学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR96話:皇帝VS皇帝(2)

 ※※※

 

 

 

「よう、来たぜ偽者──」

 

 

 

 数多くの妨害を乗り越えて。

 ようやく俺は、偽物の元へと辿り着いていた。

 感じる。皇帝(エンペラー)と全く同じ力を。

 

「何度も言わせるな。真偽を問う事自体が無意味であるという事……それでも尚、何度でも(オレ)の前に立ちはだかるか?」

「……奴隷、か。確かに、俺は運命に囚われた奴隷かもしれねぇな」

 

 拳を握り締める度に感じた無力感。

 俺一人では何一つ出来ないという厳しい現実。

 しかし、それでも尚──

 

「だけど、俺は一人じゃねェ。一人じゃ何も出来なくっても、仲間と一緒なら何度だって立ち上がれる」

「此処には今いない仲間の分まで、お前を倒すッキィ!!」

「そして、桃太郎様に僕達の事を認めて貰うんだキャンッ!」

「我らが主の姿を借りるのは、好い加減に止めて辞めて貰おうかッ!」

 

 飛び出す桃太刀達も俺に手を貸してくれる。

 この戦い、絶対に敗ける訳にはいかない。

 相手は俺の今までの戦術を全て持っている。

 だけど、此処まで培ってきた戦術が、そして──巌流齋の爺さんの思惑が当たっているならば。

 勝ち目のない戦いではないはず──

 

 

 

「よりによって奴隷共から姿を現すとは滑稽なりッ!」

 

 

 

 ──思わず身構えた。

 偽物の身体から無数の触手が現れる。

 それは徐々に俺の知っているクリーチャーの姿へと変貌していく。

 一本一本が強力なクリーチャーを象っているのだ。

 それが暴れ、桃太刀達は次々に触手に跳ね飛ばされていく──

 

「モンキッド!! キャンベロ!! ケントナーク!!」

「ダ、ダメだ、コイツ、強過ぎるっキィ──!」

「言っただろう、白銀耀。人は運命に囚われた囚人。お前は運命から逃れることなど出来ない」

「……!!」

 

 次の瞬間だった。

 触手が俺の身体を捕える。

 偽物の顔が──眼前に現れた。

 彼は挑発的な笑みを浮かべながら、俺の顔を押さえつける。

 息が出来なくなっていく。

 意識が、闇へと引きずり込まれていく──

 

 

 

「過去に押し潰されて、消え失せるが良い!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 白銀耀の身体は、徐々に触手に飲み込まれていく。

 地面に伏せた桃太刀達はそれを見守るしか無かった。

 そして──偽物の身体がどくん、どくん、と脈打っていく。

 その身体からは巨大な翼が現れ、顔は龍のそれへと変貌していく。

 そして全身には銃身を携えた火器が生えて現れた。

 桃太刀達は、息を呑む。

 

 

 

 ──その龍の名はアバレガン。仕える者など誰も居ない暴君の龍。《Theジョギラゴン・アバレガン》──!

 

 

 

「遂に、握ったぞ──主導権を!! 我が力は二重に重ねられたッ!! (オレ)こそ世界を統べる皇帝(エンペラー)なりッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「みづ姉、朝ごはん……食べなくて良いのですか?」

「……しづ」

 

 

 

 翠月はげっそりした様子で紫月に向き直った。 

 思わず紫月の肩が跳ねる。

 明らかに彼女は寝ていなかった。

 理由を聞くと、彼女はふるふると首を横に振った。

 

「……桑原先輩と師匠、居ないの……本当に困った人達」

「ッ……そう言えば、伊勢神宮の方を見に行くとか何とか──」

「……そう」

「みづ姉。気分が優れないなら、少しでも眠るべきです。その様子では万が一何かあった時に、何も出来ませんよ」

「……分かってるわよ!」

 

 柄にもなく彼女は声を張り上げた。

 そして──驚いた様子の紫月の顔を見て、すぐに目を見開き「ごめんなさいっ」と口走る。

 最近立て続けに起こった出来事に加えて、睡眠不足で苛立ちが募りに募っているのだろう。

 

「……サイテーだわ、私……」

「誰にでもそんなときはあります。気にしないでください、みづ姉。こんな時に……いつものように振る舞える方がどうかしてますから」

「しづは──不安じゃない? ……鬼や、未来人の事が……」

 

 彼女は目を伏せる。

 次から次へと起こる出来事に心の余裕が持ててないのだ。

 

「……みづ姉。桑原先輩が……どうやって立ち直ったのか、知りたいですか?」

「え? ッあ、あんな人、今更──」

「端的に言えば、みづ姉とゲイルのおかげなんです」

「……!」

「QXと桑原先輩が上手くやってるかどうか不安で、オウ禍武斗に相談したんですけど……杞憂だったんです」

「どういうこと? 正直、かなりの凸凹コンビに見えたのだけど……」

「QXは、なかなか立ち直れない桑原先輩に問いかけたのだそうです。「汝は、汝の手で汝の理想を穢すつもりか?」と。この「理想」の意味が分かりますか?」

 

 ふふっ、と少し微笑むと紫月は翠月の首を背後から抱き寄せる。

 

「……桑原先輩を今まで肯定してくれた、みづ姉が……そしてゲイルが、彼の気付いていなかった彼自身を形成していたんです」

「っ……そうね。あの人、自虐ばかりで……ネガティブで、見ていられなかったから」

「きっと、桑原先輩は──QXに指摘されたことで、ようやく自分自身を信じることが出来たのだと思います。友に報いるには、友の信じてくれた自分でなければならない、と」

「でも、理想に辿り着くのはとても辛くて苦しくて……険しい道よ。芸術家なら、桑原先輩が一番分かっているはずなのに……」

「それでも、桑原先輩は自らの足で歩き続けることを選んだのだと思います。自分を信じてくれた人に、ゲイル、そしてみづ姉に報いる為に」

 

 紫月が翠月を抱く力が強くなる。

 震える姉を包み込むように。

 

「……だから、みづ姉が……近くで支えてあげてください。あの人が……進む先を見失わないように──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 桑原&黒鳥のコンビと空亡のデュエル。

 高速マナ加速で一気に7マナ帯に到達した桑原は、早速必殺ムーブを空亡相手に叩きこむ。

 放つのは絶望。

 一瞬にして相手の戦術を捥ぎ取る魂の喪失。

 彼が修行によって手にした新たな戦術だった。

 

 

 

「──テメェの動きは此処で封じる──《ロスト・ソウル》で手札全破壊だ!!」

「無駄な事」

 

 

 

 空亡の手札が一気に掻き消えるが、彼女は涼しい顔のままだ。

 それに合わせて、彼女の手札から次々に蒼い影が飛び出した。

 《斬隠蒼頭龍バイケン》2体がハンデスに反応して現れたのだ。

 更に、空亡の場にはシノビが場に出る度にカードを1枚引くD2フィールドの《Dの隠家 ザトー・オブ・ウラギリガクレ》が展開されている。

 シノビ2体が場に現れたことによって、彼女は手札を2枚補充する。

 その様子を黒鳥は固唾を飲んで見守っていた。手を貸すのはデュエルに必要な魔力を供給するのみ。

 後は──桑原がケリをつけるべきだ、と。

 

(相手はトキワギ最凶クラスのデュエリスト……そう簡単にはいかないはずだ。だが、今の貴様ならばやれるはずだ桑原。貴様の美学ならば空亡を倒せる──)

 

「白銀耀でもこの私の守りを突き崩すことなど出来なかった。手札を破壊しても無駄な事だ」

「……最初っからテメェの守りを崩すつもりなんざねェよ」

「時間稼ぎのつもりか? 悪いが、この儀式を邪魔されるわけにはいかない。この猛攻を耐えきっても、貴様はもう私の防御を貫けはしない──」

 

 《バイケン》が煙と共に姿を消すと、一瞬で桑原の眼前に飛び出した。

 そして、忍の龍は空亡の手札にあった時間龍と入れ替わる──

 

 

 

「これで貴様の時間は停止する。革命チェンジ──《時の法皇 ミラダンテⅫ》──っ!!」

 

 

 

 一瞬にして桑原と黒鳥の時間が停止する。

 彼の身体には茨が次々に絡みついていく。

 《ミラダンテ》のファイナル革命が発動したのだ。

 これによって、彼はコスト7以下のクリーチャーを次のターンに召喚出来なくなる。

 更に《ミラダンテ》はT・ブレイカーだ。桑原のシールドを時計の針で突き刺し、砕いてしまった。

 

 

 

「白銀耀の劣化品め。デュエルの技術も、デッキの質も劣っている貴様に、シー・ジー如きに敗れた貴様に、守護獣も守れなかった貴様に、この私が倒せると、本気で! 思っているのかね?」

「──空亡。テメェは一つ、勘違いしているな」

「……何?」

「……俺の弱さも、強さも、この俺自身が一番理解してンだよ──でも、そんな俺を受け止めて送り出してくれたお人好し共が居る」

 

 言ったのは──茨に縛り付けられた桑原だった。

 

 

 

 

「そいつらに応えずして、何が男だッ!!」

 

(ストレングス)──【ハザードモード】、エンゲージ!!>

 

 

 

 その声と共に、《バイケン》の胸に蜂の針が突き刺さる。

 桑原甲は──動けている。

 《ミラダンテ》のロックなど意にも介さずに。

 空亡の目が驚愕で見開かれた。

 その視線は、砕かれたシールドに注がれている。

 

(しまった……《ジャミング・チャフ》を落とされた所為で、呪文のS・トリガーがッ……!!)

 

「狂い悶えろッ!! S・トリガー、《極楽轟破5.S.(ファイブセンス)トラップ》ッ!! テメェのクリーチャーをマナに送って、そのコスト以下のクリーチャーを1体マナゾーンから場に出すッ!」

「《ミラダンテ》のロックは召喚のみ。召喚以外のバトルゾーンに出す行為は封じることが出来ないはずだ」

「つーわけで、《Q.Q.QX》をマナゾーンからバトルゾーンに出すぜッ!」

 

 稲光が迸る。

 天空から舞い降りたのは蜂の女王。

 その鋭い毒針を空亡に突きつけ、冷酷な嘲笑を捧げる。

 

『くっくっ、我が下僕よ。良い吠え方だ。褒めて遣わそうぞ。此処からは妾の独壇場。暗転を死を躍らせようぞ!』

「バカなッ……!! だが、これだけでは──」

『ほほほほほほほ!! 往生際が悪いのう。妾の毒針を前に何時まで立っていられる?』

 

 次の瞬間だった。

 今度は空亡の胸に針が突き刺さり、そこに蜂の紋章が浮かび上がる。

 《極楽轟破5.S.(ファイブセンス)トラップ》の最後の効果──それは、相手の山札の上から4枚目を横向きに刺すというもの。

 

「テメェらトキワギ機関に奪われたものは数知れねェ。あの決闘で──俺は誇りを失い、屈辱を味わい、そして相棒を喪ったッ!!」

「バカなッ……何故、私が追い詰められている……? 白銀耀よりも、貴様は弱いはず……ッ!!」

「ンな事ァ俺が一番分かってんだよな、これがァッ!! 失ったモンはもう戻って来ねェ。白銀の持ってるものを俺が持てるとも思わねェ!! だから──今あるモンで、極限まで強くなるしかねェ!!」

『妾は──この男のそんな愚直さに惹かれたというわけじゃ。オホホホホホ!!』

「ツー訳で──往生しな、神様のなり損ないよォ!!」

「ッ……!?」

 

 空亡は思わず左胸を抑える。

 突如、動悸と息切れが彼女を襲った。

 耀相手には使わなかった、本来の5.S.D.が発動しようとしていた。

 視覚がぶれる。  

 そして、匂いが薄れていく。

 五感が、じわじわと猛毒によって奪われようとしていた。

 

「こ、これはッ……!!」

「守りが硬いなら守りを腐らせればいい。五感喪失の前で抵抗は無意味だ」

 

 桑原は6枚のマナをタップする。

 最早猶予など彼女に与えるつもりは少しも無かった。

 このターンで終わらせるために《邪魂創生》でキルパーツを集めていたのだから。

 

「呪文、《H.D.2》──能力で相手のカードを2枚、マナへ叩きこむッ!!」

「ッ……!!」

 

 空亡の山札の上から2枚がマナゾーンへ送られたことで、横向きのカードへ到達するまで残るカードは1枚となった。

 

「そして最後に、《ガード・ビジョン》発動!! テメェはテメェの山札を見ることも出来ねえし、位置を変える事も出来ねえ。だが、俺はテメェの山札の位置を変えられるんだよ!!」

「まさか──」

「効果で横向きのカードを1番上に持っていく!!」

 

 バチンッ!!

 

 これにて、彼女の五感はのうち──視覚以外の全てが失われる。

 毒針が、空亡を容赦なく刺し貫く。

 

「がっ、あああ!?」

「さあ、五感全部をあの世に持っていくぜッ!! サイケデリックな死の芸術──ッ!!」

 

暗転する女王の轟令(スティング・マスキュラックス)

 

 

 

 空亡の左胸目掛けて、《QX》がトドメと言わんばかりに蹴りを加えた。

 毒針が、彼女の胸に深く深く突き刺さり、猛毒が一瞬で回って彼女から五感を奪っていく。

 駆け巡る血が冷たく凍えていく。

 それはまごう事無き死への実感だ。

 

「終わってなど……いない、まだ……終わってなど……! お前のような、ちっぽけな人間に狩られるなど──!」

「強くなる最後の鍵は……俺自身が俺自身を認める事だった。ダメダメな俺だけど……それも、また俺なんだと気付かされた!! 白銀や他の奴なんか関係ねェ!! 俺自身の力を、俺はこれからも突き詰め続けるッ!!」

 

 崩れ落ちていく空亡に彼はカードを突きつける。

 

 

 

「神様は生まれさせねえ──此処でお終いだぜ、空亡」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 崩れ落ちる空亡の身体。

 しかし、既に彼女は強大な神へと至ろうとしていた。

 止めなければ、更なる犠牲者を生み出していたのは想像に難くない。

 それでも──相手の命を奪ってしまったという実感が桑原を襲っていた。

 ギリッ、と口を結ぶ。

 これで良かったのか、と。

 

「……死んだ、のか……?」

「待て」

 

 倒れ伏せた空亡に近付こうとする桑原を黒鳥が手で制す。

 彼は首を横に振って否定した。

 まだ、終わっていない、と。

 見ると──彼女の身体がまるで亡霊のように起き上がり──虚ろな目で天井を睨んでいる。

 

「なッ……!? 嘘だろ、あれで息の根を止めたはず──ッ!?」

「コウ──コウ──ククリ──ヒメ──コウ──コウ──ククリ──ヒメ──」

 

 朽ち果てた口から紡がれるのは──人の耳には聞き取れない呪文。

 それが唱えられていくと、空亡の手に握られていた泥が溢れていき、宮の中を満たしていく──

 

「マズいっ、逃げるぞ桑原っ!!」

「と言われても──っ!!」

 

 次の瞬間だった。

 泥が二人の身体を飲み込んでいく。

 それは虚無を、憎悪を、絶望を喰らっていき、死の果てへと至る脅威と化す。

 その場全てを飲み込んでいき、終いには──伊勢神宮に巨大な一つの卵を作り出した。

 卵は邪な意識そのもの。

 太陽神にかつてその権能を奪われた怪物の成れの果て。

 まさに、百鬼夜行の終わりに現れる滅亡の起源にして、巨大な終焉の太陽の具現であった。

 

 

 

()()……名は──零龍(ゼーロン)……」


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