学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
イチエンは、その顔を見るなりつぅ、と頬に汗が伝った。
人を殺した事がありそうな目だった。
肩は万力のような力で握られており、目は大きく開かれ、口は一文字に結ばれている。
とはいえ、イチエンは耀の事を知らない。知らない男がナンパに割り込んできたようにしか見えていない。
「おいおいカッケーな兄ちゃん、楽しくお話してただけだぜ? それより何? カレシも一緒の船とか聞いてないけど? 有り得なくね? 此処には関係者と参加者しかいねーんだからさ」
「質問に答えてほしーんだけど、俺の彼女に何しようとしてた?」
「つか、何処の馬の骨だオイ──見た事ねえぞオマエみたいなヤツ、今回の大会、無名のプレイヤーが紛れてるって聞いてたがオメーか? 訳分かんねえことしてると、金の力で潰すぞ」
「……」
さぁっ、とイチエンの顔から血の気が引いた。
結局、どう粋がっても小物からは脱することが出来ないのだった。
幾つも修羅場を潜って来た猛者も同然の白銀耀に凄まれて、
「オイ、オイオイ、女の子を助けようと思って咄嗟にウソ吐いたんだろーけどよ? 人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて地獄に落ちるって言うぜ!?」
「ウソだとしてもだぜ。札束持って女の子に迫る輩には言われたかねえな」
「……ぐぅ、分かった! 分かったから! 好きにしやがれってんだ! ケッ、ツイてねえぜ」
耀の手を振り払うと、イチエンはつかつかと立ち去って行った。
「オメーは潰す!! 絶対明日の試合で!!」
捨て台詞まで小物なのだった。
それを見届けると、耀はすぐさま紫月に駆け寄った。
「大丈夫だったか!? あいつに嫌な事されなかったか!?」
「別に大したことないです。シャークウガ居ますし」
「なら良かったけど……って良くねえよ! 俺は気が気でねぇっつーの! 大体、何であんなのがプロに居るんだ……」
「全く度し難いでござるな! 某が成敗してやるでござるよ!」
ポン、と飛び出たモモキングが刀を構えたので、それは仕舞わせた。
本音を言えば刺してほしかったくらいであるが流石に気が咎めた。
「スポンサーが腐っているとプレイヤーも腐っているものですよ」
「そういうもんなのか……」
「あんな奴なんて放っておけばいつか自滅します。だから、何てことありません」
「ま、シャークウガも居るし、ちょっと差し出がましかったかな」
彼女は目を伏せた。
そして、耀の言ったことを否定するように首を横に振る。
「……その、助けてくれたのは、嬉しかったです……耀君」
「紫月……」
「あの……その、でも。明日は敵同士ですから」
「分かってるよ。明日が楽しみだな」
ぱぁっ、と紫月が顔を輝かせる。
「コホンコホン、俺様居るんだけどな一応」
「あっ……」
「すまねえシャークウガ」
「すまねえ、じゃねえよ! ケッ! もう二度とお守りなんてやってやんねーぜ!」
拗ねてしまった彼は、一足先に紫月の部屋へと帰ってしまったのだった。
※※※
「チッ、金に靡かねえ女なんて居るはずねぇさ、今に見てやがれ、すぐに寝取ってズブズブにしてやるよ……」
「おめでとうございまァァァーす!!」
「あ!? ……確かあんたは、ONIの」
「ジョン・ドゥ、ですねェェェェェェーッ!!」
「うっわうるさ」
部屋に戻る手前、イチエンを待ち構えていたのは──ジョン・ドゥその人だった。
そう言えばこいつは、船に居なかったよな、と一抹の疑問を抱きつつも、イライラを隠せないイチエンは彼を突き飛ばして部屋に戻ろうとする。
「オレっち今は機嫌が悪ィんだ、明日にしてくれねーかぁ?」
「そうはいきません。貴方は参加者で、私は運営側。指示に従って貰わなければ困ります」
「チッ……手短に済ませろよ」
「青峰 壱円……金に執着する理由は、大学時代の彼女を実業家に奪われたから……ですねェ?」
「イ”ッ……!!」
殺意に満ちた目に変わるイチエン。
それは、心の奥底に踏み込まれたくない地雷そのもの。
ある種の己の原点であった。
(ごめんねぇー、だって……カレの方がお金いっぱい持ってるし……ブランド品もいっぱい買ってくれるし)
(……カードに使う金を回したってプレゼント買うお金も足りないとか、どうしようもないでしょ。カレ、今度は車買ってくれるんだよねー)
「その日から貴方は金に盲目的に執着するようになり、人の心が金で動くと考えるようになった……」
「テメ、何処でそれを……ッ!! 殺すぞッ……!!」
「くっくっ……それ以来、金で女を釣っては飽きたら捨てるの繰り返し……そんな事をしたところで、貴方が彼女を寝取られるような
「殺すッ……殺すッ……テメェは殺すッ……!!」
「だから、力をあげるんですよ。貴方に餓鬼道から抜けるだけの力をね」
「殺すッ!!」
血走って掴みかかるイチエンに──
「貴方のような欲望に塗れた男は、鬼に相応しい──」
どすっ
──ジョンは、何処からともなく取り出した槍を突き立てた。
「はっ……!?」
何かが──背中を貫き、腹を突き破っていることに気が付いた時、激痛が迸る。
イチエンは声をあげようとしたが、背後から口をふさがれてしまう。
「もがっ、もが、もがぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
※※※
「……サッヴァーク。私、この大会……やっぱり嫌な予感がするデスよ」
「ヌシも感じたか……」
「私が強くなったのは、大会で勝ちたいから……それもあるけど」
ベッドの上でブランは手を伸ばす。
アメノホアカリとの戦いのとき、自分は何も出来なかった。
耀はたった1人で戦い、孤独のまま心を擦り減らし、そして──勝利した果てに2年も知らぬ空間を彷徨うことになった。
ブランはこの大会への不信感がどうしても払拭出来ない。それゆえ、自分が此処に来れた事を好都合と捉えていた。
何があっても、どう転んでも、自分の立場は──変わらない。真実を暴き、仲間を守る事だ。
「なまじ守護獣が居るから、あの二人は何かあったら真っ先に無茶苦茶するデス! だから……私が、二人を守るんデス!!」
「ワシも可能な限り協力しよう。新たな力、存分にふるってやろうぞ」
※※※
「……ヒナタ。待っているが良い」
窓を見つめる黒鳥は、唯一のライバルの顔を思い浮かべる。
アメリカのリーグ戦でも好成績を叩きだす正真正銘の名選手。
一方の黒鳥は、長らくデュエルから離れており、今となっては只の元・プレイヤーでしかなかった。
「一度戦う事をやめた僕は……新しい仲間達にもう一度戦う勇気を貰ったよ。今度は僕が……あいつらに勇姿を見せてやるんだ」
彼の目には──決戦の舞台となるネオエデン島が映っていた。
もうすぐ、船は目的地へ到着する。
待ち望んでいた決戦が、始まろうとしていた。
「──今日こそが、貴様の絶頂期の最期だ」
※※※
「……ONIが何考えてるかなんて知ったこっちゃねーけど」
「つえーやつが……集まってんだろーな?」
「……ま、退屈する心配はねぇよな。そうだろ──レン」
※※※
「──今回、彼らを此処に集めたのは他でもない。彼らが私の見込んだ”デュエルの鬼”達だからだ」
──南国の孤島、ネオエデン・アイランド。
その中央に作られた特設ステージで、高らかに演説をする男が居た。
その名はデモーニオ・エティケッタ。このONI・トーナメントを取り仕切る男であった。
そこに観客は居ない。
しかし、特設カメラで撮影されており、インターネットでこの中継を見ている全世界の人間が観客となっている。
「優勝者には──我が社が保有する幻のカード《Black Lotus》が献上される」
現れたのは黒い蓮が描かれたカード。
知る人ぞ知る、世界で最も希少とされるカードの一つだ。それを目当てで参加を希望したいと願うプレイヤーだって多いはずだ。
売れば巨額の富を手に入れることが出来るとされる希少品だからである。
しかし、そんなものはオマケだと言わんばかりにデモーニオは続けた。
「この場に居る全員はこんなものに興味など無いだろう? 欲しいのは頂点の座!! 強さの極みのみ!! そんなデュエルの鬼を選抜したつもりだッ!! 他の全てを喰い尽くし、頂点に立つデュエルの鬼を、私は見たいッ!! 有名である者が強いとは限らない。だが、
そこに歓声は無くとも、インターネットの海は盛況を見せていた。
「人間は鬼だ──弱きを喰らう鬼だ。今宵、この8人の中から此処に新たな鬼が誕生するのだッ!!」
ゲートが開く。
そこから──8人の選ばれし選手たちが現れるのだった。
「期待のカリスマデュエリスト、Youtuberにしてプロプレイヤー!! 青峰
「職業は”探偵”!? 実力もミステリアス、謎に包まれたホームズフリーク──或瀬ブラン!!」
「生ける城壁!! 鉄壁の守りならこの男、フランスリーグ優勝の”不死身の聖域”ローラン・デュランダル!!」
「無名にして無銘!? 伝説を作りにやってきた!! 白銀耀!!」
「カードの声が聞こえる!? 青森育ちのスピリチュアル少女!!
「無限大通りのコンボの鬼、IQは150!? 次期プロ入り間違いなしか!? 超天才少女・暗野紫月!!」
「伝説の闇使い!! 世界はお前の復活を待ち望んでいた!! ”漆黒の美学”黒鳥レン!!」
「──そして、今最も勢いのあるプロプレイヤー!! アメリカの伝説、世界の”晴天太陽”──暁ヒナタ!!」