学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「……熱い……!!」
室温──現在60℃超え。サウナ同然である。
《EVE─鬼MAX》の放つ熱により、紫月の身体は既に熱中症も同然の状態であった。
辛うじて、シャークウガのマナ供給によって踏みとどまっているものの、彼も最早限界が近付いていた。
「あっ、クソ……盤外戦術に訴えてくるヤツがあるか!!」
「シャークウガ、水……!!」
「もう熱湯しか出ねえよ、マスター……! 俺の身体はヤツのマナで直に熱されてるからな……!」
「あっははははははは! 私からしたら涼しい方だよ、オリジナル」
「全軍……一斉、攻撃……! 私が死ぬ前に、あいつを……ッ!」
《XXDDZ》がシールドを2枚、叩き割る。
しかし、ケアも何もない雑なブレイクが反撃を生まないわけがなかった。
砕かれたシールドから、鬼の巻物が展開されていく。
「S・トリガー、《ゼータ滅鬼の封》を発動。タマシードが出たから、《<マルバス.鬼>》の効果で、墓地からコスト4以下の進化クリーチャーを重ねる」
「しまっ──」
「残念。もう遅いよ。……《センメツ邪鬼<ソルフェニ.鬼>》!!」
次の瞬間、紫月のクリーチャーが全て破壊された。
《<ソルフェニ.鬼>》は出た時に相手のコストが一番小さいクリーチャーとタマシードを全て破壊する。
彼女の場にはコスト7のクリーチャーしか居なかったため、全てが吹き飛んだ。
強いて言うならば、EXライフを持つ《XXDDZ》のみが生き残ったが──既にタップされている。
このターンの攻撃は、終了だ。
「だ、だめ、ですか……!!」
「あははっ、良い気味。灼熱地獄の気分はどう? 私は鬼だから平気だけど」
「ッ……最悪ですね、貴女……!!」
「……じゃあ、もういいよね? さよなら」
鬼月は4枚のマナを払い──《ロマネス仙鬼の封》を発動。
それにより、《XXDDZ》も消し飛んだ。
そればかりか、《<マルバス.鬼>》の効果によって墓地から《<ハンニバル.Star>》が蘇生される。
既に打点は揃っている。
「こっちからトリガーをケアする手段は無いけど、逆に、そっちから私を倒す手段も無いの分かってる?」
「ッ……ぁ」
「《EVE─鬼MAX》の鬼S─MAXで、私の表向きのカードを3枚墓地に送れば、私は敗北を回避できる」
鬼月のシールドは残り3枚。
そして、場のカードは《EVE─鬼MAX》、《ストリエ雷鬼》2枚、《ゼータ滅鬼》、《ルピア炎鬼》、《シュウマツ破鬼》、《バロム魔神》、《ロマネス仙鬼》、《<ハンニバル.Star>》2枚、《<ソルフェニ.鬼>》、《ウシミツ童子》……。
合計、12枚──鬼月はシールドが0枚の状態でも、後4回、攻撃を耐えることが出来るのである。
「滅茶苦茶だ!! ガチロボは破壊されちまったし……クソッ!!」
「対して、こっちの殴れるクリーチャーは《<ハンニバル.Star>》と《<ソルフェニ.鬼>》、《EVE─鬼MAX》──1回のトリガーじゃあ防げないよ」
「ぐぅっ……マスター、しっかりしろ……負けちまうぞ……!」
(無理……私はクリーチャーじゃ、ないんですよ、シャークウガ……!)
汗を絞りながら、紫月はシャツを脱ぎ捨てる。
下着だけの姿だが、最早、羞恥も何もなかった。
辛うじて「生きねば」と言う思いで彼女はその場に立っていた。
「あっれぇ? まだやるの? ……ま、どうせ死ぬし? ちょっと引き延ばしてあげよっと」
「テメェ!! 攻撃するならさっさと攻撃しやがれ!!」
「考え中だもん。キミにどうこう言われる筋合い無いよ」
「ッ……何てヤツ! マスターの悪知恵が働くところを無駄に生かしやがって……!」
「……トリガーを……踏むのが怖いんですね……? 鬼月」
「──!」
一言、一言ずつ、彼女は言葉を紡いでいく。
「……今、なんて?」
「それはそうです……私がトリガーをケアするのは、トリガーが怖いから……故に貴女が……はぁ、貴女が攻撃せずに私の死を待つのも、トリガーが怖いから、でしょう?」
「言葉は選んだ方がいいんじゃない?」
「自分で言いましたよね……鬼月。貴女は、私から知識・経験を奪った、と。それ故に貴女は、トリガーを踏むことに臆病になっている。鬼の癖に」
べぇ、と紫月は舌を出してみせた。
「……卑怯者の臆病者。鬼の名が泣いて廃れる」
舌打ちをしてみせる鬼月。
しかし──すぐさまその顔は笑みに変わる。
まるで、何も堪えていないかのように彼女は言った。
「……あはっ、そうはいかないよ。オリジナル」
「──え」
「私を怒らせて攻撃させて、トリガーを誘発させようとしてるんだろうけど、どうせこのまま放っておいても貴女は死ぬ。私が圧倒的有利な状態だ。貴女の怒りの原動力は私が一番知ってる。安い挑発じゃあ、私は動かない」
「……一世一代のセリフ、返してくださいよ……!」
「それより、隣の鮫君。限界じゃないの?」
「ッ……!」
どさっ、と音がした。
シャークウガが倒れていた。
思わず紫月は駆け寄る。既に息も切れ切れ、マナの力は尽きかけていた。
「シャークウガ!!」
「……君を生かす為に魔力を送り続けてたんだよね? でも、魔力だって無限じゃない」
「ッ……ああ、クソ、ヘマしたぜ……ちょっと調子に乗り過ぎたな」
「そんな……しっかりしてください……!」
「さーてと。私は色々考えないといけないことがあるから」
「……一体何を」
「貴女を倒した後に、貴女のフリをして何をするか……かな」
「……!」
「自動的に耀君は私の物になるし……その後はみづ姉もずっと私の物にするでしょ? そしたら……その二人を鬼にして、一生私しか見られないようにしてあげるんだ。後は、ブラン先輩! 耀君とよく話してるから、殺しちゃおっかなーって思ってる」
「冗談は顔だけにしてほしいですが」
「怒りたい? 怒れないよね。だって、怒りの感情は、私が全部持っていったんだから」
最早、怒る気力すら湧かない。
悔しい、惨めだ、という感情こそあれど、立ち上がる気力に変えられない。
「さーて、後何分持つかな? 次は70℃! その次は90℃いってみようか! 私は100℃でも平気だけどねー?」
※※※
朦朧とする頭で。
紫月はひたすらに、己の中に残ったものを考えていた。
怒りの感情も。カードの知識も。今までの経験も。
全部、あの鬼に吸い取られた。
折角、あの運命を超えられたのに。
例え生きていても、これは死んだも同然だ。
そう考えていた。
「……それを考える必要はありませんでしたね」
簡単な事だった。
シャークウガを。ブランを。仲間達を傷つけようとする彼女には──紫月自身が最も大切にするものが欠けている。
「だけどきっと……あれもまた、私の本心の一つなのでしょう」
姉さえいれば他に何も要らない。
強くさえあればいい。
ずっと、そう考えていた昔の自分の在り方にそっくりだ。
しかし。今は違う。
「私は──仲間達が傷つくことを善しとするわけにはいかない。誰かが泣いている顔を見るのを、もう見たくない」
倒れたシャークウガに目をやりながら、彼女は踏ん張り続ける。
暑さで頭がやられそうだ。
既に脱水症状だって起こっている。
下手したらこのまま死ぬかもしれない。
だが、だとしても──此処で倒れるわけにはいかない。
しかし、このままでは負ける。
彼女に勝てる要素など無い。
耀が好きな気持ちでは負けていなくとも、他が負けていては意味がない。
「せめて、知識と経験が……あいつに奪われてなかったら……いえ、遅かれ早かれ、ですか」
ああ恨めしい、と己の頭の良さを恨む。
周りからは浮くし、ゲームと勉強以外に役に立ったことなど1つもない。
「何が、
思えば──疑問だった。
「……何で、私なんでしょう」
何故、自分が
そして、何故度々魔導司相手に狙われるのか。
トリス・メギスに最初に目を付けられたのは紫月だった。
バックーニョに攫われたのは紫月だった。
紫月に直接洗脳を施したトリス。そして、紫月を取り込もうとしたバックーニョ。
彼らのいずれも──意識したわけではないにせよ、最終的に彼らは「紫月自身」に興味を向けている。
「……何で、彼らは私を狙ったのでしょう? 私に彼らを引き付けるようなものがあった?」
死の淵の立たされ。
漸く、紫月は──手首に流れる冷たいものに気付いた。
先程からずっと、シャークウガから供給されていた魔力だ。
それが形を持ち、実体化していた。
「氷の……剣?」
いつもシャークウガが使っているそれだ。
「そういえば──」
相棒のシャークウガが度々使う氷の刃。
しかし──そもそもシャークウガには氷系の魔法を使うような設定は無い。
守護獣はある程度、元になったクリーチャーの力が反映される。
今までは何故なのか考えたことすらなかったが──
「そもそも、これだけ脱水続いてるのに、何で私まだ死んでないんですか──?」
「やっと気づいた? 己の根源に」
誰かが──呼びかけた気がした。
「……誰ですか」
「──魔力の根源」
「根源……?」
「人は、私を──ワルキューレと呼ぶ。《魔神類オーディン》様の代理で、福音を知らせる者」
《魔神類オーディン》──聞いた事の無い神類種だった。
しかし、オーディンという名前そのものは馴染みのあるものだ。
魔法の祖にして、北欧神話の主神だ。
「乙女よ。
「調べた事があります。可能性、奇跡、才能、感覚……」
そこで言って、紫月は言葉を止めた。
「しかし、そんなはずは……! ……なぜ、今の今まで……誰も気づかなかったのですか? なぜ、今の今まで──」
「
そう言われ、紫月は黙りこくる。
理解し難い。
誤魔化された気さえする。
しかし──頭の中はすっきりした気がした。
自分が何をすべきか、分かったからだ。
※※※
「……」
──ブラジャーのホックを外す。大きなカップのそれが地面に落ちた。
そして、脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて胸に巻きつけ、きつく縛る。
最後に気合を入れ直すため、頬を強く、強く両手で叩いた。
「ッ……よし」
盤面を見据える。
こちらは全滅。そして、相手の場には攻撃出来る3体のクリーチャー。
S・トリガーで返すことは可能だ、と分析してみせる。
手札はそう、悪くない。
「何のつもり?」
「誰かの所為で金具が熱々なのです。目の前で着替える無礼くらい許してもらいたいですね」
「そうじゃなくて。何で? さっきまで暑さで死にそうだったじゃん。何で……なんか悟った顔してんの? むしろ、何を悟ったわけ?」
「……助かりましたよ。貴女が……室温を上げてくれたおかげで……私も、リミッターをブッ飛ばせましたから」
「はぁ? 意味分かんないんだけど……!?」
鬼月は──漸く、気付いた。
周囲の、そして暗野紫月と言う少女に起こった異変に。
「あれ? ……上がらない。温度が上がらない……!?」
「……それは不思議ですね。上がらないどころか、下がっているようにさえ思えますが」
「何で? 何で? 何で──おかしい、おかしいおかしい!! だってそんなの、おかしいよ!! だってあんたはマナを持ってない普通の人間だよね!?」
周囲の温度が下がる。
紫月の周囲に──氷が現れる。
周囲にはマナが満ち溢れており、まるで彼女から発せられているようである。
否、現に発せられていた。
「自分でも、そう思っていたのですがね……どうやら違ったようです」
紫月の目は赤く光っていた。
激情に駆られた時と──同じように。
「……シャークウガ、起きて下さい。一応説明を求めます」
「おっ、さみっ!! 冷えてんじゃねーか! 何々!? 何がまかり間違ったの!? あんたは寒くないの!?」
「寒くないですね、今の所」
「え? え? 待って。衝撃の告白が聞こえた気がしたんだけど、普通の人間じゃねえってどういうこと!?」
「私は……
鮫の魚人は──首を横に振った。
……あれ?
「あの、シャークウガ?」
「いや、俺だって今の今までタダの人間だって思ってたわ! えーと、どういうことだ? どうなってんだ? いきなりすぎて、理解が追い付いてねえよ! ただ──」
「ただ? 何ですか」
「
「……成程。そういうことですね」
「ふざけんな!! 勝手に盛り上がるんじゃない!! 煮殺せないなら、やっぱり直に焼き尽くす!!」
《<ハンニバル.Star>》が鎌を振り上げ、一気に紫月のシールドを切り裂く。
しかし──もう、何も彼女には届かない。
「S・トリガー発動。《サイバー・I・チョイス》でS・トリガーを持つクリーチャーを場に出します」
「ッ!?」
周囲は暗い海に包まれる。
熱気は全て消え失せていく。
「──《天命龍装ホーリーエンド》で、相手のクリーチャーを全てタップ」
「はっ、ああ? ウソ? 何で? 今のブレイクで両方手札に加わったの──!?」
鬼月の軍勢は漏れなく、凍えていく。
それを前に彼女は目を丸くするしかない。
圧倒的に有利だった状況は、一気に逆転された。
「有り得ない……勝っていた盤面、だったのに……!」
「感謝してますよ、貴女には」
「!?」
「私自身も気付かなかった潜在能力に貴女も気付かなかった、ということですから」
「──殺すッ!!」
「……もう、何もさせませんよ。貴女には」
紫月は当然のように6枚のマナをタップする。
そうなるべく。
そうであることが確定された未来であるかのように。
カードの名を詠みあげていく。
「──《ガチャンコ ガチロボ》召喚。魔術師の創造──3体のクリーチャーを呼び出します」
「ッ!?」
「……《覚醒連結 XXDDZ》、《ステゴロ・カイザー》──そしてご紹介します。守護獣改め、私の眷属──そして、深海の誇り高き覇王を」
刻まれるのはⅠ。
魔術師を表す数字。
最早、彼は守護獣ではない。
「暮明の海を統べるのは貴方。
魔導の根源へと還りましょう──《堕悪の覇王 シャークウガ》」
黒い杖を掲げ、シャークウガは満を持して顕現する。
「っしゃおらぁぁぁぁーっ!! 完全復活だコラァ!!」
「……いきますよ。シャークウガ。今の私達なら、何でもできそうです」
「おうよ。魔術師の本領発揮だ!!」
並び立つ二人。
例え何が奪われていようと、最早恐れるものなどなかった。
「《シャークウガ》の効果解決。《EVE─鬼MAX》と《<マルバス.鬼>》を手札に戻します」
「ッ鬼S─MAXで、場のタマシード3枚を墓地に送って、生き残る!!」
「これで場のカードは合計8枚。《ガチロボ》で攻撃する時、効果発動──当然成功」
出た目は《魔竜バベルギヌス》、《レレディ・バ・グーバ》、《イチゴッチ・タンク》。
その全てがバトルゾーンへと現れる。
「《バベルギヌス》の効果。《シャークウガ》を破壊して、再び場に出します。そして、《EVE─鬼MAX》と《<ソルフェニ.鬼>》を戻します」
「そんな、ウソでしょ……!?」
「これで、あと4枚。そして──《レレディ・バ・グーバ》の攻撃で《EVE》を破壊」
《EVE─鬼MAX》は──ぼろぼろ、と崩れ落ちていく。
もう、彼女が食うべきカードは無い。
あっけなく、鬼の祭器は此処に消え去った。
更に、残るシールドも《イチゴッチ・タンク》が砕いてしまう。
「……そんな、ウソ。こんな事、有り得ない……!! どうして、普通にプレイ出来てるの!? ッ……何で、カードの知識が戻ってるの!?」
鬼の鎧を失った鬼月目掛けて──シャークウガと紫月は手を翳す。
「こんなの、認めない!! 私は──」
「いいや──これで終わりだぜッ!! 鬼のマスターよォ!!」
「折角ですし必殺技の名前でも呼びましょうか──」
「承った!!」
水の塊が二人の頭上に現れる。
そして、それが膨らんでいき──
「──鏡花水月・壊」
「……だぜっ!!」
──垂直落下。
大質量の水が鬼月を押し潰したのだった。