学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「美美美美美!! 美美美美美美美!! 美美美美美-ッッッ!!」
──京都にて。
「……何や、こりゃ……!?」
──既に空は暗雲に包まれており、京都の中は充満したマナによって多数のクリーチャーが湧きだしていた。
そして、そのマナの中央に座すのは──
「美ーッ!! 美美美美美美美ーッッッ!!」
……何だコイツ。何なんだコイツ。
そんな怪訝な視線を矢継ハヤテは向ける。
鬼退治が終わったかと思えばコレである。
殺生石を封じ、モモダチ達も京都にシステムとして還った。
それから平穏は1日も持たなかったのである。
(あかん……ワシ一人じゃどうにもあらへ──いやコイツ何やねん、ほんまけったいな……)
鳥だ。全身が赤い水晶に覆われ、更に身体が燃えているデカい鳥である。
妖怪? というよりクリーチャー? 否、クリーチャーには違いないのであるが、やたらとデカく、そして派手な極彩色を放つ巨大な鳥が飛びまわっている。
そして鳥の撒き散らす羽根が触れた場所から、次々の京都の町の空間が塗り替えられていく。
逃げ惑う人々に羽根が触れると──クリーチャーへと変えられていく。
海鮮物のクリーチャー・ムートピア達。
しかし、それらは皆、劇団員のようなシルクハットやスーツ、ステッキを身に着けている。
(こ、こいつ、アカン……ッ!! ふざけとるように見えて、人間だけやない、京都っちゅー街の空間自体に干渉しとる……ッ!! 自分達の配下を増やすために……ッ!!)
「美美美美美美ッ!! 美美ッと来たわ!! この街、美しいわね!! だから私がもっと美しくしてあげる!!」
「余計なお世話やっちゅーねん!! 何やねんアンタ!!」
「美美ィ!? このアタクシに向かって、文句をつけるなんて、アナタ、美意識が足りてないわねッ!! このアタクシが美美ッとオシオキしてあげるわ!! 美ー美美美美美ッ!!」
言った鳥の羽が周囲を舞う。
触れれば矢継も、周囲の人々のようにクリーチャーとなってしまうだろう。
だが、彼とて何度も怪異に立ち向かって来た身。
思わず矢継は叫び、1枚のカードを掲げる。
「ダイナボルトォッ!!」
彼の呼びかけに応じ、神速の龍・ダイナボルトが拳を放つ。
羽根は矢継に到達する前に全て撃ち落とされていった。
「美美ィッ! 良いわねッ!! 美しいわッ!! 美美ッと来たわーッ!! アナタ、私の舞台の登場人物にならないッ!? きっと良い端役になれるわよ!!」
「って端役かい!! 評価しとるんか厳しいんかハッキリせい!! 劇団の団長気取るなら……名を名乗れ名をッ!!」
「美ー美美美美美ッ!! 良いわねノリツッコミ!! ガヤくらいに昇格させてあげるわよッ!!」
言った神鳥は羽根を広げるなり高らかに名乗る。
「──我が名は”鳳凰”ッ!! 《彩神類ホウオウ》ッ!! 末法の世を美で埋め尽くす為に美美ッと降臨したわーッ!!」
「オマエみたいなんが鳳凰を名乗るなやーッ!!」
ダイナボルトの神速の拳が鳳凰を目掛けて何度も放たれる。
それは確かに鳳凰の身体を穴だらけにした──しかし。
「美ー美美美美美美ッ!! 不死鳥を殺そうだなんて、思わないことねッ!! 美美ッ!!」
「げぇっ!?」
まさに不死身。
再びその身体は燃え上がり、復活してしまう。
神を名乗るだけのことはある。簡単には恐らく倒せないだろう。
そうこうしている間に、次々に人々はクリーチャーへと変えられていき、矢継に襲い掛かってくる。
「波濤万里の大号令ッ!!」
──刹那。
轟砲が周囲に届く。
現れたのは──蛙の轟脚を持つ水獅子。
そして当然、その傍らにいるのは──小さな巫女の少女。
「──メイちゃんッ!?」
「助けに来たよ──ハヤテ!」
「ッ……なしてこんな危ない所に来たんや!! 早よ力の座に帰れッ!!」
「ハァ!? このいけずッ!! そんな事言うてはる場合と違うやん! なしてそんなこと言うん!?」
「美美ッ!! 熱い友愛じゃないッ!! ならば、この京都大劇場の彩になるが良いわッ!! 美美美美美ーッ!!」
「ハッ、オマエは此処でワシが倒すッ!! メイちゃん、取り巻きは頼んだでッ!!」
「合点ッ! うちに任しといてッ!」
言い合っていたのも束の間。
矢継はダイナボルトに飛び乗って鳳凰に向かって一直線に進み、メイはマニフェストの号砲で活路を切り開いていく。
そして、ダイナボルトはすぐさま鳳凰に到達した──はずだった。
「ッ!?」
矢継は、気が付けば元の場所に戻っていた。
鳳凰は──未だに拳も受けずにその場に鎮座している。
(ア、アホなッ……!? ワシは確かにあの鳥野郎の所に辿り着いたはずッ……!?)
「ハヤテ!? なしてこんな所に居るんッ!?」
「ワ、ワシが聞きたいわアホッ!! もう一回行くでッ!!」
再びダイナボルトで突貫する矢継。
しかし──
「はァッ!?」
──気が付けば、またメイの隣に戻ってきてしまっている。
(な、何や、どうなっとるんや……!? 位相が変異させられた……!? でも、これは……!?)
「美美美美美ッ!! アナタたちでは一生、アタクシに辿り着くことは出来ない。一生涯懸けても、ね!」
「ッ……何やとォ……!?」
「美美ッ!! 無駄よ、無駄無駄ッ!! アナタの拳の重さはもう分かった。アナタたちはアタクシには指一本触れる事が出来ないわッ!!」
──再び元の場所に戻ってしまっている。
これではデュエルに持ち込む事すらできない。
「それでは……美美ッと本気を見せてあげるわ──ッ!!」
次の瞬間。
京都の町は──大劇場へと塗り替えられていく。
そして、矢継とメイ目掛けて無数の羽根が襲い掛かる──
「クソッ、撃ち落とせダイナボルト──ッ!!」
「跳ね返してマニフェストーッ!!」
「美美美美美ッ!!」
矢継は──気が付いた。
ダイナボルトの拳が──届いていない。
マニフェストが、口を開けられていない。
やはり、あの鳳凰が何かしらの干渉をしているのだ。
「──美美美美美ッ!! アナタたちはアタクシの劇団員として、一生踊り続けるのよッ!! アタクシの書いた崇高なる大導劇を賛美しなさいなァァァーッ!!」
※※※
──インド、ムンバイは暗雲に包まれていた。
既に周囲からは観測できないその都市の内部がクリーチャーが棟梁跋扈していることは誰の眼にも明らかであった。
飛行艇で降りるのは危険なため、3人はサッヴァークに乗って都市部へ降りたのであるが──
「ッ……文字通りの樹海獄、というわけか……!」
「……これは」
ビルには、巨大な蔓が何重にも巻き付いており、既に周囲に人の影はない。
「もし、クリーチャーに憑りつかれた人がいるならば、早期に原因を断たねばならん。さもなくば、元に戻らなくなるからな」
「でもインドの人口って確か……40億くらいデスよね!? そんなにたくさんデュエル出来ないデスよ!!」
「インドの人口はそんなに多くないです」
紫月の至極真っ当なツッコミが入る。
ムンバイの人口は東京と同等なので、十二分に多いのであるが。
しかし、辺りを見回しても人の影は見当たらない。
ビルを覆い尽くす程に巨大な蔓と樹木。
「何か」があったのは確かだった。
「サッヴァーク、この辺りの事、何か分かるデス?」
「……ひとつだけ言えることがある。この都市の全域が、既に何者かによって結界が貼られておるわ」
「つまり、クリーチャーの生育しやすい環境に書き換えられているということか」
「それともう一つ。あの樹木……あんまり直視しねえほうが良いかもな」
「デース? でも近付かないとよく分からないデスよ」
「俺様は警告したぜ」
シャークウガが親指で樹木を指す。
サッヴァークに乗ったまま近付いてみると──パッと見ただけでは幾つもの蔓が絡まったような表面でしかない。
しかし。何か嫌なものを感じ取ったのだろう。
サッヴァークはすかさず、目の前の蔓を──爪で抉り取った。
「ッ……!!」
浅黒い色が見え、紫月達は肌が粟立った。
植物らしからぬ表面。
思わずサッヴァークは更に蔓を引きちぎる。
そこから──痩せ衰えた人の顔が現れた。
「なッ……!!」
「……だから言ったろ。直視しねえほうが良いってな」
「何言ってるデスか!! さっさと引き剥がさないと──」
「やめときな! ……この樹木の中には同じような人間が何百、何千人も捕らえられていると考えて良いだろうよ。この樹木自体が恐ろしいマナの塊だ。簡単に人質を放してくれねえ上に……数があまりにも多すぎる」
「……元凶を断つしかない、というわけだな」
「そういうこった」
とはいえ、この数、そしてこの無数の樹木に捕らえられた人々を全員助けられるかどうかは──大きな疑問すら残る。
「しかし、どうしてこんなことを……一体誰が……!?」
「ど、どうにかして助けられないデスか!?」
「……敵が分からないことには、何とも……」
「……悍ましいヤツだ」
何が目的か?
推測に過ぎないが、恐らくこのムンバイという都市そのものを敵は養分にしようとしている。
そこに住まう人を、そして大地を。全て枯れ尽くすまで吸い取り続けるのだろう。
そんな事が出来るのは、クリーチャーなどという一存在ではない。
神も恐れぬ所業が出来るのは──命知らずか神のみだ。
「……たかだか1日もしないうちに、こんな事に……ッ!! これが、神のやる事か!?」
「ゴ、ォッォ……!!」
──その時だった。
樹木が──突如、動き出す。
「いかんッ!! 離れるぞッ!!」
「はいデース!?」
「一体何が!?」
めき、めきめき、と重い音を立てて、全長100m以上は超えるであろう樹木が姿かたちを変え始めた。
その頂点はまるで龍のように首を持たれ始め、空を飛ぶサッヴァークに狙いを定めて睨みつける。
それは巨大なクリーチャー。
あまりにも多すぎる人数の人々の生きた魂を吸収して実体化した、一つのワイルドカードである──
「じょ、冗談デショーッ!?」
「あまりにも巨大すぎます!? 魔力も、質量も!!」
「何だあれは……どうすれば良いのだ!?」
しかも、一つや二つではない。
ムンバイのビルに絡みついていた樹木は次々に動き始め、龍へと姿を変えていく。
「ドラゴンッ……ひたすらに巨大な樹木のドラゴンじゃ……ッ!!」
「スケールがデカすぎる……!! こんなもんを従えてるのは、一体何処のどいつだってんだよ!?」
「ッ……樹木は合計で……10本……!! 全員を相手取るにはあまりにも戦力が足りなさ過ぎます!!」
「いったん、空に逃げるデスか!?」
「いや、それも無理そうだな──ッ!!」
黒鳥が指差した方向には──飛空艇が見えていた。
尚。
その機体は既に、無惨にも龍の樹に飲み込まれていたが──
「逃げ場を封じられたデース!?」
「天にも届く高さ、というわけか……!!」
「やはり大本となるクリーチャーを倒して、この事態そのものを止めるしかありません!!」
問題は──その大本が未だに全く見えてこない事であるが。
「そのためには──真っ向勝負でケリを付けます!!」
「ッ……やるしかない、デスね!」
ブランと紫月はエリアフォースカードを掲げる。
そして、立ち塞がる龍の樹達相手に空間を展開するのであった──
※※※
「──暗いッ……!? どうなってるのよ……!?」
──ギリシャ、アテネにて。
守護神アテナの名を冠するこの城塞都市は、すっかり夜に包まれていた。
本来ならば、まだ日が出ている時間にも関わらず、空は真っ暗──いや、真っ黒。
そして異様に巨大な月が空を照らしている。
「クッソが!! これじゃあアクロポリス──パルテノン神殿が鎮座している小高い丘の意──がよく見えねえじゃねえか!!」
「……こ、この人は本当に……」
飛行艇から降りた彼らは、月光が照らす街を歩く。
影が、くっきりと自分達を映し出していた。
「つか、街の中に人がいないの……おかしくねーか?」
「異変を感じ取って、皆家にいるのでしょうか?」
「……いや、これは──」
その時、桑原は気付く。
翠月の身体が──ゆっくりと、街の地面の中を沈んでいるということに。
「ッ……オイ翠月!!」
「ひゃいっ!?」
「走れッ!」
すぐさま彼女の手を取り、桑原は走り出す。
見ると、翠月の足元の影から無数の手が伸びていた。
そして、桑原の足元も──影の手に掴まれている。
(引きずり込まれるッ……!!)
「QXッ!!」
「やれやれ、世話が焼ける!!」
すぐさま、QXは二人の身体を影から掬い取り──空中へと攫った。
だが、未だに影からは手が何本も伸びてきている。
これで確信できた。アテネの住民は引き籠っているのではない。
外に居た者は皆──影の中に引きずり込まれたのだ。
そして、敵は影の中から襲ってくる。
「このままじゃあ、敵に一方的に攻撃されるだけじゃねえか!?」
「……ねえ、桑原先輩。街の中にも全くクリーチャーが居ませんよね」
「あ、ああ、だから何だ!? 敵は影の中に──まさか」
「……敵は多分、影の中に潜んでいるなら、その大本も……」
桑原の顔がサッと蒼褪めた。
分かる。
分かり切っていた事だ。
敵が影から一方的に近付いてくるなら、いっそのことこちらから影を目掛けて叩きに行けば良いのではないか? と。
しかし、それは敵の本拠地にむざむざ突っ込んでいくようなものだ。
あまりにも危険すぎる。
「お前、自分が何言ってるか分かって──ッ!!」
「私は桑原先輩に守られるだけの女の子じゃないッ!!」
「ッ……!」
「言ったはずです!! 私は覚悟したんです。先輩や、皆の辛い事を……私も背負うんだって!! 私も、先輩を守るんだ、って!!」
「……翠月」
「だから、置いていって欲しくなかった!! 私は……先輩と一緒に、強くなりたかった、のに……!」
涙声で彼女は言った。
それほどまでに、あの一件を──翠月は抱え込んでいた。
その時。
「──ッ!!」
突如。
閃光が周囲を照らす。
それと共に、地面が抉れ、建物に穴が開く。
辛うじて躱したものの──QXの羽根が焼け焦げており、地面へ墜落していく。
「QX!? オイ!! QXッ!!」
「がっはっ……やりおるわ……ッ! 何処の誰だか知らぬが……!!」
(危なかった……ッ! 風のガイアハザードの権能が無ければ、今頃全員串刺し……ッ! 妾を捉えるとは、尋常ではない……ッ!!)
「座標確認。”虫けら”を3匹目標として設定。誤差修正……」
桑原と翠月の視線は天へ向かう。
月を背後にして、羽根を広げた白い布切れを見に纏った女性が無機質に呟いた。
しかし。女性の首から上は無い。
燦然と暗闇で輝き続ける月の如き球体が頭部の代わりに浮かび上がっており、一目で人間ではないと察せられた。
その手には身の丈もあろうかという巨大な弓矢が握られている。
「しかし、挨拶も無しに撃ち放ったのは聊か無礼だったと判断」
「あァん!? 撃った後に言うかそれは!!」
激昂する桑原のことなど意にも介さず、それは告げる。
「人間流に”挨拶”するならば──神聖なるアテネへようこそ。《月天神類 アルテミス》が貴方達の相手をしましょう」
アルテミス──月の女神は冷徹に宣戦布告するのだった。