学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR141話:最終決戦

 ※※※

 

 

 

 瘴気が、満ち溢れていた。

 

 

 工房の中にも、それが満ち満ちていた。

 

 

 

 

「これまでにない巨大なディスペクター……それが目覚めようとしておる」

 

 

 

 サッヴァークが掠れる声で言った。

 

 

 

「……やっぱり、あれで最後ってこたぁねぇよなあ」

 

 

 

 シャークウガが腕を組み、苦々しく歪む空を睨んだ。

 

 

 

「……我らでは、どうすることも出来ぬのか?」

 

 

 

 オウ禍武斗が拳を叩きつける。

 

 

 

「……王たちでさえ、相当なものじゃったが……」

 

 

 

 QXでさえも、戦慄するレベルの魔力だ。此処まで遠くにいても至近距離にいるかのような威迫だった。

 

 

 

「……俺の刀で斬るには、大きすぎる……!」

 

 

 

 

 バルガ・ド・ライバーでさえ、最早立ち向かう気力が削がれていた。

 

 

 

「……ご主人様が……あいつの、中に……!? 助けられるワケ、ないじゃん……!」

 

 

 

 龍魂珠のことを知るエッ子は、それがあまりにも巨大な力を持っていることを改めて見せつけられる。

 

 

 

(……マズい。顕現と同時にマナがこちらの意識系に働きかけてやがる……! クリーチャー共も絶望させて心を折るつもりか……!?)

 

 

 

 あまりにも巨大すぎる敵から発せられる魔力。

 それの正体を見切ったトリスは、どう声を掛けるか思い悩む。

 自分では何を言っても、彼らを奮い立たせることなど、出来ない。

 何故ならば、トリスも既に戦うだけの力を失ってしまっているからだ。

 

 

 

 

 

「──戦おう」

 

 

 

 

 声が──聞こえた。

 

 

 

 全員は振り返る。

 

 

 

 

 白銀耀が──立っていた。

 

 

 

 

「俺たちで戦うんだ。全員で──俺たちの世界を、俺たちの仲間を取り戻すんだ」

『超超超ッ! 可及的速やかに、であります!』

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ──立てる。

 立てている。

 紫月が、俺の背中を押してくれたからだ。

 皆が、俺の背中を支えてくれたからだ。

 俺は──弱い。

 英雄でも英傑でも何でもない。

 だから、すぐにへたれたり折れてしまう。

 でも、あいつらが俺のハートを支えてくれるから、何度でも立ち上がれる。

 いや、そうやって立ち上がって来たじゃないか。

 

「俺は──ただの高校生だ。ちょっと前まで普通のガキだった。……一人じゃ何も出来ない。戦うのは怖いし、デュエルだって──痛いのはゴメンだ、ケガばっかで嫌気が差す。死にかけたことだってある」

 

 それでも戦ってきたのは何故だ?

 仲間達を取り戻すためだ。

 あいつらと笑っていられる日々を取り戻すためだ。

 

「もうやめたいって思ったことだって何度もある。正直しんどいよ。イヤなんだ。もう、戦いたくなんかない」

 

 拳を握り締める。

 正直、今度こそ死ぬかもしれないとまで思っている。

 今までぎりぎりの綱渡りがあまりにも多すぎたからだ。

 それでも、戦う理由は何だ。

 

 

 

「だけど──皆が居なくなるのは、もっとイヤだ。俺は……あいつらを、大好きな仲間を助け出したいんだ」

 

 

 

 きっと、お世辞にも褒められた連中ではない。

 思い返せば楽しい思い出だけじゃなくて、ロクでもない思い出も沢山浮かび上がってくる。

 本当に大変だった。

 

「あいつらがやらかしたら必ず俺が尻拭いをしてきたし、何度もぶつかり合った。正直鬱陶しいと思ったこともあるし、ハチャメチャだし、常識なんか無いし、ぶっちゃけ頭の中覗けるモンなら覗いてみてーって思うような奴らだけど!」

 

「俺の言う事なんか聞かないし、補習に付き合ってやっても現国の点上がらねーし、部長の俺の立場食ってくるし、事ある事に木刀振り回すし、勝手に山籠もりするし、肝心なことはギリギリまで言わないし、可愛いのに腹の中真っ黒でドン引きするようなヤツらだけど!」

 

「勝手に探偵ごっこ始めたり、部屋ン中ジオラマとシンナーのニオイ塗れにするようなハタ迷惑なヤツだったり、四六時中絵画の事しか頭になかったり、二言目には美学とか言い出す変人だったり──ヘンクツで可愛げのない上に、男の純情弄んでくるような生意気な後輩だったりしたけど!」

 

 だとしても。

 どれだけ悪いことを挙げても、やっぱりあいつらのことを嫌いになれない。

 やっぱりあいつらは、俺が命を賭すだけの理由になれる。

 

 

「それでも、俺は……あいつらのことが大好きなんだ。居なくなって、ずっと痛いほどわかったんだ」

 

 

 

 やっと。

 素直に吐き出せた気がした。

 どうして、俺が戦えるのか、分かった気がした。

 そしてそれは、目の前のこいつらだって同じはずだ。 

 守護獣として危険な戦いを共にしてきたこいつらだって同じはずなんだ。

 

「これからの戦いは、俺の知る顔の敵がまた出てくると思う。きっと、俺は何度も心が折れそうになると思う」

 

 拳を握り締める。

 あいつらは、元に戻るのだろうか。

 それさえも分からない。

 だけど──

 

「でも、隣にお前らが立ってるって思えば、同じ痛みを抱えてるって思えば、俺は前に進める」

 

 

 

「俺は1人は……もうイヤだ。だから──皆の力を俺に貸してほしい。そうしたら俺は……もう1度、皆の為に──そして他でも無い俺の為に戦える」 

 

 

 

 

「やれやれ。ここにきて、皇帝らしさを出してきおってからに」

 

 

 

 ざっ、とサッヴァークが前に進み出る。

 

「迷いはある。弱さもある。恐怖もある。それを自覚した上で……戦うと言うか」

「ああ! 俺が……俺がやらなきゃ、誰がやるんだって話だからな。サッヴァーク、心配かけて悪かったな」

「……その覚悟。しかと受け取った」

 

 彼は俺の前に傅いた。

 まるで、主の前に立つ従者のように。

 

「だなァ、テメェがやるってんなら俺だって最期まで暴れさせてもらうぜェ! ギャハハハハハ!」

「……天晴也」

「小僧の癖に生意気じゃのう。だが、それが良い」

「主君を助け出せるならば、この命差し出してみせよう」

 

 サッヴァークだけではない。

 全員が──俺の前で傅いた。

 何だコレ。恥ずかしいな、改めて見ると。

 だけど皆が、戦ってくれるってことなんだ。俺と一緒に。

 

『マスター、あれは──!』

 

 

 

 その時だった。

 皇帝(エンペラー)のカードが飛び出して、光り輝く。

 

 

 

 そして、守護獣達の頭に──Ⅳの数字が刻まれ、そして消えた。

 

「今のはっ……?」

 

 何が起こったのか分からない。

 だけど、守護獣達の魔力が飛躍的に上がってる気がする。

 

「……仮契約、か」

 

 言ったのはトリスだ。

 ……あれ? 

 何でお前こんな所に居るんだ!?

 よぼよぼの姿だけど……。

 

「トリス・メギス!? どうしたんだよ!?」

「話は後だ! 先ずこの現象について説明できることがある」

 

 彼女は前に進み出ると、続けた。

 

「一時的にエリアフォースカードを失った守護獣が、他のカードと契約する事で本来の力を取り戻した」

「……ってことは、こいつらは──」

「力の制限が外れている。今なら……皇帝(エンペラー)の力が健在である限り、ディスペクターとも優勢に戦えるだろうな」

「それどころではないわい……! 力が、漲ってくる」

 

 サッヴァークは不思議そうに手を開け閉めする。

 

『マスターの感情に反応した皇帝(エンペラー)からの餞別でありましょうな』

「……ヘッ、粋なことをしやがるぜ」

「じゃあ、これで全ては揃ったってことじゃのう」

 

 うじうじしてるのは、もうやめだ。

 決着をつけに行こう。

 先程から感じる強大な魔力。放っておいたらマズい気がする。

 その前に、俺たちの手で止めに行こう。

 

 

 

「……行こう!! 皆!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 トリス・メギス曰く。

 アカリが未来からやってきて、この世界を好き放題したと言う事は歴史改変の定義が成り立つという事らしい。

 つまり、今までやってきたように歴史改変の原因を破壊する事でどうにかすることが出来るのだと言う。

 そして、その原因と思しき物体は──龍魂珠(アントマ・タン・ゲンド)

 アカリの持つ宝具だという。

 それを破壊されることだけは彼女は何としてでも避けたい。

 だからこそ、自らの近くに置いておきたいはずだ。

 彼女自身の本拠地に。

 

 

 

 

 空の上に浮かぶ巨大な塔。

 幾つもの龍が絡みついたような装飾が施されており、雲の先へと続いている。

 

 

 此処まで何体かのディスペクターと遭遇したが、いずれも守護獣達の手によって撃滅された。

 後は、あれを守っているであろう「王」達との戦いが控えている。

 

 

 

 いや、それどころか──

 

 

 

 

「救済ッ!! 救済救済救済救済ィィィーッッッ!!」

 

 

 

 塔を目指す俺達の前に現れたのは、アルファディオスとドルバロムが繋ぎ合わされた、聖魔連結王ドルファディロム。

 そして、それを従える連結王だ。

 その姿は先ほど倒した時と全く変わっていない。

 何度倒しても、恐らく龍魂珠がある限り復活させられるのだろう。

 しかも、俺が最も苦しむであろう仲間の姿をとって。

 

「何デスかぁ? 蚊トンボが何匹も束になって! 全員救済せよというお達しなのデスよォ!!」

「ッ……ブラン!」

「此処はワシに任せい」

 

 空を守る連結王の前に──サッヴァークが立ちはだかる。

 

 

 

「魂無き、不正義の怪物よ! 我が主の姿をとって現れたこと、相応の覚悟があっての行為と見て良いな!」

「ン……何デスか? 邪魔をするなら、救済してやるデス!!」

 

 

 

 振り返ったサッヴァークが「行け」と目配せする。

 辛いはずだ。ブランの姿をした敵と戦うのは。

 それでも──あいつの覚悟はもう、揺らいでいない。

 

「爺さん……!! いけるのか!?」

「フン、鮫の字。今までで一番はらわたが煮えくり返っておるわ!!」

「……死ぬんじゃねえぞ」

「誰に言っておる! さっさと行け!」

 

 剣を無数に展開したサッヴァークは──ロボットのように「救済」と口ずさみ続ける連結王に、そしてドルファディロムと相対するのだった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 空から──絶え間なく稲光が降り注ぐ。

 塔の頂上目指して、壁すれすれに飛行する守護獣達。

 俺はオウ禍武斗に乗ったまま先へ進んでいた。

 ただのディスペクターならば、最早守護獣達の敵ではない。

 シャークウガが杖から光を放ち、薙ぎ払っていく。

 だが、あの雷光は一体どこから──危ない。今のはマジで死にかけた。

 

『マスター! 上! 上であります!』

「上ェ!? ……おああ!? 何だありゃあ!?」

 

 

 

「俺が現れた以上。既に戦いは終わっている」

 

 

 

 時空が裂け、そこから無数の巨大なクリーチャーが溢れ出てきた。

 空に浮かぶ巨大な時計盤。

 その前には──火廣金の姿をした何者かが宙に浮かんでいた。

 ディスペクターの王。

 俺は直接目にしたわけじゃないから分からない。

 だけど、皇帝が相対したという2人組の王の一角なのだろう。

 

 

 

「平伏せ。敗北者たちよ。俺は──最強の王・混成王だッ!!」

 

 

 

「やっぱり、あいつまで……ディスペクターに……!!」

「……フンッ!!」

 

 その時だった。

 オウ禍武斗が──塔の壁を拳の一撃で砕く。

 

「っ……行け!! 進み続けるのだ白銀耀!!」

「だ、だけど──」

「心配要らん。ガイアハザードが二人も居れば、あの程度の敵……倒すのは容易じゃ」

 

 QXも前に進み出る。

 どうやら、火廣金の姿をした混成王と戦うのだと言う。

 

「……あんがとよ、2人共!」

 

 俺は壁に空いた穴から塔の中へと転がり込む。

 そのあとに、シャークウガ、そしてバルガ・ド・ライバーが続くのだった。

 後ろから、ガイアハザード達の声が聞こえてくる。

 

「……鈍ってはおらんであろうな?」

「誰に言っておる。……奪われたならば、取り返すまでよ」

「然り──地のガイアハザード!! キングダム・オウ禍武斗!!」

「風のガイアハザード!! Q.Q.QX.!!」

 

 

 

 

 

 

「──参る!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 塔の中は──がらんどうのホールが続いていた。 

 階段で上の階に俺達は進んでいく。

 しかし。

 突如、稲光が迸り、俺たちの足元を遮った。

 

 

 

 

「キャッハハハハハ!! ねえねえねえ!! 殺してイイ? 殺してイイんだよねえ!?」

 

 

 

 ──聞き覚えのある声。

 いや、ある意味誰よりも聞き慣れた声。

 幼馴染の声を俺が間違えるはずもない。

 花梨だ。

 花梨の身体が、バラバラに繋ぎ合わされている。

 そして、その傍には──カツキング、そして──ギュウジン丸だろうか。

 その2体をバラバラにしてパーツを入れ替えたような怪物が立っていた。

 よりによって、ノゾム兄の切札とこんな形で出くわすことになるなんて。

 あれが、電融王……!

 

「ッ……クッソが……マジで色々ブチ切れそうだ……!!」

「主君の相手は──俺が任された」

 

 その時。前に出てきたのは、バルガ・ド・ライバーだ。

 

「戦士たるもの。怒りは心に秘め、冷静に戦うべし」

「ッ……!」

「さもなくば、勝てる戦も勝てんというもの!」

 

 その刀を握る手は震えている。

 その瞳は──今までの中で一番、鋭い。

 こいつも怒りを堪えているのだろう。

 

「ありがとう、バルガ・ド・ライバー!!」

「礼は無用! 此処からは……剣士と剣士の1対1の斬り結びだッ!!」

 

 刀を抜いた彼は、電融王とぶつかり合う。

 それを横目に、俺はシャークウガと共に上の階へと向かうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「反応が近付いてきてやがる……もうじきだぜ白銀耀!!」

「……ああ!」

 

 立ちはだかるディスペクターを蹴散らしながら、上へ上へと塔を進んでいく。

 螺旋階段を駆け上がる暇すら惜しい。

 俺は、飛行するシャークウガの背中に乗り、天井を彼の光弾で破壊しながら突き進んでいった。

 もうすぐ。もうすぐなんだ。アカリのいる場所へ、辿り着く──

 

 

 

 

「まさかと思うが──逃げられるって、思ってんのかよォォォーッッッ!! ああ!?」

 

 

 

 

 突如。

 これまでにない巨大な質量が、俺に組み掛かって来た。

 衝撃が襲い掛かり、俺は──シャークウガの背中から転げ落ちた。

 

 

 

「白銀耀ーッ!?」

 

 

 

 手を伸ばすシャークウガ。

 しかし、間に合わない。

 俺は巨大なクリーチャーに組み伏せられたまま、下の階へと突き落とされてしまうのだった。

 ……半分、自分がクリーチャーで助かったかもしれない。生身だったら死んでいた。

 

『マスター、ケガは!?』

「げほっ、がはっ……!! 何とか……だけど、何なんだよ一体……!?」

 

 砂煙が晴れる。

 そこに立っていたのは──桑原先輩。

 

「……ッ!」

 

 いや、違う。

 全身をボルトやナットが埋め込まれた、先輩の顔をした怪物だ。

 その小さな体を守るかのように、ビス止めされた鉄板で身を包んでいる。

 まるで──鎧のように。

 

「死にたくねえ、死にたくねえ!! 死にたくねえなあ!! オイ!! テメェら侵入者の所為で、俺達の生存権とか財産権だとかその他諸々がァ!! 侵害されちまってんじゃあねぇぇぇか、ああああ!?」

 

 喚き散らす怪物。

 そして、その背後に立っている大質量の正体も分かった。

 ディスペクターの、王だ。

 俺がまだ見ていない、新たなる王。

 それを、桑原先輩の顔のあいつが従えている。

 

「ッ……何なんだありゃあ」

 

 シャングリラと、ロマノフだ。

 所謂乗っただけ合体ってやつだが、周囲にはシャングリラのそれと思われるビットが跳び回っている。

 そして、ロマノフの魔銃もまた、シャングリラのそれと思しきパーツがビス止めされて接続されていた。

 

「権利だよ、権利!! この俺、()()()()()()この俺の権利を侵害してるってんだよ、テメェらはぁぁぁ!! ああ、怖ぇ、怖ぇよ、お前ら何なんだ!? 何なんだぁぁぁ!?」

「何言ってんだ……聞き取れねえ」

 

 桑原先輩の背後の巨大なクリーチャーの魔銃が俺に狙いを定める。

 早口で喚き散らしていて、最早何を言ってるのやらだ。

 分かってはいたが、対話できるような相手ではない。

 

「……何回やっても慣れるもんじゃねえな」

『マスター……此処で止まっている場合ではないでありますよ!』

「ああ!」

 

 

 

「待ちなさいよ、ザコザコ!!」

 

 

 

 その時だった。

 今までどこに隠れていたのか、エッ子がデッキケースから飛び出してくる。

 

「……お前、どうしたんだ!?」

「どうしたもこうしたもない! あいつ……ヤバい力を持ってる」

「ヤバい力? シャングリラはゼニスだからヤバいと言えばヤバいけど」

「……違う。それ以上に、もっとヤバいのを……隠し持ってる」

 

 怯えているのを押し隠すように、エッ子は手を伸ばす。

 

「だから……手を貸してやっても良いんだけど?」

「……なんだよ、助けてくれるのか?」

「……別にっ!」

 

 ぷい、とそっぽを向いてしまった。

 共闘しよう、というのか。

 願っても無いことだ。戦力は多いに越したことはない。

 だけど、仮にも相手は禁断。慎重にならなければならないだろう。

 

「1つ、お前に聴きたい」

「……?」

「お前のご主人様が、あいつらに奪われた時、どんな気持ちだった?」

「……」

 

 彼女は押し黙ると──言った。

 

「……胸が、キュッと締め付けられるみたいだった。もう戻って来ないって思ったら、辛くて、苦しかった」

「それが分かれば十分だ」

 

 俺は立ち上がり、彼女に向かって手を伸ばす。

 きっと。禁断というのは無垢な存在なのだろう。

 存在そのものが破壊的で衝動的なものなのだ。

 それを俺は身を以て味わったから分かる。アマツミカボシという存在も、きっとそうなのだ。

 だからと言って、他の誰かを傷つけて良い理由にはならない。

 

「お前らが今まで傷つけてきた人も、きっと──同じ気持ちだったんだよ」

「……っうう」

「俺は──お前達に思うことがないわけじゃねえよ。だけど、それはこの歴史の話じゃないからな」

 

 例え、違う歴史では敵だったとしても。

 この歴史では違うかもしれない。

 それは──クォーツライトの手を逃れたことで、誠実な好漢に成長したロードを見れば分かる。

 

「大事なヤツが奪われて辛い気持ち……俺もずっと味わってきたからさ。それが分かったなら──俺は、お前の手を取れる」

「……!」

『マスター、大丈夫なのでありますか!? 危ない匂いしかしないでありますよ!!』

「どっちみち、手段を選んでる場合じゃないみてーだからな!」

 

 迫りくる接続王。

 強敵を前に、目的が同じ二人が並ぶならやることは一つだ。

 俺は──迷いなくデッキケースを取り出す。

 

 

 

 

「いくぞッ!! 皇帝(エンペラー)!!」

 

 

 

<Wild……DrawⅣ……EMPEROR!!>

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……このまま待つべきか。流石に白銀耀無しでは無謀──いや」

 

 

 

 シャークウガは──耀を待つことなく、塔を進んでいた。

 きっと彼らならば、独力で此処まで来れると信じていたからだ。

 そして、決して賢いとは言えない単独行動に彼を駆り立てたのは──

 

 

 

「……アカリ様は今、非常に忙しいのです」

「こんなところまで、1人で来るなんて……よっぽど死にたいのね」

 

 

 

 

「成程なあッ!! こりゃあ大チャンス到来って奴じゃあねえか!!」

 

 

 

 ──自身の主と同じ力を持つディスペクター・縫合王を彼自身が感知したからだ。

 最早、シャークウガに迷いはなかった。

 戦力差は承知だ。他の王と比べても、縫合王の力は桁違いに強いことがひしひしと伝わってくる。

 無謀な戦いだ。

 しかし、そうだったとしても──

 

「……守護獣1体で何ができると言うのでしょう」

「テメェを俺様に釘付けにすることができる」

 

 自らのマスターと、その姉を半々に繋ぎ合わされた痛ましい怪物を前にして、シャークウガはあたかも自信たっぷりに言ってのけた。

 虚勢だった。

 腸が煮えくり返りそうだ、というサッヴァークの言葉の意味がよく分かる。

 白銀耀は、このような絶望と怒りがないまぜになった気持ちを何度味わったのだろうか。

 

「……ウザそうな鮫です」

「ふふっ、良いじゃない。少し遊んであげれば良い」

「そうですね。……少しいたぶってやりましょう。泣く間もないくらい、喰らい尽くしてやります」

 

 ──逃げることは、己のプライドに賭けて許さない。

 そして何より、それが己の主──紫月に対する忠誠の証明であった。

 

「……漢にゃ、やらねばいけねえ時が……ある!!」

 

 ぐっ、と彼は拳を握り締めた。

 一世一代の大勝負。出なければ、マスターに、そして白銀耀に見せる顔が無い。

 

 

 

 

 

「……そうだろ? マスター!!」

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