学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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JO20話:もう1人の自分

 ※※※

 

 

 

「デモーニオはアカルを槍で刺して鬼にしようとしたデスが……そこをシヅクが庇ったデス!」

「おい待て。紫月は鬼になってはないだろう」

「すると、シヅクは鬼になったものの、自力でそれを耐え切ったのデスよ! しかし、シヅクから鬼が分離して……もう1人のシヅク、鬼・紫月が産まれちゃったのデース!」

「よし分かった、全く分からんからもう黙って良いぞ」

 

 

 

 現在、黒鳥達は現地の小さな宿に訪れていた。

 ヒナタの手引きにより、一先ず目立たないこの場所に5人は退避することになったのである。

 ヒナタは耀の病院の付き添いで不在。

 残る3人は、借りた一室で今後について話し合うことにしたのである。

 結果、黒鳥は頭を抑えた。

 何故そこで分離したと言わんばかりに、紫月に目をやる。

 彼女は「知りませんよ」と首を横に振ってみせた。

 

「何でデスか! 分からないから教えてくれって言ったのは黒鳥サンデス!」

「ただでさえこいつは双子なんだぞ! ややこしさが増したわ!」

「そう言う問題ですか師匠……」

「過去、何度貴様等を呼び間違えたと思ってる。終いには、翠月が胸に詰め物して貴様のフリして近付いてきた時もあったわ!」

 

(しーしょう? 私ですよ、紫月です)

(貴様翠月だろ)

(何でバレたんですかぁ!?)

 

「まああいつウソが吐けないから一瞬でバレたが」

「なーにやってるんデスかミヅキ……」

 

 悪戯にかける労力は涙ぐましいが、同時に哀れさも感じるブランであった。

 

「で? 問題は、この鬼のシヅクを何と呼ぶか、デスね」

「鬼紫月で良いだろう、ドルスザクと似たような語感だし、紫月の分身だからな」

「マスター・オニシヅク、邪王の門、デスか」

「なんかイヤですね……アレの名前に私の名前がそのまま入ってる時点で減点モノです」

「じゃあ鬼月(きづき)とかはどーデスか?」

「何だか十二人居そうな名前だな……鬼月(おにづき)で良いだろう」

「決まりデス!」

「……」

「どうした紫月。いつもの貴様なら、あの偽者を倒してやると息巻いている所だろう。白銀がケガして意気消沈しているのか? それとも自分から鬼が産まれてショックなのか? 元々人を鬼にする得物だったし仕方あるまい」

 

 ベッドに座ったまま、紫月は肩を竦めてみせた。

 

「……怒れないんですよ」

「何?」

「……あの鬼が生まれた後から、今までのように感情がふっと湧かないんです。自制は私の課題でしたが……それ以上に胸に何かがぽっかり空いたような」

「あの鬼は言ってたデス。シヅクは元々鬼の素質があって、その素質を全部持っていったのが自分だーって」

「おい紫月。一度或瀬とデュエルしてみろ」

「……構いませんが」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「そんな馬鹿な事ってありますか……!?」

「明らかにおかしいデスよ……!?」

 

 

 

 結果はブランの3タテであった。

 普段の紫月からは考えられない程の杜撰なプレイング。

 それどころかカードの知識すら一部怪しいレベルであった。

 「その裁定どうでしたっけ?」と彼女が聞く場面は何度もあったが、普段の彼女なら全部丸暗記しているところである。

 それを目の当たりにした紫月は凹み、体育座りで部屋の隅でふさぎ込んでしまうのだった。

 

「青単ムートピアの回し方を、思い出せないだと……!?」

「ミカドレオは踏み倒したら効果使えないの忘れるってことありマス……?」

「……この有様では、本当に持ってかれたな……デュエルの才能も」

「私からデュエルを奪ったら何が残るんですか……」

 

 部屋の隅で泣きそうな紫月。

 それを見てブランは必死に考える。

 そして出した末の結論は、

 

 

 

「えーと……おっぱいデスね!!」

 

 

 

 げ ん こ つ

 

 

 

「……ふん、悲観することもあるまい。一時的なものの可能性もある。今は休め」

「アウチチチチチ……」

 

 頭を抑えるブランを横目に、黒鳥は現状の悪さを再確認するのだった。

 紫月のデュエルタクティクスの高さは最大の切札と言っても良い。

 しかしそれが、鬼月に吸い取られているとなると、最大の味方が最大の敵に転じたも同然だ。

 幸い、彼女自体が鬼になったわけではないため、倒すことに躊躇する必要はないが──

 

「もしあいつがまた現れたら……耀君、取られちゃう……」

「何て?」

「あー……ちょっと強制NTR未遂もあってデスね」

「何だと!? それは……無理矢理と言う事か?」

「無理矢理デスね、断じて」

 

 ──紫月は相当に落ち込んでいる。

 そもそも自分から出てきた鬼に彼氏を盗られるというのもなかなか脳が理解を拒む状況であるのだが、それを黙って見ていられないのも人情だ。

 

「……あの子が私なら、耀君の事が好きなのは当然です。じゃあ、私の中の耀君が好きな気持ちは……? しかも、あの子のアタックが続けば耀君も「まあ実質紫月だし良いか……」って靡くかもしれない? そうしたら私は生きていけない──(超早口)」

「落ち着くデスよ!! それだけ考えられるなら十分LOVEデス!!」

「どうしましょうブラン先輩、耀君、盗られちゃう……! まだちゃんと付き合って半年も経ってないのにっ……!」

「盗られない、盗られないデスから!」

「私あんなに積極的に迫れないですよ! それなのにぃ……!」

「奥手同士は決して悪いとは言わんが、抑圧された欲望が鬼月に出てきたのか……」

 

 黒鳥の分析に紫月はバツが悪そうに頭を伏せた。

 最早、いつものような冷静さもあったものではない。

 以前、耀が力の座での修行で分裂したことこそあったが、あれは彼自身の煩悩に加えて皇帝のカードの人格が上乗せされたものだ。

 今回の鬼月の人格は、完全に紫月のそれが元になっているのである。

 

「ああもう……頭が痛くなってきました……自分と同じ顔には慣れっこのはずなのに。私、頭を冷やしてきます」

 

 気分を悪そうにしながら、紫月は部屋を出ていくのだった。

 

 

 

「……どーするデスか、アレ」

「倒すしかないだろう、鬼月を。白銀の前例があるだろう」

「もし倒しても戻らなかったら?」

「……お手上げだ、そうなったら前例がない」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それからしばらくして。

 色んな所に包帯を巻いた耀が部屋の扉を開けるのだった。

 

「今戻った」

「早かったデスね、病院!」

「有り得んくらいケガの自然治癒が早いってさ。そりゃそうだ、マナが濃くなってる所為で、俺のクリーチャーの部分も活性化してっからな」

 

 つっても、まだ全然本調子ではないけど。

 それでも骨折のような致命的なケガ程、優先して治りが早い気がする。

 一先ず、最低限動ける程度には回復したと言っても良いだろう。

 

「後はモモキングを取り返すだけだ」

「……あまりショックを受けてないようだな」

「受けてますよ。俺が負けた所為だし。でも……あいつは強いからきっと、俺を信じて待ってくれてる」

「全幅の信頼……ってヤツデスか」

「ああ。付き合い長いからな。んで……紫月は?」

「海風に当たってくるって言ってたデス。一人になりたいんじゃないデスか?」

「はあ……そりゃあそうだろな」

「……私があの時動けてれば。シヅク1人をアカルの方に行かせることは無かったのに」

「ブラン……?」

「悔しいデスよ! ……折角、シヅクを守れたと思ったのに、浮かれてたデス。足をケガして、思うように動けなくって……結局、足手まといになっただけデシタ」

 

 ブランは──足に包帯を巻いていた。

 瓦礫がぶつかり、ケガをした上にそれで骨が砕けたのだと言う。

 しばらく、松葉杖無しでは歩くこともままならないだろう。

 

「ばっきゃろー、俺がそもそも負けてなけりゃ、モモキングを奪われることも紫月の鬼が出てくることも無かったんだよ。……だからこそ、この事件の始末は俺が付ける」

「30点、落第だ出直せ」

「え?」

 

 ピシャリ、と黒鳥さんが言った。

 

「恰好を付けたつもりか、愚か者め。貴様が一人で突っ走って、また2年間帰って来なくなったら、僕の弟子が泣く。そうなったら、戻って来た貴様を僕が殺してやらねばならん」

「ス、スミマセン──」

「ふん、分かれば良い」

 

 いつもに増して威圧感のある声色の黒鳥さんだった。

 

「そもそも敵の戦力は、未だに回収出来ていない亜堕無とEVE。そして、デモーニオに憑依していると思われるジャオウガと、ヤツの持つ槍だ。今の貴様でケジメを付けられる面子とは思えんがな」

「数が多いデスよ……! 単純に!」

「かと言って、日本に居る面々は今のネオエデン島の惨状すら知らん可能性が高い。スマホも何故か繋がらない。魔導司にもあまり期待は出来ん」

 

 妨害電波のようなものが何処かから発されてるのだろう。

 スマートフォンは常に圏外。

 此処は文字通りの孤島と化した。

 他の選手たちもずっと何が何だか分からないような状態で、今はヒナタが取りまとめているのだそうだ。

 

「一方、此方の戦力は……守護獣を持つ或瀬と紫月。そして──神力で強制的に結界を開ける白銀だ」

「……そうか! アカルは守護獣が居なくても空間を開けるんデス!」

「ああ。俺はまだ戦えるぜ。戦力は低下してるけどな」

 

 というか、戦わなきゃいけない。

 モモキングがジャオウガに奪われたままだ。

 とはいえ、空間内でのデュエルはプレイヤーの持つ魔力がモノを言う。

 もし、プレイヤーの間に魔力差がある場合──それは「運」として、デュエルの有利・不利に関わってくる。

 恐らく、先のジャオウガ戦でも魔力は向こうの方が上だったが、モモキング無しなら更にその差は広がるだろう。

 

「故に、合理的観点からも事件の始末をつけるのは貴様だけではない。或瀬も、紫月も、入れて90点だ」

「残りの10点は──」

「フン、貴様等の面倒をずっと見てやってるのだ。そこに僕が入っても文句は言えまい?」

「……黒鳥さん……すいません、本当に」

「何かあった時、自分の責任と思い詰めるのは貴様の悪い癖だ……僕の悪い癖でもあるが。しかし、責任で事態が解決するなら誰も苦労はせんわ!」

 

 だから、と彼は続けた。

 

「──まずは、貴様の出番だ或瀬。足に気を付けながら、”尋問”をするぞ」

「尋問? ……ああ、アレですネ。久々に張り切っていきまショー!」

 

 何だかわからんが、わざわざブランが出張るということは──そういうことなんだろうな。

 

「次に白銀。貴様、モモキングが封じられた今、どうやってジャオウガと戦うか決めているか」

「実は紫月との決戦用にとっておいた、最後のデッキがあるんです。それなら、あいつの守りを貫通することが出来そうだから」

「最初っからそれを使えば良かったんじゃないデスか?」

「モモキングが入ってねえから使いたくなかったんだよ。総合的なカードパワーはJO退化が最強だし」

「JO退化より強いデッキなどそうそう無いからな。だが、モモキングが居なくなった上に相手のデッキも判明した今、それも最早関係ない、と。では、貴様自身は問題なさそうだな」

「はい!」

 

 そこに心配はしていない。

 後はどうにかして魔力を溜める手段を持っておきたいくらいか?

 ないものねだりしても仕方ないから、現状はこれで行くつもりだけど。

 

「なら、紫月の所に行ってやれ。あいつをずっと一人にさせておくのは僕が不安だ」

「……勿論、そのつもりです!」

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