学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「つーわけで、このままじゃ廃部だよね君達」
「……」
「……」
4月初頭の事だった。
もはや、そんなことは先輩方が卒業する頃から分かり切っていたことではあるが、俺達デュエマ部の部員はたったの2人になってしまっており、部活動から同好会への降格を余儀なくされていた。
それどころか、このまま新入部員が入らなければ同好会どころか最悪廃部ということも考えられるこの状況。
「ま、俺もこんなことは言いたくないんだけどね、先の先生や生徒会が決めた事だし従うしかないんだよね、生徒会って所詮おおざっぱに言っちゃうと大掛かりな雑用係なわけだし、こういう警告しか出来ないわけよ。つーわけで、廃部になりたくないならさっさと新入部員を集めてこいって話だよね」
「は、はい、存じています、生徒会長……」
「学校にカード持ってくるのを許可されてるだけでも、ぶっちゃけると奇跡だよねえ。いや本当マジで」
「は、はい……」
「つーわけで、頼むよ君ら」
威圧感たっぷりに、目の前の生徒会長は部活動に関するマニュアルを机に置くと、去っていった。
何という事だ。前の年に2年生が居なかったが故に起こってしまった出来事である。
「カーッ、クソ……こっちの苦労も知らないで……」
「仕方がないデスよ、こうなったら手分けして部員を集めるしかないデス」
「まあ、入学3日目……そろそろ物見遊山か興味本位で誰か来てくれりゃ助かるんだけどよ」
「後は行動あるのみ、デス!」
「そうだな。このまま、この部活を潰しちまったら、先輩方に申し訳が立たない!」
俺は徐に立ち上がると、部室の扉を思いっきり開けた。
まだ、新入生は入って間もない。何とか、一人でも集められれば――と思って、俺達は外を出たのだが……。
「あ、すいません、俺もう野球部に入ろうと思ってるんで」
「ごめんなさい、私美術部にしようと……」
「デュエマ? 時代はヴァ〇ガとバ〇ィファイトか遊〇王でしょう」
「デュエマ? ああ、あのカードの名前が頭おかしいゲームね、やんねーよ、アホですか」
開始10分、俺は既に心が折れそうだった。
何なんだ、この露骨なまでの上手くいかなさは。
「くっそぉ!! どいつもこいつもやれ遊〇王だのヴァ〇ガだの、デュエマで青春を謳歌したい奴はいねぇのか!!」
あとから考えても分かるが、カードゲームで、それもデュエマで青春を謳歌している高校生など俺は他に見たことがない。
「くそっ、せめて1人……1人だけでも……ん?」
新校舎の通路を曲がり、ふと足元を見てみる。
そこには――
「……」
――なんか、転がってた。
具体的に言えば、それは新入生と思しき女子であるのだが、体躯は細くて小さく、フード付きのパーカーということか。
しかし、それが廊下に転がっているというのは実に奇妙な光景なのであった。
「あ、あのー、大丈夫? 君? 色々と……」
「……んぅ」
転がっている誰かは俺の声に気付いたらしく、こちらをちらりと見た。
「……ん……すいません、そこの人。ちょっとお腹空いたので何か分けてくれませんか」
「……」
「昼食を忘れてしまい、放課までは我慢出来たのですが、力尽きてしまって……スヤァ」
「お、おい!! 寝るな!! おい!! 起きろ!! 死ぬんじゃない、新入生!!」
すぐさま俺は女子生徒を抱え起こし、背中に負ぶってやる。
その時、背中に恐らくパーカーで押し潰されていたであろう大きい柔らかいものが押し当てられたが、煩悩に負けず、俺は部室まで一直線に進んだのだった。
そして、部室に飛び込むと、先に帰っていたブランが項垂れた表情でソファにもたれているのを認めたが、構わず俺は女子生徒もソファに寝かせてやる。
「って、どうしたんデスカ、アカル!? とうとう誘拐してきたんデスカ!?」
「どんな推理だ、アホームズ!! 良いから、何か食うモンねぇか!?」
「え、えと……食べ物、デスカ?」
「良いから!!」
部室には備え付けの冷蔵庫がある。
前の先輩方が残していったもので、その中にはブランとっておきの高級コンビニスイーツが置かれているのを俺は知っている。
うう、と彼女は気乗りしない様子でそれを取り出したのだった。
数分後、もっきゅもっきゅとブランのシュークリームを頬張りながら、少女は淡白な表情で礼を言うのだった。
「さっきはありがとうございました、助けて頂いて」
「う、うううう……しゅーくりぃむ……私のしゅーくりぃむがぁ……そんな、デス……」
「いや、本当気を付けろよ? 新入生。高校に給食はないぜ?」
「それは分かっていたのですが、今日は寝坊してしまったもので」
「そ、そうだったのか……」
「ともあれ、そろそろ私は行かなければ」
立ち上がった彼女に、俺は言った。
「おい、何処に行こうとしてたんだ?」
「旧校舎にあるデュエマ部なる部活動を探していたのです。入部しようと思っていて」
「!!」
俺は仰天しそうになった。
まさか、入部希望者が転がって落ちているとは、夢にも思うまい。捨てる神あれば拾う神あり。拾ったのは俺だけど。
「ようこそ、デュエマ部へ!!」
「歓迎しマース!!」
少女は流石に目を丸くしたようだった。
「成程、そういうことでしたか。それで、他の部員の方は? 私、挨拶したいのですが」
「あっ……」
「うっ……」
俺達は返答に詰まった。
これが、暗野紫月と俺の最初の出会いだった。
この後、今この部活に降りかかっている危機を説明したうえで入部を快諾してくれた彼女だったが、その後数週間マンネリとした放課後が続いているのは、もう皆も知っていることである。
※※※
「盟友。そう不安そうな顔をするな。あたしが全てカタを付けてきてやるよ。なあ、分かってるだろ? あたしがどれほど強いのか、分かってんだろ?」
そんな声と共に、部屋から出てきた白衣の少女――トリスは、その入り口に立っていた少年・火廣金を目にすると、笑みを浮かべた。
「ハハ、そう怖い顔すんなよ、ヒイロ」
火廣金はさも、怪訝な表情を変えなかった。
彼女との付き合いは短くはない。故に、彼女がどういう人間なのかは知っていた。
故に、彼女がそれが元で足元を掬われないか、という懸念が先に立っていたのである。
「……俺は君の性格をよく知っている。自分自身の性癖で足をすくわれないように気を付けることだな」
「まあ見とけよ。あたしはこれでも、召喚書の犯した罪を数える者」
ぎらり、と視線が火廣金を射抜いた。
「――エリアフォースカードは、あたしが回収するさ」
「それは大いに結構。だが、気を付けるんだな」
言った彼は続ける。
「何だよ?」
「最近、夜の街を徘徊するワイルドカードを狩る者がいる」
「はあ? それがどうかしたのか? ……ああ、そいつもエリアフォースカード使いか」
「ああ。だが、変な点があってな」
「変な点?」
「目撃者曰く――仮面を付けている、とのことだ。顔面を覆い、正体が判別できないようにするためにな」
「……プッ」
トリスは噴き出す。
一体、それはいつの時代の前衛的なヒーローなのだろうか、と。
「まだ敵か味方かは分からないが、君の立ち回り次第では余計な敵が増えかねない。今回のターゲットはあくまでも白銀耀達に絞り、別の奴にまで欲を張るな」
「忠告痛み入るよ。そうさせてもらうさ」
手を振ると、トリスはそのまま悪戯っ子のように口角を上げる。
「……さあて、異端審問と行こうかね」
※※※
「こっち行ったぞ!! 追い込め!!」
「《喜劇人形 タッキュ》! センセイに取り付いて笑い上戸にした挙句、笑いすぎで顎を外したとんでもないクリーチャーデス!」
「振り返ってみると本当に厄介な奴だな!」
『あいつ、ぴょんぴょん飛び跳ねてすばしっこいでありますよ!』
『心配するでない。根暗の小娘が校舎の裏側から挟み撃ちにしようとしとるわ』
俺は白銀耀。デュエマ部の部長である、ちょっと普通じゃなかったのが、最近は全然普通じゃなくなった高校2年生。実体化するクリーチャー、ワイルドカードの事件に巻き込まれ、それを追うようになった俺は周囲の仲間ともなんやかんやあって協力することに。
おまけに魔法使いは出てくるわ、新しいクリーチャーはばんばん出てくるわ、パンダや亀が出てくるわでてんやわんやだったが、今もまさにてんやわんやになっていた。
クリーチャー、ワイルドカードの出現は学校を中心として現れる。
何故かは分からないけど、チョートッQ曰く、奴らが餌にする負のエネルギーが集まりやすい場所の1つ、だからだそうだ。
まあ、迷惑以外の何物でも無いんだけどな!
最近、火廣金の奴が何もして来ないのは良いが、ワイルドカードは日夜時間を問わずに現れるようだからたまったもんじゃない。
そんなわけで、俺達もまた、ワイルドカードの事件を追う日々が続いていた。
笑いながら、ぴょんぴょんと剽軽な動きで飛び回る人形は、校舎の角の死角へ飛び込んだ。しかし、その先には紫月が回り込んでいる。
挟み撃ちにしてとっ捕まえてやる!
「さあ覚悟し――」
ぼすん!!
思いっきり、俺の腹に何かが突貫してきた。
それは突き飛ばされて、俺も反動で尻餅をつく。
尻を抑えながら目の前を見ると、そこには目からまだ火花が飛んでいるのか、顔を抑える紫月の姿があった。
どうやら、あいつがどっかに消えた所為でぶつかっちまったらしい。俺もよく見なかったのが悪いが。
「う、うう……気を付けてください、先輩……」
「……おい、大丈夫か、紫月? どっか怪我してないか!?」
「大丈夫です。早く追いますよ」
少し苛立った様子で彼女は言った。機嫌が悪そうだ。かく言う俺も、忙しさと事件に塗れる日々で最近心の安息を失っていたが。
そういえば紫月がやってきた方向に逃げたはずのタッキュは一体どこに消えたんだ?
と思ったが――
『マスター、上を見るでありますよ!!』
「え? 上――」
言って上を見上げた刹那。
そこには、どこから取り出したのか巨大な鉄球を振り回したタッキュが俺を目掛けて飛び降りてくる――しまった、上に飛び跳ねて逃げたのか!!
「シャークウガ、お願いします」
ヤバい、と思ったのもつかの間、今度は激流がタッキュを吹き飛ばす。
見ると、シャークウガが実体化していた。彼の魔法によるものだろう。
「た、助かったぜ、シャークウガ」
『良いってことよ』
「先輩、あっちに逃げました!」
再びぴょんぴょん飛び跳ねるタッキュ。
俺達は再びダッシュしてクリーチャーを追いかける。
「ともかく、俺がエリアフォースを使って奴を追い詰める!」
「何を言ってるのですか、ドジで抜けてる先輩には任せておけません、やはりここは私が」
「俺だ!!」
「私です」
「俺だ!!」
「私です」
「俺だ!!」
「何やってるデスか! そんな喧嘩してる暇は無いデス!」
ブランの絶叫が後ろから聞こえてきた。いかんいかん、こんなアホな事をしてる暇はねぇ。
「良いデスか! ”三日月仮面”……彼には負けてられないのデス!」
「前から言ってるけど、あれはそもそもクリーチャー事件だったのか?」
『手柄云々というわけではないが、負けてはおれんわい』
「むぅ、確かに……同じワイルドカードを狩る者としては負けてられません」
ここ数日間、デュエマ部ではある噂が話題になっていた。
それは、怪奇事件が街で起こると決まって夜に現れる謎の影だった。
今までは唯の都市伝説でしかなかったそれだが、1週間ほど前、数日間にわたって商店街で連続窃盗事件が起こった。どこから盗まれたかも分からないが、多くの店から例えば野菜、例えば肉など食料ばかりが忽然と消えていたという。
俺達はそれをクリーチャーの仕業と仮定して捜査していたが――翌日の事である。
街の住人によれば、黒い鳥のようなものか人のようなものかが暗い闇夜を飛び回っていたとのことだった。
そして次の日から、窃盗事件は起こらなくなった。そして、各店には『事件は解決した。窃盗はもう起こらない。三日月仮面』という手紙が置かれており。以後、連日起こっていた怪奇事件は、起こらなくなった――というのが事の顛末だ。
ブランは真っ先に、これはクリーチャー事件であり、解決したのは三日月仮面なる人物だと判断したのである。
しかも、洗ってみると以前にも度々似たような事が街の中で起こっており、不思議な事件が起こるたびにこの三日月仮面が手紙を送り、以後は事件が起こらなくなる……というものだった。
「……はぁ、気障な真似をするなぁ」
「だから、私達も負けてられまセン!」
「タチの悪い悪戯にしては偶然が重なり過ぎてますからね。仕方ありません。先輩の事はともかく、ワイルドカードを狩りましょう」
「釈然としねぇな……」
まあ、そんな三日月仮面の事はともかく、奴が何処に逃げたのか見つけねえと。
校庭の奥の森林の方に行ったようだが、木が多くて奴がどこに行ったのかさっぱり分からない。
「見つかりませんね」
「ああ」
「一体どこ行ったデース!?」
「とにかくチョートッQ、あいつが何処に行ったのか探してくれ!」
『マスター! 後ろでありま――』
「え? ……ぶっ」
言い終わる前に、ごすっ、と嫌な音と共に後頭部に何かがぶつかった。
何も分からないまま体が宙に浮いたような感覚と共に、近くに居た紫月を巻き込んで、倒れた。
少しして目から火花が無くなると、俺は目を開けた。
「……いつつつ……紫月、大じょ――」
俺は言いかけて絶句する。
頭の中は一瞬で真っ白になり、俺の顔も真っ赤になっているだろう。
我が両手は、思いっきり紫月の両胸を掴んでいた。
てかこいつ、普段パーカーと制服で押さえつけられてるからパッと見で分からなかったけど、こうやって思いっきり両手で掴む程でか――
「……先輩、わざとで無ければ何でも許されるわけではないですよ」
凍り付くような声で俺は我に返った。
「いや、違う、これは不可抗――」
「襲ってるように見えます」
「あ、はい、すいません……」
「やはり、信用なりませんね。男なんて皆ケダモノです。みづ姉にたかるウジ虫かケダモノだけ。先輩も同じでしたか」
「よし! テメェはやっぱり後で説教だ! 人の尊厳を傷つける奴は――」
「何やってるデスか! 早く起き上がるデース! 後、アカルのムッツリスケベ!!」
「誤解だ!!」
振り向くと、既にそこにはけきゃきゃきゃと笑うタッキュと格闘するチョートッQの姿が。
こいつに思いっきり蹴っ飛ばされたのか、俺は。
ふつふつと怒りが沸きあがってくる。取り合えず、売られた喧嘩は買わねえとな!!
『ちょこまかとうざったいのでありますよ!!』
『新幹線、援護するぜぃ!!』
言いながらも、チョートッQは浮いたまま全速力でタッキュへ突貫し、追突した。
吹っ飛んだ笑い人形が、シャークウガの放った水の輪で拘束される。
もう逃がさないと言わんばかり、俺達はエリアフォースカードを掲げた。
「で、結局どっちが戦うんだよ」
「それは私に決まってます。……信用できない先輩には任せられません」
「何でだよ!? 怒ってるのか!? 悪かったって言ってるじゃねえか!」
「肝心な時に役に立たない先輩には任せられないと言っているのです」
「何だと!? お前こそ普段ぐーたらぐーたらしてるプー太郎の癖に!」
「先輩こそ何ですか。この追い込み作戦だって私が考えたのを忘れてませんか。先輩はブラン先輩と私が居ないと何も出来ないじゃないですか。この間の火廣金先輩の時だってそうでしたし。おまけに本性は煩悩の塊ですし」
「何だとお前、あんな脂肪の塊に興味はねぇ!!」
そう返すが、我ながら言い過ぎたと後で反省している。
明らかに彼女は怒っている。
「やはり、みづ姉以外の人間は、信用するに値しませんね。このクズ先輩」
「んだとォ!?」
「誰が脂肪の塊ですか。シャークウガ、そこの
「いや、別にお前が脂肪の塊とは――うおおおお!! 本当に縛るんじゃねえ!!」
『悪いが命令なんでな。従わなきゃ俺がフカヒレにされる……ってマスター、本当にこんなことやってる場合か!?』
『折角あの人形を縛ったのに、さっさと決着をつけるでありますよ!』
「いい加減にしなサーイ!!」
間から飛び出したのは、ブランであった。
そのままエリアフォースカードを掲げて、彼女はタッキュ相手に決闘結界へと入っていくのを、ようやく我に帰った俺達はさぞ後悔の表情で見つめていただろう。
さて、この後であるが問題なくタッキュは討伐され、俺達2人はブランからこってりと約1時間、2人まとめて説教を食らう羽目になったのだった。