学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR151話:卒業式

 ※※※

 

 

 

 

 ──誰かを忘れているような気がする。

 ずっと、ずっと遠い何処かに忘れているような気がする。

 私、暗野紫月は──ずっとそうやって、ぽっかりと心に穴が開いた状態で過ごして来た。

 

「……しづ、何をボーッとしてるの?」

「……みづ姉」

「今日は、()()()卒業式なんだから……ちゃんとしないと、ね?」

「……はい」

『主のいう通りである』

 

 ──最初の1年間は、本当に激動の1年間だった。

 だけど、それに比べれば後の2年間は本当に何も無かった。

 魔導司も、クリーチャーも、生活には干渉してこなかった。

 ブラン先輩と火廣金先輩の3人でのデュエマ部は、2年の終わり頃にあっさりと廃部になった。

 入部して来る者も誰も居ない。鶺鴒学園高校に残るのはもう私だけだ。

 今更他の誰かとつるむ気にもなれなかった。 

 別に悲しかったわけではない。辛かったわけでもない。

 形あるものがいつか無くなるように、デュエマ部もそうなるべくして無くなったんだと思う。

 ただ、強いて言うならば──誰かが帰ってくる場所が無くなってしまうような気がして、最初、私は酷く反対したのだと思う。

 だが実際無くなってしまえば、どうだろうか。別に世界が終わる訳ではない。

 私の世界はきっと、これからも、何処かにこの言い知れない空白を残して回っていく。

 みづ姉がいる。ブラン先輩がいる。ちょっとヘンな師匠がいる。火廣金先輩が、刀堂先輩が、桑原先輩がいる。

 そして、これまで握ってきたカード達がいてくれる。

 何も過不足なんてない。はずなのに。

 

(どうでもいいような……何かに飢えているような……)

 

 イチャイチャしている桑原先輩とみづ姉を見る度に、そんな思いに苛まれた。

 彼氏がほしいだけなら作ればいいじゃない、好きな人なんていないの? とみづ姉には問われた。

 そんな人はいない。

 何度か男子に告白もされたことがある。飾らない態度が好きになったのだと言われた。

 

(別に……それでも構わないのですけれど、私は)

 

 元より私は欲望の塊みたいな人間だ。刹那的な人間関係も悪くはないと思っている。

 でも、それを了承してしまえば、誰かが悲しみそうな気がしたのでやめた。

 別に誰であっても私の恋愛に口を出す権利なんてないのだけれど。

 誰であっても満たせない。

 例えどんなに激しいデュエルであっても埋められない。

 私の心は、あの戦いの後──空白が開いたままだ。

 

『なーマスター、機嫌悪いのどうにかしろよ、テメェの卒業式じゃねえかよー』

「別に」

『悪かったぜ謝るからよ、冷蔵庫のプリン食ったのは』

「やっぱりあなただったんですねっ!! いっぺん干します、やっぱり干します、このフカヒレ男ッ!!」

『やめて!! 伸びちゃう!! 身体が伸びちゃう!!』

「しづ! 卒業式に遅れちゃう!」

「あっ、待ってくださいみづ姉!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「シーヅクーッッッ!!」

 

 

 

 式が終わった後のことだった。

 だきーっ、とブラン先輩が勢いよく飛び込んできた。

 普通に危ないのでやめてほしいのですが。

 

「……先輩。落ち着いてくださいよ。たかが卒業式ですよ」

「たかが卒業式って何デース!? 私は後輩の日の出を目の当たりにしてカンドーで、ずびびびびびび」

『これ、やめんか探偵!! はしたない!!』

 

 サッヴァークの怒鳴り声が聞こえてきます。

 ……しばらく会ってなかったですが、二人とも変わりないようですね。

 あれからずっと、サッヴァークはブラン先輩の傍に居ます。

 もうすっかり、探偵と相棒が板についてしまったようです。

 ……まあ迷探偵なのは変わりませんが。

 って──

 

「ちょっ、鼻水と涙が制服につきます、やめてくださいっ!!」

「祝う気持ちは誰もが同じだ。今日くらいは大目に見てやれ、紫月」

「そーだぜェーッ、後輩の晴れの日なんだ。ちったぁ、ハメ外しても許してやるのが大人ってもんよ」

「一応外野なんですよこの人」

 

 現れたのは──私服姿の黒鳥さん、そして桑原先輩だった。

 QXは今日は居ない。

 あれから、エリアフォースカードから完全に開放された守護獣の動向はそれぞれでした。

 世界を見て回りたかったのか、自由に跳び回れるようになった身体で彼らは皆何処かへと行ったのです。

 QXは桑原先輩から離れ、今も何処かを自由に飛び回っているのでしょう。

 ……かつての桑原先輩の相棒・ゲイルが出来なかったことを、やり遂げるかのように。

 

「なんつーか……あの戦いの後、ずぅーっと何にもなかったからな」

「……ああ。神とエリアフォースカードが消え去った後……この2年間、クリーチャーは現れていない。貴様等が何事もなく、こうして平和に卒業式を迎えられているのが嬉しい」

「あら。師匠にしては随分と素直じゃない」

「悪かったな」

「とにかくとにかくっ!! この後、全員でスイーツパーティーに行きまショウ!」

『これ、程々にせんとまた太るぞ探偵よ』

「刀堂先輩や火廣金先輩も来ればいいのに……」

「後で来るー、みたいなこと言ってたわよ?」

「忙しいからな、魔導司は」

「カリンも最近、武者修行から日本に戻ってきたみたいデスからねー」

「え? あの人何なの? 武者修行って何の武者修行なの? 住んでる世界が1人だけ違うわよね?」

 

 刀堂先輩に突っ込みを入れるのは最早ヤボでしょう……。

 大学に進学したものの、春休みになった途端「あたしは世界の剣豪に会いに行く!!」とバイト代はたいて旅だったらしいですから。

 バルガはその護衛ですね。きっと彼女に何かあっても彼がいるなら大丈夫でしょう。

 いや、そもそも刀堂先輩に護衛なんか要らないんじゃないですかね。その……本人の頑強さ加減を加味すると……。

 

「とにかくっ! スイーツバイキングは決定、なのデース!!」

「やれやれ、先輩は……まあ私も賛成ですけど」

「流石シヅク!」

 

 

 

 

「……先輩?」

 

 

 

 ふと、振り向いたその場所に。

 一陣の風が吹いていたように見えた。

 なぜか涙があふれてくる。

 あんなに大事だったはずなのに。あんなに一緒に居たはずなのに。

 忘れてはいけないものな気がするのに。

 ……デュエマ部は、ずっと私と、ブラン先輩と、火廣金先輩の3人で……。

 

「バイキングの後はーっ、デュエマ大会やるデスよーっ!」

「フン、今回という今回は俺の優勝確定だなァ、何故ならこの日のために黒鳥さんと特訓してきたんだからよォ!!」

「もう桑原先輩ったら。そんなこといってたら、また一回戦オチですよ?」

「遊興とはいえ、そもそも勝つのは僕だろう。貴様に負ける未来が見えん」

「なぁーっ!? 黒鳥さん!?」

「フフンッ、私だって……今日は負けないようにしてきたんデスよ! 例えばジョーカーズの対策に──」

「? ジョーカーズなんて、誰が使うんだよ?」

「……アレ?」

 

 ブラン先輩は首をかしげて言いました。

 ジョーカーズ。

 私達の中で誰も使っていない種族の名前。

 

「やっぱり、私達……何か、忘れてるんですよ。2年前の……あの日から」

「……2年前のことなんざ、もう思い出したくもねーけどな」

「気が付けばすべてが終わり、魔導司の手が入って全てが元に戻っていた。此処に居る全員も、何らかの記憶処理を施されたのやもしれんが……」

「その時に何か見落としてるものがあっても、おかしくはないと思うのデスけれど」

「……しづ?」

「……私、ちょっと急用が出来たのでっ!」

「シヅク!?」

 

 忘れてはいけない人がいた。

 ずっと一緒にいたいと誓った人がいた。

 きっとそうだと確信できる。

 そうでなければ、この心の空白は説明のしようがない。

 走って、走って、走り回って。

 廊下を。

 屋上を。

 プールを。

 そして──もう、誰も使っていなかった、かつての部室の中を。

 

「……あの後、部は廃部になって……」

 

 扉を開く。

 鍵はかかっていなかった。

 もしかしたら、という期待が──少しだけ過った。

 

「ッ……!」

 

 

 

 

「……久しいな、暗野」

 

 

 

 ……何処か、安堵と安心を私は覚えていた。

 火廣金先輩が──もう部室ではない空き教室の机の上に座っていた。

 

「……久しぶり、です。火廣金先輩」

「ああ。本当に久しぶりだ」

「……先輩は何故ここに?」

「ふと、懐かしいものを思い出してな。最後に見てみたくなったのさ」

「……」

「何か、思い悩んだような顔だ」

「先輩。私……2年前のあの日々のことを、ハッキリと思い出せないんです」

 

 ワイルドカード、魔導司、ロード、そして──神類種との戦い。

 それらは今となっては記憶がごちゃごちゃになって思い出せない事の方が多い。

 きっと辛かったことの方が多い。

 思い出したくないこともある。

 だけど同時に、忘れてはいけないことだってあるはずだった。

 それなのに私は、私達は──忘れている。

 

「世の中には忘れた方が良いこともある。君は普通の世界で生きていくんだ。戦場帰りの兵士のように、戻れなくなる」

「……それでも。それでも──思い出さなきゃ、いけないことがある気がするんです」

「……」

「そこまで来てるか」

「……?」

「いや、いい。何も問題はない。俺の方から……出来ることは、最早無いからな」

 

 彼は踵を返すと、手を振った。

 

「思い出したくない事を無理に思い出す必要はない。しかし、君の中で引っ掛かっていることがあるとするならば、それは間違いなく君の中で大事なモノだ。気の済むまで探せ」

「……」

「まあ、忘れるくらいのモノなら大したものではないと……かつて言われた。だが、俺はそうは思わない。俺に出来る事は、君達が平和に過ごすのを見守ることだ。結果的に何も起きなくて良かったがな」

 

 そう言って、彼は窓の外へと出ていった。

 きっと、ブラン先輩たちのところへ行くのだろう。

 でも、私はそこへ合流する気にはなれなかった。

 

 忘れちゃ、いけなかった。

 

 あの日、私を部室に連れてきたのが誰だったのか。

 

 今までデュエマ部を引っ張ってきたのは誰だったのか。

 

 

 

 

 

「……なのに……思い、出せない……!!」

 

 

 

 

 

 学校を飛び出して、走って走って走り回った。

 慣れない走り方をした所為で息が上がって胸が苦しい。

 喉が詰まるようだ。

 もう泣いてしまいたい。

 だけど、何も見つからない。

 私の空白は何だろう。

 私の空白は何処に落ちているのだろう。

 私に欠けたものは何なのだろう。

 

『なあマスター、もう行かねえと皆が心配してんぜ?』

「分かってます! 分かってますけど……っ!」

『ガンコだなあ……ん』

 

 シャークウガは何かに気付いたようだった。

 商店街の裏路地。

 そこには──大きな文字の看板が掛けられていた。

 いつも通りかかるのに一度も見たことが無い看板。

 私は文字を読み上げた。

 

 

 

「……かぁどしょっぷ……れとろ?」 

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