学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ネットは大盛況だな……」
「きゃーっ! しづーっ!! がーんばってーっ!!」
「あっ、耀達だ! もーう、火廣金のヤツも見に来ればいいのに……」
──暗野宅。
そこには、この日の試合を観戦するべく集ったメンバーが押しかけていた。
翠月に桑原、花梨。そして──ノゾムの姿があった。
「テメーら兄妹まで来るとか聞いてねえんだけどな、刀堂兄の方」
「良いじゃねえかよ、桑原ァ。こちとら可愛い弟子の晴れ舞台だぜ、テンションが上がるってもんよ。ま、オレ天才だし? 耀もバチバチに仕上がってるもんよな」
「よく言う……白銀の奴、バテてたぜ」
「お兄、加減を知らないからさー」
「バカ言え。オレァ天才だぜ? 疲労具合、習熟速度、全てを計算して管理してたからな。当然この2週間、あいつが何食ったか、何時に起きて何時に寝たかも把握してる」
「え、気持ち悪……」
「トレーニングってのは、科学的に、効率的にやるってもんよな」
得意気にノゾムは言ってのける。
それ自体は正しいのであるが、それを全て実行できるのは類稀なる精神力の持ち主だけだ。
(ったく、バケモンの後輩はバケモンか……)
今ネットに映っている黒鳥レン、暁ヒナタ、そして──隣にいる刀堂ノゾム。
この3人はかつて、チーム戦で世界一になったこともあるほどの実力者だ。
よくヒナタとレンが引き合いに出されがちだが、この場に居るノゾムも決して実力では劣らない。
否、むしろ──なまじヒナタの事を分析できている分、真っ当に彼に対抗できる数少ない人物とまで黒鳥は言っていた。
(しかも天才だから手に負えねえよなあ……)
加えて。
退院して事件が終わったのち、ノゾムは生来のお調子者な面が戻って来た。
祖父がアルカクラウンに殺されて以来、一切本当の笑顔を見せなかった彼だったが、漸く素の姿を周囲に見せられるようになったのである。
結果、自意識過剰で自信過剰な自他共に認める天才が出来上がってしまったのであるが。
「ねえお兄ー、このトーナメントって他にはないルールがあるって聞いたんだけど」
「使用デッキに特殊なルールがあってな」
「と言うと?」
「大会開始前にデッキシートを3枚提出しなきゃいけねえ。つまり手持ちのデッキは3つで、しかも一度使ったデッキは使えなくなる」
「更に提出する3つのデッキで、カードの被りが起こってはいけない……だったか?」
「その通り」
にぃ、とノゾムは笑みを浮かべてみせる。
例えば、3つのデッキのうち、1つのデッキで《メンデルスゾーン》を使う場合、残りのデッキに《メンデルスゾーン》は入れることが出来ないのである。
つまり、プレイヤーが所持するのは全く違うデッキ3つということになり、複数のデッキに跨ぐような汎用パーツの使用は制限されるも同然だ。
「──そんなわけで普通の大会以上にメタ読みが困難な環境ってこった。誰が何を使ってもおかしくねえんだよ」
「普段以上にカードへの知識も求められるわけだね……」
「お、そろそろ始まるぞ。このカメラからだと出場者の顔がよーく見えるぜ」
「あのー……」
ふと、翠月が画面を指差した。
「──この、イチエンって選手の顔色、すっごく悪くないですか……?」
「特殊メイクじゃねーか? コイツ、目立ちたがりのインフルエンサーって聞くぜ、金髪だし」
このイチエンという男の悪評については、ノゾムもよく知っていた。
プロプレイヤーでありながら、本人もスポンサー企業も悪評が絶えない。
今日も今日とて、顔に青い化粧を塗ったくって目立とうとでもいうのだろうか──と考えた所でノゾムはもう1度画面を見た。
(いやこれメイクじゃなくね?)
「具合が悪かったから、こんな所に立ってないで棄権してるでしょフツー」
「そうだそうだ、ちょっと今日は肌を青くしたい気分だったのかもしれねえぞ」
「そうでしょうか……」
「いや、何かオレ違う気がしてきたんだけど……」
頼む。嫌な予感は嫌な予感のままであってくれ、とノゾムは願うのだった。
『それでは選手たちには東西南北、4つのデュエルエリアに入って貰い、そこで対戦してもらいます!!』
4つのデュエルエリアはホログラムで景色が映し出されており、そこにクリーチャーも投影されるようだ。
見ると、耀はイチエンと浜辺を模したような部屋に。
紫月はローラン・デュランダルと城塞のような部屋に。
ブランはニコロと森のような部屋に。
そして──黒鳥は、暁ヒナタと共に火山の景色を映し出した部屋へと入っていく。
「早速黒鳥さんとヒナタさんのマッチアップですか!?」
「こりゃ見ものだな……!」
『それでは──始め!!』
※※※
「──むふふっ! 青森育ちの私には、カードの声が聞こえるのですっ! 青森の深い深い山の中で培ったイタコ式決闘殺法の前に倒れるのですっ!」
「ぜってーインチキデスよ、それ……」
──第一回戦。東の間。
そこで相まみえるは、神巫ニコロと──或瀬ブラン。
その場には、ドラゴニック・フィールドの《龍世界~龍の降臨する地~》が展開されている。
「ふむふむ、ニコロには聞こえるのですっ! 《龍世界》の効果で次に捲られるカードは──《紅に染まりし者「王牙」》なのですよっ! というわけで《「王牙」》をバトルゾーンへ!」
「本当に呼び出したデスッ!?」
イタコのような姿をした少女・ニコロ。
彼女が早速呼び出したのは、《紅に染まりし者「王牙」》。
攻撃時に更にドラゴンを追加で呼び出すクリーチャーだ。
「落ち着け探偵、あの少女……捲る前に薄っすらカードの裏をチラ見しておったわい」
「じゃあインチキじゃないデスかーっ!」
「人聞きが悪いのですよっ! そのまま、《「王牙」》で攻撃する時、ガチンコ・ジャッジに勝利したので──《ブラキオ龍樹》をバトルゾーンへ!」
「追加でドラゴンが……!?」
「コイツの効果で、もう貴女はクリーチャーの場に出た時の能力を使えないのですっ! 私のカード達は言っているのですっ! 私の勝利は近い、ってね!」
ブランのシールドが2枚、叩き割られる。
この状況ではクリーチャーのS・トリガーは意味を成さない。
しかし──呪文ならば使う事が出来る。
ブランは好機をむざむざ逃すことはしない。
「呪文、《サイバー・チューン》デス! 効果で手札を3枚引いて、2枚を墓地へ!」
「ぷっすす!! 結局私のドラゴンを退かせていないのですっ!! ニコロはこれでターン終了なのですよっ!」
場には《「王牙」》と《ブラキオ龍樹》の2体が佇んでいる。
シールドは残り3枚。次のターンを渡せば、削り切られてしまうだろう。
しかし──
「……成程。確かにロック効果は強烈デス。デモ──場にクリーチャーを出さなければ、問題ない……デスよね?」
彼女は1枚のマナをタップする。
それが、全てを終わらせる切札であることを突きつけるために。
「墓地の闇のクリーチャーを進化元に──《死神術士 デスマーチ》を墓地進化!!」
「えっ!? あっ──」
流石に全てを察したのか、ニコロの目が点になる。
ブランの墓地には、先の《サイバー・チューン》で落とした切札が眠っていた。
「呪文、《龍脈術 落城の計》! その効果で、場のコスト6以下のカード――《デスマーチ》を手札に戻すデス!! 《デスマーチ》を剥がして──Devolution!!」
ブランの背後に──あまりにも強大すぎる魔神が現れる。
本来ならば有り得ぬ龍と精霊、悪魔の交わった化身。
それが、ヴェールを脱ぐかのように、そして最初からそこに居たかのように君臨する。
「──《竜魔神王バルカディア・NEX》!!」
墓地退化。
或瀬ブランが最初に手にした戦術。
その極みの先に──《バルカディア・NEX》は立っていた。
「《バルカディア》で攻撃する時、効果発動!! 《ブラキオ龍樹》を破壊するデス!!」
その魔神の前では、存在するべきでないものは消し飛ばされる。
「そして、《バルカディア・NEX》のもう1つの効果!! デッキからカモン!! 《禁断竜王 Vol-Val-8》!!」
その魔神の前では、如何なる願いさえも叶えられる。
現れた《Vol-Val-8》はただちにバトルゾーンにズブズブと潜行し、如何なる追手も受け付けなくなる。
「《バルカディア・NEX》で──ワールド・ブレイク!!」
「G・ストライク!! S・トリガー……ダ、ダメだ、止められないのですっ!?」
「にひっ。どうやら聞こえなかったみたいデスね! 私のカードの声まではっ!」
吼えるキメラ。
電融の龍王が吼える時、訪れるのは確定された勝利の道のみ。
「こんなの、託宣で聞いていないのです──ッ!!」
「──《禁断竜王 Vol-Val-8》で、ダイレクトアタック、デェェェース!!」
──東の間。勝者、或瀬ブラン。
※※※
──欧州最強クラスのデュエリストのローランは、今まで跳ね除けられなかった攻撃は無い。
彼の《ヘブンズ・ゲート》から現れるブロッカー軍団を破れたものは居ない。
生ける城壁とはまさに彼の事。生半可な攻撃など受け付けない。
人は彼を「聖域の決闘者」と呼んだ。「不死身の英雄」と呼んだ。
伝説のシャルルマーニュ十二勇士になぞらえて、彼を「ローラン・デュランダル」と呼んだ──
「暗野紫月と言ったな? この不滅の防御力を前に──屈するが良い、小娘ッ!!」
「ではループ証明に入ります」
「はい」
──最も、ループの前ではブロッカーなど無力だったのであるが。
西の間。勝者、暗野紫月。
※※※
「おおお!! 西の間と東の間で、紫月とブランが勝ったぞ!!」
「ブランも頑張ってたからね……何とか準決勝に進めて良かったよ」
「紫月の方は……まあ当然っちゃ当然か。ローランは相手が悪かったな」
デッキの相性が悪すぎた。
紫月が使用したのは青単ムートピア。
大量の呪文を連打して、無限ループで圧殺するデッキである。
そんなものに防御系デッキが敵うわけが無かった。
「さて問題は耀と……レン先輩か」
ノゾムは残る試合の様子を見守る。
「でもこれ、師匠……勝ってませんか?」
翠月が盤面を指差す。
否、それどころかどちらが優勢かなどは素人が見ても分かる。
黒鳥の背後には、樹海獄の主が太陽を覆い隠さんとばかりに顕現していた。
「……どうだか。試合は最後まで分からんぜ。ヒナタ先輩……マジで強いからな」
※※※
「……やれやれ、久々に会うなりよー、これは冗談キツいぜレン」
「言葉など要らない。僕達のやり取りなど、死合うのみで十分だろうよ」
「だとしてもよ、普通積もる話とかあるんじゃねーか? ノゾムから色々聞いてるけど、大変だったらしいじゃねえか」
「無いな。僕と貴様の間には闘争のみが横たわる」
「変わらねえな──いや、最後に会った頃より、ギラギラしてるんじゃねえか?」
──北の間、4ターン目。
黒鳥レンVS暁ヒナタ。
ヒナタの場には──クリーチャーは居ない。そして、手札も無い。
全てを奪い尽くしたのは、レンの場に顕現する王の力によるものだった。
「──我がシモベ、《大樹王ギガンディダノス》。これが貴様を葬る切札だ」