学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「……始まったか……!」
巌流齋老師は力の座の塔の天辺で、修練場から迸る凄まじい龍の気配に眉を顰める。
肌で感じるのは鬼さえも喰らう暴君龍の暴威。
咆哮は大嵐の如く、吐き出す吐息は焼け付く噴火の如く。
その核となったのは──白銀耀に違いない。
(だとしても──此処からが正念場じゃ、ツンツン頭の少年よ! 汝が煩悩に打ち克つか否かは、汝自身の魂の戦いに掛かっておる! そして、その間の隙は──汝の仲間が必ず食い止めるであろう!!)
間もなく。
翼を広げた龍が修練場の結界を突き破って飛び出した。
目視出来る限りでもすさまじい強大さだ。
そして、力を求める龍は残るエリアフォースカードを求めて力の座目掛けて飛んで来る。
「ジョギラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
龍の咆哮が木々を揺らす。
暴威があらゆる生命を平伏させる。
降り立てば災害にも匹敵する龍の脅威。
止めねば大惨事となることは想像に難くない。
しかし──
(これは汝だけの試練では──ないのだから!!)
※※※
「見えますか? ジョルネード。遥か果てに見える星が──」
アカリはふと、隣に立つ蒼きガンマンに呼びかける。
彼女が見据える遥か空の先。
そこに見えるのは二つの星。
暴威を撒き散らす皇帝の暴れ星。
そして、死と崩壊を振り撒く白き太陽。
どちらも放つのは──光。
「……お爺ちゃん。どうか、勝って──ッ!!」
※※※
「──白銀耀──貴様が築いてきたものが貴様自身の力で崩れるところを、指を咥えて見ているのだ!」
咆哮するジョギラゴン。
大地に降り立ち、その無数の銃口で守護獣達を焼き尽くそうとする。
現れた巨竜を前に、紫月達は戦慄した。
止めねばならない。
しかし。ジョギラゴンが顕現したということは──その中に耀が入っているということ。
その動きを封じる事は出来ても、傷つけることなど出来ない。
故に──
「──サッヴァークッ!!」
「シャークウガッ!!」
ブランが命じると共に、光の輪がジョギラゴンの四肢を縛り付ける。
更に、シャークウガが防護壁を一挙に展開した。
これにより、ジョギラゴンの動きは止められる──と思われた。
だが、
「ギャオオオオオオオオオオオッ!!」
「ッデース!?」
「なっ……!?」
一吼えでそれらは打ち砕かれた。
一行は思い知ることになる。
耀の中に封じ込められたジョギラゴンがどれほどまでに強大な存在であるかを。
これを真っ当に相手するのは、相当に骨が折れる。
「やっぱり黒鳥サンが居た方が良かったんじゃないデスか!?」
「泣き言を言ってる場合ですか! 私達だけで先輩を受け止めるんです!」
「デ、デモ、やっぱり戦力足りなさ過ぎデース!」
なんせ、敵はまだ技の一つも使っていないのだから。
しかし──思わぬ増援が加わろうとしていたことにブランはまだ気付いていない。
現に死角から、ジョギラゴンを急襲する二体が迫ろうとしていた。
「いけっ!! バルガ・ド・ライバーッ!!」
「食い止めろブランドッ!!」
戦線に加わるは二体のクリーチャー。
そこに居ないはずのそれらを見て、ブランと紫月は震え立った。
片や守護獣。片や魔法使い最大の眷属なのだから。
だが、それを従えているのはどちらとも、此処には居ない人間のはず。
それらは何処に居るのか──
「バイク仮面ッ!!」
「モルネクレディッ!!」
「「参上ッ!!」」
──……沈黙した。
バルガ・ド・ライバー、そしてブランドと一緒に現れたのは珍妙な服装の男女。
こんな非常事態でも顔を隠さねば自分達の前に出られないのか、と流石のブランもある種の呆れを隠せず、
「いやヒイロデスよね?」
と、思わず無粋なツッコミ。
「何を言っている迷探偵。君の推理力には常々疑問を持っていたところだが、俺は山の精のバイク仮面だ」
「やっぱりカリンデスよね?」
「あ、あたしも山の精──」
「Youたち、好い加減普通に出来ないのデース!? 何なんデスかカリンも!! 良い歳して恥ずかしいと思わないんデスか!? 散々人に心配させといて!? こんな恥ずかしい身内だとは思わなかったデース、およよよよ」
「ちょ、ちょっとブラン!! 悪かったから!! 後で訳を話すから泣かないで!!」
慌てふためくモルネクレディ。
泣き叫ぶブラン。
そして最早、どうやって収集着ければ良いのか分からない紫月。
事の発端が自らである以上、気まずくて仕方がない。
(……本当にこれ、どうやって決着付けましょう……まあ、戦線の空気は少しだけ柔らかくなりましたが)
「言っとる場合か探偵ッ!! 奴を抑え込むぞ!!」
「納得いかないデース!!」
ツッコミを我慢できないブラン。
やむを得ず、サッヴァークの光の剣による拘束を再び試みる。
しかし、ジョギラゴンの魔力はあまりにも膨大。抑え込むことが出来ない。
「ブラン先輩。形はどうであれ、助っ人が増えるのは良い事です」
「……そうデスけど! 私、色々納得いってないデース!」
「積もる話は後です。これが終わったら、ラリアットの一つでもカマしてやりましょう」
「仕方ないデスね!」
「ジョギラアアアアアアアアアアアアアアーッ!!」
しかし、ジョギラゴンの叫びは一向に収まらない。
収まる気配など無い。
その主砲となる全銃口が光り輝いた。
(白銀先輩……もしあなたならば、自分が仲間を傷つけようとした時は躊躇なく殺せと言うでしょう。そして、私達はその約束を交わした。交わしてしまった。覚悟をすれば、怖くないから)
ぐっ、と紫月は唇をキュッと引き絞る。
(でも……私は、それでも貴方を最後まで信じます。貴方に簡単に殺される程──ヤワじゃないからッ!!)
銃口に魔方陣が現れた。
そして直後──銃が爆発する。
塞がれたことによって爆風が逆流したのだ。
悲鳴を上げたジョギラゴンは──そのまま地面へと墜落する。
「やったデス!!」
「ッ……いや、まだだ!!」
歓喜の声を上げたブランをバイク仮面が諫めた。
その時。
「ジョギラアアアアアアアアアアアアアアーッ!!」
無数の光が、ジョギラゴンを中心として放たれた──
※※※
「──驚いたな」
──耀と、耀は向き直っていた。
此処は耀が生み出した煩悩の中。
そして──もう1つの
いわば、彼の心の現身とも言える空間。
そこに耀は立っていた。
「……此処まで来れたことか? それとも、俺がまだ正気を保っていることか?」
「両方だよ」
呆れたように、空間の主である現身の耀は言った。
「……早々に飲み込んでやろうと思ったのだがな」
「俺は独りじゃねえからな」
耀は──笑っていた。
「……ならばどちらが立つべき皇帝か決めようか、兄弟」
「……どちらが、とかねえよ」
「何?」
「誰が何と言おうが、今此処に立っている俺は……俺でしかないんだ」
皇帝は嘲笑した。
「バカめ!! 自分が本物であるという傲りッ!! それこそが貴様が此処に来た理由じゃないのか奴隷がッ!!」
「俺は奴隷じゃねえよ」
耀は笑みを浮かべた。
「俺は、自らの意思で此処にやって来た! 俺自身に決着をつける為にッ!!」
彼の手には──デッキが握られていた。
今は隣に居ない相棒の名を耀は胸の中で呼びながら──己の現身に叫ぶ。
「勝負だッ!! もう一人の俺ッ!!」
「……奴隷如きが、皇帝に敵うとでも!!」
開幕する。
二つの皇帝が、己の存在意義を証明するために。
デュエルの火蓋が切って落とされた──
※※※
「全く──二人共世話を焼かせます!!」
「す、すまん……」
「わりぃ、翠月……」
オウ禍武斗に抱えられながら、黒鳥と桑原は目を伏せた。
間一髪。あともう少しで、あの巨大な卵と伊勢神宮を覆う膨大な泥に押し潰されていたところである。
既に伊勢神宮の上空には卵が浮かび上がっており、それが絶え間なく泥を吐き出し続けている。
卵の中には大きな魔力が籠っており、近付くのも憚られるほどだ。
「力の座に戻りましょうッ……この事を皆に知らせないと……!」
「……ッいや、待て翠月!」
「え?」
その時だった。
空間が──割れる。
あの巨大な卵に続き──引き寄せられるかのように、それらは来たる。
──鬼の、大群が現れた。
「!?」
その場に居た3人と一体は目を疑った。
あれほど、倒すのに苦労した鬼の軍勢が大挙してきたのである。
ただでさえ、あの卵から逃げるのにこちらはいっぱいいっぱいだと云うのに。
このままでは多勢に無勢。
だが、放置していても民間に被害が出ることは避けられない。
「ど、どうしましょう、師匠!?」
「僕にそんな事を言われても知らん!! この状態で奴らを相手出来んぞ!」
「下に降りる事も出来ねえしな……数が多すぎる!?」
そう口々に言っていた──その矢先だった。
鬼の大群は、こちらなど歯牙にもかけず、卵に向かって雪崩れ込んでいく。
こちらに誰一人として向かってこないのである。
「!? 奴らの狙いはこちらではないのか!?」
「潰し合ってくれるならば幸運だ!! 力の座に戻るぞ!!」
「悔しいですが……巻き込まれたら堪ったモノではないですからね……!」
その場を去る3人。
しかし。彼らは気付かなかった。
鬼の軍勢を率いるのは──当然鬼の王であるということを。
百鬼夜行のその奥に潜む──鬼の神類種の存在を失念していた。
無論、彼らは魔力を消費しきった後での逃亡戦。責められる謂れなどない。
しかしこの日、この時。
史上最悪の鬼の神が誕生しようとしていたのである。
「──まぁーっていたぜェ……空亡さんよォ!!」
鬼の無量大数群。
それらはいっきょに卵目掛けて襲い掛かり──そして、蒸発した。
迎え撃ったのは──卵から生えてくる幾つもの触手。
それらが、命知らずの鬼達の心の臓を貫いていく。
だが、その様子を鬼の頭領である酒呑童子は笑みを浮かべて眺めているのだった。
「良い、良いぜ!! 突っ込みなあ!! 奴の首を獲ったヤツに褒美をくれてやる!!」
──無論。
本気で部下達が卵を破壊出来るなどとは考えてはいない。
あの卵がどういった存在なのか、酒呑童子はよく知っていた。
(空亡──昔、太陽の神に逆らって落とされた龍。かつては宙の奥に潜んでいたが、この地に降り立つにあたって、神格を剥奪された……)
宇宙の果て、その先にあるという龍の頭の星雲。
その話に酒呑童子は微塵も興味などは無かった。
ただ──強いヤツがいるというだけ。自らの依代となったジャオウガも、そこからやってきたという。
(確か、それの名前は……)
そして、あの卵も。
鬼の軍勢を喰らいつくしたその卵は──今にも産声を上げようとしていた。
「ハッ、喰い頃みてえだな」
好戦的に言った酒呑童子は、遂に自らが卵の前に降り立つ。
「もう、腹いっぱいになっただろ──
「ウゥア……!?」
「太陽神類に落とされたテメェが俺を救い……二の矢として、桃太郎を討つために送り込んだ。賢かったよテメェはなあ」
だけど、と彼は続けた。
「──テメェを喰らうのは俺だ、紛いモン」
言った彼は、空間を解き放つ。
鬼の頭領と、空から来たりし龍。
超天を決める戦いが始まろうとしていた──