学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第18話:審判(ジャッジ)─再起

 ※※※

 

 

 

 空間から放り出されたのは、ぐったりとした様子の紫月だった。

 信じられなかった。あの彼女が、何も出来ないまま一方的に盤面を支配されて負けるなんて。

 

「紫月――!!」

 

 叫んで駆け寄る間もなく、もんずと巨大な手が彼女の華奢な身体を人形のように掴んだ。

 見れば、あの魔導司の背後からは《闇鎧亜キング・アルカディアス》の姿が現れている。

 だが、すぐさま床を蹴り、俺は迷わず目の前のトリスへ殴り掛かったが――

 

「邪魔だよ!」

 

 脳味噌が吹っ飛んだかと思った。

 その一言と共に、クリーチャーの腕が俺を払いのけて壁に叩きつける。

 頭を打ったからか、意識が朧気でぐらぐらと揺れたままだ。手足を動かそうとしたが、頭の中がぐちゃぐちゃになっているからか、立ち上がることもままならない。

 まるで霧の中にいるかのように視界が霞む。

 

「アカル! 大丈夫デスカ!?」

『マスター!! 怪我をしているでありますよ!!』

 

 頭を触り、手のひらを見た。

 成程、べっとりとケチャップのような血がついている。

 だが、不思議と痛みは無かった。鈍くなっているのか。

 

「くそっ、紫月……!」

「無茶デスヨ! 生身でクリーチャーに挑むなんて――!」

 

 何故咄嗟に身体が動いたのかは、後から考えても纏まらなかった。

 部長としての責任感か、仲間が連れ去られそうだから止めたかったのか――

 

「おいおいおい、馬鹿だろ、お前。勝者には勝者に然るべき褒賞ってモンがいるだろーが。敗けて何も無しだなんて、虫が良すぎるんじゃね?」

「ク、クソッ……紫月に、俺の後輩に何するんだ……てめぇ!!」

 

 必死に振り絞った声。

 しかし、相手は気にも留める様子が無かった。

 それどころか、ダイレクトアタックの衝撃で昏睡状態の紫月をお構いなしに連れ去ろうとする。

 

「ちょっと! 今度は私とデュエルするデス!」

「ヤだよ。何で1回見せた手の内をもう1回見せなきゃいけねーのさ。あたしはヒイロ程、甘くはねーぞ」

 

 言うが早いか、廊下が激しい光に包まれる。

 

 

 

「お楽しみは、また今度だ。それまで、此奴はちょっと貰っていくぜ」

 

 

 

 目を思わず瞑った。

 瞬きをしたその一瞬に――魔導司も、紫月の姿も、跡形も無く消え去っていたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 夜の闇を駆ける一陣の風。

 月光が跳ね返ると共に、閃光となって飛び回る。

 

 

 

「――止まれ」

 

 

 

 声がした。

 影は止まり、その主の方へ向き直る。

 

「俺はアルカナ研究会の魔導司(ウィザード)、『灼炎将軍(ジェネラル)』だ」

「……」

「貴方だったのだな? 此処最近、そのカード(エリアフォース)でワイルドカードを狩っているのは」

 

 問うた火廣金の声に対し、影は表情を変えなかった。

 いや、変わるわけが無かった。その素面は真意を悟らせないためか、はたまた身分を隠すためか、やはり仮面に覆われている。

 やはり噂通りか、と緋色は万が一の事態に備え、自らの得物――デッキケース――に手を掛ける。

 

「答えて貰おう。貴方が、何故こんなところに居る?」

「……」

 

 仮面の男は答えない。

 

『ヒイロのアニキ! 此奴、シカトしてるっスよ! 処すっスか?』

「待て。真っ向から行くのは避けろ。……貴方程の男が、何故そんなふざけた格好でこそこそしているのか……俺には分かりかねる」

 

 呆れたように言った緋色。

 何も情報が得られそうにないなら、今日の所は引き下がろうと彼は思っていた。

 相手の実力が未知数――それも少なくとも自分よりも上――である以上、真っ向からの対立は避けたい。

 しかし。

 

 

 

「――オレは、オレのやり方で”正義”を通してるだけだ。ガキのヒーローごっこと、そんなに変わらないさ」

 

 

 

 変声機を通したノイズ交じりの声であったが、はっきりと、そして初めて返答が返ってきた。

 

「アルカナ研究会……だっけか? お前ら、”正義”って何か分かるか?」

「? 何の話だ」

「只の雑談さ。正義が何か。それさえ分かってりゃ、良いんだが――それが分かってねえ人間の心理はあらぬ方向に向かっていく。正義を方便に、正義を盾に、容易に悪に成り得る」

「正義だと?」

「あるいは……正義を振りかざす人間には裏があるってことだよ。そいつは、何かの傀儡になってるってことさ。欲望、怒り、あるいは――別のものか」

「何が言いたい!!」

 

 叫んだ火廣金。

 しかし。もう、返答は帰ってこなかった。

 目を凝らすと、既に仮面の男は居なくなっているようだった。

 解せない、という表情で彼は言った。

 

 

 

「……どういうことだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 俺が目を覚ましたのは、夜の7時だった。

 起き上がると、ブランが必死にノートPCに何か打ち込んでいるのが見えた。

 俺は何か言おうとしたが、その前に彼女が、

 

「翠月を通して、今日は紫月は私の家に泊まるって言っておきマシタ」

「……そうか」

「だから、早く見つけないと……いけませんネ、シヅクの居場所」

 

 既に暗くなった外を見上げ、俺は歯を噛み締めた。

 なぜ、彼女は連れ去られなければならなかったのか。

 なぜ、彼女程のプレイヤーが一瞬にして敗れたのか。

 なぜ、俺は何も出来なかったのか!

 

「んなこと言ったって……クソっ!! どうすんだよ……!!」

『落ち着くでありますよ! 今、今、動くのは危険であります!』

「……どうにかするしか、ないデスよ……アカルも怪我してるし、こっちも無茶はできないデス」

「俺の怪我はどうでも良いんだよ!!」

 

 俺の頭からは血が出ていたらしい。

 こういった事件で急に負傷することもあるだろう、と部室に置いていた救急箱から取り出した包帯をぐるぐると巻き付け、その下にはガーゼが当てられている。

 

「……紫月を、紫月を助けなきゃ、いけねぇんだ……!」

「そ、そうデスけど……」

『奴が逃げた魔力を追っていけば、出来ないことはない。ただ、急がねばならんことは確かじゃのう』

 

 まだ、頭が痛い。ぐわんぐわんして、視界が霞む。こんな状態で紫月を助けに行けるのか? 情けない!

 

「オイ!!」

 

 怒声が響く。

 いきなり部室の扉が思いっきり空いた。

 息を切らせた桑原先輩が、部室に駆け込んでくる。

 

「クソッ、大変なことに……なったじゃねーか」

「……桑原先輩」

 

 はぁ、ともう1度大きなため息をつくと、彼はどかっ、とソファーに倒れ込む。

 話を聞くと、どうやらブランにメールで事情は知らされていたらしい。

 

「……助けに行くんだろ?」

「そ、そうに決まってるじゃないですか……!」

「勿論デス! 早く、紫月のいる場所を突き止めないと……それに、アカルが怪我してて……」

「……そうか……」

 

 怪訝な顔で彼は起き上がると、俺の頭に向かってこつん、と拳を優しくぶつけた。

 

「でも、罠かもしれねぇな。今までのパターンから見ても、奴らが紫月を餌にお前らを誘い込んでるのは見え見えだ」

「……だ、だけどっ……!」

「部長として判断しな。どうするべきかを」

 

 俺は押し黙った。

 部長として、俺はどう動くべきか。

 ……確かに、今やみくもに動いても敵の思い通りになるだけかもしれない。

 だけど、それ以前に――俺には通さなきゃいけない筋がある。

 

「……俺には、俺には部長として、部員を預かる責任がある――部員を助けるのは、部長として当然の事……それに」

 

 それだけじゃない。

 

 

 

「大切な部員であるあいつに、俺はまだ謝れてない――罠だと分かってても、俺は行く! 行って助け出して、あいつに謝る!!」

 

 

 

 絶対に、助けなきゃいけない理由がここにある。

 決まりだな、と桑原先輩は立ち上がった。

 ブランも起き上がる。

 

「……だから、協力してくれ――ブラン、桑原先輩!」

「フン、覚悟が決まったじゃねーか。目が火廣金の時と違って、物怖じしてねぇ。そう答える、って思ってたぜ」

「そうデスネ! 私も、全力でサポートしマスから!」 

「ああ!」

 

 拳を握りしめる。

 時間は、そう長くは待ってはくれない。

 

『マスター! 我々も準備完了であります!』

『すぐに追うぞ。奴に余計な準備をされる前に、な。それに、あの鮫男も早く助けんといかんしのう』

 

 チョートッQも、ワンダータートルもやる気十分のようだ。

 待ってろ紫月――すぐに助け出す!

 待ってやがれ、あのクソ魔導司……俺が今度は相手だ!

 教室を飛び出し、俺達は一目散に駆けだす。

 罠と分かっていながらも、仲間のいる場所へ――

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