学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR109話:月天神類─狂月の異変

 ※※※

 

 

 

「げほっ、がはっ……!」

 

 

 

 咳き込む矢継。

 鳳凰が斃れたことで、刺さっていた羽根も消えた。

 しかし、傷口はふさがらず、留めどめなく血が漏れてくる。

 

「ハヤテッ……!」

「動かすな。止血する」

 

 言ったのは──ズタボロな姿の火廣金だった。

 彼はすぐさま指に炎を薄っすらと纏わせると、そのまま喉の傷口に触れる。

 すぐさま、傷は焼かれて無理矢理繋ぎ合わされていった──

 

「っ……す、すごい……血が、止まった」

 

 花梨が感嘆とした声を上げる。

 そのまま傷口を縛り、慣れた手つきで彼は二人の怪我を処置していく。

 幾度となく戦いを経験しているが故に身体に染みついているのだろう。

 その様を見ながら、改めて火廣金緋色という少年がどれほど頼れるかを花梨は理解したのだった。

 

「すぐ病院に連れていく。君達も傷だらけだからな」

「あたし達を連れてきた魔導司達が、後はやってくれるから」

「……おおきに、二人共」

 

 メイは深々と頭を下げた。

 

「……彼が目覚めたら伝えておいてくれ」

「?」

「──決着をつけたいなら、受けて立つ、とな」

「……うんっ」

 

 頷くと──メイ、そして矢継は後からやってきた魔導司達に連れられて行った。

 鳳凰が倒された以上、此処に築き上げられた結界も崩れていく。

 クリーチャーとなっていた人々も元の姿に戻っていった。

 その様を見ながら、花梨は不安そうに言った。

 

「……もし、あたし達が鳳凰を倒せなかったら……」

「彼らは”破滅の未来”とやらのように、二度と人からクリーチャーに戻れなかったに違いないな」

「……そう、なんだ」

「だが、幾つか気になる点がある」

 

 火廣金は座り込む考え込むように顎を触る。

 歴史にあったのは──あの巨大な裂け目。

 アマツミカボシの襲来のみだ。

 残る3柱の神類種の復活については、何も分かってはいない。

 

「……奴らは、何故復活した?」

「アマツミカボシってヤツが復活したから、便乗して人間を滅ぼしちゃえー……って感じ?」

「仮にも神だぞ……そんな俗っぽい理由があるか」

 

 それに、と彼は続けた。

 

「……あれから、時間Gメンが介入していないのが気になるところだ」

「そういえば酒呑童子を復活させたのって、空亡ってやつだよね!? 今回の件も時間Gメンが……!?」

「……分からない」

 

 ここにきて、時間Gメンが未だに姿を現していないことに火廣金は何処か妙な焦燥を覚えつつあった。

 今までとは何かが違うということに。

 あれだけ今まで干渉してきた敵が、この最終局面で何もしてこないはずがないというのに。

 

 

 

「……いずれにせよ、俺達の知らない所で恐ろしい企みが始まっているのだろうな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ギリシャは貴方達を歓迎するでしょう。しかし、私の弓はそれを許すでしょうか?」

 

 

 

 ──闇夜に紛れ、光の矢が次々に放たれていく。

 

 

 

「……答えは否。排除します」

 

 

 

 

 

 月天神類アルテミス。

 ギリシャから一瞬にして光を奪った神類種は、自らの領域に足を踏み入れた侵入者達を一掃すべく、その弓矢を構えたのだった。  

 それを──

 

 

 

 

「ぬゥッ!!」

 

 

 

 

 ──正面から受け止め、撃ち砕くオウ禍武斗。

 災害レベルの神相手には、こちらも災害レベルのクリーチャーを。

 しかし、下手に桑原達が前に出れば、アルテミスの光の弓矢の餌食になることは確実だ。

 だが、桑原達が前に出なければ、一生アルテミスに近付くことなど出来はしない。

 進撃する月の女神を、ガイアハザード2体で押さえつけるのが精一杯だ。

 

「先輩ィ、影からまた手がァ!?」

「何処も安全地帯なんてねぇっつーこった!! 油断すんじゃねえぞ!!」

 

 その上、地面からは絶えずアルテミスの伸ばした影が広がっており、そこからは黒い手が蠢いている。

 もし捕まったが最期、このアテネの街の住人のように、引きずり込まれてしまうことは確実だ。

 

(どうにかして、あのアルテミスを弱体化させることが出来ねえのか!?)

 

「うぬは、何故我らと戦うッ!!」

「愚問です。ギリシャは私の都。光は私の物──」

 

 機械的にアルテミスは繰り返す。

 オウ禍武斗の問いかけにまともに答える様子はない。

 至近距離からも光の弓矢を幾つも放つ──しかし。

 

(何で、あんなに悲しそうなの……?)

 

 それを戦う様を見ながら、翠月は胸元をきゅっと握り締めていた。

 機械的なアルテミスの佇まい。

 そこには感情的なものは一切感じられない。

 しかし。

 あの二人が戦っている様を見ていると──何処か、胸を押さえつけられるようだった。

 

「笑止!! 神を名乗りながら、力に振り回されるその様、見てはおられぬわッ!!」

 

 オウ禍武斗の拳が月の女神を捕らえた。

 しかし──

 

「ぬッ!?」

「神に触れようなどと」

 

 ──その拳は、神に触れることは叶わない。

 すり抜けて、オウ禍武斗の巨体は地面に倒れ込んでしまう。 

 それを狙い──アルテミスは飛びあがって大量の弓矢を解き放った。

 

 

「──ただのクリーチャー如きが……身の程を知れ」

 

 

 

「いけないッ!!」

 

 叫んだ翠月が《オウ禍武斗》のカードを握り締める。

 巨体はすぐさま本体となるカードへと引き戻され、間一髪で光の弓矢を避けることが出来たのだった。

 しかし、これでもう二人を守る者は居ない。

 アルテミスは、桑原と翠月を狙って、じわじわと迫ってくる。

 

「すまぬ主……少々熱くなりすぎた」

「いえ……こちらこそ、まだ打開策が浮かびません……」

「参ったな……オウ禍武斗の耐久力で何とかやり合えてるが、あいつの魔力は無尽蔵か? あれだけ撃ってるのにバテる気配がねえぞ?」

 

 桑原は毒づいた。

 やはり相手は神類種。

 ただのクリーチャーとは訳が違う。

 そもそもまず、勝負の土台にすら立たせて貰えないのである。

 

「……俺が囮になって──」

「そんなの絶対ダメです!! 死んじゃいますよ!?」

「QXの羽根は再生してんだ、いけねえことはねえはずだ!」

「却下じゃ、妾も死にたくないし」

「ぐぅっ……」

 

 

 

「逃げ場はありません。投降し、この私の一部となるのです。影はこの私の身体そのもの。アテネは既に、この私と化したのです」

 

 

 

 機械的に繰り返されるアルテミスの警告。

 断続的に射撃は繰り返され、建物を貫いている。

 防戦一方、逃げ回ってばかりの状況だ。瓦礫が何時雪崩れてきてもおかしくはない。

 このままでは、アテネは更地にされてしまう。

 

 

 

「ハッ、何が逃げ場がない、じゃ……あれでは逃げ場を自分で作っておるようなものじゃろう」

 

 

 

 そんな中。

 ケッ、と吐き捨てるように言ったのは──QXだった。

 

「どういうことだ? 俺たちゃ現にずっと追いかけ回されて──」

「ハッ、これだからソナタは単細胞なのじゃ」

「あ”ァ!?」

「ヤツは先ほどからずっと、弓を乱雑に撃ち放つばかり。ヤツ程の格の高いクリーチャーならば、妾の急所に一撃で射抜くことは簡単だったろう」

「……それをしてないってことは」

「出来なかった、ってことですね?」

 

 翠月は眉を顰めた。

 

「……あのクリーチャー……アルテミス。私、ひしひしと伝わってくるんです。何だか……苦しんでるみたいで」

「苦しんでる?」

「はい……オウ禍武斗とぶつかり合ってる時、隠者(ハーミット)のカードを通して私にも伝わってきたんです。あのクリーチャーの……心が。何かを溜め込んでいるような……それも自分が望まない方法で……」

「何かを、溜め込んでる? ……まさか、自分でも魔力が制御出来てねえってことか!?」

「キャパシティーを超えてるのは間違いないでしょうね……でも、どうしてそんなことに? 復活したばかりで、まだ身体の勝手がわからないとか?」

 

 次の瞬間──頭上を光の矢が掠めた。

 蒸発している。

 背中を預けていた建物の壁がごっそりと。

 

「……やっべーなコリャ……考えている暇はなさそうだぜ!」

「ど、どうするんですか、桑原先輩!?」

「アルテミスは自分じゃあ卸しきれない程の魔力を抱えている! じゃあ逆に考えろ! どうやってそんなもん手に入れたか──ヤツがこのアテネで何をしたのか思い出せ!」

「……あっ……!」

 

 足元で蠢く無数の黒い手を翠月は見やる。

 ごくり、と息を呑んだ。

 人だけではない。そういえば、報告によればアテネにはエンジェル・コマンドやデーモン・コマンドのクリーチャーが出ているとのことだった。

 しかし。アテネの街には人どころかアルテミス以外のクリーチャーも居ないのである。

 

「排除……排除……歓迎……!!」

 

 最早、言動が支離滅裂な狂気の月。

 その異変が隠れているのは、今まで避けてきたあの黒い影の中だ。

 ならば、一刻も早くあの中を探る必要がある。

 躊躇なく桑原は無数の手が蠢く黒い影に飛び込んだ。

 

 

 

「ッ……俺があの中を調べて──ッ!?」

「……桑原先輩ッ!」

 

 

 

 ぎゅうっ、と袖を掴む翠月。 

 彼女もまた、影の中に飛び込んでいた。

 

「また、私を置いていってしまうんですか……!?」

「バカ!! あの中はどうなってるか分からねえンだよ!! お前を危険な目に遇わせたら、紫月から何て言われるか──」

「先輩は何にも分かってない! 先輩は──」

 

 

 

 その言葉は途中で遮られた。

 幾つもの手が、二人を包み込む。

 最早、引き返すには遅すぎた。

 二人は、影の中へと引きずり込まれていった──

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