学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR152話:むかしむかし

 「かあどしょっぷ・れとろ」。いかにも昭和っぽいフォントで大きく書かれた店の名前らしき平仮名の下にはTCG(デュエル・マスターズ)専門と書かれていた。

 あんな店あったかな? と俺は看板に近づく。いつも早足で家に帰るので気付かなかったのかもしれない。

 

「これはこれは、懐かしい顔だ」

「……」

「いらっしゃい」

 

 店主なのだろうか。

 腰の曲がったおじいさんがしゃがれた声で出迎える。

 店の中は小綺麗になっており、あちこちにシングルで売られているカードがぶら下げられていた。

 

「……貴方は?」

「ただの──しがない老店主だよ」

『なんつーか狭くてホコリっぽい店だな、こんなところあったかあ?』

「ほっほっ、相変わらず口が達者だ」

『んげぇっ!? 爺さん俺の声が分かんのかよ!?』

「何故、君は此処に来た?」

 

 疑問を挟む間もなく、店主は私に問いかけた。

 分からない。分かるはずもない。

 私は自分の探しているものすら分からないのだから。

 

「分からないから迷い込んだのかもしれないです」

「そうかい。まあ……きっとそれは大事なものを探してるって顔だね」

「……随分とあなたは嬉しそうに言うのですね」

「ああ。長年探していたものが……見つかったからね」

「?」

 

 老人は私の目をすっと見つめると言った。

 

「これは、作り話だ。ほんの作り話なんだがね。ある少年は、大好きだった女の子に……好意を伝えず仕舞いで死なせてしまった」

「……」

「勿論、死なせたくなかった。必死に頑張った。だけど……結局、運命は変えられなかった」

「それは……」

「少年は失意のまま、何十年も生きて、生きて、生き続けた。そして、一世一代のあらゆる力を使って、タイムマシンを作り上げた。ゼロからでいい。この結末を変えたかった」

 

 ぽりぽり、と老人は髪を掻いていった。

 

「だけど、少し失敗してしまってね。老人は、この世界では居ないものとして扱われることになった。タイムパラドックスとか、そういった問題が、まだ解決出来なかったんだ」

「居ないもの、ですか」

「外れてしまったんだよ。人としての理を。時間のルールを捻じ曲げたバチが当たったんだろうね」

『なんだろうな、どっかで聞いたような話だな……思い出せねえけど』

「だから、老人は──全ての記憶を消した自分の相棒をこの時代に送り込んだ。大好きな女の子を……今度こそ助ける為にね。まあ信じられないような話だがね」

「私は──信じますよ。信じられないかもしれないけど、タイムマシンとか……見てきましたから」

 

 他人事のような気がしなかった。

 目の前の老人は、何かを知っている。

 このまま話を聞けば、探しているものが分かる気がした。

 

「その……女の子は、どんな子だったんですか」

「ハッハッハ! ……ワガママで、人見知りで……ぐうたらで、おまけに憎たらしいほど可愛いかったから、強く怒ることもできない」

 

 最悪だ。

 正直、私にそっくりだ。

 可愛いのかはさておき、自分にブッ刺さるところがいくつかあるのだけども。

 

「……そんな人を、どうして好きになったんですか……女の趣味が悪いとしか言いようがありません」

「決まってるじゃないか。……誰よりも芯が強くて、誰よりも……自由だったから、だろうね」

「……自由?」

「そして、やっぱり可愛かったからじゃないかなあ。男だからね……単純なんだよ。ある種、一目惚れだったんじゃないかなあ」

「そ、そうなんですか……?」

「絶対その子の前では面と向かって言わないだろうけどねえ。真面目だから、一目惚れなんて信じてなかったんだよ。今思うとバカだなあ」

 

 さっさと思いを伝えれば良かったのにね、と老人は続けた。

 

「……何故、私にその話をしたのですか?」

「うん、そっくりだったからかなあ。生き写しで、記憶の中のままだ。それに……今まで誰にも言えず、辛かったんだ」

『へえ、とんだ偶然もあるもんだな。マスターみてーなのがこの世に二人としているもんじゃねえって思ってたけどよ』

「ちょっとどういう意味ですか」

「さて。ねぇちゃんは……何か今、欲しいものはあるかい?」

「欲しいもの──?」

 

 何ですかそれ。

 悪魔の誘惑みたいだ。

 ……でも、大体ほしいカードは買いきってしまったし。

 

「心の空白。忘れていると気付いているけど、思い出せないものがあるんです」

「……」

「この2年間、ずっと私は……それに気を取られていました。何をしても、どうやっても何かが足りないんです。忘れちゃいけないことのはずなのに、忘れてる。私は……どうすれば」

「きっと──その人は、君にそれだけの影響力を与えたことを嬉しく思ってるよ」

「……!」

「そうだね……忘れたくても忘れられない。例え忘れたとしても、忘れられない。それだけ大きいものなんだね」

 

 そうだ。

 きっと、やはりそうなんだ。

 思い出せないけど、それだけ大きなものなんだ。大事なものなんだ。

 

「きっとその人は時間を超えても、世界を超えてでも君のところにやってくるよ」

「何で、知ってるんですか? 何で、分かってるみたいに言うんですか?」

「……さあ。男のカンってやつだよ」

 

 その時だった。

 一瞬だけ──周囲の空間が歪む。

 

 

 

 

「……時間だ。仲間が待っているだろう? 行きなさい」

「待って! 待ってください! 貴方は、一体──」

「……それだけ大事ならきっと、思い出せるよ。きっと……ね」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「……あの格好……高校を、卒業出来たのか……」

 

 

 

 紫月が居なくなった後。

 老人は、ほうと天井に向かって息を吐いた。

 満足したように彼は頷く。

 もう、何もやり残したことは無かった。

 

 

「それを見届けられれば……すべてが上手く行ったと分かる……おめでとう、紫月……」

 

 

『本当に、世話を焼くマスターでありますっ!!』

 

 

 

「……!」

 

 

 

 何処からともなく、甲高い声が聞こえてくる。

 ようやく、迎えが来たようだった。

 

「ふっふふ、オマエには……随分無茶をさせてしまったね。しかし、よくここに辿り着けたね……そんな姿に、なってしまって……」

『……ここまで辿り着くのには、時間がかかったであります』

「……そうかい。そうか……」

『それにしても、本当にマスターはクリーチャー使いが荒いでありますよ! 幾ら()()()()()()()でも、記憶を消されちゃあ、たまったもんじゃないでありますよ!』

「ハハハすまなかった。いきなり未来から来たと言っても、彼は信じなかっただろうからね。一芝居打ってでも君を渡す必要があった。歴史に歪みが生じていたからね……手を打たねばならなかった。朱莉を一人にしてしまったのは……後悔してるがね」

『マスター……』

「その罰は……しっかりと受けるよ」

『罰はもう受けたでありましょう、マスターは。ずっと、このタイムマシンの中で1人だったであります。生きているか、死んでいるかも分からない状態だったのでありますから』

 

 店内のカードが消えていく。

 その全てが、幻だったかのように。

 後に残るのは旧式の操作パネルと──仲間達の映った写真だけだった。

 

「……それで? こっちの俺はどうだった」

『何にも、変わらないであります。何にも、変わらないでありますよ。だから……上手く行ったであります』

「そうか」

『……マスター。眠そうでありますな? 人が折角話をしてるというのに!』

「お前もそうだろう? 後は……全部任せてやれる。そう思ったら、力が抜けてしまってね」

『うむ。全部……彼らに任せればイイであります。最期まで……心の臓として、マスターと戦えた。それだけで十分であります』

「……」

『マスター……? ……はぁ、本当に人の話を聞かないでありますなあ』

 

『本当に……マスターは……我が居ないと、ダメダメでありますよ。全く、もう……困ったマスターであります』

 

『……我も……ひと眠りするであります。お供、するでありますよ……』

 

 

 

()()()()……。我のもう1人のマスターは……きっと……』 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……結局。分からなかった」

 

 

 

 帰路についた後。

 私はブラン先輩のところへ向かっていた。

 もう、あの裏路地に「かぁどしょっぷ・れとろ」は無かった。

 一体何だったのだろう。

 

『胡散臭ェじいさんだったなぁ』

「その割にはシャークウガ、警戒を解いていたみたいですが」

『ああ。なんか……懐かしい感じのじいさんだったんだよ』

「そうですか。……私の中にある空白って何なのでしょうね?」

『あのな、どんなヤツでも他人の頭の中覗けるわけじゃねえんだからよ、そんなの分かるわけねえじゃねえか』

「貴方の力でどうにかならないんですか?」

『ならねーよ、魔術師(マジシャン)はもう無いし、大気中のマナも薄いどころじゃねえんだ。もう力は使えねえよ』

「……忘れちゃいけないはずなのに。忘れたく、ないのに……」

 

 ぼろ、ぼろぼろ、と熱いものが目から込み上げてくる。

 何故だろう。

 何故、こんなに胸が熱くなるのだろう。

 

「っ……何で、こんなに……」

『おい、泣くなよ……マスター』

「分からない。分からないんですよ……!」

 

 誰か。

 誰か助けてくれないのだろうか。

 こんなに苦しくなるくらいならば──いっそ、完全に忘れてしまえばよかったのに。

 それさえも許してくれないのだろう。

 

「私に欠けているもの……私を、誰よりも熱くさせてくれた人……」

 

 

 

 

 

 

『……マスター!! 8時の方向から高濃度の魔力反応ッ!!』

「ッ!?」

 

 

 

 

 その時だった。

 シャークウガが絶叫し、私はその場を飛び退く。

 周囲の空間が歪んでいる。

 この場にはほかには誰も居ない。私とシャークウガだけだ。

 しかし、それ故に孤軍。他の誰の助けも借りることは出来ない。

 すぐさま虚空に罅が入り、砕け散る。

 もう現れないと思っていたクリーチャー。

 ワイルドカードか、それとも神類種か。

 2年前に経験した恐怖が、そして脅威の記憶がよみがえる。 

 獣の如き咆哮と共に、それは現れた。

 

「ッ……シャークウガ!! あれは……!」

『なんだありゃ……ドラゴンだ!?』

 

 全身を鎧に包んだ鬼の如き形相の龍。

 その両手には刀が握られている。

 そして、こちらを威嚇するかのように睨み付けている──

 

「《勝熱英雄モモキング》……ッ!? 何で、こんなところに……!?」

『どちらにせよどうにかしなきゃいけねえだろ!?』

「ッ……!」

 

 身構える。

 久々だがうまくやれるだろうか。

 否、自分達がやらなければ、周囲に被害が及ぶ。

 モモキングは強力なクリーチャーだ。そしてワイルドカードであるならば、それが元々善良な設定のクリーチャーであっても敵対は免れない。

 

「……私が……守るんです。絶対に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わりーわりー、ちょっと帰ってくるのに時間かかっちまったみてーだ」

 

 

 一陣の風が吹く。

 まるで、何事も無かったかのように彼は言ってのけた。

 モモキングの肩に──誰かが乗っている。

 

「あっ……!」

 

 その顔を。

 その声を聞いた途端に。

 私の空白は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ただいま」            

 

 

 

 

   

  

 ──パズルのピースのように、ぴったりと埋まったのだった。         

 

 

 

 

 

「っ……遅いですよ……先輩……白銀、先輩っ……!!」

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