学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR113話:縁神類─幽世の少女

 ※※※

 

 

 

「ハァ、ハァ──ッ」

 

 

 

 視界が、明るい。 

 アルテミスを撃破したことで、元の世界に戻ってくることが出来たのだろう。

 だが、頭が霞む。

 桑原は空に浮かぶ月を見上げ──ふっ、と息を漏らす。

 

「終わったん……ですか? せん、ぱい」

「……ああ」

 

 

 

 彼は頷いてみせた。

 横には、脱力した顔の後輩が座り込んでいた。

 しばらく惚けていた翠月は──にへら、と笑ってみせる。

 

「……月が、綺麗ですね、せんぱい」

「ケッ、月なんざもう懲り懲りだっての。俺の横の小さい月で十分だ」

「……もう。素直じゃない先輩」

「テメーにだきゃー、言われたかねー。はぁ……ったく。神殺しも……楽じゃねーぜ……」

 

 ぱたり、と桑原は倒れ込む。

 疲労は限界を極めていた。

 もう戦えそうにない。

 それに重なるように、翠月も倒れ込んだ。

 

「……ったく、何だってんだよ」

「ふふっ、せんぱい、ボロボロですね」

「……テメーもな……」

 

 笑い合う二人。

 さんさんと輝く三日月の下、彼らは自然に──唇を重ねていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おーおー、ようやっとくっついたかあの2人」

「出歯亀は止せ」

「邪魔はせんよ、くっふふふ」

 

 一部始終を眺めていたQXは建物の壁に寄りかかった。

 既に、主たちは寝息を立てて倒れ込んだまま寝ている。

 それを建物の壁にまで引っ張っていき、ひと段落といったところだ。

 

(さて。問題は山積みじゃのう)

 

 気掛かりな事は沢山ある。

 何故、アルテミスがあれほど魔力を溜め込んでいたのか。どうして現れたのか。

 

「……これも拾った以上は座視出来んしのう」

「それは?」

 

 QXは、オウ禍武斗に一枚のカードを差し出す。

 名前も何も書かれていない白紙のカードだ。

 

「力こそ封じられているが、これは間違いなくエリアフォースカードの1枚ではないかのう? くっふふふ」

「……ッ!! ぬぅ……主たちに何と伝えるか」

 

 QXはふと、思案した。

 アルテミスからは、このエリアフォースカード由来の力は殆ど感じられなかった。

 それこそ、斃して初めてこのカードの存在は発覚したのだ。

 脈絡もなく現れたそれを、QXは月に翳す。

 

 

 

 

「……いや、取り込まされていた……? 魔力を、このカードに注がされていたのか……?」

 

 

 

 考える。

 しかし、答えは出ない。

 必ず、この神たちを暴れさせた黒幕が居るに違いない。

 空から降ってくるアマツミカボシの仕業か、それとも──

 

(まあよい……今は、束の間の安寧。羽根を休めるとしよう)

 

 ──ふと、QXの視線は、小さく寝息を立てる二人に向く。

 それを見て、小さく口角を上げたのだった。

 

 

 

「上出来じゃ。家臣にしてはようやったわ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──幽世。

 

 

 

 タイムダイバーが浮上した先は、広大な緑が広がる島だった。

 四方八方は暗い海に囲まれており、島の大きさも小さい。

 しかし、聳え立つような山に加えて鳥居や宮が幾つも点在しているのが、この麓からでも分かる。

 俺はゲロを堪えながら、転がるようにして砂浜に降り立ったのであるが──

 

「ククリヒメは一体、何処に居るんだ?」

「……長閑なところですね。とても神様がいるとは思えないような……」

「……ああ。とても、平和っつーか、離島の田舎って感じだ」

 

 

 

『ぷぎゅ~……も、もう駄目だよマスター……』

 

「あっ……カンちゃん限界みたいです」

 

 それもそうか。

 幽世の門とかいう訳の分からない所を潜って此処までやってきたのだ。

 彼が疲弊していてもおかしくはないだろう。

 

「ごめんなさい、おじいちゃん。アカリはカンちゃんのメンテやってます」

 

 正直、未踏の地である以上かなり心細い。

 しかし、今回は一刻も早く世界(ザ・ワールド)のカードを地上に持ち帰る必要がある。

 その時にカンちゃんがダウンしていては、向こうに帰るまでにラグが発生してしまう。

 そもそもこちらでの時間の流れが向こうと同じとは限らないわけだし、出来るだけ効率的に帰れるようにするに越したことはないだろう。

 

「ふふんっ、マスターは復活した我に任せるでありますよ! ドンと来いであります!」

「そうですか。お願いします! 万が一の事があったら、呼んでください! すぐに駆け付けますので!」

「ああ! 頼んだぜ」

 

 こうして、俺はチョートッQと共に山の中へと進んでいくのだった。

 目指すはククリヒメ。

 強い魔力の反応を追っていけば、自ずと辿り着くことができるだろう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……と思ってたんだけどなあ」

 

 

 

 ダメだ。上を目指していたかと思ったら、またすぐ麓の方まで降りてしまう。

 エリアフォースカードで魔力を追っているだけじゃダメなのか?

 さっきからぐるぐるぐるぐる同じところを進んでいるような状態だ。

 

「どうするでありますか! これじゃあ、永遠に辿り着かないでありますよ!」

「どうして同じところをぐるぐるしてんだあ?」

「恐らく、この山全体がククリヒメのテリトリー……文字通り迷宮化されているのでありましょうな」

「迷宮化……ブランを連れてきた方が良かったか?」

「今更言っても遅いでありますなあ」

 

 迷宮化を破るうえで最も重要な突破口になりそうなのはブランのサッヴァークだ。

 しかし、よくよく考えてみてもサッヴァークは神の支配している「聖域」までは破れないらしかったのを思い出す。

 ああ、どの道自力で攻略しなきゃダメなのか。

 そもそもてっぺんを目指せば良いのか、神の場所が何処なのかもわからねえ。どうすりゃいいんだ。

 

「……あっ、そうだ」

 

 こんな時こそ、巌流齋の爺さんから教えて貰った神力の出番だ。

 相手は神類種。

 

 ちょっと集中しなきゃいけないけど、身体に通っている力の回路を意識して──

 

「ッ……来た、来た来た来た! 分かる! 分かるぞ! 手を取るように強い気の場所が!」

「何と!? マスター、すごいでありますよ!」

「いやあ、手にスキルは身に着けておくもんだぜ!」

 

 分かる。

 頭じゃなくて、身体で引き寄せられるようだ。

 どうやらこの山全体に、あの神の神力は散らばっている。

 山そのものが神の身体のようなものなのだろうか。

 だけど、それでも確かに一番神の大事な場所のようなものが直感的に分かる。

 

「あっちだチョートッQ!」

「いやあ、マスターが我の寝てる間に成長していて感無量でありますよ……あんなに没個性気味だったのが」

「オメー最後の一言が余計なんだよ!」

 

 駆け抜ける。

 さっきとは違う道を。

 足が痛いのも忘れて走っていくと、勢いよく森を抜けた。

 水の流れる音がせらせらと聞こえてくる。

 川だ。

 そして、小さな瀧と泉が見える。

 そこに人影が見えた。

 間違いない、あれが神だ──

 

 

 

 

「すいませーんッ!! 世界(ザ・ワールド)のカードの場所を教えぇぇぇええ!?」

 

 

 

 声が上ずり、急ブレーキをかけた。

 白い肌。

 くっきりとくびれた腰。

 ぱちくり、とこちらを物珍しそうに見つめる翠の瞳。

 絹のような黒い髪。

 そして──膨らみかけの胸。

 

 俺が出くわしたのは、一糸まとわぬ姿の少女だったのである。

 

「すいませんでしたぁぁぁーっ!?」

 

 俺はそのまま茂みの中へバックでダイブ。

 身体は後ろ向きに放り投げられ、茂みへ突っ込んだ。

 良し、ギリギリセーフ!!

 足だけ出ていて、きっと今は犬神家のポーズみたいになってるだろう。

 女の子がこんなところで水浴びしてんじゃねーよ!

 

「あらあら? 人間とは珍しい来客ですね」

「覗く気は無かったんです!! ごめんなさい、許してください!! 何でもするんで!!」

「あら? 今、何でもするって……?」

 

 がさっ、と茂みが退けられる。

 先程の少女の顔が近付いていた。

 俺の顔は赤くなり、すぐさま目線を逸らした。

 は、早く服を着て欲しいのだが。

 

「良いんですか……? 本当に……何でも……? ふふふっ……!」

 

 彼女はずっと珍しそうに俺の方を眺めている。

 そして、俺の頭を抱きかかえると──言った。

 

 

 

「……では、母に甘えていただきませんかぁ? ふふっ♪」

「……は? ……はぁ?」

 

 

 

 ……今、なんて?

 

「あの、甘えるってどういう? それより服着てほしいんですけど」

「甘えるは甘える、ですよ♪ それ以上でもそれ以下でもありません」

「それ以上でもそれ以下でもを問うてんじゃねえんだよ」

「ほらあ、此処にガラガラとおしめがありますよー?」

 

 何を自然に取り出してんだコイツ!! 

 何でおしめがあるんだ!!

 

「やめろ!! やめて!! 尊厳が!! 人として終わる!!」

「マスターこいつ変態でありますよ!!」

「分かってらあそんな事!!」

「おしゃぶりもありますからねー、母にバブバブしましょうねえー、ふふふっ♪」

「俺の傍に近寄るなああああああ!?」

 

 待って。理解が追い付かない。何で全裸で赤ちゃんプレイ強要しようとしてんの──やめろ近付けるな哺乳瓶を!!

 いう彼女の表情はとても楽しそうてか悦んでいる顔だアレ。

 顔は女の子なのに、獲物を前にしたライオンのような迫力すら感じられる。

 冷たい恐怖を感じた俺は絶叫した。

 

「おい!! 何のつもりだ!! これは何かの攻撃なのか!?」

「あらあ。本当のお乳が良いんですかあ? それじゃあ、母のおっぱいを飲みましょうね~」

 

 とか言って剥き出しの胸を近付けてきたが、即刻拒否である。

 俺は起き上がると、この恐ろしい提案をしてきた少女から距離を取った。

 アウトだアウト、こんなもん。

 しかもこちとら彼女が居る身だぞ!! 

 

「やめやめろ!! 何でもするとは言ったけど即刻撤回だ!! 俺ァ何処の誰か分かんないヤツと、こんな変態プレイしに来たんじゃねえんだよ!!」

「そうでありますよ!! マスターには心に決めた人がいるので、その人にやってもらうのでありますよ!!」

「お前は二度とその余計な口を開けないようにしてやろうか!! あっ、口無かったわ!!」

「うう……そんなに怒鳴らなくても……くすん」

 

 いかん、泣かせてしまっただろうか。

 いや、だから服着てくれない? いい加減に。

 

「私はただ、誰かを甘やかせたいだけなのです……久々の人間でテンションが上がってしまい……つい、趣味が」

「何でこんな所にこんな変態が……」

「でも、まさか1000年前と全く同じ断られ方をするなんて。なかなか皆さん、赤ちゃんになってくれないですね」

「息を吐くように人の尊厳剝ごうとしてんじゃねえよ」

「1000年前も来訪客に同じようなことしたのでありますかコイツ……」

 

 しかも1000年ってことは、絶対人間じゃねえだろコイツ。

 少女の姿をしたクリーチャーか?

 

「何なんだよ君は!! 此処に住んでるのか!? こちとらククリヒメ……様に会いに来たのに、どうなってんだ?」

「えっ」

 

 ……その名前を聞き。

 彼女は恥ずかしそうに向き直った。

 もう遅いよ。色々と。

 

「あーっ、とコホン。お見苦しい所をお見せしました……」

「いやもう良いから、服を着て。んで此処の神様の居場所を教えてほしいんだけど……」

「我々、怪しい者ではないであります!」

「ふふっ、それについては存じています。私の縁で、ずっと前から知っていました。貴方達のような正義感の強い甘やかし甲斐のある方が来ることを」

 

 くすり、と彼女は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「──私は縁を司る神の名を冠する者・菊理媛神(ククリヒメ)……またの名を《縁神類ククリヒメ》。人と人の絆……即ち、縁を司る者です♪」

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