学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
──終わった。
鬼との戦いが。
そして、俺達にとっては初めてとなる神との戦いが。
「……ンだよ。これでもう俺様は終わりかよ」
地面に転がる酒呑童子──の首。
それすらももう、消えかかっていた。
「……ああ、終わったんだ。全部な」
「……だけどなあ、人々の信仰心がある限り。人々が互いに傷つけることをやめない限り。俺様は何度でも……何度でも蘇るぞ、きっと──」
「だろうな。だけど……その度にきっと倒す。皆の力で」
「……ケッ、これだから人間は嫌いだ」
そう言い残し、酒呑童子の首は消え失せた。
空に向かって──声が消えていく。
「すぐ死んじまう癖に、結局最後は俺達に勝つ……不愉快な生き物だぜ」
※※※
「──そう、ですか。後に残ったのは、この槍と──この殺生石のみ」
「殺生石?」
「……鬼の顕現の依代となる石です。これを正しく祀れば、二度と鬼が蘇ることも無いでしょう」
──ひと晩、明けただろうか。
坂田さんが漸く目を醒ました。
力の座に襲来した酒呑童子を倒し──残ったのは、彼が持っていた大きな槍、そして──彼自身の力が封じ込められた小さな石──殺生石だけだった。
石には既に座の職員によって何枚もの御札が貼られており、今後は厳重に京都で封印するのだという。
元々、京都には鬼を封じ込めるための術式がシステム化されていたらしく、モモダチ達もその一つだった。
元あった場所で、元以上に強固に封じ込めるのが最適なのだろう。
二度と、何者かの手で酒呑童子が目覚めることのないように。
「──貴方達にはお世話になりましたね。本当は私が京都でこれを封印しなければいけなかったのですが……」
「ワシらに任しとき、坂田はん。矢継の名に懸けて、鬼が二度と目覚めへんようにしといたるわ!」
「……そうですね。貴方ならきっと問題ないでしょう」
矢継は、誇らしげに鼻を擦り──そして俺の方に向き直った。
「……ったく、美味しい所全部持っていきおって……ホンマに桃太郎に認められるなんてな」
「俺でも信じられねーよ……俺が、酒呑童子を倒しちまうなんてな」
「そうやそうや! 何であんさんやっちゅうねん、ワシやったらもっとカッコよく──いだっだだだだ!?」
「はーやーてー?」
ぐりぐり、と誰かが矢継の足の小指を踏みつけている。
メイの力は恐ろしく強いのか、それこそもう凄い悲鳴を上げているのであった。
絶対に喰らいたくないな……。
「ったく、ちょっとくらい素直に祝えへんの?」
「やりすぎやメイちゃん!! ワシの小指潰れてまうわ!!」
「潰れればええんよいっぺん……」
「あだーッ!?」
床で転げ回る矢継を一瞥すると、彼女は俺に向かって微笑んだ。
「ったく……次こそ決着付けるで、白銀」
「ああ!」
矢継と固く手を交わす。
こいつとは色々あったけど……最後には助けられてしまったからな。
そして。
「……じゃあ、ボク達も帰らなきゃ、だね……」
「え?」
言い出したのは──キャンベロだった。
「……ど、どうしてだよ? 折角仲良くなれたのに……」
「我々は元々、鬼を封じ込めるための術式に過ぎないケン」
「鬼が封じられるならば……俺達は再び、眠りについて鬼を見張らなきゃいけねーんだよ」
「大丈夫! 今度は……桃太郎様も一緒だから! ……別れるのは寂しいけど」
「……ケントナーク……モンキッド……キャンベロ……」
──そして、モモキング。
こいつらとは──此処でお別れ、ということか。
確かに鬼が京都に封印されるならば、そこで守りをしていた彼らも本来の役割に戻るのだろう。
あるべき場所で、あるべき姿となって──永遠に鬼が目覚めぬように見張り続ける。
ただの、システムとして。
「……そっか。ちょっとだけ……寂しくなるな」
「……うん」
キャンベロは頷く。
……何だろう。
最後の最後で湿っぽくなっちゃったな。
本当に……今生の別れなんだから、泣いて終わりにしたくないんだけどさ。
「貴女達には苦労させられましたが……私は嫌いじゃなかったですよ」
「……!」
紫月がキャンベロの方に進み出る。
「ぱんじゅう、最後にごちそうしてあげたかったですが」
「……うん、とっても美味しかった……!」
「そうですか。……良かったです」
「もうイタズラすんじゃねーぞ、モンキッド」
「それはどーだかな、いだだだだだ?!」
「本当に済まないケン……コイツは私が責任もって見張るが故」
「ははは……」
変わらない。
きっと、こいつらも変わらないのだろう。永遠に、ずっと。
そして、俺達の胸の中にもきっと永遠に残り続ける。
忘れられるかよ。お前らみたいなやつをさ。
「……それじゃあ──桃太郎様をよろしくね」
「ッ……!」
キャンベロが──言ったその時。
モモダチ達は、光に包まれていく。
赤い札と、2枚の緑の札。
それらが矢継の持つ殺生石に──貼り付けられた。
「……こいつらは……京都でずっと、鬼を見張り続けるやろうな」
「……ああ」
「せやけど……忘れ形見も置いてってくれたみたいやね」
「え?」
メイの言葉に、俺は地面を見やる。
カードが落ちていた。
桃太郎──《
「……そうか。お前は……一緒に居てくれるのか」
「神力は感じられへん。本当に……ただのカードになったんやろうな。鬼を封じるのと引き換えに」
「……ああ」
《モモキング》は
……鬼との宿命からは離れ、これからは
「……よろしくな、《モモキング》」
※※※
──さて、矢継が殺生石と共に力の座を去り、それから身体を休めるために二日ほど力の座に滞留しただろうか。
ここにきて、残ったものがある。
酒呑童子が残した、あの大きな槍だ。
目玉が幾つも付いた不気味なものであったが、これの正体だけがどうもわからない。
曰く、最初から彼が手にしていたものではないという。
そしてシャークウガが調べたところ、恐らくこれそのものが普通のクリーチャーの人智を超えたものであるらしく。
「──本質的には邪悪なモンじゃねえよ。鬼の手に渡っていたってだけでな」
「じゃあ、これは一体何なんだ?」
「それが分からねえから問題なんだろうが」
最も、シャークウガではそこまでしか分からないらしいが……。
「──恐らく、空亡の置き土産だろう」
言ったのは──黒鳥さんだった。
空亡の狙いが伊勢神宮にあるのではないか、と予測を立てていたという。
そして、それは当たり──空亡は宮からアマテラスの力を取り込もうとした。
だが、その目論見はすんでのところで阻止されたらしい。
「撤退するボクらを後目に、鬼たちが巨大化した空亡に襲い掛かっていた。そして、数分後──それは消滅した」
「……酒呑童子が、空亡を倒した……同士討ちだったわけですか」
俺の問いに彼は首を振って肯定した。
彼の云う所には、どうやらアマテラスを取り込んだ空亡を倒したのは、他ならぬ酒呑童子で間違いないようだ。
……俺が修行している間に、空亡がそんなことを企んでいたとは。
一歩間違ったら本当に大変なことになっていたらしいが、すんでのところで止まったのは──酒呑童子と空亡が同士討ちしたところにあるのだろう。
どうやら、神の力を狙っていたのは鬼の方も同じらしかった。
では、この中に宿っているのは──
「──アマテラス。伊勢神宮に祀られておる神──に違いないかのう」
言ったのは、巌流齋老師だった。
となると、この槍も伊勢神宮に還すことになるのだろう。
……もしかして。
「巌流齊の爺さん。あんた──神類種ってのを聞いたことは──」
「無い!!」
「ええ……」
「じゃが、魑魅魍魎や八百万の神……それらが同じ類であることは知っておるわい。神として祀られてはおるが、コイツもまた……本質は同じじゃ。長いこと眠っておったのだろうが、恐らく、酒呑童子の目覚めと共に近くにあったアマテラスもまた、共鳴して目覚めたのじゃろう」
「じゃあ、この中にはアマテラスが?」
「うむ……」
巌流齊老師は頷いた。
「──ねえ、もしかしてこの中にいるアマテラスって人を呼び出したら、神類種のことが分かるんじゃないデース!?」
……俺達は沈黙する。
言い放ったブランに──俺は掴みかかった。
「なんてとんでもないことを言いだすんだ、オメーは!! 中に入ってるのがヤバいバケモノだったらどうすんだ!! こんなどっからどう見ても禍々しさしかない槍!!」
「デ、デモ、せっかくここまで来たのに、何にも情報ナシで帰るなんてゴメンデース!!」
「もう一回命の危機に晒される方がよっぽどゴメンだわ!!」
「そうですよブラン先輩!! 好奇心ブランを殺すと言うでしょう!?」
「何で私限定なんデース!? うえーんうえーん、シヅクまでアカルの味方をするデース!!」
「残念だけど先輩、私もしづの味方ですよ?」
「ミヅキまでぇ!?」
うー、結局何にも手掛かりが得られなかったデース、と涙目で言うブラン。
まあ気持ちは分からんでもない。
だけど今回も今回とて命懸けの連戦が続いたのだ。正直、こんなところでもう一戦追加なんてごめん被る。冗談じゃないよ。
とにかく槍は、伊勢神宮の方で厳重に保管してもらうのが良いだろう。
元々神具の類ではないらしいし……また酒呑童子みたいなのが目覚めたら大変だ。
「あれ? 槍なんか光ってね?」
「「「「……」」」」
俺達は沈黙する。
指差していったのは、桑原先輩だった。
「ちょっと!! ブラン先輩が余計な事を言うから出てきそうじゃないですか!!」
「私の所為デース!?」
「あ、あわわわわ、オウ禍武斗、臨戦態勢!!」
「くそっ、やるしかないのか!?」
「またこのパターンかよ!! 畜生!!」
疲労困憊の俺達の前で、脈々と鼓動する槍。
その光はまるで太陽のように強くなっていき、そして──
「──である!!」
──……。
俺達は押し黙った。
槍は一瞬、眩い光を確かに放った。
その中から現れたのは、強大な龍か化け物か、果たしてそれとも……誰もがこれから待ち受けているであろう延長戦に慄いていた。
慄いていたのであるが……。
「……みなのもの!! せいしゅくに!! 我こそは、太陽の神、あまてらすであるぞ!!」
現れたのは、青い肌の小さな少女。
巫女服を羽織り、頭には大きな太陽の形を模した冠を被っている少女──いや、幼女であった。
その肌は透明に透き通っており、さながら俺達は──とあるクリーチャーを想像したであろう。
デュエマに於ける古代のクリーチャー……オリジンの一角。
《蒼狼の始祖 アマテラス》を。
しかし。ちんまい。あまりにもちんますぎる。これが本当に太陽の神なのだろうか。
「オイオイ、コイツ本当に太陽神か? シーリングライトの神じゃねーか?」
「しゅくせい!! ゆいごんはかんけつにな!!」
「ギャアアアアアアアアアーッ!!」
即座に太陽光線が照射。
哀れシャークウガはフカヒレと化した。
……守護獣が一撃で……コイツ、強い……!
「ふふん、どうであるか! これが太陽の神のけんのうであるぞ!」
「本当にすいませんでした……どうか命だけは……ギャアアアアーッ!! らんめえええええええ、お肌が焼けちゃうのおおおおおォォォーッ!!」
「アホは放っておきましょう」
「どうやら太陽神というのは……本物のようだな」
腕を組んだ黒鳥さんは言った。
やべーよ……またヤベーもんが出てきちまったよ……。
シャークウガの尊い犠牲で、奴さんが少なくともクリーチャーに並ぶくらい危険な劇物であることが分かっちまったよ。
「うむ! 人間たちよ! こたびは、わらわを解放してくれて、ほめてつかわすぞ!」
「は、はぁ、ありがとうございます」
「なに、そんなにかしこまらなくてもよい! ほうびに何でも願いを叶えてやるぞ!」
「じゃあ、私を世界一の名探偵にしてくだサイ!!」
「座れバカ!!」
──かくして。
俺たち全員は、アマテラス(?)の前に正座することになった。
仮にも神の名前を名乗っているのである。うっかり不敬があったら大変なことになるだろうから。
……そこに転がされている哀れなフカヒレのように。
「……よもや。生きている間に、本物の神を見ることになるとは……それも二度も」
「う、うちも……」
実感が湧かない、といった様子で坂田さんとメイが言った。
「うーむしかし、1000年ほど、ねむっておるあいだに人間たちのいでたちはずいぶんとかわったのう!」
「……えーとアマテラス様。つかぬ事をお聞きしても?」
「うむ! なんでもこたえるぞ!」
「……俺達、今……神類種について調べているんです。俺達が倒した酒呑童子も神類種らしいですが……何か知りませんか?」
「なんと! 人の子の身でシュテンの暴れんぼうをたおしたのか! あっぱれであるぞ!」
「いや、俺一人の力じゃないし、モモキングの……桃太郎のおかげなんですけどね」
「うむ! そうであるか! それにしてもあっぱれである! 相手は人の理想が作りし、神であるからな!」
「……何だと?」
──人が望みし、理想の生き物である神?
「……アマテラス様。貴方は……自分がどのようにして生まれたのか、ご存じということですか?」
「わらわにかぎったことではない! 我らが”神”……いな、”神に比類するもの”たちはみな、人の思念をうけておりたったのだ!」
「思念が……実体化した? 人の信仰が神を生み出した?」
「うみだした……というより、”信じる心”が我らの在り方を”ていぎ”したのだ! 我々とて、最初は星の外から来たただの一介のイノチにすぎぬ!」
──アマテラスは語る。
自らもかつては外──空から降り立った獣だった。
つまり、異星のクリーチャーだった。
この宇宙の何処かに、クリーチャーが住まう星が存在する。
あまりにも遠すぎて、彼らは「世界の壁」を超えてこの地球に現れる事があるのだという。
しかし、この星は魔力が薄い。そのままでは実体化したクリーチャーが住めるような場所ではない。
「ゆえに。我らは肉体をすてた! 否、捨てねば生き残れなかった!」
「……確かにな。この地球じゃあ、クリーチャーはまともに実体化出来ねえ。何かしらの方法で魔力を補給しない限り、な」
シャークウガが納得したように言った。
故に、彼らは違う生き方を選んだ。
人々の思念を養分として、肉体を持たない存在となることを。
「そして、我らと同じ在り方を持つものたちがあらわれたのだ! 酒呑童子は……人々の憎悪に、鬼への信仰がくみあわさってうまれたのだ!」
「俺達が思う鬼としてのイメージに、人間の悪い心が合わさった……というわけですか」
「うむ! 後から生まれた我らの同胞は、皆そうしてうまれたのである!」
「だが、一つ聞いておきたい。肉体を持たない精神のみの存在でありながら、何故神類種は眠りについた?」
「うーむ……あれは、この星すべてをまきこむ”だいじけん”だったからな! ぜひもあるまい!」
「だ、だいじけん?」
「──あれは1000年ほどまえ。この星に、おおきなおおきな星の神がちかづいた! その名は──ミカボシ。
──な、なんだその神様……?
ミ、ミカボシ?
……梅干しじゃあ、ないよな?
「……アマツミカボシ。天に逆らった暴神として有名だが」
「そーなんですか!?」
……黒鳥さんに一瞬で己の無知を看破されてしまった。
む、無知の知ってことで此処は一つ……。
「日本神話でも唯一、明確に”悪神”とされている神だ。神に荒ぶる一面と穏やかな一面があることが当たり前な日本神話においては……本当に類稀と言えるだろう」
「悪神……か。背筋がゾッとするぜ」
「日本は神様が多すぎデース!! それにしても、悪い神様って悪魔と何が違うんデスかね?」
「色々違うんですよ……ブラン先輩」
「……
「マナが……!」
「それは、日本どころか地球をほろぼすいきおいだったぞ! あちこちでかんばつ、ひでり、あるときは大雨、海はあれくるい、びょうまがはびこる! マッポー!! まさにこのよのおわりである!」
なんてことだ、想像もしたくはない。
神が現れたと同時に世界中で大災害や大飢饉が同時並行的に起こったのか。
「だが……世界は終わらなかった。そいつは、どうやって倒されたんだ?」
「わからん!!」
「……ええ?」
「その時、すでにわらわはヤツに倒されたあと! ながいながいねむりに、今に至るまでついておった! その後のことは、断片的にしか”視えて”おらぬ!」
「……そ、そうですか……」
……空からやってきた
もし、こいつを両方相手取るならば……俺達は22枚のエリアフォースカードを全て揃えない限り、勝ち目はないのではないだろうか?
「ひとつだけ言える。ねむる妾は断片的に見た。
「放逐って……」
「おそらくヤツは1000年は帰って来れない。それを確信し、妾は──安心してねむりについた! ちじょうはすでに、まりょくがかれはてていたからな!」
……少なくとも
それならば、いずれはまたこの星にやってくるのではないだろうか?
「──アマテラス。
「ア、アカル!? なんて恐ろしいこと聞くんデスか!? そんなの──」
「……来る。確実に」
アマテラスは──頷いた。
「──奴は、もうじきこの地球に降り立つ。一月もしないうちに、な」
「……ウソ、でしょ……!?」
「奴が降り立つと異形共が溢れ出る。この地球のまりょくは確実におおきくなるだろう。異形共が……人類を踏み潰すぞ」
「……それってまるで」
──アカリが言っていた、ワイルドカードの氾濫そのもの……!
「やっと視えてきたな。僕達が真に戦わねばならない相手が」
黒鳥さんが言った。
此処で知ることが出来て良かった。
あの破滅の未来の原因──それは、神類種……アマツミカボシが引き起こしたものだったということだ。
「──そのでけー神をどうにかしねー限り、未来は変わらないってか……ッ!!」
「地球に
「ワイルドカード現象は全て、そのウメボシってのが引き起こしていたデース!?」
「ミカボシです、或瀬先輩……」
……空。
敵は──宇宙の果てからやってくる。
それならば、やるべきことは一つだ!
「──止めよう。俺達の力で……未来を変えるんだ!!」
揃えるしかない。
それだけ大きな相手を倒すならば、アカリが言っていた──
22枚のエリアフォースカードを全て揃えれば……
※※※
「空亡まで……負けるなんて」
失意に塗れた様子でトキワギ機関を統べる神──縁神類ククリは言った。
「……最早、此処まで。この時代のこの世界は……終わり、ですか」
彼女は自らが握る1枚のカードを見やる。
世界を変えるカード──
もうじきここに、これを奪いに来る者がやってくる。
そうなれば──今度こそ”アレ”は手が付けられなくなる。
「後は、任せるしかないようですね。60年前の私に……」
彼女が一度手を振ると──それは、消え失せた。
そして。
音も無くやってきた”来訪者”にククリは言ってのける。
「……おや、どうされましたか?」
「……」
「此処に……あなたが求めるものは何もありません……立ち去りな──」
風穴が、ククリの頭に、そして胴に開けられる。
元より、こうなることは分かっていた。
自分の存在たらしめていたものを、自ら手放してしまったのだから。
だが、これで良い。
これで──後は、過去が変わることに期待することが出来る。
「くっ、くくっ、そう……この世界の母となった私であっても……もう、あなたには……足元にもおよばなかったのね──」
この世界の一部に還りながら──ククリは、呟く。
「あなたの手には、渡さないわ……私は……この世界の、母、ですもの……」
「……余計な事を。ただの時間稼ぎでしかないというのに」
来訪者は一言。
そして踵を返した。
消えゆく神は──呟いた。
「