学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR139話:雫の夢

 ※※※

 

 

 

 

「──先輩。起きてください、先輩」

 

 

 

 ……眠い。おきたくない。

 此処は──何処だ?

 ……教室か。

 終礼の後、疲れて寝ちまったのか?

 まあ、色々あったからな今日も今日とて……。

 んで、俺が部室に来ないのを見かねて紫月が起こしに来た……と。

 

「……紫月」

「なんですか。珍しいものでも見たような顔で」

 

 如何にもといった表情で彼女は首を傾げる。

 そうだ。何もおかしいことはない。

 何時も通りの放課後で、目の前に紫月が居る。何もヘンなことなんてない。

 

「……お疲れのようですね。今日は部活、一緒にサボっちゃいましょうか」

「いっ、だけどブランと火廣金に悪いだろ……」

「良いんですよ。ブラン先輩はいつもの発作(事件)、火廣金先輩は模型同好会の方に行くと」

「あいつら……」

「……もしかして、気を遣われたんじゃないでしょうか? 私達」

「バカ言え、あいつらがそんな殊勝なことするかよ。万年あっぱらぱーの迷探偵と、万年シンナー臭しかしねえ模型魔導司だぞ」

「酷い言い分ですね……」

「あいつらの尻拭いてるの俺だからな」

 

 ……そうだ。

 そういえば、そうだ。

 昨日だって、火廣金のヤツが換気しねえでプラモ作るから全員くたばっちまったんだった。

 一昨日はブランが野球部のキャプテンを事件の犯人と決めてかかった所為で、めっちゃ謝りに行ったんだった。

 怒られるの結局俺だし。

 

「……もう疲れた」

 

 やることは山積みだ。

 宿題もあるし、来年からは受験だって考えなきゃいけない。

 進路は何処に決めよう。

 何なら部活の事はどうしようか。

 このまま新入生が入らなかったら本当に廃部まっしぐらだ。

 ワイルドカードの対処もしなきゃだし、ブランのやらかしの後始末もしなきゃいけない。

 それを全部──俺がやらなきゃいけないのか。

 

「……めんどくせぇよ、もう……」

「何おじさんみたいなこと言ってるんですか……放課後はこれからですよ? どうせ二人しか居ないなら、今日はもう切り上げてもいいんじゃないですか?」

「……こういう時こそ部活らしい体裁を見せねえと生徒会から何言われるか……」

「……そうですね……サボるという言い方は確かに先輩の前では好ましくなかったかもしれません。堅物で、唐変木で、僧の先輩の前では」

「あんだとコラ」

「察しが悪いと言っているのです」

 

 きゅっ、と彼女は俺の袖を掴んで言った。

 どこかムスッとしたような上目遣いで、俺を睨んでいた。

 

「先輩。デート、行きましょう?」

「……りょーかい、お姫様」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「で、オメーはこれを食う為に俺を連れ出したと?」

「……そうですが?」

「そうですがじゃねーよ、デケーんだよ」

「カップル割が入るので。まあ、食べるのは私ですが」

「全部食うの!? お前ひとりで!?」

 

 山のようなパンケーキが紫月の前に積まれていた。

 アイスクリームもマシマシで。

 明らかに二人分──いや4人分くらいはあるのだが、彼女は全部自分で食べるつもりのようであった。

 

「先輩も()()()()()()あげますよ」

「二人で食うためのサイズなんじゃねーの!? デートじゃなかったのかよ!?」

「……?」

「何で疑問譜浮かべてんの……」

 

 可愛いけど、それ全部食ったら確実に太るぞ紫月さんや。

 

「ふふっ、冗談ですよ。……その代わりワリカンですからね」

「ガメつっ……オメーのスイーツへの執着はよーくわかったから……出すよ、出しますよ……ったく」

「それにしても、最高です。ミルクマシマシのアイスクリームとイチゴのハーモニー。酸っぱいのを甘いのが包み込んで……」

「甘いものの事になると、本当に饒舌になるよなあ、紫月は」

「先輩も、もっと素直に楽しんだらどうですか?」

「……やらなきゃいけねえことばっかが山積みだからな。気を引き締めていかないと」

「不幸な人ですね。息を抜いて良い時くらい抜けば良いんですよ」

 

 アイスを掬う手を止めて紫月は頬杖をついて言った。

 まるで俺に呆れるように。

 仕方ないだろ。

 こっちはお前らと違って、やることが多いんだ。部長だからな。

 

「……」

 

 そうだ。

 何時からだろうか。

 何も楽しめなくなっていったのは。

 日常の脅威に晒され続け、怯える心にすら慣れてしまったのは。

 

「……先輩?」

「……そーだな。何で俺は……こんなに沢山抱え込んでたんだろうな」

「ダメそうですか?」

「ああ、ダメそうだ。今度こそな」

 

 なぜか分からないけど、堰を切ったかのように弱音が溢れてきた。

 どうしてか、分からないけど。

 

「もし。お前らを守れなかったらって思うと……お前らを失ったらと思うと……それが、一番怖い」

「……」

「誰が死んでも嫌なんだ。やるべきことは必死でやってきたつもりだ。だけど、それでも、及ばなかったら? ダメだったら?」

 

 そうなったらきっと堪えられない。

 進まなきゃ、進まなきゃってずっと自分に言い聞かせてきた。だけど、それは……俺自身が怖いのを先送りにしてきただけだった。

 そうでなければ、足が竦んでしまいそうだったから。

 目の前のデカすぎる敵を前に、押し負けてしまいそうだったから。

 何より他でも無い、ただの弱い白銀耀に俺自身が負けてしまいそうだったから。

 

「俺はお前が羨ましいよ、紫月……お前は、誰よりも自分の気持ちに正直だ。俺は……自分で誤魔化しながらじゃなきゃ、前に歩くことも出来ない」

「……私は、先輩が羨ましくて仕方なかったですよ。どんな時も諦めない先輩が。いつも、真っ直ぐに前を見ている先輩が」

「……俺は本当は……泣き虫で弱虫で、ケンカも弱くて、デュエルだって……そんなに強いわけじゃない。それを勢いで押しとおしてきただけだ」

 

 それが全部ダメだったと分かった時。

 俺は──全部投げ出したくなった。

 

「つれぇよ……やっぱ……お前らが居ねえのは……」

「……きっと、また会えますよ」

 

 彼女は──ハッキリと言った。

 

「先輩が守った分だけ……きっと。皆も先輩を守ってくれます。傍に、居てくれます」

「……?」

「あれ。結構いまの良いこと言ったと思ったんですけど。何で疑問符浮かべてるんですか?」

「……いや、悪い」

 

 俺は辺りを見回した。

 喫茶店は、もう見慣れない白い空間へと変わっていた。

 そうして──俺は漸く、これが甘い夢であることに気付いた。

 誰かが、俺を揺り動かしている。

 夢から起こそうとして。

 

「実は……本当はもう、分かってるんだ。今、皆が居なくなっちまったこと」

「……」

「分かってる。分かってて、辛すぎて、逃げ出した。カッコ悪いよな」

「何言ってるんですか。カッコ悪い先輩なんて見慣れてますよ」

「……それと、1つだけ疑問があって。此処は俺の夢で、都合の良い世界で……何で、お前しか出てこなかったんだろうなって」

 

 ぱちくり、と彼女は目を開け閉じさせる。

 この際だ。どうせ夢の中だし。

 

「……やっぱ俺、お前が特別なんだなって……他のヤツには悪い気がするけど」

「……」

 

 しばらく彼女は黙ったまま突っ立っていた。

 そして──くすり、と柄にもなく笑った。

 

「ふっ、ふふっ……直球火の弾ドストレートですね。先輩、普段は素直じゃないくせに」

「ああ!?」

「珍しく言えたじゃないですか」

「笑うんじゃねえよ! 夢の中の紫月のくせに! それに……もう、会えねえかもしれねえし」

 

 ずるい。俺はこんなに悲嘆にくれてるのに。

 どうしてだろう。

 何で彼女はこんなに、笑うのだろう。

 夢の中だからだろうか。

 ……どうせなら、このままずっとこの中に居たい。

 だけど──

 

 

 

「……大丈夫です。先輩一人には、背負わせませんから」

 

 

 

 微睡の中にいることを許さないくらい、紫月に強く背中を叩かれた気がした。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 耀の目は穏やかに閉じていた。

 後は、目が覚めるのを待つだけだ。

 そして、耀と一心同体であるチョートッQもまた、消耗が激しかったために休眠状態にあった。

 

「……皇帝様様だったな……」

 

 サッヴァークは先の戦いを思い返す。

 耀の中に潜む、エリアフォースカードによって生み出されたもう1つの人格。

 しかし、それは同時に彼の抑圧されたものの象徴でもあった。

 決して切り離せないそれの力無くして、2体の王を討伐することは出来なかったと言える。

 あとは、シャークウガとトリスの荒療治が功を奏するかどうかにかかっている。

 

「……効きそうか?」

「ああ。()()()ブチ込んでおいたからな。大丈夫だろ」

「……?」

 

 訳が分からないと首を傾げるトリスに、シャークウガは肩を竦めて「ま、大したモンじゃねえよ」と返した。

 

「俺だってショックだ。だけどな……絶望してばかりも居られねえだろ。それに……此処に居る全員のマスターは、俺たちが此処で止まるのを望むとは思えねえ」

「……しかし、本当に大丈夫なのか? 鮫の字」

「ハッ、ナメてんじゃねえよ。確かに普通のガキだったかもしれねえ。だけど……白銀耀はそれ以上に、幾つもの戦いを乗り越えてきたんだ。絶対、大丈夫だ」

 

 自分に言い聞かせるようにシャークウガは言った。

 妙な自信の大きさに、サッヴァークは畳みかけるように問いかける。

 

「鮫の字よ。何を隠しておる?」

「いっ……!?」

 

 その瞬間、シャークウガはしどろもどろになりながら「あー、いや、その」と狼狽え始めた。

 怪しい、この水文明の覇王は絶対に何かを隠している。

 

「……ワシに隠し事など通用せんと分かっておるだろう」

「何にも隠し事なんてしてねーよ……? ムートピアウソ吐かない」

「どの口が言うんじゃ、今のおぬし半分マフィ・ギャングみたいなもんじゃろうが」

「種族欄に書いてないもん!! 名前は堕悪だけど、心までは悪に堕ちてないもん!!」

「本当か?」

「マジだって!! いや、まあ、正直バクチみてーな手を一つだけ用意してたけど、もう駄目になっちまったなーってだけだよ!! それはそれとして白銀耀は絶対元に戻る!!」

「……何を考えておったんじゃヌシは。これで元に戻らなかったら、ワシらは詰みじゃぞ!」

「おー、そうだその通り。あたしももうデュエルすような魔力残ってないし」

 

 よぼよぼのトリスは咳き込みながら言った。

 

「そもそも廃人同然の人間がそう簡単に息を吹き返したら、苦労はねえんだよ。後は待つしかない。お前ら流に言うなら、信じるしかない、だろ」

 

 彼女はすやすやと寝息を立てる耀に目を向けた。

 そして、わざと話を逸らすかのように「そういえば」と切り出した。

 

「気になってたんだが、ディスペクターの王……連結王と縫合王、電融王、そして混成王……だっけか? あいつら倒したけど、結局エリアフォースカードは1枚も取り返せてないのか」

「エリアフォースカードどころじゃない。素材になったクリーチャーも、取り返せてない」

 

 エッ子が恐る恐る口に出した。

 全員の視線が彼女に注目する。

 

「きっと、ディスペクターの王はアメノホアカリの龍魂珠に()()()()()()されてる」

「……? どういうことだ」

「地球の言葉で言ったのよ! ザコザコ! ちょっとは理解しなさいよ! これだから老害は──」

「口の利き方には気を付けような?」

「あだだだだ暴力反対!!」

 

 トリスにぐりぐりされるエッ子は涙目で訴えた。

 懲りるという言葉を知らんのか。

 

「恐らくだけど、吸い込まれた人やクリーチャー、エリアフォースカードは全部龍魂珠の中にある。ディスペクターや王は、全て龍魂珠が一括で管理してるの」

「じゃあ、王ってのは……あくまでもヤツの操り人形でしかない、と?」

「そうなると思う。だから、あたしのご主人様も……龍魂珠に封じられたまま」

「しっかし、何処から奴はディスペクターの素材を調達したのであろうな?」

「これは予想だけどよ」

 

 バルガ・ド・ライバーの質問に答えたのはシャークウガだった。

 

「インドでシヴァが時空の裂け目から大量のクリーチャーを誘き寄せてただろ? あれが素材の正体だ」

「では、アルテミスがギリシャで影の中にクリーチャーを捉えていたのも別の世界からクリーチャーを大量召喚し、素材として蓄えていたからか」

 

 そして、この事から考えるに──地球に現れた3体の神類種は、恐らくアメノホアカリに無意識に操られていたと考えるのが自然だ、と判断された。

 彼らの目的は素材とするためのクリーチャーの用意に過ぎなかったのである。

 いや、それどころか──

 

「既に星のカード1枚の状態で、神類種3体を支配下に置いていたってことだろ……寒気がするぜ」

「マッチポンプじゃったってわけか……上手いこと分断されたわい」

「計画犯行過ぎんだろ……流石1000年以上恨みつらみ抱えてただけはあるな」

 

 トリスは肩を竦めた。

 

「つまり、素材が敵に奪われてる限り……奴は何度でも王やディスペクターを蘇らせることができる、と?」

「あの様子だと……王がやられても、痛くも痒くも思ってないと思う」

「アメノホアカリ本体を叩くしかねえ、か。怨みの力はこえぇな」

「……まあでも、人間に対する恨みってのは分からんでもねえよ。やられたことをやり返してやりたいって気持ちもわかるし、人の事が言える立場じゃねえってのも分かる」

 

 かつて。魔女裁判で家族を失ったトリスは思い返すかのように語った。

 人間が嫌いで、憎たらしく、白銀耀達との戦いでは卑劣な手段も厭わなかった。

 それが正当化される理由がある、という自負があったからだ。

 しかし、それでも今となっては──分かる事がある。

 

「憎悪を撒き散らすやり方は──必ず自分にしっぺ返しが来る」

 

 それを身を以て味わったからこそ。

 彼女もまた、立ち上がる。

 

「それに、自分の大事なモン傷つけられたなら、黙っておかないだけさね。お前らもそうだろ?」

「……そうじゃのう」

「だから止める。止めたかったんだが……」

 

 今となっては、と彼女は己の無力を嘆く。

 

 

 

 

 

<ギュ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ──ッ!!>

 

 

 

 

 その時だった。

 

 工房を震わせるほどに大きな咆哮がその場に響き渡る。

 

「んっ、だぁ!? 地震か!?」

「……違う。これは、クリーチャーじゃろう」

 

 サッヴァークが言った。

 

 

 

 

「……途方も無い程に大きなクリーチャーが、目覚めようとしておる……!!」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 龍魂珠は鼓動する。

 

 

 これまで取り込んだ無数の魂を抱え込み、そして──養分としようとしていた。

 

 

 

 

「地球だけじゃ物足りない。この宇宙も全部、完全な形に作り変えちゃおう」

 

 

 

 無邪気な子供のようにアカリは目を輝かせる。

 

 

 最早、復讐は成し遂げられたも同然。

 

 であれば、行き着く先は自身の好奇心のままに、そして求める支配欲のままに限りなく強い生命体を追い続けることであった。

 

 

 最早、大義も目的も何も無い。

 

 

 

 自身の飢えた心を満たすためだけの、自己満足でしかない。

 

 

 

 それで自らの作った世界が滅びようとも関係ない。ついでに白銀耀達も今度こそ消え去る。

 

 

 

 その後で、何度でも新しい世界を造り直せるだけの力を彼女は欲していた。

 

 

 

 言うなれば──ゲームのリセットボタン。

 

 

 

 

 

「……龍の力よ、あたしの下に集まれ。あたしを……退屈させないでね!」

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