学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「――此処は……」
俺は手を伸ばした。
体全身が軋むようだ。
頭も痛い。どうやら、あのデュエルでかなり魔力を消費してしまったらしい。
その原因は他でもなく、俺が敗けた事にあるのだが――
「白銀……耀……ッッッ!!」
「悪いけど、耀は今此処には居ないよ」
俺は飛びのくように起き上がった。
どうやら、布団に寝かされていたらしい。
見る限り、和室の部屋で床は畳……俺にとってはあまり見慣れない様相の部屋で落ち着かないが、此処は一体……。
「此処は、あたしの家だよ。ぶっ倒れてたから、流石に見てられなくて……だからといって、怪我とかもしてる感じじゃなかったし、取り合えず色々聞くために連れてきた。貴方の家知らないし」
正座してそんなことを宣った少女を俺は狼狽して見つめていたのだろう。
刀堂花梨。
彼女は確か、白銀耀の幼馴染だが――
「……何故、俺を助けた。俺は白銀耀の敵だぞ?」
「目の前で倒れてる人を助けるのに、理由なんか要る?」
「……」
「それに、あたしは誰かの味方になっても、誰かの敵にはなりたくないの。あたしの剣は味方を守る為に振るう剣。敵を斬る為に振るう剣じゃないから」
……此奴も大概に甘ったるいお人好しだ。
白銀耀と同類で、吐き気がするようだ。
普通、此処までしてくれるやつなどいない。
まして、俺のような胡散臭い奴に手を差し伸べるなど有り得ない。
「後、胡散臭そうだけど悪い奴には見えないし。アルカナ研究会もそうでしょ?」
「……」
「一回助けられたし、恩返しはしないとね。どうする? 家の人に連絡しなくていい?」
「いや、俺は今実質1人暮らしだ。親は各地を飛び回ってる。”仕事”でな」
此奴も大方察しているだろうが、俺の両親も
故に、俺はいつもアパートに一人。転勤を理由に転校してきたことなど建前に過ぎないのだ。
それにしてもこの少女……人目につきそうなものだが、どうやって俺を此処まで運んだのだろうか。
それを問うと――
「肩を背負って、引きずりながら走ってきた」
しばらく言葉を失った。
そして、すぐに吹き出しそうになる。
「……フッ」
「あ、今笑った!! 絶対笑った!! あたしの事、怪力ゴリラとか思ったでしょ!!」
「だが、醜態を曝したのはこっちもだぞ? やれやれ、情けない所を見られてしまった」
「お互い様だよ。あたしも助けて貰ったし。で? 何であんたほどの強いのがあんなところで倒れてたの?」
「……」
悔しいが、仕方あるまい。
あったこと、起こったことは事実だ。
勝負の結果に嘘をつくわけにはいかない。
「白銀耀……お前の幼馴染に敗けた」
「!」
「情けない事だ。あれほど見くびっていた奴に、逆転負けを喫することになるとは」
「……あっそ」
「何だ? ざまあ見ろとでも思ったか? 良かったな。お前の幼馴染は、俺が思っているよりも強かったぞ」
「ううん。そうじゃない」
言った彼女は首を振る。
「……まあ、ドンマイ、っていうか……それだけだよ」
「……」
「正直、複雑。あたしは、貴方に助けて貰ったし、耀にも助けてもらってる。どっちがどうってわけじゃない。まあ、確かに貴方は胡散臭いって思ったり、信用できないって思ったりもしたけど……こうしてみると、魔法使いさんでもあたし達とそんなに変わらないんだなって、思った」
「どうしてそんなことを思うんだ」
「だって今、火廣金すっごい悔しそうな顔してんだもん」
俺は顔が引きつりそうになった。
そんなに表情に表れていただろうか。
「見たら分かるよ。あたしも剣道で負けた時、表には見せまいって押し殺してて、でもバレバレでさ。それと似てるから」
「……」
「それで? 耀にもう1回挑みに行くの?」
「……いや、上に報告はするがしばらく様子を見る」
この『
警戒に越したことは無い。あの方も、それで納得するだろう。
にしてもこの少女。自分の仲間の敵に、どうしてここまでするんだ。
「で? 仮に俺があいつからまたエリアフォースカードを奪いに行くとして、止めるのか?」
「止めないよ。ていうか、止められるなんて思ってないもん。殺し合ったりはしてほしくないけど……あんたにその気が無いのは、何となくわかるよ。耀に敵意は持ってても、殺意は持ってない」
「……」
「その時はきっと、また耀が貴方を返り討ちにする……って言いたいけど、あんたも強いし分からないや。それに、あたしにどうこうできる問題じゃないんでしょ? あたしに出来るのは、誰かが躓いた時に励ましてあげることだけだから」
そうか。
彼女は――何処までも、優しいのか。
白銀耀なんて目じゃないレベルのお人好しめ。そんなんじゃ、いつか誰かに利用されるぞ。
「……世話になったな」
俺は起き上がり、畳んでおいてあったブレザーを羽織った。
「あ、待ってよ。何なら、うちでご飯食べてく?」
「いや、そこまでは――」
「おーい、花梨。飯持って来たぜ」
男の声が聞こえてくる。
そして、がらがらと和室の襖を開けて入ってきたのは黒髪の青年だった。
ただし、前髪は白交じりのメッシュになっており、髪型は総髪。言わば侍を思わせる風貌だった。
鍋掴みに覆われた両手は、大きな釜の取っ手を握っていた。
「お兄、やっと来た! 今起きたとこだよっ」
「……お兄?」
此奴の兄か?
どうやら料理を俺に持ってきてくれたらしい。
そして、
「何だ何だ? 目ェ覚めたみたいだな。何か怪我してぶっ倒れてたらしいけど、病院とか行かなくて大丈夫か?」
と言っている。
「ま、若気の至りとか、そういう年頃だろーけどよ。気を付けろよ? 一応俺がチェックした限りじゃ、何ともなかったし、見る限り異常なしだから今すぐに、ってことはないだろーが、頭打って気絶してたんなら脳神経外科は行ってた方が良いだろ」
「あ、いえ……ありがとうございました」
「てか、若気の至りってお兄も高校生じゃん」
「まーな」
悪戯っ子のように笑うと、彼は釜の蓋を取った。
「……ま、難しい事は抜きにして、取り合えず今は――うちで飯食ってけ!」
「……」
釜の中を覗くと、熱々の雑炊から湯気が立ち込めている。
腹を抑えると、きゅうと鳴った。
卵に鶏肉、色とりどりの野菜……嫌でも食欲を刺激される。
「……ご馳走になります」
諦めたように一言、緋色は呟いたのだった。
※※※
――ある朝の事であった。
「……カメー」
「……」
或瀬ブランは自称探偵である。イギリス人の母と日本人の父を持つハーフでブロンドの髪と空色の瞳を持つのみならず、好奇心旺盛で気になったことがあると夜も眠れないタイプである(が、案外あっけらかんとしていて抜けているところも多々ある)。
様々な依頼を請け負い、今日もそれを解決するために奔走しているのだ。
そんな彼女も登校という定めから逃れることは出来ない。現に今、学校に遅刻寸前であるが、そのサファイアのような瞳には道路のアスファルトに転がっているあるものが映りこんでいた。
「……カメー」
「……いや、いやいやいや……」
亀である。
そう、亀である。それも、全身が金ピカの装飾に覆われた亀である。
おまけに鳴き声は、図ってか「カメー」である。
それがひっくり返ってじたばたしていた。実に奇怪な光景であった。
「……」
或瀬ブランは自称探偵である。
しかし、根っこは今時珍しい心優しい女子高生である。
確かにこんな珍しい生物を見つければ、自分は一躍有名になれるかもしれない。しかし、それはこのよく分からない亀にとっては不本意極まりないことであろう。
「それに最近、変な”事件”が起こってマスからネ……」
誰だって目立ちたくてこんな珍種に生まれたわけでもないだろうに、と同情しつつ取り合えず、こんな目立つ格好の亀がこんなところにひっくり返っているのは危ないので元通りにしてやり、そして茂みの中に逃がしてやったのだった。
「ふふん、朝から良い事したデス!」
快活とした表情で、ブランはふと腕時計を見た。
次の瞬間、
「I'm late!! Hurry,up!! 今日も事件を解決しなきゃ、デース!」
こうして彼女の慌ただしい一日はまた始まる。
目の前に降りかかる様々な事件を解決するために――