学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「取り調べフェイズ、デース!!」
「私は口を割りませんよォォォォーッ!! なんせ地中海出身ですからねェェェーッ!!」
──2秒後。
「ふもがががががががが」
口に熱々の餅巾着をブチ込まれたジョン・ドゥが病院のベッドの上で悶えていた。
シャツにネクタイを締め、さながら女刑事のようや出で立ちとなったブランはサングラスをかけると、隣のベッドに寝るジェーン・ドゥに向き直る。
彼らは亜堕無とEVENOMIKOTOの実質的な動力源となっており、疲労と憔悴が著しかったため、搬送されることになったのである。
そこで黒鳥は彼らから聞けるだけの情報を聞き出すことにしたのだった。
「私はパツキン刑事・人情派……これから取り調べに入るデスよ、良いデスね? ジェーン・ドゥさん」
「人道からはぐれているし、あとおでんは何処で買った?」
「船の売店にあったので、こういう事もあろうかと缶詰を買っておいたのデスよ、美学刑事」
「恐ろしいヤツだ貴様は……」
こういう事も、というのは拷問用に買っておいたということである。
これではパツキン刑事・強情派と呼ばれても仕方がない。
「……分かりました。話しましょう、デモーニオについて」
「ふがっ、ふがっ、ふぁ、ふぁ、あづづづづづ」
「やっと口を割る気になったようデスね。私のおでんよりも熱い説得が通じたようデス!」
「拷問だろアレは」
白目を剝きながら悶えているジョンを親指で差すが、ブランは全スルー。ジェーンもスルー。
哀れ、彼に気をやっているのは黒鳥しかいないのであった。
そして、何事も無かったかのようにジェーンは語り出す。
「勘違いしないでいただきたい。Japaneseおでんに屈したから口を割るワケではありません」
「だっ、だすけっ、あふっ、あふっ」
「Why? それではなぜ?」
「……誰にもデモーニオを止められないからです。その上で……デモーニオの過去について教えましょう」
※※※
──山盛りの料理を頬張るのは、暗野紫月から分離した鬼──鬼月だ。
それを、呆れた様子でデモーニオは眺めている。
「はぐっはぐっ、もぐっもぐっ……」
「おいこれで何枚目のピッツァだ? ……いつか太るぞ」
「失礼ねっ、んぐっ、もぐっ──レディは太らないんだからっ、もぐっ」
「そんなに好きなのか? ……頼めばもっと高いモノを食わせてやるのに」
「あっ、そうなの? 私ピザバーガーってヤツが一回食べてみたかったんだよね、あっちの私が食べたがってたみたいなんだけど」
「太るぞ! しかもそれはアメリカのピザじゃあないか!!」
「鬼だから太らないもん!」
一通り喰い尽くす。
更に山盛りだったイタリアンのフルコースも、ピザも、パスタも、全部彼女が食べてしまった。
膨れた腹をさすりながら、鬼月はお礼を言った。
「ごちそうさまっ、あんた、結構いいヤツじゃない。美味しいモノをたらふく喰わせてくれたお礼くらいはするけど?」
「……」
「どーしたの、オッサン」
「……いや、何でもない。ただ、年頃の娘たちに、こんな風に飯を振る舞うこともあったような」
(──っ、今日のパスタはーっ?)
(カルボナーラだよ。ピッツァも沢山焼いてあげよう)
(わーいっ、──、ありがとーっ)
「……今じゃあもう、全く思い出せんがな」
「ま、いいよ。私はごはん沢山喰わせて貰ったから、しばらくはオッサンの言う事聞いたげる。だから──」
鬼月は笑みを浮かべてみせる。
鬼らしく、狂喜と欲望に満ち溢れた表情だった。
まだ、足りない。
食欲は満たされた。残るは愛欲。
自らの半身が愛してやまない白銀耀を──奪う。
「──EVENOMIKOTO……私に寄越してよ」
※※※
「デモーニオは、ごく普通の料理人でした。出先で会った女性と結ばれ、そして──3人の子宝を授かりました」
「……3人目の子供を身籠って、しばらくした後のことでした」
「デモーニオは珍しく、妻と喧嘩をしました。子供の名前を決めるのに揉めたのです。そして心にもないことを言って……妻は出ていってしまいました」
「デモーニオは、言い過ぎたことを反省し、妻が帰って来た時のためにパスタを作りました。ピザも焼きました。仲直りをした時に一緒に食べるために」
「……でも、妻が帰ってくることは、永遠にありませんでした──飲酒運転の車が、妻の歩いていた歩道に突っ込んだのです」
黒鳥とブランは言葉を失った。
デモーニオは、仲直りの言葉を言わないまま、妻とお腹の子供に会うことは永遠に無くなってしまった。
「……何処でもあるものなのだな、そういったことは。自国以外の交通事情にはどうしても疎いが」
「イタリア人はお酒に強いデスから、交通規制は日本より緩いデス。……こういう事件が全く無いってわけじゃないデスけど」
「運転手はディスコ帰りの若者でした。流石に人を殺したこともあり、罪に問われることになるはずでした」
「はずだった?」
「……。若者の父は有力議員だったんです。飲酒運転は握り潰され、単なる事故にすり替えられた」
「チッ……胸糞悪いな」
黒鳥は舌打ちする。
デモーニオの無念は察するに余りある。
「そのことを知ったデモーニオは何度も裁判を起こしましたが……結局、妻とお腹の子供の無念を晴らす事は出来ませんでした」
「これが、デモーニオの過去……」
「それから──デモーニオは文字通り、鬼になりました」
まるで見て来たかのようにジェーンは言った。
「それまでの彼は死んだも同然でした。彼はレストランを辞め、今まで稼いだお金で投資を始め、会社を経営し始めました」
「……? 何故だ」
「恐らく、”権力”に固執したんじゃないデショウか? 自分の妻子の無念を晴らせなかったのは、議員の”権力”の所為デショ?」
「それだけではないだろう。復讐の為に、大量の金が必要になった……?」
「はい。デモーニオなりに方法を模索し続けたのでしょう。そして、ある時、デモーニオはあの鬼の槍を手にしました」
それが、恐らく運命の歯車が狂った瞬間だったのだろう。
どういう経緯かは分からない。しかし、本来彼が手にするべきものではなかったことは確かである。
「そしてデモーニオは──槍の力で復讐を果たしたのです」
「え? 果たしたんデス!?」
「数年前。件の議員一族が殺し合う事件がありました。例の息子は自分の親族から身体をメッタ刺しにされて殺されました」
「……それってまさか」
「はい。鬼化です」
槍は、目覚めてなくとも短時間ならば多くの人を鬼化させしめる力があったのだと彼女は語る。槍単体ではなく鬼の鎧──亜堕無の力も一緒に借りたのではないか、とも推測した。
「不完全な状態でこれか……恐ろしいな、呪いの力と言うものは。完成すれば全世界の人類を鬼化するのもホラ話ではあるまい」
「……じゃあ、もう復讐は果たされたのではないデス?」
「いいえ、鬼の力に魅せられた彼は、復讐が終わっても尚呪物の完全な完成を狙い始めたのです。私達がデモーニオに近付けたのはこの時期でした」
「何で止めようと思わなかったんデスか!?」
「デモーニオは……人が皆、鬼となることで、より良い世界になると言っていました。私達もそれを信じるしかありませんでした。今の腐った世界を壊せるなら……と」
「そこに後悔も反省も無いというわけか」
「はい」
「ヤツは貴様等部下を鬼の人柱にした。亜堕無とEVEの動力源でしかなかったんだぞ貴様等は。その結果がこうだ。時間が経っていれば死んでいたんだ。ヤツの理想の世界に、貴様等は居ない」
「それでも私達は……デモーニオを見限るわけにはいかないのです」
彼女の目からは──雫が零れていた。
「デモーニオは……ジェーンと……ジョンの父ですから」
沈黙が漂う。
父の身に起こった悲劇を目の当たりにしていたからこそ。
彼らは猶更デモーニオを止める事が出来なかったのだろう。
しかし。
「自分の野望のために、自分の子供を鬼に売るなんて……酷いデスよ!!」
ブランが叫ぶ。
かつて──幼馴染に利用された彼女だからこそ噴き出る怒りだった。
「父は、私達の事を覚えていません。だから私達も……
「ッ……何で、何で、子供の事を忘れられるのデスか! 復讐するくらい、家族のことが大事だったはずなのに……!」
「鬼の槍がデモーニオを”鬼”に変えてしまったのだろう。ヤツにはジャオウガが憑りついていた。ワイルドカードの事例を考えれば、死んでいないのが幸運だ。恐らく……人格も記憶も既にズタズタになっている」
「そんな……」
「ジャオウガ……それが父に憑りついた鬼の名前ですか」
「ああ。ヤツの目的は全人類の鬼化とモモキングへの復讐だ。貴様の父の目的は何時の間にか、ジャオウガの目的に擦り替わっていたのだ」
「貴方達に父を……デモーニオとジャオウガを止められますか? 実の子供の顔も覚えていない。父は……名実ともに”
答えは一つだ。
例えどんな理由があろうとも、黒鳥とブランの決意は揺るがない。
「貴様が何と言おうが、我々にはデモーニオを倒す理由がある。僕達の手でヤツの野望に終止符を打つ」
「もう、憎しみも悲劇も連鎖させない! 私達が……断ち切るデスよ!」