学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第20話:皇帝(エンペラー)─精神汚染

 その声は突如、空から響いたようだった。

 そして、闇夜に紛れて影が飛び出し、怪物たちが蠢く林道へ、何かが降り立つ。

 暗がりでよく見えないが、それはマントを羽織った貴公子、という言葉が正しい。

 素顔は仮面に隠れてよく見えないが、すぐさま胡散臭そうに桑原先輩と俺は言った。

 

「いやいや、唐突に誰ですか、貴方は!!」

「ハハハハハハハ! どうした? なぜ困惑してるのだ諸君? 正義の味方だぞ?」

 

 などと言った仮面の不審者に、俺達はいたって常識的な観念からツッコミを浴びせる。

 

「いきなり何なんだアンタ!!」

「如何にも怪しそうな恰好で飛び出してきたぞ!!」

「か、カッコいいデース……!」

 

 ええ……カッコいいの、アレ。ぶっちゃけ、古臭くてダサ……いや、何でも良いや。

 とにかく助けてくれるみたいだけど、誰なんだアレ。

 

「私は”三日月仮面”……! 闇夜に紛れ、人々を脅かすクリーチャーを狩る者! 少年たちよ、どうやら困ってるようだな。雑魚はこの私に任せ、先に進め!」

 

 三日月仮面――って、まさか――

 

「あ、あの三日月仮面デス!? 最近の商店街の事件を解決した、あの!?」

「ほ、本人が此処で出てくるとはなぁ……」

「……いや、いやいや、何時の時代のヒーロー!? 薄々感付いていたけど、また変人!?」

「そう、私は正義の味方! 正義の為に戦う少年少女の味方である!」

 

 変声機で変えた声が妙に耳障りだ。

 まさか、今巷を騒がせている三日月仮面が、此処で出てくるとは。

 ともかく突っ込んでいる暇は無い。

 

「さあ、進め少年たち! 展開されよ、デュエルエリアフォース!!」

 

 言うが早いか、すぐさま空間が展開されていく。あの男の人はクリーチャー3体を相手に戦闘を始めた。

 

「何か知らないけど、始まっちまったよ!?」

「仕方がない。今は進むしかねぇだろ!」

「と、ともかく頑張ってくだサーイ!」

 

 そう言って、俺達はクリーチャー達を避け、走っていくのだった。

 三日月仮面って……何だったんだアレ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ああやって、エリアフォースカードを使って戦ってる人って私達以外にもやっぱりいるんデスね!」

「あの人大丈夫か!? 3体一気に相手だぞ!?」

 

 助けてくれたのは嬉しいが、逆に心配になってくる。

 大丈夫か、あの人!?

 それに――心配になってくるのは、ブランもだった。

 

「おい、ブラン。大丈夫か!? お前、さっきからずっと俺達をリードしてるけど――」

「大丈夫デス! 後輩の命が懸かってるのに!」

「……しかし、この坂道を走り続けるのは流石にきついぞ……! 辿り着いたとして、奴等と戦う体力が尽きていたら、意味がない」

「何言ってるデスか! こうしてる間にも、紫月はもっと辛い思いをしてるはずなのに!」

「……そうか。それなら良い。俺も付き合うぜ」

 

 2人共、分かっていたけど本気だ……!

 本気で、紫月の事を助けたいって思ってるんだ!

 頼む! 頼むから無事でいてくれよ!

 

『!』

 

 ワンダータートルが首をいきなり上げた。

 何かに気付いたようだった。

 

「どうしましたカ、ワンダータートル!?」

『良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞くか?』

「じゃあ、悪い知らせからでお願いしマス」

『うむ。まず――魔導司の気配じゃ!』

 

 ワンダータートルが叫んだ途端に、夜道に何かが降り立った。

 俺達は身構える。

 間違いない。あの、白衣に小柄な少女の姿。

 さっき、紫月を倒し、攫った張本人――トリス・メギスに間違いなかった。

 

「おや、おやおやおや、やっぱり来たねえ。まあ、想定通りではあるけど」

「……トリス・メギス! 紫月を返してもらうぜ!」

「ヤだなあ、お前らの後輩は心配しなくても五体満足、無事で返してやるよ。なあ……?」

 

 そう一声。

 見ると、ふらふらと正面から歩いてくる影。

 シルエットからして、あのパーカーは――間違いない。紫月だ。

 

「……良かった! 紫――」

 

 駆け寄ろうとして、俺は足を止める。

 酷く怯えて、震えている。目が潤んでいて、今にも壊れそうな程だ。

 

「おい、大丈夫か、紫月! 助けに来――」

「は、離れて、”みづ姉”――」

 

 次の瞬間。

 俺の胸に、彼女の手が押し当てられていた。

 そして――俺の身体は、”飛んだ”。

 

「!!」

 

 ごしゃあっ、という音と共に、俺の身体は硬い地面に打ち付けられる。

 すぐさま、桑原先輩とブランが駆け寄ってきた。

 

「アカル!!」

「何かおかしいぞ、紫月の様子が!! あの魔導司、紫月に何をしたんだ!!」

 

 傷が開き、血が流れる頭を抑える中、桑原先輩の怒号が飛んだ。

 魔導司の三段笑いが返ってくる。

 

「ハハハハハハハ、ちょっとばかし細工をしただけさね! まあ、おかげで、凄く臆病で可愛い子猫ちゃんの完成さ。で、近づく奴等の事を皆”敵”と見なして殺そうとするから気を付けろよ?」

「こ、こいつッ!! ふざけんじゃねぇ……!!」

「おまけに此奴の世界には今、此奴の姉ちゃんしか映ってねぇのよ! どこまでも哀れだなぁ!」

「て、んめぇ!!」

 

 起き上がり、俺は叫んだ。

 紫月に、紫月にそんなことを――!!

 

「あー、そうそう、ついでにこいつ等も呼んでおくか」

 

 パチン、と指を鳴らすと共に2体のクリーチャーが紫月の横に降り立つ。

 忌々しそうに桑原先輩が叫んだ。

 

「クソがっ!! こんな時に……!」

 

 《鎧亜の邪聖ギル・ダグラス》に《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》……またロスト・クルセイダーか!

 

「アカル! クリーチャーは、私達が倒しマス!」

「白銀、テメェ、動けるか!? 動けるなら、お前が紫月の所に行ってこい!」

「……!!」

 

 そうだ――!

 動ける、動けない、じゃない――動かなきゃ――俺が、紫月を助けないと――!!

 此処まで来た、意味がない!!

 

 

 

「2人共、頼む!!」

 

 

 

 先輩も、ブランも頷いた。

 そして、立ち塞がる2体のクリーチャー相手にエリアフォースカードで空間を展開していく。

 俺は、その間を突っ切り――紫月と再び相対した。

 その姿は、改めて見ると慄きを憶えるものだった。

 右目の強膜――白目――は黒く染まっており、瞳孔も虹彩も血のような紅に輝いている。

 俺は思わず叫んだ。

 

「トリス・メギス!! 俺は絶対、テメェを許さねえ――後輩に、後輩にこんなことをされて、許せるわけがねぇ!!」

「はっ! 何言ってんだ。そいつは元々、自分の双子の姉ちゃんしか信用出来ないどうしようもない臆病者! 私がちょっと心を弄って、その本性を顕してやっただけだろーがよォ!!」

 

 俺は憎悪さえ覚えた。

 人間のやることじゃない。

 あの姿――紫月が苦しんでいるのは目に見えて明らかだ。

 

「ふざけんな!! 紫月を、元の紫月に戻せ!!」

「言ってろ、クソガキ!! お前ら人間が、あたし達にやった仕打ち!! それに比べれば、まだ生温いさ!!」

 

 仕打ち――!?

 その言葉で俺は立ち止まりそうになる。

 しかし、俺はそんな言葉で立ち止まるわけにはいかない。

 

「おい、暗野紫月!! 白銀耀を痛めつけろ!! エリアフォースカードを奪い取れ!!」

 

 虚ろな目。

 ところどころが裂けて赤く煌く滴りが鋭く俺の目に刺さる。

 

「――みづ、姉……」

 

 空間が開かれていく。

 紫月と戦うことになるなんて――

 

「おい、チョートッQ……! 俺は、全力であいつと戦わねえと、いけねえんだよな……!」

『そうでありますな……! 心苦しいでありますが、やるしかないであります!』

「クソっ……本当に趣味の悪い奴だぜ、トリス・メギス!!」

「ハハハハハ! 同士討ちなんて、最高に絶望的なシチュエーションだろう? 暗野紫月――此奴は、本気を出せばお前らの中で一番強いんだ。お前ら3人、皆倒してエリアフォースカードを根こそぎ奪ってやる!! あたしは、ヒイロとは違うんでねェ!!」

 

 ぎりっ、と唇を噛み締めると、血の味がした。

 俺の頭も、胸も、それくらい煮えたぎっていた。

 血が流れ、鼻に滴るが気にしなかった。

 だって、こんな痛み――あいつが味わったものに比べれば!!

 

「……来ないで、みづ姉……こんな姿……誰にも……!」

 

 拒絶するような言葉。

 自分自身に絶望しきった言葉。

 黒い強膜に血の涙が溜まり、頬を伝っていく。

 はち切れそうな鼓動と、怒りを抑え、俺は彼女に向き合った。

 

「大丈夫だよ、紫月。俺がお前を助ける。お前の世界の中にあるものが全部、お前の敵に回ったって――俺達は、全力でお前を守る、俺が、俺達がお前を助け出す!! 助け出さなきゃ、いけないんだ!!」

 

 デッキケースを握りしめた。

 相棒が、チョートッQが飛び出してくる。エリアフォースカードが夜の闇の中で光り輝いた。

 

「チョートッQ!」

『応であります!! 超超超可及的速やかに紫月殿を助けるであります!』

 

 対する紫月も拳を握りしめると共に、空間を開こうとする。

 

「――ダメ、嫌だ、近づいてこないでッッッ!!」

 

 絶叫が響き渡った。

 胸が裂けるような、声が聞こえる。

 潤うことなき渇きと、決して晴れることのない恐怖が霧のように彼女を覆っている。

 この日。俺は、今までで最も哀しく、最も悪辣で、最も戦いたくない相手と戦うことになる。

 

 

 

「悪いな、紫月――俺が今行くぞ!」

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