学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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JO19話:黒い鬼の月

「し、づく……!?」

「あっ、ぎっ」

 

 

 

 声を漏らした彼女は──床に倒れ伏せる。

 そして。

 一度、どくん、どくんっ、と身体が脈打ち。

 起き上がった。

 

「おやぁっ? これはこれは──」

「おい、紫月!! しっかりしろ紫月!!」

「ッ……ぐっ、ぎぐぐぐぐぐ!!」

 

 見ると、角が生えてきている。

 爪も鋭く、目も赤い。

 さっきの亜堕無とEVEによる鬼化の比ではない速度だ。

 

「おっと奇遇だったな! この娘、人一倍欲望が強いではないか!! これは良い鬼が産まれるぞ!!」

「……ス」

「お?」

「殺……ス……!!」

「紫月……ッ!?」

「いかん!! マスター!! ぎっ……実体化がぁ……!!」

「殺ス……! 犯ス……! 喰ラウ……ッ!!」

 

 びきびき、と角が生え、そして──爪は鋭く、目は白膜まで真っ赤に血走っている。

 その頬には血管が浮かび上がっていた。

 最早疑うべくもない。完全に鬼と化してしまっている。

 

「ダメだ、紫月……ッ!! 止めろ……ッ!!」

「目覚めろ!! 本能を剥き出しにするんだ!! それがあるべき姿だ!!」

「俺が好きなお前は……!! ぐーたらだけど負けず嫌いで……情に厚くて、どんなものにも縛られない自由なお前だ!!」

「うっ、う”、ううううう……!!」

「お前は鬼なんかに縛られるようなタマじゃねえだろ!!」

「ぐっ、ああああーッ!!」

「いっ……!?」

 

 がりっ、と音がした。

 紫月が俺の肩に嚙みついている。

 服は破け、露になった肌を食い破らんと牙を突き立てた。

 鋭い痛みが襲い掛かる。

 

「喰ウ、食う、喰う……ッ!!」

「ぐっ、いいいいいーッ!?」

 

 血が漏れ出ているのが分かる。

 それでも、今の彼女の力ならば肉を食い破ろうとすれば食い破れることは分かっていた。

 きっと今の紫月は戦っているのだ。鬼の自分と。

 

「あ”、ぐっ……ぎぃっ、う”ぐっ……!!」

「殺せ!! 手始めにその男を殺せ!! 鬼にしようと思ったが気が変わった!! とても強い鬼が産まれるぞ!!」

「紫月……ッ!! 俺はお前を信じてるぜ……!」

「シヅク!!」

 

 ブランの声が飛んでくる。

 見ると──足を引きずった彼女が泣きそうな顔で叫んでいた。

 

「お願いデス、シヅク……!! 戻ってきてくだサイ!!」

「ううううううううううーッ!!」

「殺せ!!」

「紫月!!」

「シヅク!!」

「あっ、ぐうううううう!!」

 

 苦しそうに俺の肩から牙を抜くと──彼女は苦しそうに床に転げ、悶え始めた。

 

「嫌ダ……!!」

「何ィ!? 貴様は鬼になったんだぞ! 本能に身を任せろ!」

「嫌、だぁ……イヤ、です……っ! 私は……!!」

「紫月……!」

「私は……この人を、殺したく、ないッ……!!」

 

 その時だった。

 

 

 

「私は──私はァァァァァアアアアアアアーッッ!!」

 

 

 

 紫月の身体から、靄のようなものが抜けていく。

 それが次第に形を成していき、人のそれへと変わっていく。

 何なんだあれは。

 クリーチャー……?

 

 

 苦しんで転がる彼女の傍らに──人型を成したそれは、次第に白い素肌を晒す。

 その上に、黒いパーカーのようなものが纏われていった。

 

 

 その顔は。

 

 その目は。

 

 

 その身体は。

 

 

 

 暗野紫月そのものだった。

 

 

 

 

 ……頭上に生えた角を除けば。

 

 

 

 

「……紫月が……二人?」

「双子の……更に双子デース!?」

「……!? こんな事、初めてなんだが……!? 自力で鬼化を耐え切った!? そればかりか……いや、()()()()()鬼が産まれたのか!!」

 

 にぃっ、と、紫月によく似たその女は笑ってみせる。

 その顔は絶対に紫月は見せる事が無い。

 

「やったぞ!! そのままあの二人を殺してしまえ!!」

「……五月蠅い」

「へぶぅっ!!」

 

 強烈な後ろ蹴りがデモーニオに炸裂する。

 彼はそのままアルミ缶のように飛んで行き、床へと転がされたのが見えた。

 

「シヅクの……姿をした鬼デース!?」

「うっさい」

「What!?」

 

 紫月の姿の鬼がブランに手を翳すと──衝撃波が巻き起こる。

 彼女の軽い身体は、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「おいテメェ、俺の仲間に何しやがる!!」

「犯す」

「……え?」

 

 

 頭が真っ白になった。

 ずいっ、と彼女は俺の襟を引き起こす。

 顔を近くで見れば見る程、紫月そのものだった。

 だけど、その表情は明らかに彼女のものではない。

 

 

 

「耀君を犯すって言ったの。今此処で」

 

 

 

 その言葉通り、まるで捕食するような接吻だった。

 俺の全部を奪い取るかのような、接吻だった。

 こっちはフラフラで立ち上がれないのに、一方的に躙るように嬲られる。

 漸く、彼女の唇が離れ、空気を吸えたかと思えば──鬼は無理矢理俺の手を自分の胸に当てる。

 黒い外套越しだが、紫月のそれと同じ。とても柔らかく、豊かな乳房だ。

 

「……ねえ。同じでしょ? こんな事、あの子は出来ないよ?」

「ぐっ……! テメェ……紫月じゃ、ねぇよなぁ……! 離れろ……!」

「口は嫌がってても身体は正直だよ? ねぇ、作ろうよ。鬼の子供。クリーチャーと、人と、鬼の血が混じった子供。GRゾーンと同じくらい欲しいかなあ」

「ッ……ウッソだろオイ!?」

「君が何て言おうが関係ないよ。犯す。今此処で、君が精魂果てるまで」

 

 

 

「何かと思えば好き放題……ッ! 私と同じ顔と言えど許しません、ブッ殺──」

 

 

 そこで、紫月は言葉を止めた。

 いつもなら、目を真っ赤にして飛んで行く場面なのに。

 ブチッと切れていてもおかしくないのに。

 

「怒れない……? なんで……?」

「あはっ。元から私は鬼の素質があったみたい。欲望に忠実な所。激情家な所。そして、天才な所? だから……貴女の持っている鬼の素質は、全部私が持って行っちゃった」

「何で、やめて……! うっ、ぐっ……!」

 

 紫月もまた、体力を持っていかれてるのか。

 動けないようだった。

 ブランも足を引きずってるし、とても鬼の紫月には勝てない。

 助けてくれ、レイプされた挙句、鬼の子供なんてごめんだぞ!!

 

「離れろテメェ……!!」

「抵抗したってムダだよ? 人間が鬼に力で敵うだなんて思わないで」

 

 腕を押さえつけられて、カッと瞳孔の開いた目で凄まれる。

 ヘビに睨まれたカエルってこういうことなのか?

 

「やめて、やめてください……!」

「なんで止めるの? 私は貴方。貴方は私。私は貴方の中から産まれたんだから」

「違う……貴方なんか私じゃない!」

「~♪」

 

 聞く耳持たず、そしてカチャカチャとズボンを脱がす音。

 おい馬鹿やめろ。こいつマジの本気か。

 身体は痛いし頭はがんがん鳴ってるのに冗談じゃない。

 抵抗する力も、もう残ってないんだが。

 

 

 

「2人でとろとろになろうよ……耀君」

「やだ……耀君を盗らないで……!」

「やぁだ。そこで指を咥えて見てな──」

 

 

 

 そこで彼女の言葉は止まった。

 紫月──鬼の方に、何かが突き刺さる。

 

 

 

 ──剣。サッヴァークの剣だ。

 

 

 

 

「……鬼の睦み合いを邪魔するなんて……趣味が悪いね、貴方」

「NTRの方が、よっぽど趣味が悪いデスよ」

 

 

 

 それはばっさりと頭に突き刺さっており。

 彼女が行為を止めるには十分だった。

 しかし、これくらいで鬼が死ぬはずもなく、あっさりと剣を抜くと、彼女のばっくりと割れた頭はすぐに再生していく。

 

「……殺す」

「ッ……ひっ、やっぱりダメデース!」

「怯むな探偵!! 何のために立ち上がったんじゃ!!」

「殺してやる、殺してやるよお前。ブラン先輩でも、私と耀君を引き離すなら許さないから」

「うっ、デモ、可愛い後輩を泣かせるなら、シヅクと同じ顔でも容赦なく斃すデス!」

「……」

 

 睨み合う両者。

 鬼の紫月が進み出ようとした──その時。

 

 

 

 

 ぐごぉ~……。

 

 

 

 ……物凄い音が響く。

 これってもしかして、腹の音?

 

「……なんか、すっごい音したデス」

「私も聞こえました」

「俺も聞こえた」

「……」

 

 そう思ってると、鬼の紫月が黙って顔を赤くしていた。……ビンゴみたいだ。

 

「……あーあ! 興が醒めちゃったんですけど。マジでダル……ねえオッサン」

「は、はひ……?」

「ちょっと今のままじゃ、分が悪いから……引き下がるよ」

「ふぁい……!?」

 

 そう言うと、紫月の姿をした鬼は──伸びたままのデモーニオを俵のように抱え、その場からとん、とん、と逃げていくのだった。

 ……取り合えず、助かったんだろうか……?

 

「……何だったんデショ……?」

「おお! 実体化! 実体化出来るぞ!?」

「ヤツの瘴気に中てられた所為だったようじゃな」

「……耀君」

 

 泣きそうな顔で紫月が俺の方を見ている。

 色々言いたいことはあるが──

 

 

 

「……マジで、どーすんだ……って感じだぜ」

 

 

 

 ……今は、寝よう。もう、意識が持たない。

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