学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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JO27話:記憶

 ※※※

 

 

 

 

「ッ……はぁ、はあ、あっ、ぎぃっ……!!」

 

 

 

 

 《「亜堕無」─鬼MAX》の召喚直後。

 一際強い鬼化の進行がブランに襲い掛かった。

 脳は揺さぶられ、強い衝動が何度も何度も襲い掛かり、最早立つこともままならない。

 何故ならば彼女は分かっている。

 次に起き上がった時は、自分が自分で無くなっている時だ、と。

 

「あっ、ぐうっ……喰ラウ……殺ス……呪ウ、呪ッテ……!!」

「探偵……ぬぐっ、あぁ、あぎっ……がぁっ……!!」

 

 記憶が薄れてくる。

 仲間と過ごした思い出も。

 今まで出会った来た何もかも。

 それらが塗り潰されていく。

 

 

 

 

 

 

 ──激しい、虐めの記憶に。

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「アッハハハハハ!! 金髪だ!! 金髪だ!!」

「お前、明日から染めて来いよ!!」

「……気持ち悪い。もう話しかけて来ないで」

「或瀬さん。どうしてクラスに馴染めないの? 虐められる理由は……貴女にもあるんじゃないの?」

 

 

 

 

「私はッ……」

 

 

 ハーフを理由に。

 ブロンドの髪を理由に。

 周囲から遠ざけられた記憶が、虐げられた記憶がよみがえる。

 髪を引きちぎられた。

 弁当に虫を入れられた。

 家に帰れば、猫の死骸が入っていた。

 吐き気を催すような記憶ばかりだ。

 惨めな自分。一人ぼっちの自分だけ。

 だけど。

 そんな自分を、救ってくれた人が居た。

 

 

 ※※※

 

 

 

「おーっ、かーわいーっ!! 何この娘? 人形? どこで買ってきたのよ、白銀クンっ」

「神楽坂先輩ッ、或瀬さん怖がってるじゃないですか!!」

「えー、なんでよー、かわいい子をかわいがって何が悪いのよ」

「目が怖い……」

 

 

「良い? 探偵になりたいなら、キャラからなりきらなきゃダメ! この服を着て!」

「えーっと、私がこんなの着ていいの? 部長」

「サイコー!! それと、日本語はヘタクソなフリした方がカワイイから! 言い訳出来るし、カタコトっぽく喋って!」

「……見るべきものを見ないから、大事なものを見落とすのデス……みたいなカンジ?」

「そう! それぇーっ! デースを、伸ばして! 君は可愛いんだから許されます!」

「何やらせてんだあんたァ!!」

 

 

「デース! 名探偵ブランちゃんに、お任せデース!」

「ねぇぇぇー! ねぇぇぇーっ! あんたどーしてくれんの神楽坂部長ォ!?」

「私の責任じゃないし、あの子も人気になって、万々歳でしょ白銀クン。ウチに入って早2ヵ月。ここまで育てるの、長かったわー……」

「確かに前より明るくなったし、友達も増えたけども!! あれ? 良い事しかない? ……なら良いか!」

 

 

「墓地退化以外のデッキ? 幾らでもあるけど、そうだな……白単サザンとかかなあ」

「持ってるデス?」

「一応な。でも俺、デッキ組むのへたっぴだからコピーデッキだぞ」

「別に良いデスよぅ! 早速貸してくだサーイ!」

「お前に貸したら、帰って来ねえ時があるからなあ」

「えー、ひどいデス! 今度は忘れないデスよ!」

「うーん、青春ってカンジ」

「茶化さないでくださいよ」

 

 

 

「なぁ、或瀬さん。無理してるんだったら、やめて良いんだぞ? そのキャラ付け……」

「何言ってるデス? 白銀君、今の私にはこれが一番しっくりくるデスよ」

「……そーだけど、ずっとそれだとなんつーか、疲れねえ?」

「疲れたりしないデスよ。それとも白銀君。……私にこういうの、似合わない?」

「……あー分かった、そんな顔すんな! 俺だってな、お前が元気そうにしてるのが一番だからな」

「OK! ふふっ、でも、こうやって一歩踏み出せたの、白銀君のおかげなんデスよ?」

「あ? 俺? でも俺はデュエマに無理矢理誘っただけだぜ」

「……だとしても、デス! 白銀君が見守ってくれたから! 何かあったら白銀君が守ってくれるって思ってるから、勇気を出せるデスよ!」

「……或瀬さん」

「だから──えーっと。白銀君が居ないと、ダメっていうか、いや、その……」

 

 

 ──私、白銀君の事が好き──

 

「っ……」

「どした? 或瀬さん」

「えっと……アカル! アカルって呼んで、良いデスよね! これからも私達、Best friendでいまショー!」

「……分かったよ。好きに呼べよ、ブラン」

「あっ、アカルもデスか? OK! 私達、これから遠慮とか一切ナシ、デスよ!」

 

(……言えるワケ、無いデスよ。私、あの頃、ロードが好きだったし……)

 

「聞いてよブラン。耀ったらさ、最近全然話しかけてくれないんだよねー」

「酷いデスねー、デモカリン? 恋愛に焦り過ぎはNo!」

「いや、そう言う話じゃないんだけど!」

 

(それにアカルは……)

 

「白銀先輩……カッコイイ……はっ、私一体、今何を……?」

「ふふーん、シヅクもやっとアカルの魅力に気付いたデース?」

「そんなわけありません! あんなクソ真面目な人……誰が」

 

(アカルは皆に好かれてて……その中で私が抜きんでるなんてムリだった──)

 

 

 

 

「君、本当は白銀耀の事が好きだったんだろう?」

 

 

 

 聞いた事のある声が頭に反響した。

 

「……ロード」

 

 思わず、その名を呼ぶ。

 死んだはずの幼馴染が目の前に立っていた。

 しかし、突きつけられたのは否定のしようがない事実だった。

 1人だった自分を。惨めだった自分を。 

 救ってくれたあの少年を──どうして好きにならないでいられるだろうか。

 だが、ずっと黙っていた。

 黙っているうちに、それが当たり前になっていった。

 自分で作った仮面を、キャラを被るうちに──その気持ちを口にすることすら無くなってしまった。

 

「君は結局、物語の主人公でもヒロインでもない。ただのそこにいるナードで、モブだ」

「そんな、わけ……!」

「……だけど残念だったね。それをずっと胸に秘めてた所為で、二人はくっついてしまった。卒業して、部活も廃部。もう君達を繋ぐ者は何も無い」

「……っ」

「でもいいじゃないか。元に戻っただけ。だって……君は一人ぼっちだったじゃないか、ずっとね」

「ぐぅっ、ああ……!」

「もし、手に入れたいなら、力づくで手に入れなきゃね……」

 

 目の前には──般若の仮面を被ったダレかが立っていた。

 

 

 

 

「──違う」

 

 

 

 

 ──ガツンッ!!

 

 

 

 

 

「違うッ!!」

 

 

 

 思いっきり、額を、地面に、打ち付けた。

 

「なんだ……いきなり……!?」

「ロード、もう出て来なくて良いよ」

「ッ……!!」

「消えて」

「……何で……ブラン……!!」

「あの二人は……いつだって、私のMy best friend……!! 力づく? 絶対イヤ!  

あの二人の幸せが、私の幸せだから!!」

「ッ……」

「確かにちょっと寂しかったデスけど……今の私にとって、アカルは……!!」

 

 

 

 

(何度でも、言うぜ。俺はお前の味方だ。俺だけじゃねえ。紫月も、火廣金も、桑原先輩も、皆お前の味方なんだ!)

 

 

 

「そして、皆は……!!」

 

 

 

(……そうだ。俺達は同じ部活の部員だからな。当然の事。理由など、それだけで十分だ。他に要らない)

(私も……ブラン先輩の味方で居て、良いでしょうか? これからも、ずっと……)

 

 

 

「正真正銘、私の仲間なんデスよ!!」

「そんな事を思ってるのはお前だけだ!!」

「アカルも、シヅクも、黒鳥サンも……皆も。私を仲間だって言ってくれる! 私も皆を仲間だって思ってる!! そうじゃないなら、今私は……此処に立ってない!!」

 

 

 そう叫ぶと──ロードの姿をした何者かは消えた。

 そして。頭の靄は、完全に晴れた。

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 血塗れになりながら、漸く──ブランは立ち上がった。 

 頭の角は、二本とも折れていた。

 

「……戻って、来れたデス」

「バカな、あそこから理性を取り戻した、だと!? ……何故だ!? 何故、鬼化に耐えられる!!」

「皆の、おかげデスよ」

 

 ブランは背後で苦しむ己の守護獣に──叫ぶ。

 

「そうデショ? サッヴァーク」

「ッ……そうじゃ。もうワシは……ヌシを泣かせないと決めた」

「守護獣まで……! 《「亜堕無」─鬼MAX》で攻撃する時、効果発動!! 場の《バイナラの心絵》を手札に戻し、そのコスト以下の《シラズ死鬼の封》を発動!」

 

 白い鬼の鎧は──幻影と共に分身する。

 

「墓地から《神ナル機カイ「亜堕無」》を蘇生する!! シールドをW・ブレイクだ!!」

「ッ……まだまだあ!!」

「何がまだまだだ!! 《神ナル機カイ「亜堕無」》は連続攻撃を持つ!! 場のタマシードの数だけアンタップするぞ!!」

 

 何体にも分裂した《「亜堕無」》の攻撃が、ブランのシールドを叩き割る。

 

「喰らってやるデスよ、そんな攻撃」

「だが最後の一撃だけは絶対に通さん」

 

 《ゲラッチョの心絵》と《パーリの心絵》が光り輝く。

 そして──巨大な剣が戦場に現れた。

 

「……守ってみせよう。汝の正義を貫き通すために」

「相手のクリーチャーが攻撃した時、場に2枚のタマシードがあれば、それをタップするデス。そうすれば──このクリーチャーは場に出てくる!!」

「ッ……!? 何だ!? この剣は──亜堕無!! ブチ壊せ!!」

 

 

 

 

<S─MAX:サッヴァーク>

 

 

 

「私を進化元に……スターMAX進化!!」

 

 

 

 突如。

 ブランの身体が光り輝く。

 サッヴァークの身体は粒子となり、彼女に纏われていく。

 

「この正義は友のため。重ねれば盾に。貫けば剣に。我らが心は今一つに!!」

 

 白い法衣と鎧を身に纏った騎士の如き姿となっていた。

 その手には剣が握られている。

 

 

 

「私達の名は……《サッヴァーク─MAX》!!」

 

 

 

 文字通り。

 守護獣と一心同体となった或瀬ブランの姿が、そこにあった。

 

「んなぁぁぁぁーっ!? 馬鹿な!! S─MAXで、クリーチャーと完全に合体した、だとォ!?」

「探偵! ヤツの攻撃が来る、打ち返してやれぃ!」

「了解、デェェェース!!」

 

 ブンッ!!

 思いっきり亜堕無目掛けてブランは剣を振るう。

 白い戦艦の鬼は──真っ二つに切り裂かれ、そして爆散した。

 

「すごいデス! 足も全然痛くないデスよ!」

「ワシの魔力で補っておるからな……!」

「りょーかい、デス!」

「何故だ、何故だァ!? 俺っちよりも、こいつらの方がクリーチャーと一心同体に……!?」

「ふんっ、年季が違うのじゃよ。年季が!!」

「Yes!!」

 

 ブランは軽い足取りで戻ると、カードを引く。

 そして、最早手で手繰ることなく、クリーチャーを実体化させた。

 

「《ゲラッチョの心絵》をスター進化!! 《正義星帝(Still justice till the end)<ライオネル.Star>》!!」

 

 現れたのは《正義星帝<ライオネル.Star>》──《「俺」の頂 ライオネル》の力を継ぐレクスターズだ。

 その力により、更にブランは手札からタマシードを連打していく。

 弾数は十二分だ。後は、解き放つだけ。

 

「その効果で、手札から光のタマシードの《スロットンの心絵》を発動! そして、場にタマシードが初めて出た時、《<ライオネル.Star>》の効果で手札から2枚目《<ライオネル.Star>》を呼び出すデース!」

 

 《スロットンの心絵》の上に《<ライオネル.Star>》が重なる。

 そして再び、その効果が発動する。

 

「ち、畜生、畜生……! こんな、はずでは……!」

「当然連鎖するデスよ! 《<ライオネル.Star>》の効果で、手札から2枚目の《カーネンの心絵》を発動デス! 効果で更に3枚目の《<ライオネル.Star>》を手札に! そして3枚目を《カーネン》からスター進化!!」

「《<ライオネル.Star>》が、3体も……!!」

 

 《<ライオネル.Star>》の進化クリーチャーを出す効果は1ターンに1度しか使えない。

 しかし、それはあくまでも1枚の《<ライオネル.Star>》の話であり、2枚目、3枚目が場に出れば、それぞれが効果を使うことが出来るのである。

 

「3枚目の《<ライオネル.Star>》の効果発動! 手札から──《ダンテの心絵》を出して、《「亜堕無」─鬼MAX》をフリーズデース!」

「そんな、馬鹿な……!」

「今度は《サッヴァーク─MAX》と入れ替えでこのクリーチャーの出番、デース!」

 

 ブランの身体から《サッヴァーク》が離れる。

 そして現れたのは──蒼き鎧に身を包んだ龍騎士。

 それがバトルゾーンへと現れる。

 

 

 

「仲間達、私に力を貸してくだサイ! 私を進化元にスターMAX進化──《MAX・ザ・ジョニー》!!」

 

 

 

 

 崩れたブランの身体をサッヴァークが抱きとめる。

 バトルゾーンに現れたのは、スターMAXの力に目覚めたジョーカーズのマスター《ジョリー・ザ・ジョニー》だ。

 

「ッ……やっぱり、合体はサッヴァークとじゃないと無理みたいデスね……!」

「少し安心したがな」

「あれー? 嫉妬したデス?」

「言っておる場合か!」

「はいはい、私の相棒はYouだけデスよ! サッヴァーク! 《ジョニー》は場のレクスターズ、またはジョーカーズの数だけパワーがアップ! 場にあるのは5枚! よって、パワーは20000デース! しかも、パワードブレイカーでパワーが上がればブレイク数もアップデース!」

 

 つまり、残るイチエンのシールドなど一撃で消し飛ばせることを意味していた。

 更に。

 

「もう1つの《ジョニー》の効果! ブレイク前にシールドを追加デース! ドラゴンブレイクならぬ──ドラゴンナイト・Q・ブレイクッ!!」

「ッ……4点か……畜生!!」

 

 イチエンのシールドが4枚、吹き飛ぶ。

 しかし。それでも尚、彼は終わらない。

 

「S・トリガー……《コーライルの海幻》で《ジョニー》を山札の下に!」

「ッ……でも、まだまだ!」

「止めるっつってんだろォ!? お前みたいな何も知らねえガキに負けて堪るかよ!! 《終末の時計 ザ・クロック》でターンを飛ばす!!」

 

 ブランのシールドは4枚に激増。

 対して、イチエンのシールドは0枚。

 

「お、俺は、負けねえぞ……金を、金を、手に入れるんだ……力さえあれば、もう、何も要らねえ……! 《神ナル機カイ「亜堕無」》をスター進化……!!」

「イチエンサン……!」

「その効果で、コスト5を宣言、3体の《<ライオネル.Star>》は攻撃もブロックも出来ねえ……!」

「貴方が変わってしまったキッカケは……好きだった人に裏切られたことデス。デモ……皆が皆、貴方を裏切るわけじゃあないんデスよ! 貴方を本心から気にかけてくれる人だって……」

「そんなの、居る訳が──」

 

 バチッバチッ、とイチエンの脳裏に過ったのは。

 

(なんで! 私は貴方が好きなのに! 別れようだなんて!)

(っせぇなー……飽きたからもう要らねえんだわ。お前、気色わりーんだよ。いっつも俺っちの後ろについてきやがって)

(それは、貴方が好きだから──)

(どうせ俺の金目当てなんだろ! 二度と俺っちの前に姿を見せるんじゃねえ!)

 

 とっくに、忘れたはずの、記憶だった。

 

「うるせぇ!! お前に何が分かる!! 俺っちが信用できるのは、金で繋がった関係だけだ……!! 力で繋がった関係だけだ……!!」

 

 最後の力を振り絞り、《「亜堕無」》が殴りかかる。

 しかし。

 

「──《ダンテの心絵》と《カーネンの心絵》をタップし、発動!!」

「邪魔するんじゃあ、ねぇぇぇよぉぉぉぉおおおおおーっ!」

 

 今度も通らない。

 《「亜堕無」》の身体は──《サッヴァークMAX》によって両断される。

 

「はぁ、はぁぁあ……何で、何でだよォ……!! 畜生、畜生ォォォーッ!! これだから何も信用出来ねえ!! どうせ人もカードも鬼も……俺を裏切るんだよ!!」

「……貴方が本当に信じられなかったのは。自分自身じゃないデスか?」

「っ……」

「だから……お金に固執したんじゃないデスか」

「知ったことを聞いてんじゃねえ!!」

「……分かるデスよ。私も自分が、そして他人が信じられなかったデスから」

 

 カードを引いたブランは──3枚のマナをタップした。

 

「──呪文、《ダイヤモンド・ソード》!! これで、私のクリーチャーは皆、攻撃出来ない効果が解除されるデス!!」

「ッ……やめろっ、やめろぉっ!! 《「亜堕無」─鬼MAX》!! あいつの攻撃を止めるんだ!! 鬼スターMAXは、場のカード3枚を犠牲にして敗北を回避する……!!」

 

 縋りつくかのように、白い鎧の鬼がタマシードを喰らいながら《正義星帝》達の攻撃を凌いでいく。

 しかし。

 足りない。

 あまりにも。

 ブランの場の攻撃出来るクリーチャーは4体。

 イチエンは、12枚のカードが無ければ、耐え凌ぐことができない。

 

「おいっ、おいっ!! 《「亜堕無」》!! コイツの攻撃を防げェェェェェェェェーッ!!」

「行くデスよ、サッヴァーク!!」

「ああ!!」

 

 大上段の剣から──光りが放たれる。

 

 

 

 

「──クライマックス・ジャッジメント!!」

 

 

 

 それが、亜堕無を──両断し、完全に吹き飛ばしたのだった。


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