学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR150話:空白のある世界

「あれっ……?」

 

 

 

 

 生きている。辛うじて。

 22枚のエリアフォースカードが周囲を取り囲んでいる。

 守ってくれたのだろうか。

 だけど──その1枚1枚全てが灰になって消えていく。

 

「っ……そんな」

 

 まるで役目を果たしたかのようだった。

 燃え尽きていくかのようだった。

 俺は──皇帝(エンペラー)のカードを手に取る。

 既にもう、灰になりかけていた。

 

「……マスター。時間でありますな」

「……っ」

「全ての力を彼らは使い果たしたのでありますよ。1000年前討ち滅ぼせなかった神を滅ぼすという使命を果たしたから……」

「そっか」

 

 彼らが自壊していく様を眺めながら、俺は首を縦に振った。

 寿命。その一言が相応しかった。

 形あるものはいずれ壊れる。

 本来ならば彼らはとっくの昔に作られたものだ。

 いつ壊れてもおかしくなかったのかもしれない。

 ただ、邪悪な神に利用されていただけ。

 

「……ありがとう、皇帝(エンペラー)

 

 俺は自らの手にしていたもう1枚。

 現代と未来、2枚の皇帝(エンペラー)を見やる。

 その2つが共に消えていく。

 ……そっか。俺も……終わりか。

 元々、チョートッQの力で繋ぎとめていた命だ。

 エリアフォースカードが役目を終えた今、俺も──役目を終えたってことか。

 

「……マスター、巻き込んでしまって悪かったでありますな」

「……これで終わりか? 俺も……」

「……分からないでありますが……こうでもしなければ、アメノホアカリは滅ぼせなかったでありますよ」

「だろうなあ、しぶとかったもんなあいつ」

 

 カラカラと笑ってみせる。

 ああ、ダメだったか。

 でも、歴史は──これで元に戻る。

 俺は何の為に戦ってきた? あいつらが笑ってられる世界を取り戻す為だろ。

 

「……あいつらが無事なら、俺は……」

 

 消えていく腕を、見ながら俺は呟いた。

 熱いものが込み上げて来ていた。

 気持ちは努めて穏やかだったが──それでもやり残したことはあまりにも多かった。

 まだ、ブランとバカみたいに事件を追いかけまわしたりしたかった。

 火廣金に謝って、何度でも、何度でもあいつとギリギリのデュエルがしたかった。

 紫月は──折角助けられたのにな。やっと、やっとあいつが生きていられる世界になったのにな。

 まだ、チューしかしてなかったな。

 

「……俺が居なくなったら、どうなるんだろーなあ」

 

 少なくとも。

 皆には──泣いてほしくないな、と思ったところで、じわりと涙が視界に浮かんだ。

 ウソだ。全部ウソ。

 泣いていてほしい。

 惜しまれるだけ惜しんでほしい。

 そうやってひとしきり惜しまれた後でも、俺の事を忘れて欲しくない。

 

「……そっか。嫌だなあ……消えるのは……やっぱ辛ぇわ」

 

 花梨が、ノゾム兄が、黒鳥さんが、桑原先輩が、翠月さんが──そして此処まで世話になった人たちの顔が浮かんでは消えていく。

 此処まで来るのにこんなに沢山の人に支えられてきたのに。

 

「あっ……」

 

 ふと、カード達が俺の前に現れては消えていく。

 これまで一緒に戦ってきたジョーカーズ達だ。

 

「……《ヤッタレマン》……《パーリ騎士》……《バーバーパパ》……《絶対音カーン》……」

 

 

「……《タイク・タイソンズ》……《ガチャダマン》……」

 

 

 

「《ジョニー》……《シルバー》……《ジョラゴン》……《モモキング》……」

 

 

 

 どれだけ長く戦っただろう。

 どれだけ多くのデッキを乗り換えてきただろう。

 戦いの数だけ共に闘ったカードもあった。

 そうか。まだ、デュエルしたかったんだ。

 俺はこいつらと……俺のカード達と、俺の仲間達と……。

 

「それなのに、これで終わりか」

「……我だって……もっとマスターと……一緒に、いたかったでありますよ」

「……泣いてんのかよ、ガラでもねえな相棒」

「そっちだって……人の事、言えないくせに……」

 

 そうか。 

 この命を賭けてでも、なんて……軽々しく言うもんじゃねえんだな。

 

「……さようなら、か」

「さようなら、でありますな。時間が来たでありますよ」

「……そうか。だけど俺は後悔してねえよ。お前は最高の相棒だ」

「……こっちもであります。最高のマスター」

 

 そこで、彼の声は消えた。

 ありがとう、隣でずっと戦ってくれて。

 

 

 

 

「あばよ、チョートッQ」

 

 

 

 

「……もう少しお前と、デュエマ部と……バカやってたかったな……」

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「……んぅ」

 

 

 

 

 目に刺さる光が眩しい。

 暗野紫月は──起き上がり、辺りを見回す。 

 人が行き交う何でもないギリシャの街並みが視界に入った。

 

「……此処は」

「どーやら……俺達ゃ助かったみてーだな……」

 

 シャークウガの声も聞こえてくる。

 思わず紫月は自らの身体を触る。

 縫い目は無かった。そこかしこに感じる違和感も無かった。

 全て、紛れもない自分の身体だ。元に戻っている。

 

「……どうやら、歴史が、元に戻ったみてーだ」

「ッ……! てっきり、あの場で死んだ私達は戻らないものかと」

「さあな。新世界の摂理ってやつに助けられたのかもしれねえ。少なくとも俺様ァ、覚えてんぞ。全部、全部な」

「……私もです」

 

 あの後。

 耀は歴史改変の要である龍魂珠の破壊に成功したのだろう。

 そして自分達は、こうして生きている。

 あの新世界での記憶を持ったまま──

 

「えっと……全部終わったんデス……?」

『世界を覆っていた神類種の気配が……無い』

「空の裂け目も消えてますっ!」

「どうなってやがんだぁ……?」

 

 ブランも。桑原も。そして──翠月もその場に居た。

 皆が不思議そうに首を傾げながら空を見やる。 

 そこには、禍々しく光っていたはずの裂け目は消えていた。

 

「……終わってしまったというのか。僕達の預かり知らぬところで、何もかもが……?」

 

 黒鳥は何も無い蒼空を前に溜息を吐く。

 

「では、誰が終わらせた……?」

「アカルが……アカルがやってくれたのデスよ!! きっと!! アカルが死んだなんてウソだったのデス!! アカルは生きてるのデスよ!!」

「先輩、生きてたのねっ!」

「じゃなきゃ説明がつかねえもんな! あの野郎、流石だぜッ!」

 

 

 

 

「……じゃあ、先輩は──何処に行ったのですか?」

 

 

 

 

 紫月は投げかけた。

 一気に歓喜のムードは静まる。

 幽世で死んだとされていた耀は今、何処に居るのか。

 それが誰にも分からないのだ。

 

「……シャークウガ。サッヴァーク。先輩の居場所が、皇帝(エンペラー)のカードの場所が……分かりますか?」

「……ッ!」

「……分からぬ」

 

 サッヴァークは一言、漏らした。

 

「……ワシも記憶が混線して分からぬ。一つ言えるのは、アメノホアカリを打倒したのが白銀耀であること──それだけじゃ」

「そんなことあるのデス!? サッヴァーク! アカルの皇帝(エンペラー)の場所は分からないのデス!?」

「だけどよ、分かんねえんだ。エリアフォースカードが消えちまって……何処にも無ェんだよ。反応、しねえ」

 

 シャークウガが困ったように言った。

 彼だけではない。

 他の守護獣達も皆、自らのエリアフォースカードすら感知できないのだという。

 アカリは倒された。歴史も元に戻った。

 ならば、エリアフォースカードも元の場所に戻っていてもおかしくはない。

 しかし──それが見つからないのである。

 

皇帝(エンペラー)だけではなく、全てのエリアフォースカードが消えてしまったというのか!?」

「何故!?」

「……ワシらはこうして残った。しかし、エリアフォースカードは……これ以上、自らが濫用されることを望まなかったのかもしれんのう……」

 

 呟いたのはサッヴァークだった。

 あくまでも憶測でしかない。

 しかし、消えたカードの行方は守護獣達にすら分からない。

 ──そうなると残るのは耀だ。

 

「先輩は!?」

「……」

「先輩は何処に行ったんですか!?」

「お、落ち着くデスよシヅク! エリアフォースカードが消えただけで、案外チョートッQと一緒にひょっこり出てくるかもしれないデスよ!」

「っ……何でそんな呑気なことが言えるんですか!」

 

 紫月はブランの肩を掴む。

 

「折角……全部終わったのに……先輩が、居ないだなんて……もし先輩に何かあったら、私……っ!」

「シヅク……」

 

 皆、何も言うことは出来なかった。

 この場には居ない耀の無事を誰もが願っていた。

 しかし、理屈ではなく感情の何処かでは、もう彼が戻って来ないような予感がしていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ハ、ハヤテ……」

「終わったんか……けほっ、けほっ」

 

 

 咳き込む矢継に「まだ喋ったらあかんよ!」と芽衣が止める。

 

「……なぁ、誰やろなあ。この空を守ったんは……」

「……誰やろうねえ」

「……」

 

 矢継は目を伏せた。

 とても息苦しく、そして嫌な予感がする。

 

 

 

(……あいつ……戻って来んとか言うんやあらへんやろなあ)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「……終わったの? 火廣金……」

 

 

 

 

 花梨が問いかける。

 京都の空は憎らしいほどに晴れ晴れとしていた。

 しかし。この嫌な沈黙の正体を、火廣金は悟りつつあった。

 そして花梨も言葉にせずともそれが何なのか察しつつあった。

 戻ってきていない。

 彼が──白銀耀が。

 

 

 

「……まさか。謝らせることすらさせてくれないと言うのではないだろうな? ……」

 

 

 

 火廣金はそこで、言葉を止めた。

 思い出せない。

 自分は誰に謝らなければならなかったのかが。

 

 

 

「ねえ、火廣金……どうしたの?」

「っ……」

 

 

 

 花梨に問われ、火廣金は何も返すことが出来なかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 何故かは分からない。

 憶測する事ならば誰でもできる。

 だが、虫の知らせというものは──時に残酷なまでに状況を言い当ててくる。

 耀がもう見つからないかもしれない、という予感だ。

 

 

 

 ──結論から言えば、白銀耀は見つからなかった。

 世界のどこを探しても、彼らしき人物は見当たらなかったのである。

 幽世の門は既にぴったりと閉じており、誰であっても立ち入ることは出来なかった。

 

 

 

 

 しかし──問題は、それだけではなかった。

 

「白銀……? 誰だよそいつ」

 

 3月の終わり頃。

 その教室で耀の席は無くなっていた。

 まるで白銀耀という存在が最初から居なかったかのように、彼らは振る舞った

 

「うちに息子は居りませんが……」

 

 白銀家を訪ねてもこの有様だ。

 耀を探すうちに、この奇妙な怪現象は世界全てに起こっていることに彼らは勘付きつつあった。

 そしてそれが、耀が神を滅ぼす代償であったことを悟りつつあった。

 人が人ではないものを倒すのは尋常ではないことだ。

 そして耀の事だ。彼が捨身でアカリに向かって行ったのは想像に難くなかった。

 

「きっと、己の存在そのものを……白銀のヤツは賭けたのかもしれねえ」

 

 そう言っていた桑原も、今では彼のことなど忘れてしまったかのように美大進学の準備を進めていた。

 

「……すまない。記憶が混線している。どうやら、忘れてしまったことがあるかもしれない」

 

 思わず紫月は手が出そうになった。

 あれだけ耀とぶつかり合って、心配をかけた火廣金でさえこの有様だ。

 耀のことは「忘れてしまったこと」で済ませられることだったのか、と。

 

「っ……何で、何で忘れられるんですか!? 火廣金先輩は、白銀先輩に謝らなければならないんでしょう!?」

「……すまない」

「すまないじゃ、ないですよ……!!」

 

 紫月は、部室に行かなくなった。

 それでも紫月は彼のいた証を探して、探して、探していた。

 ブランもそれに付き合ってくれた。

 しかし、それでも、何も見つからなかった。

 そして終いには──

 

「……白銀? シロガネって誰デス?」

「っ……」

 

 紫月は絶句した。

 先程まで、隣で一緒に耀を探していたブランが──何も知らないかのように言ってのけたことに。

 気付けば紫月は、ブランに掴みかかっていた。

 

「ひっ、人でなし極まるとはこの事ですっ!! ブラン先輩はっ、散々白銀先輩に助けてもらったのに! 忘れてしまったんですか!?」

「お、落ち着くデス、シヅク!! どうしたんデスか、いきなりっ」

「冗談なら、冗談ならタチが悪いですよ先輩ッ!! 私達あんなにっ、あんなに一緒だったじゃないですか!!」

「シヅク!! どうしたデス!? 痛いデスよ!!」

『やめんかっ!! 探偵に何をするッ!!』

「っ……!」

 

 そこで──紫月は振り上げようとした手を下ろす。 

 そして、何処か失望したように──「ごめんなさい」と告げるのだった。

 

「ぅっ、ぁあ、ああ……!!」

「……どうしたんデス、シヅク……? なんで、泣いてるのデス……?」

「私にも……分からない、ですよ……」

 

 自分もいずれ、こうなる。

 そうすれば楽になれるのだろうか。

 

「いやだ」

 

 彼女は否定した。

 例え楽になれたとしても。

 自分だけが覚えている今がどんなに辛かったとしても。

 彼だけは忘れたくはない。

 覚えていたい。

 

「シャークウガ……? 貴方は、先輩の事、覚えてますよね……?」

『正直、自信がねえよ……爺さんも、オウ禍武斗も、QXも、バルガも……皆、忘れちまった』

「なら、名前をッ……先輩の、名前だけでも──」

 

 ノートに彼の名前を書き殴ろうとして、紫月は気付いた。

 もう、彼の名前も覚えていないことに。

 抜け落ちてしまって、もう思い出せなかった。

 

「あっ、あああ!! 思い出して!! 思い出してよ……っ!!」

 

 彼女は己の頭を殴りつけた。痛いばかりで、何も蘇ってくることは無かった。

 

「好きだったのに!! あんなに大好きだったのに!! 名前をっ、名前を……そんな……!!」

 

 むしゃくしゃした気持ちで、やるせない気持ちで、そして許せない気持ちでペンをノートに突き立てる。

 思わずスマートフォンの画像を漁る。

 彼の写真を探す。

 だがもう、何処にも探している彼の顔は無かった。

 

「いやだ……忘れたく、ないっ……!!」

 

 そのうち、どんな顔を探していたのかも忘れた。

 

「忘れたく、ないのにぃっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……? 何で私、こんなに泣いてるんだっけ……?」 

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