学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
──ククリヒメとの激闘の末。ギリギリでの差し合いを制しきったのは、耀だった。
「──貴方の覚悟も、そして力も。しかとこの目に焼き付けることが出来ました」
宮の奥にある祠から、1枚のカードがひとりでに現れる。
大アルカナのⅩⅩⅡ番、
漸く、手に入れる事が出来たそれを見て、耀は笑みを浮かべる。
「やったでありますよ、マスター!! 我……!! 我……!! 感極まって……!!」
「ああ、後はあいつらの所にこれを届けるだけ──!」
パァン
パァン
パァン
「え?」
その時だった。
乾いた音が幾つも響き、ククリヒメの身体に穴が開いた。
そして、その華奢な身体がその場に崩れ落ちた。
何が起こったのか分からず、耀は音の聞こえてきた方を見やる。
「……ア、アカリ……?」
「……どうやら、
何時も通り、屈託のない笑みで彼女は言ってのける。
しかし。その手には──いつもの銃が握られていた。
ジョルネードの身体が半分浮き出ている。
「待てよ、アカリ……何やってんだよ。この人は……ククリヒメは、悪いヤツじゃ──」
「そうでありますよ……な、なにも言わずに撃つなんて──」
「人? 人じゃあありませんよ。神です。弱くても、れっきとした神。
「……何言って──」
「そうなったら、また
くすくす、と彼女は年頃の少女らしい笑みを浮かべてみせる。
「あっ、あぐ……貴女は……この神力は……?」
「あら? まだ生きていたんだ、ククリ」
「……アマテラス、神の……力……なぜ……?」
「貴女は何も知らなかったんだね。1000年前のあの日、誰がどのようにしてアマツミカボシを封じたのか。それもそうか、ずっと寝ていたのだから」
「やめろ……ククリヒメは、自分を信じてくれる人を守る為に……!」
「おじいちゃんだって、何も知らないでしょ?」
耀は口を噤むしかなかった。
しかし、何も知らないはずはない。
60年後の未来は確かにこの目で見た。
荒廃した未来。その原因となるアマツミカボシ。トキワギ機関。そして──目の前に居るアカリという自分が命を繋いだ少女。
それがいま、揺らごうとしていた。
「本来の歴史で、誰が? どうして? トキワギ機関とやらを作って人々を支配していたのか?」
「1000年前、アマツミカボシを誰が封じたのか?」
「そして……この1000年間。いいや、更に余計に60年間。
ニヤリ、と彼女は笑みを浮かべてみせる。
その目には──底知れない何かがずっと渦巻いていた。
「おじいちゃん。先に言うよ。その
「何言ってんだ……?」
「オマエ……我々を利用して、エリアフォースカードを集めていたのでありますな!!」
「今更気付いた? でも、拒否権あるって思わないでね。人間なんかに……さ!」
くいっ、とアカリが人差し指を曲げる。
その瞬間、耀の手にあった
それを見るなり、ククリヒメは血相を変えて叫んだ。
「やめなさい!! それは例え神であっても扱えるものじゃありません!!」
「ふふっ。分かってるよ。貴女は
「お前……何言ってんだ? ククリヒメが、トキワギ機関のトップだって言うのかよ?」
「この時代ではまだそうじゃない。だけど、他に
「……全部知ってたのか!!」
「知ってたよ。知ってて敢えて言わなかった」
「……何で、言わなかったんだ」
「隠してたからだよ。この瞬間のためにね」
未来のトリスや、マフィアといった面々ですら知らなかったことを今になってアカリは明かし始めた。
何処でそれを知ったのかは分からない。
ただ一つだけ言えるのは──アカリに
だけど、未だに目の前で起こっていることが信じられない……!
「マスター……! アカリ殿は今まで、我々に腹を隠してエリアフォースカードを集めていたってことでありますよ……!」
「何で、だよ……!」
「気を付けなさい、白銀耀……彼女は人間ではありません……我々と同じ、神の類です」
「一緒にするなッ!!」
今度はアカリが叫んだ。
「アカリは……特別なんだッ!! どんな人間よりも、どんな神とも違う!! 唯一無二、唯一無二なんだッ!!」
次の瞬間だった。
アカリの身体から、ずぶずぶと音を立てて3枚のカードが現れる。
これだけもう、彼女が人間ではないということを否が応でも認めざるを得ない。
しかし問題はカードの内訳だ。
いずれも、天体のカードだ。
しかもそのうちの
「……お前が、回収してたのか!!」
「そうだよ。全ては、この時のため。まだ全部じゃないけど……世界と天体のカードは全て揃ったし、少しだけ見せてあげようか」
4枚のカードから黒い靄が現れる。
それを見た途端、チョートッQが蒼褪める。
守護獣が恐れる程の強い瘴気。
まさかあれって、紫月が言っていた”エリアフォースカードの中にある何か”なのか!?
「カンちゃん。出てきて」
『……うん』
その時。
せんすいカンちゃんが──今まで俺達が頼りにして来たタイムダイバーが姿を現す。
「カンちゃん……お前も、俺たちをダマしてたのかよ……!?」
『ご、ごめ──ぐげば』
言った彼は──紅く罅割れ、そして砕け散る。
そして、砕けた破片が全て、アカリの肉体へ吸い込まれていく。
「……さよなら。カンちゃん。最初から、最期まで……ウザくて、堪えきれなかったよ」
「そんな、ウソでありましょう……!?」
守護獣の死。
それを目の当たりにして、チョートッQは膝をつく。
その亡骸は、尊厳も意思も全て無視され、アカリへと吸収されていった。
「お前は、何者だッ!!」
「アカリは……ウソは言ってないよ? 最初っから、アカリはずっとアカリ。1000年前からずっと、アカリ」
それを全て吸い込み、身に纏い、彼女の姿は変わっていく。
青がかかった髪は長く伸び、背中には日輪が背負われている。
そして、その服は──あのアマテラスを思わせる巫女服へと変貌していた。
しかし。その傍らに浮かぶ何丁もの火縄銃が彼女の苛烈な本性を表している。
「アカリの名前は──
分かる。
分かってしまった。
やはり、彼女は隠していただけなのだ。
それが、神力を身に着けた俺にはイヤというほど分かってしまった。
「神を殺す神……それがアカリ。神を殺す為に造られた神。人に祈られ、願われ、そして造られた。それが……アカリ」
「……神を殺す……神……道理で……!!」
「ようやく……3割だけど力が戻って来た、かな。やっぱり全部そろわなきゃ……力は全部戻って来ない。だけど、嬉しくて仕方がないや!! 苦労した甲斐があるって思わない? ねえ!!」
「ッ……」
アカリが神類種で、その力を取り戻した。
アマツミカボシに対抗するならば、これ以上はない戦力なのかもしれない。
しかし。
彼女の敵意は、この場に居る全員に向けられている。
エリアフォースカードを揃えることで生まれたのは希望ではなかった。
「ふっざけるな──ウソだと、ウソだと言えよアカリ……!! お前が偽物で、本物のアカリが他に居ると言え……!!」
「そんなのは……居ない。居ないんだよ、おじいちゃん」
「ッ……チョートッQ!!」
「……応、であります……ッ!!」
怒りを滲ませた声で、チョートッQがアカリを睨む。
ダマされていた?
これまでずっと?
そんなはずはない。
そんな、はずは──
「……いいよ。じゃあ、最期に遊んであげるね、おじいちゃん」
「ッ……あああああああああああッッッ!!」
<Wild……DrawⅣ……EMPEROR!!>
※※※
「何でッ!! 何で裏切ったんだ!! アカリ!!」
「裏切ってなんかない。最初っから、こうするつもりだったってこと!!」
──《ジョットガン・ジョラゴン》が次々にジョーカーズを装填していく。
「何でッ!! 何のためにッ!!」
「決まってるじゃん。アカリの力を全て取り戻すため。そして……今度こそ、神の世界を作り上げる!!」
《アイアン・マンハッタン》の弾丸がアカリのシールドを砕いていく。
続く《キング・ザ・スロットン》の弾丸が《バーンメア・ザ・シルバー》を呼び出す。
「《ジェイ-SHOKER》!! 《ジョギラゴン》!!」
「……ちっぽけな人間がどれだけ足掻いたって……勝てるわけないじゃん。アカリは……太陽だから!!」
しかし。
砕かれたシールドが──神の光となって、耀を刺し貫いていく。
「──全ての風向きはアカリに味方をする。S・トリガー……《ゴッド・ゲート》!!」
次の瞬間、大アルカナのⅩⅩⅠ番の数字が眼前に刻まれていく。
それは赤く焼け爛れ、そして──黒き太陽となって舞い降りた。
「──来たれ、《聖霊左神ジャスティス》。そして、《ジャスティス》にリンクが出来る《悪魔右神ダフトパンク》を《ゴッド・ゲート》の効果で場に出すよ」
耀の前に、そして文明を手に入れたジョーカーズの前に現れたのは、完全なる無色の神だった。
獣の姿をした白き神と、黒き神。
紫電が迸り、2体が一つの柱へと成っていく。
「──《ジャスティス》の効果。山札の上から5枚を墓地に置いて、そこから《プロジェクト・ゴッド》を唱える。その効果で場に出すのは、場のゴッドとリンク出来るクリーチャー!!」
「そんな……仕掛けたのは、こっちが先のはずなのに……!!」
「逆に、俺のターンにリンクしていく……!?」
見たことも無いゴッドのサポートカードを前に、耀は言葉を失った。
「天照らす陽光も退ける!! 常夜の神が降臨せん──到来、《神人類ヨミ》!!」
神光が照らす。
天から舞い降りたのは──あまりにも強大な現人神であった。
そのあまりにも強固な壁は、一瞬で耀の前へと築かれていく。
《ジャスティス》、《ダフトパンク》。
その2体の間に割り込むようにして、神は完全なる姿となった。
「降臨……聖魔三体神ッ!! 3体でリンクしているゴッドは、私のシールドを完全に守る……この意味が分かる? おじいちゃん」
更に、と彼女は続けた。
まだ《ダフトパンク》の効果が残っている。
「──《ダフトパンク》の効果発動。墓地から無色クリーチャーの《神人類 イズモ》を場に出すよ」
「また、知らないゴッド……!?」
「この子の効果でアカリのゴッドは、コストが1軽減される」
「ッ……攻撃したいけど……してもシールドがブレイク出来ないんじゃ意味がない……!!」
「そりゃそうだよ。出来る訳無い。《モモキング》も《ジョラゴン》も《ジョニー》も……そして《ダンダルダ》も」
「……!」
「誰の力を使ったとしても、アカリを超えるなんて出来るわけがない」
言った彼女は──3枚のマナをタップした。
「──《極限龍神ヘヴィ》、召喚」
そのとき、リンク解除──と彼女は小さく呟く。
そして。
三体神の左腕が切り離され、一気に《ヨミ》と《ヘヴィ》が融合した。
あまりにも邪悪な気がそこからあふれ出していく。
「マスターッ!! あの《ヘヴィ》のカード……!!」
「ああ……俺でも見たことがねえ……! ゴッド・ノヴァになってんのかよ、あの龍神!!」
──それだけじゃなく、滅茶苦茶にヤバい匂いがする……!!
本能で感じ取る危険性。
今までにない脅威を前にして、耀は怒りを忘れる程であった。
「あれが、アカリ殿の邪悪の根源……でありますよ!!」
「ふふっ。まだ3割しか、力は出してないよッ!! 《イズモ》と《ジャスティス》をゴッド・リンク!! そして──呪文《神の裏技 ゴッド・ウォール》で《ヨミ》は次のターン、無敵になる!!」
龍神が結びついた《ヨミ》の周囲に次々と盾が現れていく。
次のターン、あのリンクしたゴッドを倒す術がないことを意味していた。
しかも、3体神はシールドをブレイクさせない効果を持つ。
耀は勝利することが出来ず、そして神を倒すことも出来ない状態に陥った。
「ウソ、だろ……!!」
「《ヨミ》でT・ブレイク。これでターンエンド」
「どうにか、しなきゃ……!! アカリ……!!」
「いい加減にウザい」
突如。
耀のクリーチャーが次々に《ヘヴィ》へと吸い込まれていく。
巨大な神の左腕は、次々にジョーカーズを喰らっていく。
「爺さんだった時も、若い時も……やっぱりうざかった。そうやって、誰かの為に駆けずり回る姿が……すっごく気色が悪い!!」
「ッ……!!」
「誰かの為に戦う? 命を賭す? そんなの何のためになるわけ? 人間はどうせ……腹の底じゃあ自分の事しか考えてないのにさ」
「俺は……!!」
「だのにッ!! そうやって、聖人ぶってる人間が……神が……あたしは一番キライ!! 大ッキライ!!」
吐き出すように彼女はまくし立てる。
そうした後──うすら笑いを浮かべてみせた。
「火廣金緋色だってそうだったじゃん。あたしが……ちょっとイジってやったら、怒って、おじいちゃんと戦ってさあ……覚えてる? ロストシティの。あれ、面白かったよねー!!」
「ッ……!!」
耀は言葉を失った。
あの時、火廣金が自分に突っかかって来たのは、決して彼だけの所為ではないことを意味していた。
「あたし、一応……神ですから。22分割されて力を失っても……人並みの力しか出せなくっても……
「お前……が、やったのか……!!」
「でも、正直アカリが絡もうが絡むまいが、関係なくない? おじいちゃんと火廣金緋色は……その程度の関係だったんだよ」
「ふざけるな……!!」
「マスターと、仲間の絆を弄んだのでありますか!!」
「そうだよ。だって……ウザかったしね」
既に。
《ヘヴィ》の効果によって、耀のクリーチャーは全て全滅していた。
リソースも全て吐き出してしまった。
盤面は空。
そして、アカリの場には、2柱の神が佇んでいる。
「クリーチャーも、人間も、全部がくだらない。勿論、エリアフォースカードなんてふざけたものを作った、あの西洋の魔導司だって同じ!!」
「お前は……!!」
「おじいちゃんが死んだあと……おじいちゃんが守りたかったもの、全部壊してあげる。あたしを1060年もの間縛り続けたエリアフォースカードへの復讐ついでにね!!」
「俺は良い……あいつら、だけは……!!」
「ヤだね。聞く耳持たない。今まで──全部ガマンしてたよ。すっごく、苦痛だった。わざわざ時間を超えて若い頃のおじいちゃんに会いに行ったのも、人間共と仲良くするのも……おじいちゃんの機嫌を損ねないように、理想の”白銀朱莉”として振る舞うのも」
「ッ……」
「だから、お返しに……全部壊す。人間への復讐ついでに……おじいちゃんの大事なモノを、全部壊す」
次の瞬間。
神の砲撃が耀のシールドを全て消し飛ばす。
そして、アカリの周囲に浮かぶ火縄銃が──火を噴いた。
「マスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!!」
「──じゃあね、おじいちゃん。さようなら」
白銀耀の胸を、一発の銃弾が撃ち貫いた。
ただの少年でしかないその身体は浮かび上がり、そして──地面へと落ちた。