学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ッ……はぁ、はあ、あっ、ぎぃっ……!!」
《「亜堕無」─鬼MAX》の召喚直後。
一際強い鬼化の進行がブランに襲い掛かった。
脳は揺さぶられ、強い衝動が何度も何度も襲い掛かり、最早立つこともままならない。
何故ならば彼女は分かっている。
次に起き上がった時は、自分が自分で無くなっている時だ、と。
「あっ、ぐうっ……喰ラウ……殺ス……呪ウ、呪ッテ……!!」
「探偵……ぬぐっ、あぁ、あぎっ……がぁっ……!!」
記憶が薄れてくる。
仲間と過ごした思い出も。
今まで出会った来た何もかも。
それらが塗り潰されていく。
──激しい、虐めの記憶に。
※※※
「アッハハハハハ!! 金髪だ!! 金髪だ!!」
「お前、明日から染めて来いよ!!」
「……気持ち悪い。もう話しかけて来ないで」
「或瀬さん。どうしてクラスに馴染めないの? 虐められる理由は……貴女にもあるんじゃないの?」
「私はッ……」
ハーフを理由に。
ブロンドの髪を理由に。
周囲から遠ざけられた記憶が、虐げられた記憶がよみがえる。
髪を引きちぎられた。
弁当に虫を入れられた。
家に帰れば、猫の死骸が入っていた。
吐き気を催すような記憶ばかりだ。
惨めな自分。一人ぼっちの自分だけ。
だけど。
そんな自分を、救ってくれた人が居た。
※※※
「おーっ、かーわいーっ!! 何この娘? 人形? どこで買ってきたのよ、白銀クンっ」
「神楽坂先輩ッ、或瀬さん怖がってるじゃないですか!!」
「えー、なんでよー、かわいい子をかわいがって何が悪いのよ」
「目が怖い……」
「良い? 探偵になりたいなら、キャラからなりきらなきゃダメ! この服を着て!」
「えーっと、私がこんなの着ていいの? 部長」
「サイコー!! それと、日本語はヘタクソなフリした方がカワイイから! 言い訳出来るし、カタコトっぽく喋って!」
「……見るべきものを見ないから、大事なものを見落とすのデス……みたいなカンジ?」
「そう! それぇーっ! デースを、伸ばして! 君は可愛いんだから許されます!」
「何やらせてんだあんたァ!!」
「デース! 名探偵ブランちゃんに、お任せデース!」
「ねぇぇぇー! ねぇぇぇーっ! あんたどーしてくれんの神楽坂部長ォ!?」
「私の責任じゃないし、あの子も人気になって、万々歳でしょ白銀クン。ウチに入って早2ヵ月。ここまで育てるの、長かったわー……」
「確かに前より明るくなったし、友達も増えたけども!! あれ? 良い事しかない? ……なら良いか!」
「墓地退化以外のデッキ? 幾らでもあるけど、そうだな……白単サザンとかかなあ」
「持ってるデス?」
「一応な。でも俺、デッキ組むのへたっぴだからコピーデッキだぞ」
「別に良いデスよぅ! 早速貸してくだサーイ!」
「お前に貸したら、帰って来ねえ時があるからなあ」
「えー、ひどいデス! 今度は忘れないデスよ!」
「うーん、青春ってカンジ」
「茶化さないでくださいよ」
「なぁ、或瀬さん。無理してるんだったら、やめて良いんだぞ? そのキャラ付け……」
「何言ってるデス? 白銀君、今の私にはこれが一番しっくりくるデスよ」
「……そーだけど、ずっとそれだとなんつーか、疲れねえ?」
「疲れたりしないデスよ。それとも白銀君。……私にこういうの、似合わない?」
「……あー分かった、そんな顔すんな! 俺だってな、お前が元気そうにしてるのが一番だからな」
「OK! ふふっ、でも、こうやって一歩踏み出せたの、白銀君のおかげなんデスよ?」
「あ? 俺? でも俺はデュエマに無理矢理誘っただけだぜ」
「……だとしても、デス! 白銀君が見守ってくれたから! 何かあったら白銀君が守ってくれるって思ってるから、勇気を出せるデスよ!」
「……或瀬さん」
「だから──えーっと。白銀君が居ないと、ダメっていうか、いや、その……」
──私、白銀君の事が好き──
「っ……」
「どした? 或瀬さん」
「えっと……アカル! アカルって呼んで、良いデスよね! これからも私達、Best friendでいまショー!」
「……分かったよ。好きに呼べよ、ブラン」
「あっ、アカルもデスか? OK! 私達、これから遠慮とか一切ナシ、デスよ!」
(……言えるワケ、無いデスよ。私、あの頃、ロードが好きだったし……)
「聞いてよブラン。耀ったらさ、最近全然話しかけてくれないんだよねー」
「酷いデスねー、デモカリン? 恋愛に焦り過ぎはNo!」
「いや、そう言う話じゃないんだけど!」
(それにアカルは……)
「白銀先輩……カッコイイ……はっ、私一体、今何を……?」
「ふふーん、シヅクもやっとアカルの魅力に気付いたデース?」
「そんなわけありません! あんなクソ真面目な人……誰が」
(アカルは皆に好かれてて……その中で私が抜きんでるなんてムリだった──)
「君、本当は白銀耀の事が好きだったんだろう?」
聞いた事のある声が頭に反響した。
「……ロード」
思わず、その名を呼ぶ。
死んだはずの幼馴染が目の前に立っていた。
しかし、突きつけられたのは否定のしようがない事実だった。
1人だった自分を。惨めだった自分を。
救ってくれたあの少年を──どうして好きにならないでいられるだろうか。
だが、ずっと黙っていた。
黙っているうちに、それが当たり前になっていった。
自分で作った仮面を、キャラを被るうちに──その気持ちを口にすることすら無くなってしまった。
「君は結局、物語の主人公でもヒロインでもない。ただのそこにいるナードで、モブだ」
「そんな、わけ……!」
「……だけど残念だったね。それをずっと胸に秘めてた所為で、二人はくっついてしまった。卒業して、部活も廃部。もう君達を繋ぐ者は何も無い」
「……っ」
「でもいいじゃないか。元に戻っただけ。だって……君は一人ぼっちだったじゃないか、ずっとね」
「ぐぅっ、ああ……!」
「もし、手に入れたいなら、力づくで手に入れなきゃね……」
目の前には──般若の仮面を被ったダレかが立っていた。
「──違う」
──ガツンッ!!
「違うッ!!」
思いっきり、額を、地面に、打ち付けた。
「なんだ……いきなり……!?」
「ロード、もう出て来なくて良いよ」
「ッ……!!」
「消えて」
「……何で……ブラン……!!」
「あの二人は……いつだって、私のMy best friend……!! 力づく? 絶対イヤ!
あの二人の幸せが、私の幸せだから!!」
「ッ……」
「確かにちょっと寂しかったデスけど……今の私にとって、アカルは……!!」
(何度でも、言うぜ。俺はお前の味方だ。俺だけじゃねえ。紫月も、火廣金も、桑原先輩も、皆お前の味方なんだ!)
「そして、皆は……!!」
(……そうだ。俺達は同じ部活の部員だからな。当然の事。理由など、それだけで十分だ。他に要らない)
(私も……ブラン先輩の味方で居て、良いでしょうか? これからも、ずっと……)
「正真正銘、私の仲間なんデスよ!!」
「そんな事を思ってるのはお前だけだ!!」
「アカルも、シヅクも、黒鳥サンも……皆も。私を仲間だって言ってくれる! 私も皆を仲間だって思ってる!! そうじゃないなら、今私は……此処に立ってない!!」
そう叫ぶと──ロードの姿をした何者かは消えた。
そして。頭の靄は、完全に晴れた。
※※※
血塗れになりながら、漸く──ブランは立ち上がった。
頭の角は、二本とも折れていた。
「……戻って、来れたデス」
「バカな、あそこから理性を取り戻した、だと!? ……何故だ!? 何故、鬼化に耐えられる!!」
「皆の、おかげデスよ」
ブランは背後で苦しむ己の守護獣に──叫ぶ。
「そうデショ? サッヴァーク」
「ッ……そうじゃ。もうワシは……ヌシを泣かせないと決めた」
「守護獣まで……! 《「亜堕無」─鬼MAX》で攻撃する時、効果発動!! 場の《バイナラの心絵》を手札に戻し、そのコスト以下の《シラズ死鬼の封》を発動!」
白い鬼の鎧は──幻影と共に分身する。
「墓地から《神ナル機カイ「亜堕無」》を蘇生する!! シールドをW・ブレイクだ!!」
「ッ……まだまだあ!!」
「何がまだまだだ!! 《神ナル機カイ「亜堕無」》は連続攻撃を持つ!! 場のタマシードの数だけアンタップするぞ!!」
何体にも分裂した《「亜堕無」》の攻撃が、ブランのシールドを叩き割る。
「喰らってやるデスよ、そんな攻撃」
「だが最後の一撃だけは絶対に通さん」
《ゲラッチョの心絵》と《パーリの心絵》が光り輝く。
そして──巨大な剣が戦場に現れた。
「……守ってみせよう。汝の正義を貫き通すために」
「相手のクリーチャーが攻撃した時、場に2枚のタマシードがあれば、それをタップするデス。そうすれば──このクリーチャーは場に出てくる!!」
「ッ……!? 何だ!? この剣は──亜堕無!! ブチ壊せ!!」
<S─MAX:サッヴァーク>
「私を進化元に……スターMAX進化!!」
突如。
ブランの身体が光り輝く。
サッヴァークの身体は粒子となり、彼女に纏われていく。
「この正義は友のため。重ねれば盾に。貫けば剣に。我らが心は今一つに!!」
白い法衣と鎧を身に纏った騎士の如き姿となっていた。
その手には剣が握られている。
「私達の名は……《サッヴァーク─MAX》!!」
文字通り。
守護獣と一心同体となった或瀬ブランの姿が、そこにあった。
「んなぁぁぁぁーっ!? 馬鹿な!! S─MAXで、クリーチャーと完全に合体した、だとォ!?」
「探偵! ヤツの攻撃が来る、打ち返してやれぃ!」
「了解、デェェェース!!」
ブンッ!!
思いっきり亜堕無目掛けてブランは剣を振るう。
白い戦艦の鬼は──真っ二つに切り裂かれ、そして爆散した。
「すごいデス! 足も全然痛くないデスよ!」
「ワシの魔力で補っておるからな……!」
「りょーかい、デス!」
「何故だ、何故だァ!? 俺っちよりも、こいつらの方がクリーチャーと一心同体に……!?」
「ふんっ、年季が違うのじゃよ。年季が!!」
「Yes!!」
ブランは軽い足取りで戻ると、カードを引く。
そして、最早手で手繰ることなく、クリーチャーを実体化させた。
「《ゲラッチョの心絵》をスター進化!! 《
現れたのは《正義星帝<ライオネル.Star>》──《「俺」の頂 ライオネル》の力を継ぐレクスターズだ。
その力により、更にブランは手札からタマシードを連打していく。
弾数は十二分だ。後は、解き放つだけ。
「その効果で、手札から光のタマシードの《スロットンの心絵》を発動! そして、場にタマシードが初めて出た時、《<ライオネル.Star>》の効果で手札から2枚目《<ライオネル.Star>》を呼び出すデース!」
《スロットンの心絵》の上に《<ライオネル.Star>》が重なる。
そして再び、その効果が発動する。
「ち、畜生、畜生……! こんな、はずでは……!」
「当然連鎖するデスよ! 《<ライオネル.Star>》の効果で、手札から2枚目の《カーネンの心絵》を発動デス! 効果で更に3枚目の《<ライオネル.Star>》を手札に! そして3枚目を《カーネン》からスター進化!!」
「《<ライオネル.Star>》が、3体も……!!」
《<ライオネル.Star>》の進化クリーチャーを出す効果は1ターンに1度しか使えない。
しかし、それはあくまでも1枚の《<ライオネル.Star>》の話であり、2枚目、3枚目が場に出れば、それぞれが効果を使うことが出来るのである。
「3枚目の《<ライオネル.Star>》の効果発動! 手札から──《ダンテの心絵》を出して、《「亜堕無」─鬼MAX》をフリーズデース!」
「そんな、馬鹿な……!」
「今度は《サッヴァーク─MAX》と入れ替えでこのクリーチャーの出番、デース!」
ブランの身体から《サッヴァーク》が離れる。
そして現れたのは──蒼き鎧に身を包んだ龍騎士。
それがバトルゾーンへと現れる。
「仲間達、私に力を貸してくだサイ! 私を進化元にスターMAX進化──《MAX・ザ・ジョニー》!!」
崩れたブランの身体をサッヴァークが抱きとめる。
バトルゾーンに現れたのは、スターMAXの力に目覚めたジョーカーズのマスター《ジョリー・ザ・ジョニー》だ。
「ッ……やっぱり、合体はサッヴァークとじゃないと無理みたいデスね……!」
「少し安心したがな」
「あれー? 嫉妬したデス?」
「言っておる場合か!」
「はいはい、私の相棒はYouだけデスよ! サッヴァーク! 《ジョニー》は場のレクスターズ、またはジョーカーズの数だけパワーがアップ! 場にあるのは5枚! よって、パワーは20000デース! しかも、パワードブレイカーでパワーが上がればブレイク数もアップデース!」
つまり、残るイチエンのシールドなど一撃で消し飛ばせることを意味していた。
更に。
「もう1つの《ジョニー》の効果! ブレイク前にシールドを追加デース! ドラゴンブレイクならぬ──ドラゴンナイト・Q・ブレイクッ!!」
「ッ……4点か……畜生!!」
イチエンのシールドが4枚、吹き飛ぶ。
しかし。それでも尚、彼は終わらない。
「S・トリガー……《コーライルの海幻》で《ジョニー》を山札の下に!」
「ッ……でも、まだまだ!」
「止めるっつってんだろォ!? お前みたいな何も知らねえガキに負けて堪るかよ!! 《終末の時計 ザ・クロック》でターンを飛ばす!!」
ブランのシールドは4枚に激増。
対して、イチエンのシールドは0枚。
「お、俺は、負けねえぞ……金を、金を、手に入れるんだ……力さえあれば、もう、何も要らねえ……! 《神ナル機カイ「亜堕無」》をスター進化……!!」
「イチエンサン……!」
「その効果で、コスト5を宣言、3体の《<ライオネル.Star>》は攻撃もブロックも出来ねえ……!」
「貴方が変わってしまったキッカケは……好きだった人に裏切られたことデス。デモ……皆が皆、貴方を裏切るわけじゃあないんデスよ! 貴方を本心から気にかけてくれる人だって……」
「そんなの、居る訳が──」
バチッバチッ、とイチエンの脳裏に過ったのは。
(なんで! 私は貴方が好きなのに! 別れようだなんて!)
(っせぇなー……飽きたからもう要らねえんだわ。お前、気色わりーんだよ。いっつも俺っちの後ろについてきやがって)
(それは、貴方が好きだから──)
(どうせ俺の金目当てなんだろ! 二度と俺っちの前に姿を見せるんじゃねえ!)
とっくに、忘れたはずの、記憶だった。
「うるせぇ!! お前に何が分かる!! 俺っちが信用できるのは、金で繋がった関係だけだ……!! 力で繋がった関係だけだ……!!」
最後の力を振り絞り、《「亜堕無」》が殴りかかる。
しかし。
「──《ダンテの心絵》と《カーネンの心絵》をタップし、発動!!」
「邪魔するんじゃあ、ねぇぇぇよぉぉぉぉおおおおおーっ!」
今度も通らない。
《「亜堕無」》の身体は──《サッヴァークMAX》によって両断される。
「はぁ、はぁぁあ……何で、何でだよォ……!! 畜生、畜生ォォォーッ!! これだから何も信用出来ねえ!! どうせ人もカードも鬼も……俺を裏切るんだよ!!」
「……貴方が本当に信じられなかったのは。自分自身じゃないデスか?」
「っ……」
「だから……お金に固執したんじゃないデスか」
「知ったことを聞いてんじゃねえ!!」
「……分かるデスよ。私も自分が、そして他人が信じられなかったデスから」
カードを引いたブランは──3枚のマナをタップした。
「──呪文、《ダイヤモンド・ソード》!! これで、私のクリーチャーは皆、攻撃出来ない効果が解除されるデス!!」
「ッ……やめろっ、やめろぉっ!! 《「亜堕無」─鬼MAX》!! あいつの攻撃を止めるんだ!! 鬼スターMAXは、場のカード3枚を犠牲にして敗北を回避する……!!」
縋りつくかのように、白い鎧の鬼がタマシードを喰らいながら《正義星帝》達の攻撃を凌いでいく。
しかし。
足りない。
あまりにも。
ブランの場の攻撃出来るクリーチャーは4体。
イチエンは、12枚のカードが無ければ、耐え凌ぐことができない。
「おいっ、おいっ!! 《「亜堕無」》!! コイツの攻撃を防げェェェェェェェェーッ!!」
「行くデスよ、サッヴァーク!!」
「ああ!!」
大上段の剣から──光りが放たれる。
「──クライマックス・ジャッジメント!!」
それが、亜堕無を──両断し、完全に吹き飛ばしたのだった。