学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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JO28話:存在証明

「……熱い……!!」

 

 

 

 室温──現在60℃超え。サウナ同然である。

 《EVE─鬼MAX》の放つ熱により、紫月の身体は既に熱中症も同然の状態であった。

 辛うじて、シャークウガのマナ供給によって踏みとどまっているものの、彼も最早限界が近付いていた。

 

「あっ、クソ……盤外戦術に訴えてくるヤツがあるか!!」

「シャークウガ、水……!!」

「もう熱湯しか出ねえよ、マスター……! 俺の身体はヤツのマナで直に熱されてるからな……!」

「あっははははははは! 私からしたら涼しい方だよ、オリジナル」

「全軍……一斉、攻撃……! 私が死ぬ前に、あいつを……ッ!」

 

 《XXDDZ》がシールドを2枚、叩き割る。

 しかし、ケアも何もない雑なブレイクが反撃を生まないわけがなかった。

 砕かれたシールドから、鬼の巻物が展開されていく。

 

「S・トリガー、《ゼータ滅鬼の封》を発動。タマシードが出たから、《<マルバス.鬼>》の効果で、墓地からコスト4以下の進化クリーチャーを重ねる」

「しまっ──」

「残念。もう遅いよ。……《センメツ邪鬼<ソルフェニ.鬼>》!!」

 

 次の瞬間、紫月のクリーチャーが全て破壊された。

 《<ソルフェニ.鬼>》は出た時に相手のコストが一番小さいクリーチャーとタマシードを全て破壊する。

 彼女の場にはコスト7のクリーチャーしか居なかったため、全てが吹き飛んだ。

 強いて言うならば、EXライフを持つ《XXDDZ》のみが生き残ったが──既にタップされている。

 このターンの攻撃は、終了だ。

 

「だ、だめ、ですか……!!」

「あははっ、良い気味。灼熱地獄の気分はどう? 私は鬼だから平気だけど」

「ッ……最悪ですね、貴女……!!」

「……じゃあ、もういいよね? さよなら」

 

 鬼月は4枚のマナを払い──《ロマネス仙鬼の封》を発動。

 それにより、《XXDDZ》も消し飛んだ。

 そればかりか、《<マルバス.鬼>》の効果によって墓地から《<ハンニバル.Star>》が蘇生される。

 既に打点は揃っている。

 

「こっちからトリガーをケアする手段は無いけど、逆に、そっちから私を倒す手段も無いの分かってる?」

「ッ……ぁ」

「《EVE─鬼MAX》の鬼S─MAXで、私の表向きのカードを3枚墓地に送れば、私は敗北を回避できる」

 

 鬼月のシールドは残り3枚。

 そして、場のカードは《EVE─鬼MAX》、《ストリエ雷鬼》2枚、《ゼータ滅鬼》、《ルピア炎鬼》、《シュウマツ破鬼》、《バロム魔神》、《ロマネス仙鬼》、《<ハンニバル.Star>》2枚、《<ソルフェニ.鬼>》、《ウシミツ童子》……。

 合計、12枚──鬼月はシールドが0枚の状態でも、後4回、攻撃を耐えることが出来るのである。

 

「滅茶苦茶だ!! ガチロボは破壊されちまったし……クソッ!!」

「対して、こっちの殴れるクリーチャーは《<ハンニバル.Star>》と《<ソルフェニ.鬼>》、《EVE─鬼MAX》──1回のトリガーじゃあ防げないよ」

「ぐぅっ……マスター、しっかりしろ……負けちまうぞ……!」

 

(無理……私はクリーチャーじゃ、ないんですよ、シャークウガ……!)

 

 汗を絞りながら、紫月はシャツを脱ぎ捨てる。

 下着だけの姿だが、最早、羞恥も何もなかった。

 辛うじて「生きねば」と言う思いで彼女はその場に立っていた。

 

「あっれぇ? まだやるの? ……ま、どうせ死ぬし? ちょっと引き延ばしてあげよっと」

「テメェ!! 攻撃するならさっさと攻撃しやがれ!!」

「考え中だもん。キミにどうこう言われる筋合い無いよ」

「ッ……何てヤツ! マスターの悪知恵が働くところを無駄に生かしやがって……!」

 

 

 

「……トリガーを……踏むのが怖いんですね……? 鬼月」

「──!」

 

 

 

 

 一言、一言ずつ、彼女は言葉を紡いでいく。

 

「……今、なんて?」

「それはそうです……私がトリガーをケアするのは、トリガーが怖いから……故に貴女が……はぁ、貴女が攻撃せずに私の死を待つのも、トリガーが怖いから、でしょう?」

「言葉は選んだ方がいいんじゃない?」

「自分で言いましたよね……鬼月。貴女は、私から知識・経験を奪った、と。それ故に貴女は、トリガーを踏むことに臆病になっている。鬼の癖に」

 

 べぇ、と紫月は舌を出してみせた。

 

「……卑怯者の臆病者。鬼の名が泣いて廃れる」

 

 舌打ちをしてみせる鬼月。

 しかし──すぐさまその顔は笑みに変わる。

 まるで、何も堪えていないかのように彼女は言った。

 

「……あはっ、そうはいかないよ。オリジナル」

「──え」

「私を怒らせて攻撃させて、トリガーを誘発させようとしてるんだろうけど、どうせこのまま放っておいても貴女は死ぬ。私が圧倒的有利な状態だ。貴女の怒りの原動力は私が一番知ってる。安い挑発じゃあ、私は動かない」

「……一世一代のセリフ、返してくださいよ……!」

「それより、隣の鮫君。限界じゃないの?」

「ッ……!」

 

 どさっ、と音がした。

 シャークウガが倒れていた。

 思わず紫月は駆け寄る。既に息も切れ切れ、マナの力は尽きかけていた。

 

「シャークウガ!!」

「……君を生かす為に魔力を送り続けてたんだよね? でも、魔力だって無限じゃない」

「ッ……ああ、クソ、ヘマしたぜ……ちょっと調子に乗り過ぎたな」

「そんな……しっかりしてください……!」

「さーてと。私は色々考えないといけないことがあるから」

「……一体何を」

「貴女を倒した後に、貴女のフリをして何をするか……かな」

「……!」

「自動的に耀君は私の物になるし……その後はみづ姉もずっと私の物にするでしょ? そしたら……その二人を鬼にして、一生私しか見られないようにしてあげるんだ。後は、ブラン先輩! 耀君とよく話してるから、殺しちゃおっかなーって思ってる」

「冗談は顔だけにしてほしいですが」

「怒りたい? 怒れないよね。だって、怒りの感情は、私が全部持っていったんだから」

 

 最早、怒る気力すら湧かない。

 悔しい、惨めだ、という感情こそあれど、立ち上がる気力に変えられない。

 

 

 

「さーて、後何分持つかな? 次は70℃! その次は90℃いってみようか! 私は100℃でも平気だけどねー?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 朦朧とする頭で。

 紫月はひたすらに、己の中に残ったものを考えていた。

 怒りの感情も。カードの知識も。今までの経験も。

 全部、あの鬼に吸い取られた。

 折角、あの運命を超えられたのに。

 例え生きていても、これは死んだも同然だ。

 そう考えていた。

 

「……それを考える必要はありませんでしたね」

 

 簡単な事だった。

 シャークウガを。ブランを。仲間達を傷つけようとする彼女には──紫月自身が最も大切にするものが欠けている。

 

「だけどきっと……あれもまた、私の本心の一つなのでしょう」

 

 姉さえいれば他に何も要らない。

 強くさえあればいい。

 ずっと、そう考えていた昔の自分の在り方にそっくりだ。

 しかし。今は違う。

 

「私は──仲間達が傷つくことを善しとするわけにはいかない。誰かが泣いている顔を見るのを、もう見たくない」

 

 倒れたシャークウガに目をやりながら、彼女は踏ん張り続ける。

 暑さで頭がやられそうだ。

 既に脱水症状だって起こっている。

 下手したらこのまま死ぬかもしれない。

 だが、だとしても──此処で倒れるわけにはいかない。

 しかし、このままでは負ける。

 彼女に勝てる要素など無い。

 耀が好きな気持ちでは負けていなくとも、他が負けていては意味がない。

 

「せめて、知識と経験が……あいつに奪われてなかったら……いえ、遅かれ早かれ、ですか」

 

 ああ恨めしい、と己の頭の良さを恨む。

 周りからは浮くし、ゲームと勉強以外に役に立ったことなど1つもない。

 

「何が、魔術師(マジシャン)のカードの使い手ですか。カードが無いと何も出来ないのに……オマケに無駄に狙われるし、良いところなんて何も無いですね」

 

 思えば──疑問だった。

 

「……何で、私なんでしょう」

 

 何故、自分が魔術師(マジシャン)のカードに選ばれたのか。

 そして、何故度々魔導司相手に狙われるのか。

 トリス・メギスに最初に目を付けられたのは紫月だった。

 バックーニョに攫われたのは紫月だった。

 紫月に直接洗脳を施したトリス。そして、紫月を取り込もうとしたバックーニョ。  

 彼らのいずれも──意識したわけではないにせよ、最終的に彼らは「紫月自身」に興味を向けている。

 

「……何で、彼らは私を狙ったのでしょう? 私に彼らを引き付けるようなものがあった?」

 

 死の淵の立たされ。

 漸く、紫月は──手首に流れる冷たいものに気付いた。

 先程からずっと、シャークウガから供給されていた魔力だ。

 それが形を持ち、実体化していた。

 

「氷の……剣?」

 

 いつもシャークウガが使っているそれだ。

 

「そういえば──」

 

 相棒のシャークウガが度々使う氷の刃。

 しかし──そもそもシャークウガには氷系の魔法を使うような設定は無い。

 守護獣はある程度、元になったクリーチャーの力が反映される。

 今までは何故なのか考えたことすらなかったが──

 

 

 

「そもそも、これだけ脱水続いてるのに、何で私まだ死んでないんですか──?」

「やっと気づいた? 己の根源に」

 

 

 

 誰かが──呼びかけた気がした。

 

「……誰ですか」

「──魔力の根源」

「根源……?」

 

 

 

「人は、私を──ワルキューレと呼ぶ。《魔神類オーディン》様の代理で、福音を知らせる者」

 

 

 

 《魔神類オーディン》──聞いた事の無い神類種だった。

 しかし、オーディンという名前そのものは馴染みのあるものだ。

 魔法の祖にして、北欧神話の主神だ。

 

「乙女よ。魔術師(マジシャン)の正位置の意味、覚えてる?」

「調べた事があります。可能性、奇跡、才能、感覚……」

 

 そこで言って、紫月は言葉を止めた。

 

「しかし、そんなはずは……! ……なぜ、今の今まで……誰も気づかなかったのですか? なぜ、今の今まで──」

()()()()。恋する乙女はね」

 

 そう言われ、紫月は黙りこくる。

 理解し難い。

 誤魔化された気さえする。

 しかし──頭の中はすっきりした気がした。

 自分が何をすべきか、分かったからだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 ──ブラジャーのホックを外す。大きなカップのそれが地面に落ちた。

 そして、脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて胸に巻きつけ、きつく縛る。

 最後に気合を入れ直すため、頬を強く、強く両手で叩いた。

 

「ッ……よし」

 

 盤面を見据える。

 こちらは全滅。そして、相手の場には攻撃出来る3体のクリーチャー。

 S・トリガーで返すことは可能だ、と分析してみせる。

 手札はそう、悪くない。

 

「何のつもり?」

「誰かの所為で金具が熱々なのです。目の前で着替える無礼くらい許してもらいたいですね」

「そうじゃなくて。何で? さっきまで暑さで死にそうだったじゃん。何で……なんか悟った顔してんの? むしろ、何を悟ったわけ?」

「……助かりましたよ。貴女が……室温を上げてくれたおかげで……私も、リミッターをブッ飛ばせましたから」

「はぁ? 意味分かんないんだけど……!?」

 

 鬼月は──漸く、気付いた。

 周囲の、そして暗野紫月と言う少女に起こった異変に。

 

「あれ? ……上がらない。温度が上がらない……!?」

「……それは不思議ですね。上がらないどころか、下がっているようにさえ思えますが」

「何で? 何で? 何で──おかしい、おかしいおかしい!! だってそんなの、おかしいよ!! だってあんたはマナを持ってない普通の人間だよね!?」

 

 周囲の温度が下がる。

 紫月の周囲に──氷が現れる。

 周囲にはマナが満ち溢れており、まるで彼女から発せられているようである。

 否、現に発せられていた。

 

 

 

「自分でも、そう思っていたのですがね……どうやら違ったようです」

 

 

 

 紫月の目は赤く光っていた。

 

 

 

 激情に駆られた時と──同じように。

 

「……シャークウガ、起きて下さい。一応説明を求めます」

「おっ、さみっ!! 冷えてんじゃねーか! 何々!? 何がまかり間違ったの!? あんたは寒くないの!?」

「寒くないですね、今の所」

「え? え? 待って。衝撃の告白が聞こえた気がしたんだけど、普通の人間じゃねえってどういうこと!?」

「私は……()()()()()()()()だったようです。シャークウガ、全て知っていたんですね」

 

 鮫の魚人は──首を横に振った。

 ……あれ?

 

「あの、シャークウガ?」

「いや、俺だって今の今までタダの人間だって思ってたわ! えーと、どういうことだ? どうなってんだ? いきなりすぎて、理解が追い付いてねえよ! ただ──」

「ただ? 何ですか」

魔術師(マジシャン)のカードに選ばれるのは、()()であっても()()じゃねえってこったな」

「……成程。そういうことですね」

「ふざけんな!! 勝手に盛り上がるんじゃない!! 煮殺せないなら、やっぱり直に焼き尽くす!!」

 

 《<ハンニバル.Star>》が鎌を振り上げ、一気に紫月のシールドを切り裂く。

 しかし──もう、何も彼女には届かない。

 

「S・トリガー発動。《サイバー・I・チョイス》でS・トリガーを持つクリーチャーを場に出します」

「ッ!?」

 

 周囲は暗い海に包まれる。

 熱気は全て消え失せていく。

 

「──《天命龍装ホーリーエンド》で、相手のクリーチャーを全てタップ」

「はっ、ああ? ウソ? 何で? 今のブレイクで両方手札に加わったの──!?」

 

 鬼月の軍勢は漏れなく、凍えていく。

 それを前に彼女は目を丸くするしかない。

 圧倒的に有利だった状況は、一気に逆転された。

 

「有り得ない……勝っていた盤面、だったのに……!」

「感謝してますよ、貴女には」

「!?」

「私自身も気付かなかった潜在能力に貴女も気付かなかった、ということですから」

「──殺すッ!!」

「……もう、何もさせませんよ。貴女には」

 

 紫月は当然のように6枚のマナをタップする。

 そうなるべく。

 そうであることが確定された未来であるかのように。

 カードの名を詠みあげていく。

 

「──《ガチャンコ ガチロボ》召喚。魔術師の創造──3体のクリーチャーを呼び出します」

「ッ!?」

「……《覚醒連結 XXDDZ》、《ステゴロ・カイザー》──そしてご紹介します。守護獣改め、私の眷属──そして、深海の誇り高き覇王を」

 

 刻まれるのはⅠ。

 魔術師を表す数字。

 最早、彼は守護獣ではない。

 

 

 

「暮明の海を統べるのは貴方。

魔導の根源へと還りましょう──《堕悪の覇王 シャークウガ》」

 

 

 

 黒い杖を掲げ、シャークウガは満を持して顕現する。

 

「っしゃおらぁぁぁぁーっ!! 完全復活だコラァ!!」

「……いきますよ。シャークウガ。今の私達なら、何でもできそうです」

「おうよ。魔術師の本領発揮だ!!」

 

 並び立つ二人。

 例え何が奪われていようと、最早恐れるものなどなかった。

 

「《シャークウガ》の効果解決。《EVE─鬼MAX》と《<マルバス.鬼>》を手札に戻します」

「ッ鬼S─MAXで、場のタマシード3枚を墓地に送って、生き残る!!」

「これで場のカードは合計8枚。《ガチロボ》で攻撃する時、効果発動──当然成功」

 

 出た目は《魔竜バベルギヌス》、《レレディ・バ・グーバ》、《イチゴッチ・タンク》。

 その全てがバトルゾーンへと現れる。

 

「《バベルギヌス》の効果。《シャークウガ》を破壊して、再び場に出します。そして、《EVE─鬼MAX》と《<ソルフェニ.鬼>》を戻します」

「そんな、ウソでしょ……!?」

「これで、あと4枚。そして──《レレディ・バ・グーバ》の攻撃で《EVE》を破壊」

 

 《EVE─鬼MAX》は──ぼろぼろ、と崩れ落ちていく。

 もう、彼女が食うべきカードは無い。

 あっけなく、鬼の祭器は此処に消え去った。

 更に、残るシールドも《イチゴッチ・タンク》が砕いてしまう。

 

「……そんな、ウソ。こんな事、有り得ない……!! どうして、普通にプレイ出来てるの!? ッ……何で、カードの知識が戻ってるの!?」

 

 鬼の鎧を失った鬼月目掛けて──シャークウガと紫月は手を翳す。

 

「こんなの、認めない!! 私は──」

「いいや──これで終わりだぜッ!! 鬼のマスターよォ!!」

「折角ですし必殺技の名前でも呼びましょうか──」

「承った!!」

 

 水の塊が二人の頭上に現れる。

 そして、それが膨らんでいき──

 

 

 

「──鏡花水月・壊」

「……だぜっ!!」

 

 

 

 ──垂直落下。

 大質量の水が鬼月を押し潰したのだった。

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