学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR92話:十王のカード──もう一つの皇帝

「──あ、あああああ!!」

 

 

 何でだろう。

 何故なんだろう。

 勝ったのは相手のはずなのに──当の本人であるメイは地面に蹲って頭を抱えていた。

 

「え、えーと、どうしたの?」

「うち、うち、うち、デュエルの途中ヘンな事口走ってませんでしたかぁぁぁ!?」

 

 今にも泣きそうな顔である。

 まるで許しを請うような顔に、ドラゴンレディはどっちが勝ったのか忘れてしまいそうになった。

 ──負けたの、あたしだよね?

 

「あー、うん大分……」

「ど、どないなことを!?」

「えーと……濡れるって」

「殺してくださいいいいいいいいい!!」

「えええええええええええええええ!?」

 

 土下座するメイ。

 最早、どっちが勝者でどっちが敗者だったかなど誰も分からなかった。

 泣きそうになりながら彼女は言った。

 

「う、うち、昔からスイッチが入ると、ヘンな事口走っちゃって……後から我に返ると、すっごく恥ずかしくって……」

「気持ちわかるよ。あたし剣道やってるんだけど、剣を握るとスイッチが入って怖がられちゃうんだよね」

「っ……ドラゴンレディさん……」

「だから大丈夫。あたしは見なかった事にしてあげる。まあ、そのつまりデュエマの途中で興奮してエッチになっちゃうのも仕方ないかなって……あたし変な人は沢山見てきたし、人の事は言えないところあるし……ドンマイ!」

「違ううう!! フォローやなくて的確な追い討ちやからそれぇ!! ちゃうんよ? ちゃうんよ……うち、えっちな子やないんよ……? ほんまやから……!」

 

 ──何であたしが負けたのに、この子を慰めてるんだろう……。

 そんな事を思いつつ。

 

 

 

「お、お前ぇぇぇ……何でお前が伊勢に居るんやぁぁぁ……」

 

 

 

 後ろからと言えば呪詛のような声が響いてくる。

 二人は恐る恐る振り返ると、そこにはタイヤ痕が頬にくっきりと焼き付けられた矢継が、バイク仮面の前で地面に伏せていた。

 

「ハヤテェ!?」

「──俺は何時でも相手してやる。十王のカードとやらの力、その程度ではあるまい」

「ち、畜生、情けを掛けたつもりかいな……!」

「……人の思いの力が魔導の力を超えるというのならば。その可能性を俺にもっと見せてみろ。あの男のように」

 

 そう言い残し、バイク仮面はその場から陽炎のように姿を消してしまう。

 そして、ドラゴンレディも「あっ待ってよ!」と追いかけるようにしてその場から消えてしまったのだった。

 

「ハヤテ……負けたん……!? あの人って──何やの?」

「……あいつを、ワシは知っとる。あの爺さんも趣味悪いわ──!」

 

 心底から悔しそうに彼は唸る。

 

 

 

「間違いあらへん。あれは火廣金緋色──西洋の魔術師で、文字通りのバケモンや!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「この辺りから煩悩の反応がするケン!」

「……デカいか!?」

「いや、それ程では……」

「嫌な気配がするぜ……ひょっとして、周囲の邪気を吸って膨れ上がってたりするかもな」

 

 桃太刀達をセンサー代わりにし、俺は矢継達に先行して煩悩の位置を探っていた。

 然程大きくこそないものの、近付けば近づくほどに──その気配は強く感じられてくる。

 そして、ガサガサッとキャンベロの傍にある茂みの向こうが揺れる。 

 それが何かとてつもなく嫌な予感がして──

 

「キャンベロッ!!」

「キャインッ!?」

 

 すんでの所で彼は踏み潰されずに済んだ。

 自動車と見紛う程の速度でそれはいきなり四本の足で駆け抜け飛び出してきたのである。

 灼熱を纏った鋼の軍馬が俺を目掛けて睨みつけていた。

 

 

 

”ヒヒヒヒィィイイイーン!!”

 

 

 

 雷のそれにも劣らぬ甲高い咆哮。

 そしてその禍々しくも雄々しき姿に俺は目を見開く。

 

「っ……《バーンメア・ザ・シルバー》……!? 何でコイツがこんな所に……!?」

「煩悩とは人の心にある悪しきものが具現化したものだッキィ!」

「つまり、マスターの中にある超GRの力を読み取って現れたと言う事でありますな。または、マスターが最も信頼している切札だから……というのもあるのでありましょう」

「確かに俺はバーンメアに大分頼ってたからな……よりによって、その姿を借りて来るなんて!!」

「ヒヒヒィイイーン!!」

 

 叫びと共にシルバーの足が変形し、車輪と巨大なチェーンソーが何処からともなく現れて取り付けられた。

 いよいよ俺の知るシルバーの戦闘形態だ。本気でこっちを殺しに掛かってる……!

 案の定、すぐさま茂み目掛けて突貫してきた。

 間一髪躱したものの、あの勢いでは掠っただけで恐らく致命傷。全身が兵器のシルバーにぶつかれば、命は無い。

 

「滅茶苦茶暴れてるじゃねえか……あれは何の煩悩なんだ!?」

「六大煩悩のうち、あれは癡……妄想、混乱、鈍さだ」

「鈍さァ!? 何処がニブいんだッキィ!! 馬なんて速さの化身みたいなもんだろ!!」

「それは蓋を開けてみなければ分からないケン」

「マスター! 新たな切札を使う以上、今までの自分のデッキを超える事が出来なければ意味がないであります! シルバーを此処で倒すでありますよ!」

「しゃーねぇ、新しい切札を試してやるかッ!」

 

 こちら目掛けて突貫してくるであろうシルバー相手に、エリアフォースカードを掲げた──その時だった。

 

 

 

「──断て、《ダンダルダBB(ビッグバン)》」

 

 

 

 軍馬の身体は一刀両断された。

 叫んだのは俺の声ではない。

 しかし、確かに今は封じられているはずの《ダンダルダ》を呼ぶ声が聞こえていた。

 そして、大きな衝撃で土煙が舞い上がり──それが晴れた後、その場に立っていたのは──

 

「ッ……!?」

「……おや、どうしてそんな顔をする? ()()耀()

 

 ──俺と、全く同じ顔、全く同じ背丈、そして全く同じ声でせせら笑う少年。

 そして、全身が真っ黒にカラーリングされた《ダンダルダBB》の姿だった。

 両断されたシルバーは、それでも尚呻いていたが──粒子となった後、少年の身体の中に吸収されて消えてしまった。

 何なんだコイツ──

 

「何で、俺と同じ姿なんだ……!?」

「我も居るでありますよ! 守護獣までコピーしてるなんて……!」

「知ってるか? 世の中には──自分と同じ顔が3人は居る……らしいぜ」

 

 俺と同じ顔の少年はそう言った。

 それに驚愕していたのは俺とチョートッQのみならず、桃太刀達も同じであったが、間もなくケントナークが、

 

「煩悩だケン!! しかも、複数の煩悩を一つの巨大な煩悩が纏め上げているんだケン!!」

「って事は、あいつは俺の煩悩の集合体!?」

「鏡映しのニセモノということでありますか!」

「おい、兄弟。仲良くしようぜ。(おれ)ぁ別に喧嘩しに来たんじゃあないんだからな」

 

 贋物は悪びれる様子も無く言ってのける。

 

「悪いけど、それは無理な話だ! お前達煩悩を集めろってのが、俺の試練なんだからな!」

「クックッ──そいつぁ面白ェ。試練か。この期に及んで、まだ頑張るねェ」

「ッ……!?」

「いい加減気が付けよ。あいつら皆、お前を鬼退治に体よく利用してるだけだぜ? そりゃあそうだ。皆死にたくないもんなあ」

「ンだと……!?」

「守護獣も、桃太刀も、乗せられやすいバカなお前を上手い事おだててるだけだ。奴隷みてーにこき使われてンだよ、お前は」

「お、前……!」

 

 この語り口。

 聞いたことがあるぞ。

 アバレガンに乗っ取られた時に聞こえてきた声だ。

 

皇帝(エンペラー)、かッ……!?」

「クックッ、ご名答」

「な、何ででありますか!? エリアフォースカードの意識が、外に出てきたというのでありますか!? それに、エリアフォースカードは直接人間と意思の疎通は出来ないはず……!?」

「演説は長すぎると嫌われる。おっと──お前達は市民ですらなかったか」

 

 言うと、皇帝(エンペラー)は1枚のカードを掲げる。

 それはエリアフォースカード。

 銃を掲げた皇帝のカード……! 俺が持っているものと全く同じだ。

 

「何でエリアフォースカードが増殖してるのでありますかぁ!? あのボルバルザークの刀、どうなってるのでありますか!?」

「お、俺の皇帝(エンペラー)は正常だよな!?」

「正常でありますよ! おい桃太刀、これはどういうことでありますか!」

「奴が煩悩であることは間違いないケン……! あいつは偽物だケン!」

「ハッハッハ、こ奴め。どっちが本物で、どっちが偽物か。その論議自体が無意味な事にまだ気付かないのか? どうせ生き残るのは片方だけだぜ。皇帝(エンペラー)は二人も要らないからな」

「何が起こってるのか我でもさっぱりであります……!」

「生き残るのが片方だけってんなら、俺がテメェを倒すだけの話だろーが!!」

「奴隷根性の皇帝なんざ要らないんだよ。理解るか? 皇帝は圧政してナンボだろ!」

 

 飛び掛かる黒い《ダンダルダ》。

 俺もぶつけるしかない。パワーにはパワーだ!

 

「……《サンダイオー》!!」

「御意でありますよーッ!!」

 

 巨大な機体同士が剣と刀をぶつけ合う。

 衝撃波が辺りに飛んだ。吹き飛ばされそうだ──しかし。

 

「ぐああああっ!?」

 

 黒いダンダルダの大剣が押し切ってしまった。

 文字通り一刀両断。

 そのままサンダイオーの身体は粒子となって消えてしまう。

 チョートッQの身体が山を転がる……!

 

「う、ウッソだろ……な、何で!?」

「これが奴隷と皇帝の格の違いってことだぜ。分からねえのか? 人に媚びへつらう奴隷根性で身体が出来てるお前が、皇帝に届く訳がないだろうが」

「奴隷根性、だと……!?」

「自己犠牲、人助け、反吐が出る。自分の体を省みない行い、それこそが己の身を滅ぼす。分かってんだろ本当は?」

「うるせぇ!! 偽善が何だってんだ!! やらねぇ善よりやる偽善だろうがよ!!」

「詭弁だ。お前は体よく利用されているだけだとも」

 

 体よく、利用されてるだけ……俺が……?

 そんなはずはない。

 そんなわけが──

 

「お前、分かってんのか? キングマスターのカードを使う為に埋め込まれた神力の回路。あれは間違いなくお前には過ぎた代物だ。お前は人柱にされたんだよ」

「なんだと……!」

「英雄に……生死は問われないからだ。偉業を成し遂げたという歴史さえ残ればそれでいいからな」

「ッ……! バカな事を、言うな!」

「疑っただろ? それでも今、”もしかしたら”って思ったんじゃねえのか?」

「っ……」

 

 言葉に詰まった。 

 まるで自分の言葉のように、胸の中に反響してくる。

 声が同じだから?

 姿が同じだから?

 違う。

 この声は──まるで、俺の中から発せられたかのようだった。

 

 

 

「その発言は……マスターのみならず、マスターの仲間への侮辱でありますよッ!!」

 

 

 

 制止する間も無かった。

 チョートッQの身体は、今度はダンガンテイオーへと変形していく。

 

「バカ!! もうやめろ!! ダメージが──」

「これ以上、コイツに好き勝手言われるのは我慢ならないでありますッ!! お前なんか、皇帝(エンペラー)じゃないでありますよッ!!」

「分かってないなあ。真贋を問う事。それそのものが無意味だってことが、まだ分からないのか?」

 

 

 

(ヒート)ローディング>

「──有り難く受け取れ。ビッグバン・ヒートッ!!」

 

 

 

 大上段に振り下ろされた灼熱の剣。

 それがダンガンテイオーを真っ二つにしてしまった上に──炎を全身で包み込む。

 絶叫がその場に響き渡った──

 

 

 

「ちょ、チョートッQッッッ!!」

 

 

 

 がくり、と膝を突く鋼鉄の巨人。

 その身体が、炭のように崩れ落ちていく。

 カードの姿に戻った相棒は、ぐったりとしていて──声も利けなかったようだった。

 

「お前ッ! 何で、何で向かってったんだよ! 力の差があるのは、分かってただろ!?」

「ハハハハハハ、頭が高い。奴隷が皇帝に謁見しようなどと、身の程知らずの所業だとは思わないか? ハーハッハッハッハッハ!!」

 

 皇帝の影が消える。

 俺は──ずっとチョートッQに呼びかけ続けていたが、一向に声を発する気配も無い彼の状態がいよいよ危ない事に気付くと、一目散にその場から駆け出したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 結局──その日は一つも煩悩を回収出来なかった。

 何より、大ダメージを受けたチョートッQのカードを庇うようにして下山するので精一杯だった。

 途中、矢継達とすれ違ったが──最早話しかけている暇は無かった。

 

「っオイこらどうしたんや!!」

「見たら分かるだろッキィ! 煩悩に手酷くやられたんだよ、チョートッQが!」

「やからって、山ン中そんなに走ったら危ないって──ああ!」

 

 何かに蹴っ躓いた俺の身体は──地面に転がされる。

 起き上がると──腕と膝に、酷い擦り傷が出来ていた。

 

「白銀君っ、大丈夫なん!?」

「おいお前、無茶し過ぎや! そんなん走っとったら──」

「帰らなきゃ……!」

 

 だけど、それでも立ち止まる理由にはならなかった。

 きっとうわ言のように呟いていただろう。

 

「チョートッQは、俺の代わりに怒って……こうなったんだ……!」

「やからって、お前まで大怪我したら意味あらへんのやぞ!! ちったぁ頭を冷やさんかいボケ!!」

「ッ……ごめん」

「……ハヤテッ!! あんた、言い過ぎ!」

「うっさいわ。危なっかしくて、見てられへんねん」

 

 ……。

 何も言い返せない。

 事実、酷い擦り傷で血がたらたらと流れてしまっている。

 痛みで、立ち上がれない程だ。

 俺、本当に何やってんだよ……!

 

「メイちゃん。つぶやきブルーバードを出したれ。先に力の座にチョートッQのカードを送り届けるんや」

「っ……わ、分かった!」

「良いのか?」

「うんっ、この子が一番速いから……力の座はうちのクリーチャーからすれば庭みたいなもんやし、安心して」

「……分かった。頼めるか」

「ええよ」

 

 すぐさま、青い鳥が彼女の手の中から現れた。

 小さな鞄の中にチョートッQのカードが入ると、そのまま鳥は凄い速さで飛び去って行った。

 それを見送ると──安堵のような、情けなさのようなものが込み上げてくるのだった。

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