学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第12話:迷宮無しの迷宮決闘─サファリ帝国

 此処はブランの家。本人に似合わない和風の邸宅ではあるものの、門がついていたり枯山水の庭がついていたりと、かなり資金をかけたこと、そしてブランの家がそこそこ裕福である事は察するに容易かった。

 しかし。問題はその庭に全身すっぽりと身を包んだブチ柄の犬の着ぐるみを纏い、古ぼけて埃臭い犬小屋を首輪とリードで繋がれた哀れな犬が吠えていることであろう。

 言うまでも無いが俺の成れの果てであった。

 

「ガマンしてくだサーイ。これで犯人をおびき寄せるデース!」

「おびき寄せられるわけねぇだろ、このアホームズ!!」

「やってみないと分からないデショ! 私は食らいついたら離さないワ!」

「その食らいつく獲物が掛からねぇんだよ、何で分からねえんだ!」

「とにかく、このまま2時間くらい放置しとくのデ」

「オ、オイ!! ふざけんな!! オイ!! 紫月!! 助けてくれ!!」

「これも、人助けの一環だと思って諦めるのですよ、白銀先輩。ドッグフードあげますから、機嫌直してください」

「ざっけんな!! 喰わねえよ!」

「こんなので本当に上手くいくのか?」

「そう思いますよね、先輩!」

「だが、これ以外に方法が無いというならば……すまない、白銀」

「先輩ィィィーッ!!」

 

 叫ぶ俺であるが、非情にも手を振ってそのまま行ってしまう3人。

 結果、犬を演じることになってしまったのである。

 しかし、こんなふざけた手段に引っ掛かる犯人がいるだろうか。いや、いないだろう。絶対に。

 それに演じると言ったって、このままでは何もせずに無駄に2時間経ってしまうことになる。

 どうにかしてまずはこの首輪を外さねばと思ったが、この手では外すことは不可能。当然この格好ではまともに首輪も握れず、最悪文字通り自分で自分の首を絞めかねない。

 いっそこんな辱めを受けるくらいなら死んでしまおうかと思った。

 ――くそっ、何で俺がこんな目に……。

 しばらく顔を突っ伏していただろうか。最早ここまで来ると悲しさもなく、ぼーっとしていたが、ざっと足音がする。

 どうやら誰かが来たようだ。ブランの家の人だろうか。もうなりふり構わない、取り合えず首を上げると――

 

「ああ、首輪とリードに繋がれた哀れなペット!! 今すぐこの私がサファリ帝国に連れて行って、奴れ――じゃなかったフレンズにしてやろう!!」

 

 何者か――少なくとも俺の知らない誰かが目の前に立っていた。

 そして、その服もおかしい所が見受けられる。いや、形式としては正しいのだろうがこの二十一世紀の日本に順応しているとは言えない悪く言えば遅れた格好であった。

 かのナポレオンが被っていたような二角帽子に、ペン状の柄の鉞、そして軍服がそれを物語っている。

 しかし、着ぐるみの所為で相手の姿がよく視認できない耀は、震えながら相手の次の行動を待っていることしかできない。

 何なんだこいつ!! サファリ帝国って何だ、フレンズって何だ、どっかで聞いたことのあるフレーズ!!

 

「さて、まずはこの忌々しいリードを斬らなければならな――」

 

 そう言って一歩踏み出す曲者。

 次の瞬間――カチッ、と音が鳴ったかと思うと、足元から何かが飛び出して、相手ごと空中へ吊るし上げる。

 すぐさまビービービー!! と警報がやかましく鳴り響き、飛び出してくるブランと紫月に桑原先輩。

 

「やっぱりかかりましたネ!! さあ正体を見せなさい犯人!!」

「ふああ……眠いです、まさか本当にかかるなんて……」

「覚悟しろ。死に晒す準備は出来たか?」

 

 本当にびっくりである。

 リードをブランがすぐさま外して動きだけは自由になった俺は、すぐさま罠として仕掛けてあったと思しき捕縛用ネットにかかった犯人の姿を認めた――

 

「……」

 

 相手の顔を見た耀は思わず、他の3人の表情を見た。

 唖然としている。

 そして、俺も大方同じ心境であった。

 

「ク、クソッ!! おのれ!! こんな卑怯な手段で私を捕まえるとは!! 何て狡猾で奸計な人間どもめ!!」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 軍服を纏った一風変わった犯人の顔は、変わっているどころでは済まなかった。

 白い毛皮に両目の周りは黒い隈。

 そして、顔立ちも勿論人間のそれではなく、どちらかというと熊のものに近かった。

 即ち――パンダだった。何で。

 

「貴方が今回の犯人デスネ!!」

『おうおうおう、マスター!! 此奴、ワイルドカードでありますよ!!』

「おう、そうだな!! こんなアホな手に引っ掛かるクリーチャーがいるのもびっくりだけどな!!」

『此奴は《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》……ドリームメイトのクリーチャーだぜ』

「やれやれ、何の為にこんなことをしたのか……言い訳だけは聞いてやりましょう」

「そうだな。そしてその後で美しく血を抜いてやる」

「桑原先輩がブチ切れてるデース」

「俺もブチ切れてるぞ、どっかのヘボ探偵の所為でな」

 

 ぐぬぬ、と悔し気な表情を浮かべるとケンジ・パンダネルラ将軍は怒鳴った。

 

「ええい、うるさいぞ人間共!! 私は全ての動物を解放し、我がサファリ帝国にて皆平等のフレンズとなるのだ!!」

「意味分かんねーよ!!」

「お前も犬なら分かるはずだ!! 人間に芸を求められ、餌を与えられ、躾けられる野生のプライドもクソもない生活を――」

「犬じゃねーよ、いいかげん気付け、この馬鹿パンダ!!」

 

 耀は背中のファスナーを外そうとしたが、着ぐるみの手では上手く手が届かない。

 仕方なく、これを脱ぐのは諦めてクリーチャーと相対する。

 チョートッQが飛び出し、じろじろとクリーチャーを睨むなり、言った。

 

『むっ……? マスター! あれを見るであります!』

「オイお前、肝心な時にマスターを助けずに見捨てたな!!」

『ぐええ!! 首を絞めるのはやめるであります!! そんなことより、此奴からエリアフォースカードの反応がするでありますよ!』

『確かに俺様も奴からビンビン感じるぜ……エリアフォースカードの力をよォ!!』

「あ? マジかよ」

 

 俺はパンダネルラ将軍を睨む。

 なぜ、彼のようなワイルドカードがエリアフォースカードを持っているのか、甚だ疑問だ。

 

「オイオイ、てめぇ。何でンなモン持ってんだ?」

「くっ、おのれっ……クリーチャーの気配までするし、こうなったら――戦術的撤退!!」

 

 次の瞬間、網がザクン、ザクン、と音を立てて切れて四散する。

 そして、すぐさま空中に浮いて飛び立ってしまう。

 

「あ、逃げやがった!!」

「待て!! ミミィを返せ、この……パンダ野郎!!」

「何も思いつかなかったんですね」

「ともかく待つデース!」

 

 言ったブランがスリングショットを取り出して狙いを構えて間髪入れずに撃ちこむ。

 しかし、それはパンダネルラ将軍のマントに当たっただけで本人は気にも留めていないようだった。

 

『ちっ、逃げ足だけは速いでありますよ!』

「ははははは!! そんな豆鉄砲で私を落とせると思ったのか!! さらばだ!!」

 

 大仰な台詞を吐きながら、彼は青い空へ消えていく。

 耀は着ぐるみに身を包んだまま追いかけようとするが、あまりの苦しさにへばって地面に足をついてしまうのだった。

 

「くそっ、取り逃がしちまったじゃねえか! スリングショットなんか撃ってる暇あったのか!?」

『幾ら我々でも、あまり離れすぎるとクリーチャーを感知できないであります……』

「またクリーチャーか……本当に油断も隙もない奴だ」

「フ、フフフフ……」

 

 すると、犯人を取り逃したのにブランが奇妙な笑みを浮かべ始めた。

 

「どうしましたか、ブラン先輩」

「元々おかしい頭がもっとおかしくなっただけだろ」

「酷いデース!! そうじゃなくて……心配はありませんヨ。此処からプランBデス!」

 

 言った彼女はタブレットを取り出す。

 そこには、この街のマップが映し出されていた――

 

「こんなこともあろうかと……ってやつデス!」

「何ですか。赤いアイコンが、すごい速さで移動していますが」

「犯人の現在位置デース!」

「え!?」

「今撃った弾には、相手にくっついて場所を知らせる発信機を取り付けていたのデース! これもブランちゃんの狙撃力がなせる離れ業って奴デース!」

「すげーよお前、もう探偵やめてTVチャンピオンのパチンコ選手権に出ろよ!」

「ま、発信機は科学部に作って貰ったんデスけどネー。日頃から発表会を見てくれてるお礼だそうデ、試作品を作ってもらいマシタ」

「周囲との信頼がなせることだな」

「釈然としねえ……」

「とにかく、追いかけマス!」

 

 改めてブランの人脈の広さと狙撃技術の高さに驚く俺達。あの科学部も珍しくまともな発明をするんだな。

 ともあれ、これでパンダネルラ将軍が何処へ行ったのかを特定できる。

 直ちに俺達は逃げたクリーチャーを追う事にしたのであった。

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 タブレットに示された赤いマーカーはどんどん、建物を飛び越えて移動しているのが分かる。

 しかし、人間は建物を飛び越えて走るなど到底不可能。よって、相手の向かっている方向を元に最短ルートを進もうとすると、どうしても行き詰ってしまうのであった。

 おまけに、標的はあっちへ行ったかと思えばこっちへ行く……を繰り返し、決まった場所に留まる気配が見当たらない。

 

「くそっ、此処からじゃこの道には行かねえぞ!? また迂回していかねぇと……」

「このままでは、本当に逃げられてしまいますよ」

「いや、しかしペットを攫っていたというならば、当然それを隠している隠れ家が必要なはずなんじゃねーか」

「パンダネルラ将軍が言ってたサファリ帝国とやらが気になりますね」

「ミミィもそこにいるはずだ」

「でも、マーカーがぐるぐる回ってて、どこに行くのか……さっぱりデス」

 

 気が付けば、俺達は市街地の迷路に迷い込んだ。

 赤いマーカーは惑わすかのように町中を回っており、追いかけるのも億劫になってしまうほどだ。

 この間に、またペットを攫って集めていることが予想される。早く止めなければならない。

 

「……まずいデス……どうにかシテ、相手の動きを掴まないと……」

「発信機は付いてるから動きは分かるんだろうが……いつ気付かれて外されてもおかしくねぇよな……」

「ううう……」

 

 ブランは唸った。

 どうにかして、先手を打ちたい。

 このままでは、後手に回る対応を迫られるばかりだ。

 しかし、相手の行動すら読めないこの状況では、相手を追いかけるしか出来ないのだ。

 

「あっ……」

 

 紫月が糸が切れたような声を発した。

 

「先輩、アイコンが……」

「えっ」

 

 思わずタブレットをひったくる。

 そこには、もうアイコンは表示されてなかったのだ。つまり――もう、クリーチャーを追跡することは出来ない。

 先輩も、そして紫月の表情にも落胆の色が感じられた。

 

「そんな、これじゃあもう……」

「う、うう……でも、まだ何か方法が……」

「しかし、相手はかなりの速さで動き回ってますよ、どうするんですか」

 

 

 

「すまない、3人とも」

 

 

 

 桑原先輩が申し訳なさそうに言った。

 

「俺がこんなことを頼んだばっかりに……後輩に、迷惑をかけてしまったな」

「そんな! 先輩の、先輩のお姉さんの大事なペットじゃないすか! 何で謝る必要があるんですか!」

「白銀……相手がクリーチャーで、しかも一枚上手だった。もうすぐ暗くなるし、また探せばいいじゃないか」

「でも、桑原先輩の本心はそうではないはずです。一刻も早く、見つけてあげたいのではないですか」

「……そうだが……」

 

 ブランはやるせない気分になっただろう。

 完全に自分の見通しが甘かった所為だ。すぐにアジトへ一本道で帰るという予想が外れたがためにこんなことになってしまったのだ、と。

 

「どうしまショウ……このままじゃ……」

「しっかりしろよ、探偵!!」

「ひゃいっ!?」

 

 ブランの背中を叩く俺。

 こんなことでしょげてもらっちゃ困る。

 

「デ、デモ……こうなったら、どうすれば……」

「やれやれ、まさかこの後のこと考えてなかったのかよ」

「う、うぅ……面目ないデース……」

「んなもん、諦めなけりゃどーだってなるさ」

 

 俺は力強く言った。

 

「俺や紫月はな、現実にシャーロック・ホームズみてーな探偵はいねえっつーけど、お前がその1人目になったって良いだろ。夢だって、事件だって、諦めたらそこで終わりじゃねえか」

「ア、アカル……」

「そうですよ。ブラン先輩は、ちょっと頭がおかしいけど諦めの悪さだけは人一倍じゃないですか」

「地味に酷いデス! で、でも、このままじゃ……」

 

 

「……カメー」

 

 

 

 俺達は、話を止めた。

 

「何だ。変な声出すなよ紫月」

「私ではありませんよ、先輩」

「……おい、或瀬。テメェの足元になんかいるぞ」

「え?」

 

 ブランは言われた通りに、足元を覗き込む。

 そこには、今朝助けたあの小さな宝石──の亀の姿があった。

 何これ。おもちゃか?

 

「何だこいつ? 何か亀にしちゃ、甲羅がピカピカ光ってんな。クリーチャーか?」

『よく分からないでありますよ。クリーチャーにしては、魔力が弱すぎる気がするであります』

「今朝助けた亀デース!」

「え?」

 

 皆して素っ頓狂な声を上げた。

 しかし、これは本当に亀と言えるのだろうか。生物と言うには、色とりどりの宝石装飾という無機物的なパーツが多すぎる気がするし、かといって機械やおもちゃの類にしては動きが生物的だ。

 その亀は、ブランの靴下を引っ張っている。

 まるで、何処かへ連れて行こうと言わんばかりに。

 ブランは亀を手に取った。

 亀は、じたばたと手足をばたつかせている。そして、必死にブランの頭にしがみつこうとしていた。

 

「……何なんデスカネ、この亀」

「何か、ただの亀じゃねえ気がするけど」

「頭に乗りたがってるのではないですか?」

「亀デスヨ?」

「そういう亀もいるんじゃねーか」

 

 しばらくの沈黙の後、ブランはぽすん、と帽子の上に亀を乗せた。

 思ったよりも軽い。首は疲れない。

 だが、その直後であった。

 

「――!!」

 

 ブランの目の色が、変わったようだった。

 そして何かに気付いたようにして走り出す。

 

「こっちデス!!」

「ええ!?」

 

 俺が困惑するのも無視して、彼女はひたすらに走る。

 根拠も証拠も無い。しかし――そうではない何かが、彼女の心を突き動かしていたようだった。

 

「思いついたんデスヨ! サファリ帝国がありそうな場所を!」

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