学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「現に数学分野への疎さは、俺の弱点の一つだったからな」
「ノゾムサンはうってつけだったんデスね」
一番の近道はその短所を潰してくれる相手だったのだ。
正直、辛酸に塗れた道ではあったが……何てことは無い。
「全力であいつがぶつかってきてくれるんだ。俺が相応しい自分にならなきゃ、失礼だろ?」
「貴様。僕達の事を忘れているな?」
「勿論、黒鳥さん、そしてブランにも勝つ」
「……私達だけついでみたいになってないデス?」
「そんな事はねぇけど……紫月に同じ戦術は絶対に通用しないからな」
「……? そうなんデス?」
「ほう?」
「ああ。ノゾム兄と、出場者の特徴を研究したんだ。俺だって、あいつのCSに付き合って一緒に行ってたけど……その時は漠然とただ”知識が沢山あって強い”って感想しか持ってなかった」
ま、此処では敢えて詳しくは言うまい。
一応全員が大会参加者なわけだしな。
「特に今回の大会は、ちーと特殊ルールだからな。とっておきをぶつけてやるぜ」
「その”とっておき”とやら、付け焼刃ではないようだな」
「勿論! ……アレ? そういや紫月は?」
目が温タオルで塞がっていたので気付かなかったが、声が聞こえない。
この場にはブランと黒鳥さんしかいないようだ。
「部屋で最終調整だろう。貴様の姿を見て、何か思う所があったんじゃないか?」
「ふーん、シヅクったら、さっきまで落ち込──むぐぐ」
「とにかく。貴様は試合に備えていれば良い。僕達の全員が、何時貴様と当たっても恥ずかしくないように鍛えてきたのだ。……そこの駄探偵は知らんが」
「ムガーッ!! 失礼極まるデスよ!!」
※※※
「……耀君……」
──漸く以前の彼が戻って来たような気がした。
きっと。きっと、自分が想像している以上の彼と戦う出来る。これ以上の喜びがあるだろうか?
「マスター、顔が緩んでんぞ」
「……緩んでないです」
「カーッ、マスターよォ、俺が居ねえ時はそんな感じなのかよ。惚気んじゃねーぞ」
「惚気ませんよ。ただ──食べ頃になったなって」
この少女の勝負にかける執念は、尋常ではないものだ。
ただ己の中の全てを賭して相手をぶつける。それだけの事に、命を燃やす事さえできる少女なのだ、と再確認させられる。
(その相手が──今まで己の力を誰かを守ることにしか振るってこなかった白銀耀だろーしなあ、楽しみなんだろなあ)
「しっかし随分と焚きつけたな?」
「先輩が乗り気でないなら、それまででした」
しかし。
耀の心はデュエル・マスターズから離れてなどいない。
彼の燻った心を再び燃え上がらせるためには、あの命懸けのデュエルなどとは無縁の新たな目標が必要だと紫月は考えていた。
「とはいえ、あそこまで再燃するとは……」
「いっつもは控えめなくせによ、今回は余程自信があるみてーだな、あの男。やつれちゃいたが、笑ってたぞ」
「無意識に私達のような競技勢を雲の上の存在だと思っているようですが……先輩のデュエル・タクティクスは本物です。恐らく、それを私達にぶつけても恥じないものに昇華させてきたのでしょう」
ぞくぞくっ、と紫月は武者震いが止まらない。
漸く、本気の彼と戦う事が出来る。
それも、恐らく自分が知らない領域に達したであろう耀と。
「景気づけにコーラでも買いに行きましょう。……デッキの調整をするには糖分があまりにも足りません」
「いつか太るぞ……」
「乙女は太りませんよ」
※※※
「売店があるはずなので、そこで買い込みましょう。行きますよ」
「ふぁーい」
ロビーに出る紫月。
耀達の姿はもう無かった。
一抹の残念さを感じつつも、コーラを買い込み、部屋に戻ろうとした時だった。
待ち構えていたように、その男は姿を現した。
「──おっとぉ? キミはぁ……ババロアCS優勝の暗野紫月ちゃんじゃねーのォ?」
紫月は足を止めた。
髪を金に染めた背の高い男だ。
一瞬誰だったか分からなかったが、すぐに思い出したように紫月はその名を呼んだ。
……正直、あまり好ましくない部類の男であったことは確かであるが、今回の大会の参加者の一人だ。
「……貴方は確か……イチエンさん、でしたか。プロプレイヤーの」
「せいかぁーい、オレっちイチエン。前のCSでは準優勝当たったよね? 覚えてる?」
「はぁ、そうでしたっけ」
顔だけは良い伊達男といった印象しかなかった。
その上、あっさりと勝ってしまったので、紫月は彼のことなど覚えてはいなかったのである。やけに馴れ馴れしかったような気がするが、今もそうだ。
「ぐっ……ところでさあ、何いっぱい買ってんの? コーラ?」
「分かってるなら聞く必要ありましたか?」
「好きなんだ? コーラ。オレっちも好きなんだよね、もしかしてオレたちって相性良いかもね?」
(ンだコイツ……ナンパか? マスターに気安く近付きやがって)
シャークウガは無言で氷の剣を作ろうとするが、紫月が手で制した。
クリーチャーの力をむやみに一般人に振るうべきではないし、この程度は簡単にあしらえると言いたいのだろう。
「オレっちさぁ、お金いっぱい持ってんだよね。知ってるっしょ? オレが投資に成功してたり、後ろにカドショのスポンサーが付いてるの」
「……知ってますよ。何かと黒い噂が絶えない事も」
思いつくだけでも枚挙にいとまがない。
投資と本人は言っているが、大体が情報教材とガンプラ転売で儲けた金だ。
スポンサーのカードショップは先日、関係者が賭けデュエルで検挙されたばかりの上に、スタッフの無給労働など何かと黒い噂が絶えない。
そんな会社をスポンサーにしているような男がロクなプレイヤーであるはずもなかったのである。
「紫月ちゃん、カレシいるんだっけ?」
「ああ、居ますが──それが何か?」
「ちょっと調べたんだけどさあ、学生なんだっけ? カレシ」
「はぁ?」
何処の掲示板で掴んできた情報なのだろう。
耀はそもそも今、学生ですらない。
……書き連ねると余計にアレだが、本人も好きで学校に通っていないわけではないのだ。
「オレっちの方がカレシよりお金持ちだよ? デートとか、もっと良い所に連れていってもらえるとか思わない?」
「……興味ないですね」
「オレっちさぁ、紫月ちゃんのそういう簡単に靡かない所とか好きだなあ……後、おっぱい大きい所とかさ」
「はぁ……」
無神経過ぎて逆に潔いくらいだ。
恋愛工学なんてものがあることは紫月も理解しているが、こんなのに靡く女は余程見る眼が無い。
「何でも買ってあげるよ? オレ……高いカードも、ブランド品だってさ。貧乏くさい学生のカレシなんか捨てて、オレと遊ぼうよ」
(やれやれ、CSに耀君が頑なに着いて来てた理由が分かりましたよ……こういう露骨なゲスは居るものですね)
「──女の子ってお金大好きっしょ?」
「?」
ニヤリ、とクオンは笑みを浮かべる。
札束をちらつかせながら、つかつかと紫月に詰め寄る。
その瞳には、何処か執着や狂気が滲んでいた。
その手には札束が握られている。
「金。金金金金!! 紫月ちゃんもお金大好きっしょ? だからオレはお金持ちになったってわけ。投資だって成功したしね。人生長いし、真実の愛なんかよりお金の方が大事さね。ハゲでもブスでもお金を持ってる力の強い男に、女は付いていく生き物なんだよ」
ぺちぺち、と札束で紫月の頬を軽く叩きながら、イチエンは続けた。
「いつもカレシにどれくらい出してもらってんの? オレ、その倍は出すよ? ──オレにしとけって、紫月ちゃん。一目見た時から、欲しいって思ってたんだよね」
(……うわぁ、何でいつもこんなのに集られるんでしょう。こいつの子孫、あのバックーニョじゃないですよね?)
あの不気味なマフィアのボスが脳裏に映る。
しかし──彼女は気丈に言ってのける。
「貢ぎたいなら、一生風俗嬢に貢いでおけばいいでしょう」
「あ?」
「残念ですが、汚い金で飲むコーラ程マズいものはありません。お帰り願います。プロの称号と、
「こいつ……なら、無理矢理分からせて──」
(あーあ、ちーと痛い目見せてやるか、このバカ)
シャークウガが見兼ねて再び氷の剣を作ろうとし──即座にそれを引っ込めた。
「──俺の彼女に、何やってんスか?」
──白銀耀が激情を押し殺した顔でイチエンの肩を掴んでいた。