学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
辿り着いたのは、数年前に廃棄された廃工場であった。
立ち入り禁止の札が掛かっており、扉も硬く閉じられている――が、しかし。
何故か、その扉が僅かに開いている。その奥からは、最早チョートッQやシャークウガでさえ震える程の魔力の波が漏れ出ていたのだった。
「……ビンゴ、みてーだな」
「本当に見つかるとは思いませんでした……」
「ア、アハハ……いや、それほどでも」
「そうと決まれば、カチ込みだ!! ミミィ、待ってろ!! 姉貴、待ってろ!! 今俺が助けに行くぞ!!」
「調べてみる価値はありそうですね」
「ま、待てよ、中ぜってー暗いぜ? 灯りとか良いのかよ」
『いや、中を見るでありますよ』
見れば、明かりが仄かに差し込んでいるのが見える。
立ち入り禁止のロープを越えて、桑原はそのまま扉に手をかけて駆け込んでいく。
それに続くようにして、3人も走っていった。
扉が大きく開かれ、そこに飛び込んで来た光景は異様なものであった。
「……って何だこりゃあああ!?」
叫んだのは耀だ。
工場の内装は、大方予想していた廃れて鉄と油の匂いに塗れ、冷たい空気と硬い床に覆われた空間ではなかった。
踏みしめているのは、硬くはあるが間違いなく土。
そして、そこからは背の低い草が沢山生えている。
見上げれば、天井があるはずだがそれはなく、吹き抜けた空がそこにはあった。
そして、乾いた暑いこの気候。一言で言うならば、それはサバンナであった。
「いや、というか……何というか、これ……すっげー見たことあるんだけど、俺の気の所為? ドッタンバッタン大騒ぎな予感しかしねえっつーか」
「妙ですね……私達は幻でも見せられているのでしょうか」
『いーや、これこそがクリーチャーの展開した結界でありますよ!』
「取り合えず、中を探索しまショウ! 中に、捕まえられたペットがいるかもしれまセン!」
「ミミィ!! ミミィは何処に行ったんだ!?」
「よく来たな、諸君!!」
上空から声が響く。
そこには、待ち構えていたのかケンジ・パンダネルラ将軍が得物を振り上げて浮かんでいた。
間髪入れずにブランが叫ぶ。
「やっと追い詰めたデース! わざわざ自分から出てくるなんて、間抜けも良いところデスネ! さっさと、皆のペットを返しなサイ!」
「口の利き方を知らんようだな、人間! このサファリ帝国では、この私がルール!」
パチン、とパンダネルラ将軍が指を鳴らした。
「無礼者には然るべき罰を与えんとなァ!!」
「!」
どさっ、と何かが落ちるような音がする。
4人が振り返ると、既に開いていたはずの扉は無くなっていた。
その代わり――幾つもの異形の影がそこには降り立っており。
「このサバンナ地方で
そういうと、消え去ってしまうパンダネルラ将軍。
現れたのは、《早食い王 リンパオ》に《大冒犬ヤッタルワン》、《ジェネラル・クワガタン》とドリームメイトにビークル・ビーのクリーチャー。
更に、後からどんどん増えてくる。
その気配を感じ取ったからか、震えたのはチョートッQだった。
『こ、これは……っ!』
「トークンか!?」
『否、全員ワイルドカードでありますよ! 取り付いている媒体は……皆、恐らく人間ではなく動物であります!』
「んなっ!?」
これだけの数が全て、ワイルドカードだというのか。
シャークウガはパンダネルラ将軍を睨みつける。
『成程な、やっと読めたぜ……攫った動物は皆、自分の配下のクリーチャーの憑代にしてたってことか』
「やれやれ……毎度のことながら、吐き気がするド外道ですね」
クリーチャー達を流し見ると、紫月がクリーチャーの群れに立ちはだかる。
「先輩方は先へ行ってください。雑魚相手なら、この私は負けはしません」
「待て。俺も戦うぞ、紫月」
進み出たのは桑原もだった。
「もしかすると、この中にミミィがいるかもしれんからな。それに、俺はエリアフォースカードを持っていない。お前とでなければ戦えん」
「では、お願いします、桑原先輩」
「よし、それじゃあ頼んだぜ、紫月!」
「任せるデース!」
こうして、現れたクリーチャーの群れを紫月と桑原に任せて、ブランと耀は安全そうな場所まで走っていくのだった。
※※※
「つっても、どうするんだよ……!?」
広大なサバンナの地形。どこまで行っても景色は同じだ。
肝心のパンダネルラ将軍は何処まで逃げていったのか、それが問題である。
再び行き詰った。
当ても無ければ、道しるべもない道をずっとぐるぐるしているこの状態。
だが、もうブランは光を失わなかった。
「私はもう、諦めないデスよ。必ず、活路はあるはずデス! 私は探偵デスから!」
「やっとらしくなってきたじゃねーか」
「……ひひっ、そうデスね。そういえばアカル。あの時も――」
「おい、思い出してる場合か。探すぞ」
「照れないでくだサイ」
「照れてねーよ! アホか!」
迷宮の中に迷い込んだようなこの状況。
だが、それでもブランは笑みを浮かべてみせる。まだ、活路はあるはずだ。
思考を必死に張り巡らせる中――彼女の頭に乗っかっている亀が甲高く鳴いた。
そして、再びブランが何かに気付いたようだった。
「こっちデス!」
「!? 何でだ!?」
「とにかく、こっちデス!」
ぐいぐい、と引っ張るように言うブラン。
どうも彼女はさっきから様子が変だ、と俺は感付いていた。
「おいおいブラン、どうしたんだよ。さっきから、一体……」
若干言い淀んだようだったが、ブランは思い切っていった。
「実は……この亀を頭に乗せてると、何処に行けば良いのか分かるのデス……」
「嘘だろ!?」
『となると、その亀……やはり只の亀じゃないでありますよ』
「ああ……何てすげぇ亀だ」
「待ってくだサーイ! ブランちゃんが超能力を会得したという可能性ハ!?」
「ぜってーありえねぇ」
『天地がひっくり返ってもないでありますよ』
「ガッデム!!」
亀を手に取る。
宝石のような甲羅を持つ亀。
チョートッQ曰く、クリーチャーにしては魔力が少なすぎるとのことだったが、やはり只の亀ではないのは間違いないようだった。
「とにかく、何も手掛かりはないデスシ、この子を頼るしかないデス!」
「そうだな。頼むぜ、亀太郎。あの独裁者パンダの居場所を教えてくれ!」
「お願いしマス!」
ぽすん、と再び亀を頭に乗せたブラン。
「地形が……見えマス。この工場の中が、本当はどうなってるのか、私達がどう進めば良いのか!」
「マジかよ。これはいけるかもしれねえな」
「こっちデス!」
「ああ、早速行くか!」
※※※
「……馬鹿な。この場所がバレた?」
結界は、本来見えないものを無理矢理つぎはぎしているものだとチョートッQは言う。
故に、間違った道を進むと実際は延々と同じ場所をぐるぐる回り続けるだけになるというのだ。しかし、謎の亀のおかげで正解となる一本道が示される。
廃工場の最深部に当たる場所には、逃げ込んだパンダネルラ将軍の姿があった。
「もう、幻影は通用しないデスよ! パンダネルラ将軍!」
「ちぃ……」
「おーい、ところでよ、パンダネルラ。お前が持ってるエリアフォースカードについて聞きてえことがあるんだけど」
「何?」
俺は続けた。
「此奴は質問だぜ。どこでそいつを手に入れたんだ?」
「はっ、教えてやるか――あの件はあまりにも愉快だったからな!」
パンダネルラ将軍は不敵に笑った。
「数日前の事だ。とあるクリーチャーが、ある人間をデュエルで伸した後に偶然私は通りかかった。人間の方はさっさと逃げてしまうような腰抜け、その後には物凄い力を持つエリアフォースカード! 此奴を持っておくだけで、多くのクリーチャーが我が配下になったというわけよ!」
「っ……俺達以外にも、エリアフォースカードを持ってる奴が……!?」
「考えられないことはないデスネ……」
「質問はもう終わりか? 答えてやったのは――お前たちがここで終わりだからだがな!!」
パンダネルラ将軍はパチン、と指を鳴らす。
次の瞬間、再びドリームメイト軍団が現れた。
「皆の者、やってしまえ!」
「わりーけど、お前の言ってるサファリ帝国は、ただのディストピアだ。んな幻想は、俺がぶち壊して――」
そう言ってデッキに手を掛けたその時だった。
耀は異物をデッキケースに認めた。そういえば、妙に腰が重いと思ったら――
「!?」
亀だ。
さっきの亀がデッキケースに潜り込んでいるのである。
「お、オイ!! この亀、何やってんだ!! ブラン、どうしたんだよコイツ!」
「い、いや、その……いきなり、耀のデッキケース目掛けてjumpしてデスネ……」
「アグレッシブな亀だなオイ!」
そう言ってデッキケースから亀を引っこ抜く。
その口には――エリアフォースカードが咥えられていた。
「え……?」
「――カメー」
亀は空中に浮きあがる。
そして次の瞬間、その姿は一気に大きくなる。
俺は弾き飛ばされて、地面に落とされた。
いてぇ!! やっぱりこのサバンナ、ガワだけで地面はしっかり床じゃねえか!!
って、それどころじゃない。
亀が巨大になっていく。
俺のエリアフォースカードから力を受け取り、それを吸うかのように――
『……やっとこの姿に戻れたわい』
――その場に、顕現した。
一言で言うならば、巨大な亀であった。しかし、宙に浮いている上にその甲羅は目が回るような迷路となっている。
頭や足からは水晶が連なって生えており、尻尾には砂時計が巻きつけられていた。
「な、これって、《大迷宮亀ワンダータートル》じゃねえか!? あの亀、やっぱりクリーチャーだったのか!?」
それは、メタリカの超大型クリーチャー。
俺もカードで見たことがある。
「っ……!」
慌てる俺に感嘆を隠せないブラン。
そして、パンダネルラ将軍は戦慄を隠せない表情で叫んだ。
「き、貴様は……! クリーチャーだったのか!」
『ふん、どうもワシはマスターには恵まれん。前のマスターも、ワシらを使いこなせずにすぐ見捨ておったわ。おまけに、通りかかったお前にエリアフォースカードを取られる始末! だが、この少女に出会ったから、ワシは人間に失望せずに済んだのじゃわい』
ちらり、とワンダータートルはブランを見た。
『鶴の恩返しという昔話がこの世界にはある……亀の恩返しがあっても、ええじゃろ』
「あっ……!」
助けた、というのは今朝ひっくり返っていたのを起こした時のことだろう。
ブランからすればたいしたことではなかったかもしれないが、魔力を失って只の亀に成り下がっていたワンダータートルからすれば、どんなに助かったか想像に難くない。
『助けられた恩義はきっちり返す。それに、お前のような心が真っ直ぐな人間は久々だ……小娘。ワシはお前なら新たな主に選んでもええと思っているぞ』
「……小娘じゃありませんヨ。私は――」
ブランは力強く叫ぶように、言い放つ。
「探偵・或瀬ブラン、デス!」
次の瞬間、ワンダータートルは俺のエリアフォースカードと共に40枚のデッキの束になる。
『ふっ、契約成立じゃな、探偵よ!』
彼が止める間もなく、それはブランの手に収まり、彼女はすかさずパンダネルラ将軍に突き付けた。
「ぬう、おのれ! 邪魔ばかりしてからに!」
「追いかけっこは此処で終わりデス!」
光が迸り、両者を包み込む。
一部始終を見届けた後、俺は呟くように言った。
「……ブランさん、それ俺のエリアフォースカード……」
『マスター、どうするでありますか? コレ……』
目の前に群がっているドリームメイトとビークル・ビーの軍団を見回しながら――
「……死ぬんでねーの? 俺ら」