学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR93話:十王のカード──二人の皇帝

 ※※※

 

 

 

 ──目覚めよ。目覚めるのだ、我が守護獣。

 

 

 

「……誰で、ありますか?」

 

 

 

 ──漸く、こっちに来てくれたか。いずれはこの時が来ると我は思っていた。

 

 

 

 黒いダンダルダBBと激突した後の記憶がない。

 気が付けば、そこは真っ黒な空間だった。

 チョートッQは周囲を見回す。

 何も無いが、声だけが聞こえてくる。

 

 

 

 ──皇帝の守護獣、チョートッQよ。汝は知る時が来た。汝自身の過去を。

 

 

 

「どういう、ことでありますか……? お前は一体──」

 

 

 

 ──白銀耀と汝が、どのようにして出会ったのか。そして、汝がどのような使命を受けたのか。知る時が来たのだ。

 

 

 

「……そんなの覚えているであります。我は……マスターがワイルドカードに襲われそうになっていたすんでのところで覚醒したのであります」

 

 

 

 ──違う。

 

 

 

「……!? 我の記憶が間違っているというのでありますか!?」

 

 

 

 ──それは正しい。しかし正しくも無い。つまり、記憶が欠けているのだ。汝は知っているな? 白銀耀が辿ったもう一つの歴史を。

 

 

 

「……それは」

 

 

 

 未来のトリス・メギスが語ったもう一つの歴史を思い返した。

 それは、破滅の未来を辿った2069年に繋がる時間軸。

 耀が紫月を失い、ワイルドカードの大氾濫が世界を滅ぼし、そしてトキワギ機関が世界を支配した歴史。

 

 

 

 ──既にこの時から、汝の戦いは始まっていた。

 

 

「この時から、って──うわっ!?」

 

 

 

 チョートッQは思わず腕で顔を覆う。

 そこに広がっていた光景は──

 

 

 

 

「掘ったどぉぉぉおおおおーッッッ!!」

 

 

 

 

 ──学園の裏山。

 そして、馬鹿でかい声と共にスコップを地面に突き刺す白銀耀の姿があった。

 その目の前には大きな穴が掘り起こされており、白紙の小さなカードが埋められていた。

 周囲には、紫月とシャークウガもくたびれた顔で立っている。

 

「こ、これは、マスター達……!?」

 

 声を発するチョートッQ。

 しかし、その声は彼らには聞こえていない。

 

 

 

 ──これは、我が再現した記憶の幻像。此処で起こったことは全て真実だ。

 

 

 

「真実って……マスター達が掘り起こしてるカードは? そもそもこんな出来事、無かったでありますよ!?」

 

 

 

 ──見ていれば分かる。

 

 

 

「シャークウガには感謝してもしきれないぜ! お前の魔力探知は本当に役に立つな! まさか地面の中にあるなんてよ!」

「あたぼーよ、俺様を誰だと思ってやがる!」

「調子に乗らないでくださいシャークウガ。それより白銀先輩、早くエリアフォースカードを」

「ああ!」

 

 歓喜に満ちた表情で、彼は──自らの主は言った。

 

 

 

「さあ目覚めろ! 今日から俺が、マスターだぜッ!」

 

 

 

 光り輝く白紙のカード。

 そこから飛び出したのは──

 

 

 

「──我に、命令をするなでありますッ!!」

 

 

 

 

 白銀耀は舌を噛んだ。

 彼の顎には──新幹線の異形の頭が、思いっきり頭突きをしていた。

 

「いっ、いっ、いだっだだだだ」

「な、何ですかコイツ……!」

「新幹線の頭をしてやがる」

「頭が高いであります」

 

 新幹線の異形は言い放つ。

 そして、蹲った耀を足蹴にするなり、

 

「我は皇帝の栄えある眷属・チョートッQ。頭が高いでありますよ」

(えええええええーっ!? 嘘、あれ、我ェ!? これがもう一つの歴史の我ェ!?)

 

 傍から見ていたチョートッQ──現代の方──もドン引きだった。

 飛び出した自分自身のアナザーは、さながら暴君であった。

 

(う、うわあ、面倒くさッ!! しかもややこしッ!! 自分がもう一人いるのって、こんなに気持ちが悪かったのでありますな……ってか、我のキャラ違くないでありますか!?)

 

「テメェ!! 初対面の相手に何しやがる!!」

「黙るでありますよ人間。我は栄えある皇帝のカードの忠実なる眷属。口を慎むであります。後、頭が高いであります。地べたを舐めて平伏すでありますよ」

 

(最悪でありますなコイツ……)

 

 凡そ、同一人物とは思えない振る舞いにチョートッQは頭を抱えた。

 こっちの歴史の耀は、さぞ大変だっただろう、と。

 

「ああ!? ンだとこのチビ!! 頭分解してやろうか、玩具野郎!!」

「無礼でありますよ!!」

「へぶぅ!!」

 

 

 

 ──これが、汝と白銀耀の出会いだ。

 

 

 

「……我と、マスターの出会い……でも、何故歴史が変わっているのでありますか? 皇帝(エンペラー)のカードは、何故地中に埋まっているのでありますか? それに我、こんなに高慢ちきではないでありますよ」

 

 

 

 ──元々、そうだったのだ。カードは地中で長らく休眠していた。

 

 

 

「じゃあ何故!? マスターに皇帝のカードを渡したお爺さんは一体……」

 

 

 

 言いかけたその時。

 場面は暗転する。

 そして、再び別の記憶が浮かび上がる。

 

 

 

「っこれは──!!」

 

 

 

 これは見覚えのある場面だった。アルカナ研究会の本拠地だ。

 そして、そこには傷だらけの耀、そしてまたもやもう一人のチョートッQが肩を並べて立っていた。

 立ち塞がるのはアルカクラウン。神を降ろそうとする闇の道化。

 周囲には倒れ伏せた仲間達。

 戦えるのは二人のみ。

 

(っ……これって、こんなだったでありますか……?)

 

 しかし、この状況はチョートッQの記憶には無かった。

 アルカクラウンとの決戦は、途中から参戦した仲間達のおかげで何とか優勢だったはず。

 

「……何でも良い。一緒にコイツをブッ倒そうや!」

「我に命令するなと言ったはずであります。腑抜けた戦いをすれば、その場で切り捨てるでありますよ」

「なかなか気難しそうな奴が出てきたなあ……まあでも……上等だぜ。行くぞ!」

「だから、命令するなと言ったばかりであります!」

 

 ──この記憶は違う。我の知っている記憶とは──!

 

 場面は移り変わる。

 それは泡沫の夢のように、現れては消えを繰り返す。

 その果てに現れたのは、ボロボロで倒れ伏せる耀の顔。

 ぎょっとして駆け寄ろうとするが、助けてやる事すらできない。  

 まるで雁字搦めにされたまま映画を見せられているような、そんな気分だった。

 そうこうしているうちに、耀のもとに現れたのは──もう一人のチョートッQだった。

 

「思ったよりも……痛くなかった、かな」

「戯け!! 何故他者を助ける! 何故己が身を犠牲にしようとする! 汝が滅びれば、我も滅びるであります!」

「っ……しゃーねぇだろ、身体が勝手に動いちまうんだからよ」

「怖くは無いのでありますか? 死ぬのが! 人間は命に限りある生き物、死への恐怖は当然のこと。それを押し隠せば、待っているのは本当の死でありますよ!」

「死ぬのは……怖ぇよ」

「ではなぜ──」

「怖いけど……俺が逃げた所為で仲間が傷つくのは……もっと怖いんだよ。逃げるくらいなら、死んだ方がよっぽどマシだぜ」

「……後始末を付けるのは、何時も我であります」

「……悪かったよ」

 

 この記憶も。

 

「クリスマスのプレゼント!? こ、これは──プ〇レールでありますか!?」

「色々あって遅れちまったからさ、こないだの無茶はこれでチャラに──」

「って、モノで釣るつもりでありますか!」

「バ、バレたぁ? あははは……」

 

 この記憶も。

 

「流れ星──綺麗だろ?」

「っこんなものが?」

 

 この記憶も──知らない。しかし。心にこびりつくように響くのが何故なのかチョートッQには分からなかった。

 

 そこで、映像は止まる。

 空をなぞる一筋の歪な光。

 それは、まるで空に傷をつけたかのように煌びやかに光り輝く流星だった。

 

 ──ワイルドカードの、大氾濫……!?

 

 そして、彼らの前に振り落ちるのは──無数の、異形。

 

 

 

「彗星は、三日間絶え間なく空に爪痕を残し、地上に災厄を振り撒き続けた──故に、こう呼称する。破滅を呼ぶ三日彗星(ミカボシ)と──」

 

 

 

 泡のように映像は消えてしまい、そして再び現れたのは──幾つもの墓標の前で嘆く少年の姿だった。

 

「俺は……何を守れた? チョートッQ……」

「……」

「俺は……これからどうすれば良い? チョートッQ……」

「……」

「これで終わりか……? 全部……」

 

 墓標に刻まれた名を見て──ぞっとした。

 

「全部全部終わりだ、何もかも、あはははははははははははははははははは」

 

 

 

 暗野紫月

 

 

 

 その四文字で、チョートッQは──この記憶が、未来のトリス・メギスが語っていた破滅の歴史であることを悟った。

 壊れたように笑う主。

 何も言わず只付き従うだけの自分に、何故気の利いた言葉の一つも言えないのか、と責めることは出来なかった。

 

「言える訳、無いでありますよ……」

 

 チョートッQは目を伏せた。

 眼前で繰り広げられる、もう一つの歴史を辿った主と自分。

 立場を自分に置き換えてみても、きっと何も言えなかったに違いない。

 映像がピタリ、と静止して砕け散る。

 周囲には静謐と暗闇だけが残った。

 

「でも、何故でありましょう……これは、本当に過去?」 

 

 チョートッQは思案する。

 何かが食い違っている。

 そしてこの現象には思い当たる節があった。

 耀の言っていた──破滅の歴史の夢だ。

 合点のいったチョートッQは一度状況を整理しようとした。

 これらの一連の記憶で最も食い違っているのは、自分と耀の出会いだ。

 

「マスターは皇帝(エンペラー)を手に入れたのは、妙なカードショップに居た妙な爺さんだったと言っていたであります」

 

 しかし、目の前で見せられた幻像はそうではない。

 耀は土の中を掘り起こし、皇帝のカードを目覚めさせたのである。

 そして現れたチョートッQもまた、高慢な性格で、凡そ自分とは似て非なるものだった。

 探る手は無い。今の歴史を生きるチョートッQは、今この場では只の傍観者でしかない。

 

 ──歴史が変わったから、我の性格も変わった? でも、シャークウガは同じだったであります……どういうことでありますか? 何故、我の性格が違うのでありますか?

 

 この破滅の歴史には、妙な点がある。

 耀よりも先にエリアフォースカードを手にした紫月。

 自分自身と姿が同じなのに性格が違うチョートッQ。

 そして、何故か地中に埋まったままだった皇帝(エンペラー)のカード──

 

「っ……おかしいであります。誰かが……歴史を変えたのでありますか……? 何処のタイミングで……?」

 

 今までの経験からして、それは歴史が何処かで変わったとみていい。

 しかし、問題は誰がやったのかだった。

 時間Gメン? アカリ? いや、それとも──

 

 

 

「っ……あ!!」

 

 

 

 思案していた矢先、眼前に光が灯る。

 現れたのは──白髪の、しわくちゃな老人の後ろ姿だった。窓に顔を向けているからか、顔は見えなかった。

 

(あれが、遠い未来のマスター?)

 

 外には、完全に停滞した硝子の都市が広がっていた。

 彼は──振り向かないまま己の守護獣に問いかけた。

 

「──お前はどう思う?」

「確かに、トキワギの中にいる限り、平和ではあります」

「……そうだな。ある意味、俺の望んだ世界だ。だけど──此処にあいつらは居ない」

 

 何も無い部屋で独り、老人は言った。

 

「チョートッQ。過去を──変えたいとは思わないか?」

「……マスター。何故、そのような事を」

「俺は……後悔していることがあるんだ。ずっと、ずっと──後悔してることがある」

「……紫月殿の事でありますか」

「……ああ。変えたいんだ。助けてやりたいんだよ。どうしてもな」

「まさか、本気でありますか」

「取り戻したいのさ。失った年月を。()という存在が消えても──過去の俺はこれ以上苦しんでほしくないんだ」

「分かるでありますよ。紫月殿を助けたい」

「……我は、無かった事にしたくないでありますよ」

「お前は俺の自慢の相棒だ。そんなお前なら──昔の俺を助けてやれるかもな」

 

 くるり、と彼は振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 老人の顔は、ぽっかりと黒い穴が空いていて見えなかった。

 

 

 

 

 周囲は再び暗転する。

 

 

 

 

 チョートッQは動揺を隠せなかった。

 

 

 

「これは、どういう事でありますか……!? 2079年のマスターは、歴史を変えるために過去へ渡ったのでありますか……!?」

 

 

 

 ──分かっただろう、チョートッQ。先ず、大前提として──()()()()()()()。その片割れがお前だ。

 

 

 

「……ま、待つであります! お前は何者でありますか!? 何で、こんな記憶を我に見せるのでありますか!? お前は何処かで見ていたのでありますか!?」

 

 

 

 ──我が親愛なる守護獣よ。

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

 ──汝の主と──()()()()()()

 

 

 

「あ、貴方は──」

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