学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
暗い。
暗い。
とても、昏い。
明かりのない部屋に放り投げられたかのような、そんな感覚だ。
しかし、僅かながら何かが光っている。
霞んだ眼を開けると──そこには。
「っ……ンだァ、これ!?」
──人が。
そして、羽根の生えた異形の生命体が皆、逆さになって吊るされていた。
1人や2人、一体や二体ではない。
その数は数えきれないほど。視界を覆う勢いだ。
(……予想通り、か。自分の魔力の餌にするために、自分で召喚したクリーチャーをもこの空間に閉じ込めてたんだな?)
咄嗟に桑原は動けないながらも、翠月を捜す。
自分と同じように、翠月もまた、吊るされているはずだ、と──
「……やっと目が覚めたんですね、せーんぱーい……?」
「どわあああああああ!?」
背筋が凍るような声が響く。
振り向くと、翠月が凄い形相で睨みつけていた。
どうして味方の顔と声で心臓を跳ねあがらせなければならないのだろうか。
……半分は自分で突っ走った桑原の自業自得なのであるが。
「みっ、翠月ィ!? ……何だ、テメェも捕まったのか」
「何だじゃないですよ! なんで先輩は一人で行ってしまうんですか!」
「何でって、オメーまで捕まったら、外で誰がアルテミスを抑えるんだ!?」
「結果論ですよね!? こんな得体のしれない所に一人で突っ込むつもりだったんですか!?」
「テメェを行かせたくなかったんだよ! 危ないどころの騒ぎじゃねえだろ!」
「危ないのは今更ですよね!?」
「ッ……そうだけど」
「私じゃ頼りにならないんですか!? 私がデュエルが弱いから!? 女の子だから!? そりゃあしづに比べたら劣るかもしれないけど……」
だんだん翠月の声はか細くなっていく。
「……私は、そんなに邪魔でしたか……? 先輩……」
「……翠月……」
邪魔なはずはない。
彼女の胆力には、むしろ元気をもらった。
「俺は……白銀みてーに、強くねえんだよ、カッコわりーし、チビだし……運動神経だって良い訳じゃねえ、デュエルだって……」
「……? でも桑原先輩には良い所が沢山あるって……」
「テメェとゲイルは、そう言ってくれただろーよ……だけど……」
脳裏に過るのは、いつも同じ日の記憶だ。
シー・ジーの操る《ア・ストラ・ゼーレ》が、桑原のクリーチャーを全て吹き飛ばしたあの瞬間。
目の前でゲイルを消されたあの瞬間。
それらが──消えては浮かんでを繰り返す。
「……弱いままじゃ、ダメなんだ!! 今のままの俺じゃあ、ダメなんだ!! ……変わらないままじゃあ、ダメだったんだ……!!」
「先輩……」
「俺がもっと強ければ、ゲイルは……ゲイルは消えなくて、済んだんだ……! 次は、俺の親しい誰かが同じ目に遇わされるかもしれない。そう思うと……居ても立っても居られなかった……」
結果的に。
強くはなれたのかもしれない。
しかし、その選択が正解だったと聞かれた時、桑原は首を縦には振る事が出来なかった。
分かっている。結局、翠月を置いてけぼりにしてしまった。心配をかけた。
そんなことは、分かっていた。
「……」
沈黙する。
一緒に辛いことを分かち合おうと彼女が言ってくれたことを忘れたわけではない。
だが、紫月が居なくなってショックを受けていた彼女を、自分の修行に巻き込みたくはなかった。
「……ハッ、言い訳ばっかでダセー……」
──桑原は自嘲してみせる。
本当は誰とも顔を合わせたくなかった。不甲斐ない自分を、相棒を死なせた自分を見られたくなかった。
逃げたのだ。
結局は──
「っ……言ってほしかった」
「え?」
「エリアフォースカードを手に入れたあの日、私の知らないところで傷ついてた先輩の秘密を知ったから……貴方のキズを、貴方だけのものにしてほしくなかった」
「……」
「分かってます。分かってますよ……! そんなのワガママだって……桑原先輩が立ち直れないくらい折れたのだって……でも、だからこそ……私に言ってほしかった……」
「ッ……」
何も言い逃れ出来ない。
桑原は、唇を噛み締める。
それが最善であることなど、分かり切っていたはずなのに──
「……そうだ……こんなはずじゃあ、なかったんだ……」
あの日を思い出す。
こんな事になるなんて思わなかった。
翠月が、ゲイルが傍に居てくれれば無敵だと思っていた。
しかし──それは、脆くも崩れ去った。
それがどうだろうか。
今自分達は──まさに敵の掌の上。
いつ、どうなってもおかしくはない。
絶体絶命も良い所だ。
「……こんなはずじゃ、なかったのに」
「──おやおや、まだ眠っていなかったのですね?」
「──ッ!!」
ノイズ混じりの声が響き、二人の顔は青ざめた。
目の前に現れたのは──月の女神だ。
その口調は心なしか、地上に居た時よりも饒舌だった。
「アルテミス、テメェ……!」
「この空間に来た以上、どんな人間もクリーチャーも、意識を失うはずなのですが。外で動いている
「ってことぁ、テメェが本体か……!」
「本体? いいえ、どちらも私の本体ですよ。言ったはずです。今やこのアテネ全域が私そのものだと。この私を維持するために。まあ此処は私の意識体に近い場所ではありますが」
「ハッ、だけどテメェ……自分で吸い上げた魔力を自分で扱いきれてねえみてえじゃねえか!」
「他でも無いこの私自身を維持するためです。魔力が無ければ、この世界では私は存在出来ない」
「そのために人間どころかクリーチャーまで……酷いです」
「全ては私の維持のため──消えたくない。死にたくないのは皆同じでしょう? だから、貴方達は眠らせて差し上げます。永遠に、私の下で」
これ以上の御託は無用だと言わんばかりに、女神は桑原の頭に掌を翳した。
「……さあ、私の胸元で穏やかな眠りを──」
「ぐゥッ……!?」
その瞬間、頭が大きく揺れる。
そして目の前が再び──黒で塗り潰されたのだった。
※※※
──芸術は、孤独だ。
例えば絵画に行き詰ったとして、誰が助けてくれるだろう?
自分より上手な人に手伝って貰ったとして、それは「自分の絵」になるだろうか?
いや、ならない。
だから彼は筆を手に取り続ける。
来る日も、来る日も来る日もずっと──ひとりで。
「……何を描いているんだい?」
「……あー」
後ろから誰かに話しかけられた気がした。
何を書いているのか、自分でも分からない。
だが黙りこくるわけにもいかず、生返事を返す。
「さあな。なかなか思った通りにはいかなくってな」
「誰かに助けて貰えば良いじゃないか」
「それじゃあ、俺の作品じゃあなくなっちまうだろ」
そう言って俺はまたキャンバスに向かう。
ずっと、穏やかに時は流れた。
「ねえ、思い通りのものが描けないのは、そんなに悪いことかい?」
「ああ? 悪いに決まってんだろ。いっつもそうだ。理想ってのは……俺の頭ン中にあんだよ。それが現実に出来るかは別問題だ。風景画にしたって……何にしたって。お手本が目の前にあっても、思い通りに描けるわけじゃねえ」
「そうだねえ、それはきっと苦しくて辛くて……孤独だ」
「ンだ、分かってんなら茶々入れるんじゃねえや。さっさと消えろ、塗りの邪魔だぜ」
「……ふふっ、相変わらずだねえ」
「相変わらずだァ? テメェ、どっかで会ったかよ」
「君の周りには……こんなにも君の事を心配してくれる人が居るのに……」
ぴたり。
筆が止まる。
「大丈夫だ。君はこんなにも意地っ張りで……人一倍拘りが強いんだ。苦しい時に誰かの力を借りたくらいで……君は弱くなんかならないよ」
「……」
「ボクだってそうさ。君のおかげで……ボクは戦えたんだ。君が居たから……ボクは戦えたんだ。なぜか分かるかい?」
「?」
「君の生き様に……確かに心を揺さぶられたからさ。その時から、君のハートは……ボクの中でずっと燃えてたんだよ」
キャンバスを見上げる。
そこには──満開の桜が描かれていた。
「この、絵は──」
自分の運命が狂い始めたあの日の絵。
全ての始まりとも言える絵。
そこから出会って来た人達の顔が浮かんでは消えていく。
そして──ずっと傍で自分を見てくれた少女の姿が浮かぶ。
自分を支えてくれた、彼の姿が浮かぶ。
「笑ってくれ、ボクのヒーロー。勝ってくれ、ボクのヒーロー。君の勝利は……君の喜びは……君の悲しみは……ボクのものでもあるんだ」
「テメェはっ……!」
思わず振り返る。
しかし、その場所には、誰も居なかった。
ただただ、強い一陣の風が吹き抜けるのみだった。
「……ゲイル……」
強く、強く。
疾風の名を冠する彼の名を呼ぶ。
そして。フッ、と笑ってみせると──桑原は目を閉じた。
「ンだよ……結局俺ァ……またテメェに助けられちまった……」
※※※
「バカな──」
女神は初めて狼狽してみせた。
翳した掌は──強く、握り潰されていた。
「へっ、良い夢見させて貰ったぜ……クソ女神。テメェ、良い所あるじゃねえか」
「何故だ!! 何故!! 何故、眠らない!! それに──私の拘束が解けている、だと!?」
「助けてくれたんだよ。俺ン中の……サイコーのヒーローがな!!」
迷いを振り切った様子で、桑原は
驚きを隠せず、あんぐりと口を開けている翠月に──桑原は呼びかける。
「翠月!!」
「はっ、はい!?」
「……心配かけたな。今更かもしんねーけど……一緒に戦ってくれ!!」
「……!」
ぱぁっと翠月の表情が明るくなる。
戻って来た。
確かに、自分が憧れた彼の顔が。
「はいっ!!」
気が付けば、既に彼女を縛る拘束も解けていた。
「ふぁーあ、よう寝たのう……」
「して、お礼参りといくかッ!!」
QX。そしてオウ禍武斗も続けさまに実体化。
最早、自らのテリトリーという女神の優位性は無くなったと言っても良い。
形勢逆転とも言える状況で、アルテミスは己の理解を超えた現象を呪う。
最も──心無き神である彼女に分かるはずもないのである。何故、桑原甲が目覚めたのかなど、永遠に。
「この私に歯向かうなどと……身の程を知りなさい!!」
腕を振り上げるアルテミス。
その手には弓矢が握られていたが、もう遅い。
此処まで来れば二人のレンジだ。
「さあて、ぶっ潰してやるぜ……女神サンよォ!!」
「貴女を此処で止めます!! お覚悟!!」
<Wild……DrawⅧ,STRENGTH!!>
<Wild……DrawⅨ,HERMIT!!>