学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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JO10話:JO退化

 ※※※

 

 

 

 ──思えば。

 ノゾム兄との特訓は確率との戦いだった。

 

 

 

「──先に言っておくが、オレの特訓は厳しいぞ?」

「それは分かり切ってたけど」

 

 

 

 近所の公民館の一室。

 そこで、マンツーマンの「特訓」が始まった。

 

「何で俺はこんなところで数学の勉強させられてんだ!?」

「オメーにはこれから、てぇっんさいのオレと数Bの勉強をしてもらう」

「何で!?」

「何でって、正しいプレイングやデッキ構築をする上では数学が大事だからな。例えば、デッキに合計8枚積んでる初動カードが先攻1ターン目にいずれか1枚以上が手札に来る確率が分かるか?」

 

 初動8枚……思い浮かぶ例だとメンデル+栄光だろ?

 大体どっちかは手札に来る気がするけど……具体的には分からない。

 

「……分からないです」

「それくらいテメェで計算できるようにしとくんだよ。ネットには計算機があるが、オメーには公式を教えておく。オレからデュエルを学ぶなら、自力で計算できるようにしとくんだな」

 

 無茶苦茶である。

 何で計算機で計算できるものを自力でやらねばならないのだろうか。

 

「さて。1時間目にプレイングの話をしておこうか」

「プレイング?」

「耀。プレイングスキルが何なのか言ってみろ」

「そりゃあ、ピンチを切り抜けられる超絶テクニックとか、そういうことじゃないのか?」

「違う」

 

 ノゾム兄はピシャリ、と言ってのけた。

 

「耀……ハイ・アンド・ローってやったことあるか?」

「……? 何だそれ」

「トランプのゲームだよ。自分の持ってるカードより数字が大きいか小さいかを当てるんだ。トランプの数字は1から12。1を最弱か最強とするかはルール次第だが……まあ今回は最弱、ってことにしとく」

「はぁ。だけど簡単な事じゃないか? 2とか3みたいな小さい数字なら大きいって言えば良いんだろ? で、逆なら小さいって言えば良い」

「そうだな。だけど、時たま……外れる時だってある。7や8みたいな半端な数字で外したならともかく、3のハイを外したり、11のローを外したり……ってこともあるわけだ」

 

 確かにそうである。

 

「そう言う時、人間は変なジンクスを付けて、追い込まれた時に確率の小さいほうに賭けてしまいがちだが……これは非常に悪手だ」

「え?」

 

 そりゃそうだろ。

 さっきから当たり前のようなことを言ってない気がする。

 俺がぽかんとしていると、ノゾム兄は「デュエマで例えるなら」と続けた。

 

「例えばお前、相手が赤白バイクで、お前は無色ジョーカーズだったとする。次のターンを渡せばバイクが走ってくる場面。そこで、お前はワンショットを狙ったが、()()()()()()()()()()S・トリガーの《ホーリー》を踏んで負けてしまった」

「……大体場面は想像出来た」

「じゃあお前は次から同じ場面に遭遇したらどうする? 同じデッキ、同じ盤面で、だ。場にメタクリは居ないものとする」

「相手のバイクが揃ってないことを期待して、次のターンにメタクリが引けるのを期待して待つ、かな……?」

「それが、今俺が言った”確率の低い方に賭ける”っていう悪手だ」

「あっ……!」

「人間、()()()()()()()()()()()()()()()()を精神的にズルズル引きずるモンなんだよ。そして、それを基準にしてデッキやプレイングを歪める。やめときゃ良いのにな」

 

 彼は腕を組んだ。

 

「デッキが40枚の時、欲しい4枚のカードを1枚以上引ける確率は……初手で42%。その後、手札が増えるごとに増えていく。3ターン目なら72%ってところだな」

「っ……そうか。手札に引きたいカードは、手札が増える毎に引ける確率が増えていくのか」

「対して、4枚しか入ってないS・トリガーを踏む確率は42%。そして、シールドが増えることは手札に比べれば少ない」

「さっきの例の場合、構わずワンショットするのが正解ってことか!?」

「その通り。手札にキーカードが揃って負ける確率と、S・トリガーを踏む確率だと後者の方が低いからな」

 

 ……それでも40%って結構確率としては大きい気がする。

 だけど、それ以上に相手がキルターン以内にキーパーツを揃える確率の方が高いのか。

 バイクだと、進化元も確実に8枚以上、進化先も8枚以上入っているだろうから、相手が準備を整える方が確率が高いのだ。

 因みに8枚入っている初動を初手で引く確率は69%らしい。その後、ターンが経過すると確率は増えていくので……やはりこの場合はトリガーに怯えずに殴り切るのが正解なのか。

 

「当然、トリガーなんてケア出来るなら例え40%でもトリガーなんてケアした方がいいわけだけどよ、出来ないなら出来ないなりに覚悟を決めなきゃな。それも、絶対にだ」

「つまり、同じ状況なら必ず同じ手順でプレイしろ、ってことか」

「そうだ。プレイングってのは、確率に基づいて同じ盤面なら常に同じ選択肢を”機械的に”選び続けることだ。お前は環境デッキの知識を身に着け、確率計算を覚える事で、勝利する確率は確実に増える」

「それで外して負けたら……?」

「割り切れ。文字通り”運が悪かった”ってやつだ。ジンクスと確率論、どっちが科学的に正しいかなんて明らかだろ。ミクロなその場凌ぎの駆け引きより、先ずはマクロなプレイングを身に着けろ」

 

 ……何となく、ノゾム兄の強さが分かった気がする。

 ゲームを確率論に落としこんでいる思考力の高さ、そして──酷い負け方をしても「正しい」プレイングを曲げない心の強さにあるのだろう。

 

 

 

「じゃあまずは、確率の公式からな」

「……むーりーッッッ!!」

 

 

 

 そして俺は、自力で諸々の確率計算が出来るようになるまで、ノゾム兄に毎日数学を教えられたのだった。

 問題は、これが特訓のごく一部でしかないということであるが……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「《モモキングJO》で攻撃する時──」

 

 

 

(タマシードには呪文メタが効かねえ……! それは殴れば高い確率でS・トリガーを踏むということ!)

 

 水のタマシードのラインナップを思い出す。

 小型だが、相手の攻撃そのものを止めるS・トリガーがある。

 更にマナゾーンには《クロック》が埋められているのもあって、相手にターンを渡す可能性が高い。これらの危険なトリガーが入っている確率は69%……。

 クロックだけを踏む確率は40%程度……。《キャンベロ》を出せば、相手に動かれる確率は低くなるので、こいつだけ出すのが正解か。

 変に《モモキング》の進化クリーチャーを乗せると、次ターン以降、連続攻撃出来なくなっちまうし。

 

(それなら話は早い、先にトリガーを踏んで、相手が次のターンに動けなくなるように立ち回ればそれで良い!!)

 

 ワンショットするとなると、それだけ危険なトリガーを一度に踏む確率は高くなる。

 此処は細かく相手のシールドを刻んでいくのが正解だろう。

 この辺りを理論的に考えられるようになったのは、ノゾム兄のおかげだと思う。切に。

 おかげで確率の計算くらいなら暗算で出来るようになってしまった。俺数学苦手なのに。基本的な確率程度なら、もう暗記してしまったぞ。

 

「侵略進化!! 《キャンベロ<レッゾ.Star>》!! これでお前は次のターン、クリーチャーを2体以上出せない!!」

 

 《JO》に重なるようにして、車輪とライダースーツを身に纏った《キャンベロ》が浮かび上がる。

 そのままイチエンのシールドを2枚、叩き割った。

 

「ぐぅっ……!? S・トリガー、《ツヴァイの海幻》で《キャンベロ》を攻撃不能に……!!」

「じゃあ俺は、これでターンエンドだ」

 

 危ない危ない、此処で踏んでおいてよかった。

 とはいえ、後3枚相手のシールドはあるんだよな。

 《モモキングダム》だけで刻むのは不可能だし……どうするかね。

 

「俺は《キャンベロ》を破壊して、カードを1枚引き、《JO》をアンタップする。ターンエンドだ」

「あぐぅっ、ウウウウウウウウ……!!」

 

 唸り声を上げるイチエン。

 最早まともに理性があるようには見えない。

 とはいえ、展開はケアしているから……このターンに反撃はしきれないと思うけど。

 

「寄越せ、寄越せよ、白銀耀……!」

「あ?」

「金も、女も、何もかも、俺っちのものだァァァァァーッ!!」

 

 イチエンの背後から。

 

 

 

 

 

 

「──スター進化、《神ナル機カイ 「亜堕無」》ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 機械に包まれた青鬼が、顕現した。

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