学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
必殺の一撃は防がれた。
《チョートッQ》の攻撃は届かなかい。
旋風の如き守護者が捨て身で突貫を遮ったのだ。
「その効果で自身をブロッカー化して攻撃を阻止」
「っ……!! マジかよ、入れてたのか――!?」
ニンジャ・ストライクは指定されたマナの数があれば、相手のクリーチャーの攻撃時かブロック時に手札から場に出る能力。その代わり、そのターンの終わりに忍者のように山札の下へ戻ってしまうが、非常に奇襲能力の高いカードだ。
《ンババ》の効果でマナ加速したから、ギリギリマナが足りていたのだろう。俺は悔しさに唇を噛み締める。
この状況では、殴ってもとどめまでいけない。ターンを終えるしかなかった。
「――クソっ……!!」
項垂れる俺。
追い詰められてしまった。完全に――
「あたしのターン、5マナをタップして――《刀の3号 カツえもん
現れたのは刀で武装した侍の恰好のハムスターのようなクリーチャー。
更に、既に居抜きの準備を始めており、切りかかる寸前だ。
「あんたなんか、知らない。あんたなんか、あんたなんか――!! 」
殺意を込めた視線を俺に向けると、花梨は言い放った。
「《カツえもん
革命の嵐が巻き起こった。
史上最強にして最悪。
革命軍の龍が吠えた。
「切り裂け、革命の龍よ!! 蒼き鎧に身を纏い、その剣を振りかざせ――《蒼き団長 ドギラゴン
口に大剣を咥え、マントを翻した巨竜。
その圧倒的な風格に俺は立ちすくんでしまう。
そして――間もなく、一番恐れていた事が起ころうとしていた。
「ファイナル革命発動。このクリーチャーが革命チェンジで場に出た時、このターンまだ”ファイナル革命”を使っていなければこの効果を使う――マナゾーン、または手札からコスト6以下になるように多色クリーチャーを場に出す!! 《
飛び出してきたのは3匹のハムスター(片方は2匹で1組だが)
《ドギラゴン
これにより、ハムカツ団が全員勢ぞろいしてしまったことになるのはともかく、完全に打点をそろえられてしまった。
「そして、《ボスカツ
《ボスカツ》の拳に殴り飛ばされ、落下したところを《カツえもん》に一刀両断されてしまう《ヤッタレマン》。
うわあ、ぱっくりいったぞアレ……えっぐいな。
そのまま爆散して消えてしまう。
「ま、まずい、返せるのかコレ――!!」
「更に場の多色クリーチャーは《ドギラゴン
これで完全に俺はこのターンでのキル圏内に入った。シールドを全て割られて、ダイレクトアタックまでもっていかれる。
「まずは《ドギラゴン
薙ぎ払われる俺のシールド。
まずい。このままでは負けてしまう。
残り俺のシールドはたったの1枚。風前の灯火だが――
「耀、大丈夫でありますか!?」
「クソっ、大丈夫じゃねーよこんなんっ――!!」
「《
それも敢え無く打ち砕かれた。
俺じゃ、花梨を救えないのか?
一番近くに居た幼馴染の俺でも、あいつを助けることが出来ないのか?
あまりの衝撃に膝をついた。
肉体的にも、精神的にも、両方に大きなダメージが入っていた。しかし。
「剣しか、無いだぁ――!? クソっ!! んなわけ、ねぇだろ!?」
割られたシールドの破片が、収束して光となった。
諦めきれる訳がない。このまま、投げ出して逃げられる訳がない。
今ここで彼女を助けられるのは――俺だけなのだから。
「S・トリガー、《バイナラドア》!!」
光はクリーチャーとなって飛び出した。
S・トリガー、それはデュエル・マスターズにおける最大の逆転手段。割られたシールドの中にこれを持つカードがあれば、その場で使用できるというものだ。
「マナゾーンか場にジョーカーズが合計3枚以上あれば相手のクリーチャーを1体選んで山札の一番下に送れる! 《ハムカツマン
扉に目がついたようなクリーチャーが、《ハムカツマン
「っ……ターンエンド」
これでもう、花梨は攻撃できない。止めた。何とか、ターンが返ってきた。
辛うじてカードを引く。
そしてそれを見た時――
「耀、それを使うのでありますよ!!」
「ああ、分かってらあ!! 呪文、《戦慄のプレリュード》の効果でコストをマイナス5して、1枚のマナをタップ!!」
マナをタップされると同時に、拳を突き上げた。
「これが俺の
現れたのはロボットのような姿のクリーチャー。はっきり言って、近くで見るととてもカッコいい。まさに弾丸のようなデザインだ。
そこに頼もしさを感じた。
「耀、今であります!!」
「ああ!! 《ダンガンオー》はバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できる。そして、場の他のジョーカーズの数だけシールドを更に1枚ブレイクするんだ!! 《ダンガンオー》、攻撃だ!!」
俺の場には他にジョーカーズが3体いるのでブレイク枚数はプラス3枚。
元々W・ブレイカーだから、これで全てのシールドをブレイクだ。
一気に花梨のシールドが全て砕け散った。S・トリガーは、無い。
「《ドツキ万次郎》でダイレクトアタック!!」
「革命0トリガー――《革命の巨石》2枚を使う!! 効果で山札の一番上を捲って、それが自然のクリーチャーならば相手のクリーチャーをマナゾーンに送れる!!」
シールドが0の時に使える革命0トリガーで最後の逆転を図る花梨。
結果は2回共成功。その効果で攻撃した《ドツキ万次郎》と《バイナラドア》はマナゾーンに送られるが――まだ、俺の場にはクリーチャーが残っている。
これでラストアタックだ。通れ!!
「耀、最後の攻撃であります!!」
「ああ、俺の攻撃はまだ終わってない!! 《チョートッQ》でダイレクトアタック!!」
※※※
空間が崩壊し、元の廊下に戻った。
見れば、ドギラゴンのカードも只の物言わぬそれに戻っており、全てが終わった事を意味していた。
「花梨!!」
叫んで倒れている彼女を抱きかかえる。
「だから言ったでありましょう、攻撃したのはクリーチャー。そっちの命に別状は無いでありますよ」
すっかり元の姿に戻ったチョートッQが腹の立つ声で言ったので、怒鳴り返す。人の幼馴染を何だと思ってるんだ。
「アホか!! 幼馴染だぞ、大切な!!」
「ともかく安心するでありますよ。ワイルドカードに吸い取られていたマナも還元され、元通りであります。それじゃあそろそろ自分は引っ込むでありますよ」
「ちょ、オイ」
言い終わらない間にチョートッQは俺のデッキの中に戻ってしまった。
本当に何だったんだこいつ……まあこいつの助言で色々分かったから良いんだけどさ。
「……んぅ」
呻き声が聞こえた。
見ると、目を擦って欠伸をしている花梨。
「んー……何……何やってたんだろ」
「……はぁー……」
大きくため息をつく。確かに、やつれていた顔も元に戻っている。
花梨は起き上がるときょろきょろと辺りを見回した。
「え、え? これどういう状況!?」
「練習のし過ぎで、今此処でぶっ倒れてた」
「ふぇえ!? た、確かにここ最近根詰め過ぎてたよーな……」
「ああ、自分には剣道しかないとか言ってた」
「な、なんか……そんなこと言いながら練習してた気がする……」
どうやら、記憶は全部とまではいかないが少し残っているらしい。本当にはた迷惑なカードであった。
「んじゃ、保健室に連れてくから親に迎えに来て貰えよ。それと――」
一呼吸置くと、俺は言った。
「ごめん」
「? 何で耀が謝るのよ」
「俺……お前の邪魔にならないためって思って距離置きすぎてたっつーか……お前が一番辛い時に、傍に居られなくて」
「何言ってるの。確かに一緒に話したり遊んだりする機会は減ったけど、それはあたしが――」
「とにかく、お前に倒れられたら困るんだよ。今度は辛い事とかあったら、俺に言えよ。俺に出来ることなら――」
言いたいことが纏まらないであやふやになっている俺。ああ、何でいつもこうなんだ本当に。
だけど、花梨はそんな俺を見て微笑んでいた。
「……あたしの家ね、両親がとても厳しくてあんまり弱音とか吐けなかったんだよね。だけど、中学高校になったらもっと自分を厳しくしよう、って思って――中学の最後の大会で、準優勝だったのがとても悔しくて――自分を追い詰め過ぎてたのかも」
「花梨……」
「だから――ちょっと、おぶってくれない、かな……? 寝不足で、力入らないかも……」
「……ああ」
瞼が閉じていく。
どっ、とこれまでの疲れが出たんだろう。
花梨、本当にお疲れ。もう、無理なんかしなくていいからな。
※※※
「そんなわけで、刀堂先輩はオーバーワークによる疲労でしばらく部活を休む事にしたらしいですね」
「妥当デスヨ。練習禁止って顧問の先生から言い渡されちゃったみたいネ。でも、今まで誰の話も聞かなかったのに、アカルが介抱したら正気に戻ったとか」
「は、ははは……」
言えねえ。デュエマで元に戻しただなんて言えねえ。
そんなわけで次の日の放課後。俺達は相変わらず暇やってた。
取り合えず花梨は一端、少しだけ剣から離れることにしたらしい。当たり前だ。今まで頑張りすぎたんだから。
「所でアカル。その新しいデッキ、なかなかStrongデスネ……今まで通りにはいかないデス」
「ジョーカーズ嘗めんなよ? 今年の目玉だぜ」
「では、次は私が……」
そうこう言ってる間に、部室の扉が開いた。
「やっほ。皆!」
明るいはつらつとした声。クリーチャーの所為だったとはいえ、えらく早い立ち直りを遂げた花梨だった。
「カリン! 元気になったようですネ!」
「うん。だけど、ちょっと練習のし過ぎって言われて部活は休む事にしたんだ。充電期間ってやつだけど」
「何よりです」
「どっかの誰かに、襟首正されちゃったしね」
ウインクが飛んでくる。
正直、俺はデュエマしただけだ。結局の所、あいつの無念に気付いてやれず、距離を置きすぎて疎遠になって相談もしてやれなかった俺にも責任はあるのだから。
「て訳で、久々にデュエマしよ? 耀」
「お、うちの活動に参加すんのか?」
「練習禁止ってことで暇だし」
久々も何も、昨日やったばかりなんだが、とはおくびにも出さず。
俺はデッキを取り出す事にした。
そういえば、チョートッQのやつ喋ってないな、あれから。そして、俺もまたワイルドカードに遭遇することがあるのだろうか。
その時はこいつの力を借りるだけだ。
今は――学園生活を楽しもう。謎はゆっくりと解いていけばいい。
「おっとー、安心するのはまだ早いでありますよ」
「ぶっふ!!」
デッキケースから声が聞こえて思わず噴き出した。こいつ、皆の前でいきなり何喋ってやがんだ。
思わず俺はどっかにそれを放ってやろうかと思ったが、
「あー、安心するであります。この声は他の誰にも聞こえていないでありますよ。ま、ともかく――1つだけ言えるのは、まだワイルドカードはこの学校に沢山眠っているということであります」
ごくり、と冷や汗が首筋を伝った。
結局、一体ワイルドカードって何なんだ。それを今此処で聞くのはあまりにも挙動不審なので、悔しいが大人しく引いておこう。
「――事件解決の際には、一応協力するでありますよ――マスター」
そう付け加えると声は消えた。
どうやら――まだ、この学園での騒乱は続くらしい。
※※※
――夜風が吹く。
マントが翻り、月に照らされたシルクのハットが艶やかに煌いた。
今宵は十六夜。彼の狩り場。
奇抜にさえ見える彼は、ネオンライトが輝く街で一声、叫んだ。
「さあ、ショーの始まりと洒落込もうか!」
くるり、と宙で回り、降り立つ。
彼のものが捉える瞳は――異類異形の怪物達。
夜の闇に潜み、蔓延っていたそれであった。
その仮面に描かれたのは三日月。
顔で笑い、心で泣く道化の仮面。
「――この私が居る限り、この世にワイルドカードは栄えない!」