学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR106話:彩神類─鳳凰の権能

 ※※※

 

 

 

 

「ごっ、えほっ、がふっ……!」

 

 

 

 ──矢継とメイは、鳳凰を前にして倒れ伏せていた。

 デュエルに持ち込むことさえ出来ない。

 具現化したクリーチャー達は皆、地に伏せてしまった。 

 最早これまで。動くことさえ叶わない。

 

 

 

「美美美美美! この程度かしらねえ、人間! 全く張り合いがないじゃあないの!?」

 

 

 

「……ウソ、やろ……これが、神類種……!」

「は、やてぇ……! い、痛い……!」

 

 羽根が全身に突き刺さり、赤い水が溢れ出ている。

 最早、互いにまともに動ける状態ではない。

 しかしそれでも、一つだけ手があるならば。

 全滅ではなく、どちらかが助かる手段があるならば。

 

「メイちゃん……先に逃げい」

「ッ……!?」

 

 メイは絶句した。

 矢継の手には《ダイナボルト》のカードが握られている。

 それで彼が何をしようとしているのかは明白だった。

 最後の力で《ダイナボルト》を顕現させ、音速で京都からメイだけを離脱させる。

 しかしそれでは、矢継が無防備になることは火を見るよりも明らかであった。

 

「……で、でもっ、そんなことしたら──」

「分かっとるわ、ンな事──」

「イヤや! うちだって神力の使い手や! 最後までハヤテと戦う!」

「アホか! お前自分の事分かっとるんか!? 脚が……!」

 

 メイのアキレス腱には既に何枚もの羽根が刺さっている。

 それに込められた火の魔力が、体の内側から彼女を焼いているのだ。

 泣きそうな表情を食いしばっている彼女が、激痛に耐えているのはハヤテには視ていられなかった。

 それに──

 

「……安心せい、俺も後で追いつく」

「ッ……ハヤテッ……!?」

 

 彼が神力を極めたのは、デュエルを極めたのは、決して家の面子や京都のためではない。

 ただ、唯一人の少女を守りたかった。それだけだ。

 

(俺が死んだら、泣くんやろなあ、メイちゃん……でもなあ)

 

 

 

「──男の子に産まれたなら……好きな子だけは守らなあかんやろッ!!」

 

 

 刹那。

 密かに隠し持っていた《ダイナボルト》のカードが光った──

 

 

 

 

 ──はずだった。

 

 

 

 

 

 

「さあて、どちらから早贄にしてやろうかしらねえええ、美美美美美ッ!!」

「ッ……!」

 

 

 

 ハヤテは言葉を失った。

 予備動作も何も無かったはずだ。

 羽根が飛んでくる様子すらなかった。

 にも拘らず──《ダイナボルト》のカードは羽根に刺し貫かれ、その色を失っていた。

 

「何、でや……!?」

「美美美美美!! 私の脚本通りにならないことは全て捻じ曲げられる。それが()()()()()()()の権能!!」

「……どういう、ことや!?」

「アナタ、お芝居を見たことはある?」

「……!」

 

 答える気にもならなかった。

 鳳凰はぐげげっ、と顔を歪めると言った。

 

「この世のお芝居は全て、脚本の通りに進むわよねえ……? アドリブはあれど、作られた話の通りに進行する、逆に言えば──それを逸脱することは許されないってことなのよ」

「……まさか、お前の思い通りにならへんことは全部──」

「そうなる前に私が潰す。私の思い通りに事は進むし、脚本から()()()()と感じれば、その瞬間に歪みを正す。そうであることがその通りに捻じ曲がる──これが神の絶対的なる権能よ!!」

「アホな、ことがあるかいな……!」

 

 全て合点が行った。

 神類種の神類種たる所以、それが鳳凰の云う権能ということ。

 この場では、神の思い通りにならないことは全て捻じ曲がる。

 それが劇場の神である鳳凰の力。

 

「アナタ今、此処から彼女だけ逃がそうとしたわよね? でも、それは……ワタクシの美学に反するわ! 愛し合う者同士は同じ場所で同じ時間に、死ぬのよッ!! それが私の脚本ね!!」

「この、野郎……ッうぐっ」

 

 次の瞬間。

 矢継の喉に1枚の羽根が突き刺さる。

 彼は斃れ伏せ、咳き込んだ。

 

「ごぉっ、ほっ、ぐっ──ぎっ」

「はっ、ハヤテ!! ハヤテェェェーッ!!」

 

 メイが駆け寄り、羽根を抜こうとする。しかし。

 すぐに彼の顔は青くなっていく。

 

「に、逃げ、メイ、ちゃ──」

「だっ、ダメや!! あかん!! 死んだら、死んだらあかんよ、ハヤテ!! ハヤテぇ……!!」

 

 

 

「美美美美美!! 良い構図ね!! このまま二人共、綺麗な羽根のオブジェにしてやるわァァァーッ!!」

 

 

 

 鳳凰の周囲に極彩色の羽根が浮かび上がり、舞い踊る。

 もう駄目だ、とメイがハヤテを抱きしめた。

 

「っ……ごめんなあ、ハヤテ……うち、うち……何も、出来へんかった……」

「メイ、ちゃ……」

「うち、一緒におるから……ハヤテ──」

 

 

 

 

「──そこまでだ」

 

 

 

 その時。

 燃える炎の拳が、そして神速の如き太刀が、舞う翼を全て撃ち落としていた。

 メイの目には──

 

「えっ──」

 

 

 

 ──紅い炎を身に纏った魔導司が、そして木刀を携えたポニーテールの少女が、はっきりと映っていた。

 

 

 

「……遅くなって済まない」

「もう、大丈夫だよ!」

 

 

 

 火廣金緋色。

 そして、刀堂花梨。

 戦車のアルカナに認められた二人がその場に立っていた。

 

「ッ……美美美美美!? 何よ貴方達!?」

「アルカナ研究会の魔導司書(ウィザード)・火廣金緋色。貴様を狩る者だ」

 

 髪を掻き上げる火廣金。

 その焼くような視線は──鳳凰に向いていた。

 実体化した《”轟轟轟”ブランド》がバラバラと羽根を宙にばら撒くと、それは灰となって消える。

 

「刀堂花梨、二人を安全な所へ」

「うんっ!」

「ギィッ、貴様!! 人間の分際で──貴方も美しく彩られなさいッ!!」

 

 極彩色の羽根が何枚も火廣金目掛けて飛び掛かる。

 しかし──

 

「効かんッ!!」

 

 一喝と共に、バルガ・ド・ライバーが太刀を振るい、全て焼き切ってしまった。

 その様子に鳳凰は唖然とするしかない。

 

「ワタクシの、権能が……!? この場では、私の脚本に無いことは全て起こらない、はず……!?」

「権能? ああ、()()()()()()()が権能ならば……やはり貴様ら神類種とやらは所詮、神を名乗るクリーチャーでしかない」

「何!?」

「恐らく因果律に作用し、都合の悪いことを打ち消す魔法なのだろうが……戦車のアルカナの力は”突貫”。”前進”。つまり、因果律を捻じ曲げても、ぶち破って突き進む力の事だ!!」

「なぁ!?」

 

 ──アルカナ。

 それは、そもそも魔法に込められた根源の力。

 火廣金と花梨は、片や生まれ持った力で、片やエリアフォースカードの力でその祝福を受けている。

 鳳凰の「捻じ曲げる」力は──ある種、戦車のアルカナとは最も相性が悪いと言っても良い。

 なぜならば、彼らは前に進む。

 障害物があろうと、道がねじ曲がろうと、直進する。

 愚直すぎる程に真っ直ぐな戦車のアルカナの力を宿した者の前では、捻じ曲げの権能などは火廣金の云う通り只の手品でしかない。

 

「例え、失うものがあったとしても、前に進み続ける。守るべき者のために! それが、俺がこの長い旅路で掴み取った真実だ!!」

「美、美美美美美!! 良いでしょう、ならば相手してやるわ!!」

 

 空間が開かれていく。

 ついに、神と魔導司の戦いが始まった。

 花梨は、それを固唾を飲みながら見守るしかない。

 

「二人共! 安全な所へ! 二人は……絶対に死なせないから!」

「っ……刀堂、さん……ハヤテが……!」

「ッ……」

 

 花梨の顔は蒼褪めた。

 矢継の喉に羽根が刺さっている。

 このままでは長くは持たない事は明白だった。

 

(落ち着け! 落ち着けあたし! あたしは……あたしのやるべき事を、やるんだ……ッ!!)

 

 二人を退避させ、矢継を助ける。

 それが──今の花梨に出来る事だ。

 言い聞かせるように、彼女は唱えるのだった。

 決戦に向かう火廣金を見やりながら──

 

 

「大丈夫……大丈夫! 絶対に……生きて、帰るんだ……皆で!」

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