でも、それとこれは別! ハヤテに嫌な事言われたら、うちに言ってね!」
「……は、はぁ」
怒った様子で俺に言うメイ。
言ったら言ったで逆に矢継が可哀想な事になるから、やめておこう。
あいつがただ嫌味な奴ってわけじゃないのは薄々分かってたけど、確信が持てたからだ。
「ツンツン頭の小僧よ。人には、誰しも乗り越えねばならぬ壁がある。しかし、それを乗り越えるのはきっと、一生をかけてじゃ。貴殿も、疾風の小僧も、きっと……」
「一生をかけて、か。気の長い話だな……鬼に日本が焼かれようってのに」
「……ワシは、貴殿と疾風の小僧は似た者同士じゃと思うんじゃよ」
「だったら良いんだけどなあ」
※※※
その日の夜。
どうにも俺は眠れず、建物の柵から大きな満月を眺めていた。
メイの事。矢継の事。
そして、まだ何も問題が解決していない仲間達の事。
そして──桃太郎の事。
考えれば考えるだけキリがない。
それに……胸の中が疼く。
アバレガンが──俺の中で、ずっと吼えている気がした。
「白銀先輩。お疲れ様です」
「っ紫月……!」
背中の方から声が投げかけられる。
袴を脱いだ小袖姿の紫月が心配そうに俺の顔を眺めていた。
「明日も早いのでしょう? 寝ないと体に障りますよ」
「……悪い。身体が興奮してるみたいで、寝付けないんだ。慣れない所だから、かな」
「旅館でも眠れていなかったんですか?」
「うん……実は」
此処最近の不調は睡眠不足も原因だったのかな。
昨日は疲れ果て過ぎて寝ちゃったけど……今日は目が冴えてしまっている。
「……仕方ない先輩ですね」
「ごめんごめん。酒呑童子との決闘まで、あと二週間も無いって思うと……お前は不安じゃねえのかよ。日本の命運は、俺に掛かっちまってんだぞ?」
「不安になんてなりませんよ。私、先輩の事を信じていますから」
「……そう言う事、サラッと言えるの、強いよな」
「ふふっ、頼りないって言って欲しかったんですか?」
「そう言う訳じゃないけど……今の俺じゃ……」
「確かに今の白銀先輩には無理かもしれません。でも、明日の、明後日の、そのまた次の……2週間後の先輩なら、分かりませんよ? 先輩は今までも何度も危機を乗り越えてきたじゃないですか」
「……そうか? 箇条書きで今までやったことを書き出したら、出来そうな気はするかもしれない。だけど、やってる側は毎回毎回生きた心地がしねえんだ」
「だから、私達が居るんじゃないですか」
「……そうだったな」
「先輩。先輩の心が抱えている問題は……私にはわかりません。心なんて、本当は人の目に見えるものではないですから」
「……」
「でも、私に出来る事があるなら。言ってほしいんです。私が……先輩にそうしたように」
「……多分、俺も薄っすら分かってるんだ」
……俺の心が抱えている問題。
歪な程に、誰かを助けたいと思ってしまう救世主的願望。
俺自身、それはずっと頑なに否定してきた。
別に俺はヒーローなんてものになりたかったわけじゃなかったから。
それでも、やってきたことに間違いはなかったと思ってる。
だけど──俺自身の在り方が歪んでいると指摘されたあの時、今までやってきたことが間違ってたのではないかと思わされてしまう。
「なあ、紫月。俺は……俺のやってる事は、何か間違ってたと思うか?」
「……え?」
「……俺ってさ、ヘンなのかな……誰かを助けたいって思うと、身体が言う事を聞かずに飛び出しちまうのは……ヘンなのかな」
「……簡単に真似出来るところではないし、私は……それがある意味先輩の短所だとも思ってます。そう言う時の先輩は決まって無茶するし、何なら死に掛ける時だってありますから」
「ゴ、ゴメンナサイ……」
「ああ、それと」
ぎゅう、と腕を掴むと彼女は言った。
「先輩は……出会った時からそうですけど、頭かったいですよね」
「悪かったな!?」
「でも先輩のそういう所、私は凄く信頼できるし大好きです」
「お、おう……」
「……ふふっ、何を驚いてるんですか? それだけ先輩への信頼が篤いってことです。結局、何が良いか悪いかなんてその人の主観でしかないです。自分のやる事成す事が正しいか間違ってるかどうかなんて、その時は誰にも分かりやしないんじゃないですか」
「……」
「まあ、だから言わないだけで先輩の悪い所なんて皆分かり切ってます。分かり切った上で、皆先輩に着いていってるんじゃないですか」
「何でそう思う?」
「短所も見方を変えれば長所。逆もまた然りです」
「……そういうもんなのか?」
「はい。先輩は……私のどういう所が好きになったんですか? 先輩が私の事好きだって思ってるところは、私は短所だって思ってるところかもしれませんよ?」
紫月を……好きになった理由、か。
口にしようとすると、思ったよりもはっきりとそれは言葉に出てきた。
「……自由な所、かな」
「え?」
「誰かの評価とかどこ吹く風で、気ままに振る舞うお前を……俺は心のどっかで尊敬してたし、羨ましかったんだと思う」
「……ちょっと意外です」
「俺はどうしても……体裁とか、気にしちまうからな。自分のやってることが正しいかどうか、とか。他人からどう思われてるか、とか。気になって仕方ないんだ」
今思うと、思った通りに動けって肯定して背中を押してくれたのは──いつも紫月だった。
「お前は……言うなればアクセルだ。俺が悩んだり、行き詰ったりした時、背中を押してくれる追い風だ」
「……人を加速器みたいに。悪い気はしませんけど」
「お前の為だったら頑張れるって人は沢山いると思うぞ? はっきりと、ストレートに誰かに想いを伝えられるお前が……皆も好きなんだろ」
「そう、でしょうか。私……昔からよく一言余計で、人を怒らせることがあって……みづ姉も「せめて敬語で話せば印象も柔らかくなるのに……」って言ってたくらいで」
「ああ成程な。それでいっつも敬語だったのか?」
こくり、と彼女は頷く。
今ではすっかり癖になってしまったらしく抜けきらないらしい。
翠月さんに言われた事を愚直に守っている辺り、本人でも直したいという願望はあったのだろう。
俺と会った頃には口の悪さを直すのはすっかり諦めていたようだったが。
でも──裏を返せば、彼女の言葉にはウソ偽りや飾りは無い。
そういった純粋な所に俺は惹かれたのかもしれない。
「良い所と悪い所が裏返しなのって、きっとこういう事なんですよ。先輩」
「……ちょっと分かった気がするよ」
そっか。
長所も、短所も、カードみたいに裏表ってことか。
……案外、深刻に考えすぎない方が良いのかもしれないな。
「先輩。こっち向いてください」
「?」
振り向くと──柔らかい感触が唇に押し当てられる。
びっくりして心臓が飛び跳ねた。
頬が熱くなる。
「先輩のアクセル……私が踏んじゃいました。明日も頑張ってください」
「……あの、どきどきして逆に眠れなくなったんだが……」
「あっ、それは……すみません。どうにかして寝て下さい」
明日、本当に早いからなあ……。
でも俺的にはナイスアシストだったと思う。
此処最近、酷い負け方ばっかりで凹んでいたけど、ちょっと元気が出たかな。
「……でも、寝ないといけねえからなあ、布団にもぐって──」
ガタン、ガタンッ!!
……。
部屋に足を踏み入れるなり、音が鳴る。
物陰から……盛大にすっ転んだ迷探偵が転がり出てきた。
「……何やってんだオメー」
「アハハハハ、ちょっと……良い所だったから、ついデスね」
「ついじゃねーよ!! 何やってんだ!!」
「何処から聞いてたんですか!?」
「さ、最初からデスかね……聞いてたっていうか、こっそりと見守っていたっていうか」
「ウッソだろオイ!?」
「覗いてたんですか!? あ、貴女って人は本当に!」
「だ、だってぇ! 最初は話に加わるつもりだったけど、二人が良い感じになった所為で入れなくなったのデス! ううう……二人がくっついたのは嬉しいデスけど、ちょっと寂しいデース」
「くっついたって、私達は別に……」
「キスしてたデス」
「最悪です」
紫月は隅っこに座り込んでしまった。
あれではしばらく戻って来れまい。
「私としたことが浮かれてました仮にも修行をする聖なる不可侵領域で何てことをもうみづ姉に二度と顔を見せられません最悪です最悪です最悪です私はふしだらです恥ずかしいです見られてるなんてしかもよりによってブラン先輩にどうしようどうしよう私完全に生き恥を」
「うわぁ、ネガティブモードに入っちまった」
「まあまあ、放っておいたら元に戻るデスよ!」
オメーの所為だよ。
「ところで、何で黙ってたんデス!?」
「これ以上仲間内で妙な火種になっても困るし、浮かれてるって思われたくなかったんだよ。いや、実際浮かれてたのかもしれねえけど……すまん」
「……あー」
火廣金と花梨の事を思い出したのか、彼女はバツが悪そうに頭を掻いた。
組織のトップと構成員が恋愛関係になってロクな事が起こった試しがない、とはコイツが前読んでた小説に書いてあったことだ。
「でも、私なら心配Nothing! 二人がどうなっても、私だけは味方デス!」
「ブラン……」
「だって私達、デュエマ部の仲間デショ?」
お前って奴は本当に……。
俺、ちょっと誤解していたかもしれない。
お前が面白半分で人のプライベートをひっかき回すような無神経極まりない迷探偵だって普段の行いから勘違いしてたのかもしれない。
悪かったよブラン。今度からはもう少しお前の事を信頼──
「で、この後ナニをするつもりだったんデス?」
「よしブラン耳を貸せ耳」
「えっ、教えてくれるんデス!? あはははは、アカルもやっぱりあだだだだだぁ!?」
耳たぶを思いっきり抓り上げながら俺は嘆息した。
前言撤回。
ブランはやっぱりブランだった。
「悪かったな、テメェの頭よか浮かれてなくってよ!! だけどテメェは恥を知れ恥を!!」
「Sorry、離してくだサーイ! 体罰反対デース!」
※※※
「でもー、そういうのは私にちゃんと言ってくれないとデス」
「悪かったよ……」
「それに、二人に仲間外れにされてるような気がして寂しかったのは本当デスよ?」
「別に仲間外れにしたわけではないのですが……」
「んふー、でもあの二人が、デスか……しょっちゅういがみ合ってた二人が、デスか……」
紫月がネガティブモードから立ち直った後。
にひひー、と感慨深そうにブランは笑みを浮かべたのだった。
結局部内公認になってしまった……。
「なあブラン。そろそろ良いか? もう目が冴えちまったし、今日起こった事について──」
「それなら、あのメイって子からさっき聞いたデスよ。超・強い、十王のカードデスよね?」
「っ……知ってたのか」
「Yes。シヅクとデュエマ出来たのがすっごく嬉しかったみたいデス。ただ、その事を話してるとすっごく興奮してたデスけど」
「あー……私との対戦中もそんな感じでした」
「?」
どういう事だろう?
興奮……デュエルになると、人が変わるってことなのか。
「まあ、どっちにしても十王のカードに相応しい強者には違いないでしょう」
「それと、あの矢継って人もう少しこの力の座に留まるみたいデスよ?」
「マジで?」
「ハイ……さっき会ったんデスけど、その時は私に親切に受け答えしてくれて……でも、こっそり後をつけてみたら壁を殴ってたデス」
「うわぁ……何があったんだ」
明日顔合わせたくないなあ……。
悪い奴じゃないんだろうけど、相当イライラしてるみたいだ。
※※※
「──何? 今日の夜には到着する?」
「……黒い小僧。どうしたんじゃ?」
「ざっくりした呼び名だな……いや、少し客が増えるかもしれんが大丈夫か?」
「にょほほ、心配は要らんよ」
スマホの前で眉を顰める黒鳥に、巌流齋はふわふわ浮きながら頷いた。
「──修業は互いに切磋琢磨させるに越したことはないじゃろう?」