学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR94話:十王のカード──交錯

「──チョートッQは──」

「未だに目を醒まさず、だ。今までのダメージの蓄積もあるからな」

「……凄く、苦しそうデス……」

 

 

 

 ……チョートッQは倒れ伏せたままだ。

 あの時、こいつを止められていれば、こんな事にはなってなかったかもしれないのに。

 そして、ここ数日の敗北に次ぐ敗北がエリアフォースカードのみならず守護獣であるチョートッQにも負担を掛けていたのだ。

 

「……クソッ、俺の所為で──」

「先輩……」

「しっかし奇妙な話デスね。煩悩が、その人の形をして出てくるなんて──巌流齋サンはこうなる事も予期してたんじゃないデスか?」

「確かに超スパルタコースと言っていたからな……」

 

 これも試練だってのか?

 だとすれば、俺は乗り越えることが出来るのか……?

 

 

 

「えっ、何それ怖い、ワシ知らんのぢゃけど」

 

 

 

 ……。

 今何て?

 巌流齋老師は全く身に覚えが無い様子で頭を掻いた。

 

「想定外って事か!? 煩悩が人の姿を取るってのが!?」

「煩悩は所詮、気の塊じゃよ。人の姿を取る事が出来んから動物やモノに憑りつくのじゃ。煩悩が人の姿を取って出てくるなんて有り得んぞい。まーあ、膨大な魔力を依代にしたなら有り得るがのう……」

 

 じゃあ、バイク仮面の言い訳は完全に出鱈目じゃねえか!!

 ……じゃなくて、煩悩が俺の姿をして出てきたこと自体がイレギュラーな事態ってことなのか……。

 

「とにかく、ワシは弟子共にしばらく修練場に近付かぬように言っておくわい。西洋魔術の事はそちらに任せるが、ワシもワシで尽力はするぞい」

「巌流齋の爺さん……」

「しかしな、ツンツン頭の小僧。煩悩が仮にも、貴殿の力を取って現れたということは……やはり最後は自身の力で勝ち取らねばならない試練かもしれんぞ?」

「……」

 

 ……乗り越えられるのか。俺一人で。

 相手の力は圧倒的だった。デュエルにすら持ち込むことが出来なかった。

 今の俺で……どうにかできるのか? 負傷して動けないチョートッQ無しでなんて、猶更無理な気がする……。

 

「とはいえ、煩悩が人の形を取ることが出来る理由など簡単に推測できるわい。憑依したものに、人の力を取って強力な力を行使できるだけの魔力が宿っていたのじゃろ」

「じゃあ、やっぱり皇帝(エンペラー)のカードが……!? あの、俺の偽物も皇帝(エンペラー)のカードを使ってたし、やっぱり分裂したのか!?」

「エリアフォースカードはプラナリアじゃねえんだぞ白銀。そう簡単に分裂するわけねぇだろうが」

「いや、分裂はする。問題は、分裂したのなら説明が付かない事がある」

 

 爆弾を投げ込んだのは黒鳥さんだった。

 しかし──彼は太陽のカードを俺達に差し出す。

 そこから発せられる魔力は、本来のそれよりもとても小さい。

 そうだ、思い出した。以前、2014年の鎧龍決闘学園で戦った時、黒鳥さんが俺達を助けに来れたのは太陽のカードの分身があったから……!

 

「僕が空亡から渡された太陽のカードは分身。分かりやすく言えばレプリカだが……守護獣を出す程の力は無かった。もし皇帝のカードが分裂したなら、守護獣と同等の力を持つクリーチャーを煩悩とやらが使役出来るはずもない」

「しかも、天体のカードである太陽と違って、皇帝は普通のエリアフォースカード。もし仮に皇帝が分裂したなら、偽白銀も偽皇帝も黒いダンダルダとやらも、もっと弱ェってことかよ」

 

 桑原先輩が顎を指でなぞる。

 しかし、それでも煮え切らない事はまだある。

 俺のもやもやを代弁するかのようにブランが叫んだ。

 

「でも訳が分からないデスよ! アカルの偽物がエリアフォースカード1枚分と同等の魔力を持つなら、その魔力は何処から来たんデス!? 前の私の偽物みたいに、別のカードが擬態してたとか!?」

「その可能性は否定出来ません、アルカナを偽装することが出来ないわけではないですし」

「でも──俺は、どうもアレが偽物の皇帝のカードとは思えねえんだよな……」

「じゃあアカルが手に持ってる皇帝のカードはどうなるんデスか!?」

「それは……うーん」

 

 偽物の俺は言っていた。

 真贋を問う事こそが無意味。皇帝は二人も要らない。

 まるで皇帝のカードが2枚存在していることを知っているかのような口ぶりだった。

 

「ともあれ、その偽物を倒さないことには先に進めないのは確かだろう」

「なら相当厳しい戦いになるかもしれない。あいつは──俺のGRクリーチャーを使ってきた」

「黒いダンダルダ……か」

「アカルが使えないGRの力を、偽アカルは使える……」

「今のままじゃ、完全に不利だ。僕から言わせれば、《バーンメア・ザ・シルバー》から繰り出されるGR軍団は相手にしたくない代物。今の貴様では仮にデュエルに持ち込めても太刀打ちできるとは思えん」

「……」

 

 くっそ、分かんねえ……分かんねえよ──どうして皇帝のカードが2つあるんだ。どうしてあいつはGRの力を使えるんだ。

 今の俺には──両方無いものだ。

 全部、今まで培ってきたものを、積み重ねてきたものを、奪われた気分だった。

 

「だけど、いちいち折れてられるか! 絶対に次は勝ってやる……勝たなきゃモモキングは俺を認めてくれない……!」

 

 考えろ。考えるんだ。

 何か、何か対抗策は──

 

「そう言えば白銀先輩」

「……何だ?」

「例の先輩の偽物も気になりますが……メイさんと矢継さんが気になる事を言ってて」

「気になる事? 何かあったのか?」

「ええ、もしかしたらヒントかもしれませんよ」

 

 怪訝な顔で紫月は言った。

 何だろう。彼女の事だ。きっといいアイディアが──

 

 

 

「バイク仮面とドラゴンレディって誰なんでしょうか……? もしかして、この事態の秘密を知ってたりとか」

 

 

 

 そっちかよ!

 ああ、やめだやめ。

 あいつらの事まで考えだしたらいよいよ頭が痛くなってきた。

 花梨と火廣金……で間違いないんだよな? あの不審者二名。

 黒鳥さんなんて露骨に噎せ返ってるし、彼が二人を呼んだんだろうけど……。

 

「……黒鳥さん、後でじっくりと話したいことが」

「こ、個人のプライバシーというものがあってだな」

「黒鳥さん?」

「先輩。何故師匠を睨むのです? まさか、何か師匠が……?」

「怪しいデス……!」

「確かに、黒鳥さんは毎度毎度何か隠してっからな。白銀ェ、そのバイク仮面とドラゴンレディとやら、どんな奴らだったんだ?」

「俺達もよーく知ってる奴らだと思います。ねえ、黒鳥さん?」

「……問題というものは、当人同士で解決すべきものだと僕は思うが」

 

 ダメだ。口を割るつもりないな、この人。

 ……どっちにしても、あの二人の真意はあの二人から聞くしかないってことか。

 

 

 

「……胃が痛くなってきた……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「お前は──なしてこんな所に居るんや?」

「……」

 

 

 

 力の座の屋根上に──灼髪の魔導司は月を腹に向けて寝そべっていた。

 「だんまりかいな」と悪態を吐いた矢継は、そのまま踵を返そうとしたが──

 

「今の俺は──部長と合わせる顔が無い」

「……それでわざわざ気配まで消しとったんか? 仲間に悟られへんように?」

「……」

「なんや、アイツと喧嘩でもしたんかワレ?」

「君には関係ないだろう」

「関係あるわ。アイツが──白銀耀が桃太郎をモノにするまでワシは帰れへんのや。アイツ……見てらへんのや。昔の自分見とるみたいでな」

「……」

「それにしても……あんさん程強い奴でも、悩むんやな」

「……悪かったな」

 

 魔導司──火廣金緋色は言った。

 

「俺は、黒鳥さんに呼ばれてこっちに来た。伊勢は大分マズい事になっているみたいだからな。駆け付けざるを得なかった」

「ほーん、お人好しやな。喧嘩相手助けにそれで姿隠して来たつもりか?」

「……俺が提案したんじゃあないんだが。あの巌流齋とか言う爺に……」

「ええ……? マジかあの爺さん……そういやニチアサ好きやったな……」

「部長達と顔を合わせるのが億劫だったのは……事実だがな」

「お前らどんだけ酷い喧嘩したんや……」

「……互いに守るべき者があった。それだけで済めば良かったんだが」

 

 ぽつり、ぽつり、と火廣金は話し出す。

 

「これは例え話だが、トロッコ問題というものがある」

「トロッコが暴走して1人を助けるか5人を助けるかって奴やろ?」

「俺はあの時……5人を助ける方を選んだ。だが、部長は──無謀にも1人で線路の上に立って、全員助けようとした」

「ッ……滅茶苦茶や」

「白銀耀はそういう男だ。やってしまうんだよ。あの男は」

「……でも、何があったんや? トロッコだけや分からへんぞ」

「暴走した仲間の守護獣が居た。そいつは俺の──大事な人を傷つけた。俺は暴走が事故であることを知っていたが、そいつを処分しようとした」

「処分……まあ当然やな。ワシも立場が同じならきっと同じことをする」

「放置しておけば、犠牲者が増えると思っていたから。何より──大事な人を傷つけた存在が暴れ続けるのが容認できなかった。私情を挟んでいた」

「……私情、か」

「だが、部長は……守護獣を助けようとした。俺は、彼を倒してでも自分のやるべき事を貫こうとしたが、結局敗北して──彼は守護獣を助け出した」

「……複雑やな。結局お前は、自分がやろうとしたことが正しいと思っていないんやな?」

「どちらとも言えない。結局、正しかったのは部長だ。今となっては……俺は相手が守護獣とは言え、仲間を手に掛けようとしてしまった」

 

 心の中で仲間を斬り捨てたという罪悪感。

 それが火廣金の中でずっと沈殿していた。

 何より──魔導司としての責務に私情を挟んだ自分自身に動揺し、そして許せなかった。

 彼は今となっては、何が正しかったのか間違っていたのかも分からなかった。

 

「ワシも……同じ立場やったら、あんさんと同じ選択しとったかもしれへんな」

「……?」

「ワシな。メイちゃんって、どんくさい幼馴染がおんねん。ちっこい子があんさんの相方と戦っとったやろ? あの子や」

「……ああ、あの少女か」

「あの子がもし……傷つけられたら、穏やかでは居れへんかもしれんわ。きっと、取り乱す。でもな、それは……ワシにとって、それだけメイちゃんが大事って事なんやと思う」

「……何が言いたい?」

「その気持ちを、ワシは自分自身で否定したくあらへん。やから……その時、誰かと選択肢が食い違うても良いって思うとるんや。それが覚悟って奴やろ」

「覚悟、か……」

「でもな、人と人ってのは結局違うんや。覚悟は……幾千通りもある。ワシはメイちゃんを守る為に吐く程辛い修行を重ねて《ダイナボルト》を手に入れた。でも……あの子は自ら戦う道を選んだ」

「……」

「ワシな、あの時ほどメイちゃんに怒った時はあらへんで。でも、あの子……泣きそうになりながらワシの事キッと睨んで……結局一歩も引かへんかった」

 

 矢継は屋根に座り込むと溜息を吐いた。

 結局、彼ではメイの決意を折ることが出来なかった。

 否、元より出来るはずもなかったのかもしれない。

 

「他人の生き方も死に方も決めるのは……傲慢なんかもしれへん。やったら……ワシはせめて、自分の生き死にくらいは自分で決めたいと思う。でもな!! そんなん……些細な話やろ」

「些細? それがぶつかり合った時、どうすれば良い」

「納得の行くまでぶつかり合う!!」

 

 矢継は掌に拳をぶつけた。

 その瞳は、真っ直ぐに火廣金を見据えていた。

 

「ワシは……それしかないと思うとる」

「……それが互いを傷つけることになっても?」

「そういうこっちゃ。ワシは……結局折れたけどな。でも……今は、メイちゃんを止めようとは思っとらへん。あの子が自分で決めた道やからな。ワシはそれを支えたい」

「……納得するまで、部長と話し合うしかない、か」

「ハッ、何言うとんのや。話し合いでケリがつかへんからこんな事になっとるんやろ。男同士なら殴り合いが一番手っ取り早いわ」

「良いのか、それは……?」

「ええんやないか。ワシなんかしょっちゅうメイちゃんにどつかれとるわ」

「良くないみたいだな……」

 

 まあでも、と火廣金は息を吐きだす。

 

「──悪くはない、か」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「99回、100……回ッと!!」

「我が主ィ、本気で丸太の素振りをやり遂げるとは思わなかったでござるぞ」

「……身体が、落ち着かなくって」

 

 

 

 ──力の座から離れた場所にある旅館の裏山にて。

 刀堂花梨はごろごろと丸太を地面に転がした。

 身体を動かさないと、気分が落ち着かないという言葉に偽りはないが──それ以上に、力の差を突きつけられた今日の試合が頭に残っていた。

 

「今のままじゃ、ダメだ……もっと、強くならなきゃ」

「主よ、丸太を振ってもデュエマは強くならないでござるよ」

「うっさい! 分かってるよそんな事!」

「──ちょっとええ?」

 

 自分のものでも無ければ、バルガ・ド・ライバーのものでもない声が聞こえてくる。

 思わず身構えたが、すぐに体の緊張を解いた。

 現れたのは──今日戦った少女・牧野メイだった。

 見知った顔に安堵するものの、すぐさま花梨は身を再び固める。

 ──って、違う! 顔バレしてたの!?

 

「え、えーと、何方? ひ、人違いじゃなくって?」

「もうええよ、うち巌流齋のお爺ちゃんから話聞いてはるから……お爺ちゃんから頼まれて、様子を見に来たんよ」

「えっ、そうなの?」

「巌流齋のお爺ちゃんが悪ふざけで二人にあんな衣装着せて送り出したんよね? 本当堪忍な? うちの方からしっかり怒っといたから」

「だ、大丈夫だよ! ちゃんと決着を付けられてない……あたしも悪いし」

 

 そもそも、火廣金が耀と仲直りするまでは、自分も耀と口を利かないという約束をしてしまっている以上、出ていくことが出来なかったのである。

 その上、事情を読心術で察した巌流齋が二人を勝手に神力で不審者の姿へと早変わりさせたので後戻りできなくなってしまい……バイク仮面とドラゴンレディが誕生したのだった。

 

「うちは牧野メイ。力の座の巫女をしとるんよ。刀堂さん、でええよね?」

「花梨で良いよ」

「あはっ、じゃあ花梨ちゃん……よろしゅうな。それで、明日はどうするつもり? 伊勢にしばらく居るん?」

「うん……一応、調べて欲しい事がいくつかあるみたいで、そこを当たるつもり。伊勢市内の他の神社とかを調べるのと、何時また鬼が来ても良いように備えないとって言われて……」

「忙しいんやね……」

「……まあ、ね」

 

 黒鳥からの依頼は──修行への協力だけではなかった。

 手薄になっている伊勢市内の防衛。

 襲撃の第一波が来た時、真っ先にそれに対抗するのが花梨と火廣金の役目だった。

 

「ねえ、花梨ちゃん……白銀君と何かあったん……?」

「……」

「ああ、言いたくないなら言わんでもええんよ!?」

「ち、違うの! バカバカしくて、自分でも笑っちゃうくらい、単純な理由」

「……?」

「だから、何にも……問題なんてない」

 

 嘘だった。

 何も問題が無いなら──どうして耀と顔を合わせるのが、こんなに億劫なのだろう、と。

 以前のように、もう彼を見ることが出来ない。

 以前と違って、彼が何処かへ行ってしまったような──そんな気分だった。

 俯きがちになって、視線を逸らす。

 それでも、余計な詮索をされたくなくって──

 

「だから、貴方は何にも気にしなくて──」

 

 

 

「そこなお嬢様? 明日辺りこの俺とティィィタイムでも如何でござろうか? 心が落ち着くおハーブティーでも一緒に」

「え、えーと……」

「何、種族の違いは何のその、俺が主に憑依すれば良い事──」

 

 

 

 ……。 

 一瞬目を離した隙に守護獣が狼藉を働いていた。

 すかさず、花梨は転がした丸太を軟派龍の後頭部に──チェスト!!

 程なくして、血文字で「犯人はゴリラ」と地面に書いた龍が転がっていた。

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