学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
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巨神は、初めてであった。
己が破壊されたという感覚を覚えたのが。
己が知覚する前に破壊されたという事実が。
ただただ意味もなく破壊と創造を繰り返すのみの彼が、初めて自らに受けた破壊であった。
インドは愚か、大地全てを自動的に終わらせるという終末装置である彼は──自らを破壊した何者かに一抹の興味を覚えたのだった。
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「巌流齋老師、何故ここに!?」
黒鳥の質問も最もであった。
巌流齋は肉体こそ既に滅びているが、かつて力の座で死んだがために魂がずっとあの場所に囚われているのである。
それは逆に言えば、永遠性と引き換えにあの場所にずっと彼が縛り付けられていることを意味していた。
ふよよよ、と漂う彼は刀を引っ込める様子もなく、親指で巨神を差した。
「ヤバいモンが出て来ておるのをな……ワシも本能で察知したのじゃよ。しかし知っての通り、ワシはあそこから動ける身ではない」
「そのはずですが」
「そうしたらどうじゃ、こ奴が……ゲンムエンペラーが久々に動いたのじゃよ」
「……ゲンムエンペラーが?」
巌流齋が取り出したカード。
それは、闇と水文明の力を併せ持ったキングマスターカード《∞龍ゲンムエンペラー》であった。
このクリーチャーが姿を現したのは、酒呑童子との最終決戦以来である。
「ワシは死に際にこ奴に魂を拾われてのう。ワシに興味を持ったのか何なのか……それは分からん。しかし、ワシが力の座から出られなかったのは、ゲンムエンペラーがワシを縛り付けていた所為なのじゃよ」
「じゃあ、何故今になってゲンムエンペラーは……?」
「さあのう。こやつ喋らんし。じゃがのう……ただただ強敵を追い求め、道を突き進んできた者から言わせれば……久しい強敵を前にして我慢が出来んこうなったってところじゃな?」
のーっほっほっほ、と快活に巌流齋は笑い飛ばしてみせる。
ゲンムエンペラーは何も言わないが、紫月は何故龍が巌流齋を選んだのか分かった気がした。
この1人と1体は、実は似た者同士なのかもしれない、と。
「さて。ゲンムエンペラーから言わせると、あいつは破壊の神……らしいのう」
「分かるのデス!?」
「何となく。喋りはせんが……分かるんじゃよ。何百年も一緒に居るとな」
「インドで破壊の神……成程、道理で強大なわけだ」
黒鳥は真っ二つになった巨神を見やった。
恐らく誰もがパッと思いつく、あまりにも有名すぎる神の名を彼は呟く。
「……シヴァ。破壊の神シヴァ。槍と言い、やたらと大きいことと言い、それが、あの神類種の名前だろう」
ブランと紫月の顔から血の気が引く。
シヴァは、ゲームでも度々名前を聞く程度には知名度が高い名だ。
それ故に──その破壊の権能も、強大さも知れ渡っている。
「ど、どうりで強いわけです……」
「おーん、なんかワシもシヴァっぽいなーって思った」
「ぽい!? ぽいで済ませて良いんですかアレは!?」
「でも、そのシヴァって、もう真っ二つになっちゃいマシタよね?」
「否。分かってはおったが、これしきで消滅する相手ではないじゃろ」
「ーーーーーーー……ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
めき。めきめきめきめき。
樹木が絡みつくような音と共に、巨神の断面が繋ぎ合わされていく。
そして、斃れていた神は再び元の姿へと戻っていく──
「ふぅむ。今の一太刀、結構ワシ頑張ったんじゃがのー」
「びくともしていないのか!?」
「不死身デース!?」
「神というものはよく分からんが、不死性と永遠性……妖特有のそれは確かに持ち合わせておるわい」
確かな絶望感がその場に横たわる。
そんなものを本当に倒せるのか、と。
「しかし。斬れないわけではあるまい」
その上で──巌流齋は自信をもって言ってみせる。
「ワシが斬ってみせたじゃろ? 現に」
「いや、いやいやいやいや……」
「それにワシとて、誰の力も借りずにやったわけではない、ゲンムエンペラーがヤツの不死性を一時的に喰らったのじゃよ」
「ゲンムエンペラーの力ならば……あの神の持つ力を無視して斬ることが出来る、というのですね?」
「然り!! とはいえ、ワシは死人。デュエルでヤツを倒すことなど出来んよ」
「アレ? もしかして巌流齋サン……体消えかけてるデース!?」
ブランが指差して叫んだ通り、彼の身体は既に半透明になって消えつつあった。
いや、とっくに肉体は滅んでいるので体もへったくれもないのであるが。
「力の座から大分離れてきたからのう。ゲンムエンペラーのワガママに付き合った結果がコレじゃ。ま、ワシも神とやらと一度斬ってみたかったしのう」
「……消えて、しまうのですか」
「そりゃそーじゃろ」
事も無げにあっさりと老師は言ってのけた。
元々力の座に縛られていた身。
そこから魂が解放された以上、最早彼は成仏するのみであった。
「……だが、世界が滅んでしまえば修行も弟子も剣も何も無い。ワシは……伊勢を守ってくれた貴殿らに力を貸して消えられるなら……本望じゃよ」
「頑張ったのは……アカルデスよ……!」
「否。ツンツン頭の小僧が帰ってきたのは……帰ってくるべき場所と、仲間が居たからじゃよ」
「……老師」
「そう辛そうな顔をするな、黒鳥。貴殿には色々世話になったが……ひとつ、頼まれてくれるか?」
巌流齋は黒鳥に《ゲンムエンペラー》を手渡す。
「……僕が、このカードを……!?」
「うむ。受け取ってくれぬか」
「何故、僕に──」
「餞別じゃよ。年長者からのな」
願ってもない申し出だった。
黒鳥には今、守護獣が居ない。
そして、まともに起動できるエリアフォースカードも無い。
戦力の埋め合わせには、十二分すぎるほどに大きい。
「……ありがたく受け取ります。老師。しかし──僕で良いのですか?」
「ニシッ。共に年少の者を教え導く身。ワシも……貴殿に何か残したくなったのじゃろうな」
「……!」
「……あのちんちくりんの小僧……桑原が、貴殿の事をいつも話しておったからのう」
「……」
黒鳥がゲンムエンペラーを手にすると──サムズアップしながら、巌流齋の身体は消えていく。
「……ワシはやりたいようにやった。貴殿らも……せいぜい、暴れるだけ暴れるが良いわ!! のーっほっほっほっほ!!」
※※※
「──ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
再生が終わる。
もうじきに。
あの剣士に斬られた場所が修復されていく。
エネルギー炉である背中の龍樹達は未だに健在。
しかも、こちらには炉心代わりに取り込んだキングマスターカードまである。
不死身の龍を従える、かつて鬼の配下だった樹海の王が。
それを以てすれば、世界を終わらせてから作り変えるなど容易いことだった。
──何のために?
廻神類は疑問を覚えた。
──誰のために?
廻神類は問いかけた。
──蘇らせたのは、誰──
「──そこまでだ、神類種」
思考を断つ声が響いた。
ちっぽけな存在が3つ。
こちらを睨んでいた。
※※※
「師匠に良い所を持ってかれるのは癪ですが……突破口を切り開きますよ、ブラン先輩!」
「りょーかいっ、デース!!」
飛ぶシャークウガ、そしてサッヴァーク。
それが行く手を阻む無数のクリーチャー達を殲滅していく。
「っ……すまない、貴様等には結局世話になってばかりだ」
「それにしても……あんなよく分からないカード、本当に大丈夫なのですか?」
「うぐっ……確かに未知数だ。正直、これしか手が無いとはいえ扱い切れる自信は無い」
シャークウガの背びれに掴まった紫月が毒突いたが、黒鳥はぐうの音も出なかった。
伊達に自分自身や相棒の暴走経験があるわけではない。
特に後者に関しては、直接的に耀に迷惑を掛けている。
大体危ないものの餌食になるのは自分であることは、黒鳥も自覚していたし、躊躇する程度にはゲンムエンペラーの力は有り余る
「まあ良いです……師匠一人には背負わせませんよ」
「……紫月」
振り向く彼女の顔に。
あの白銀耀の顔が重なって消えた。
彼女が──これほどまでに頼もしいと思えたのは、いつ頃からだろうか。
「フンッ……言ってろ」
「デース!! 私を忘れちゃダメデスからねーッ!!」
「貴様を弟子にした覚えはない」
「デース!? 私一応、シヅクの先ぱっ、あばばばばば」
「これ探偵ッ!! よそ見をするでないわ!!」
飛んできた新聞紙に顔を塞がれるブランを横目に、黒鳥は──迫る敵を目の当たりにする。
「……今此処に居ない皆が、師匠なら、私達ならやれると確信してくれてるんです。本気にならないわけにはいかないッ!!」
「っしゃァァァーッ!! マスターッ!! 最後の砲撃、行くぜェェェーッ!!」
シャークウガの杖から、極大の砲が放たれ、クリーチャーの群れに風穴が開く──それを目掛けて、黒鳥は跳びこんだ。
(ずっと……考えていた。いつになったら、この戦いが終わるのか、と)
(違う……僕より先だった者のためにも……この戦いを終わらせるのは、僕だッ!!)
「力を貸せッ!! ゲンムエンペラーッッッ!!」
黒鳥は叫ぶ。
カードが唸り声のような音を立てると共に──巨神と、黒鳥の身体を黒い靄で一気に包み込んだ。