学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
紫月を背負い、街に帰る途中だった。
俺も、ブランも桑原先輩も、既に足が棒のようだったが、それでも何とか歩いていた。
幸い、山を下りる時はワンダータートルの力があったので迷わずに済んだ。
で、怪我をして疲れている紫月をどこで休ませるか、という話になる。流石にブランの家に泊まると言ったのに暗野宅に送ったら怪しさMAXだし、かといってブランの家に連れていっても、ブランの家の人に怪しまれるだろう。
傷は浅いが、全身を擦り剝いていたので、どこかで応急手当をせねばならない。
そこで俺が、ぼそりと「うちは共働きで親今いねぇからまだ良いけど――と言ったのが運の尽き。
2人は俺の方を向いて「それだ!」と言わんばかりに目を輝かせる。
その後に俺は「まして男の家に連れて帰るなんてぜってー無理だろ」と続けようとしたが、ブランと桑原先輩は「それしか無くね?」という視線を俺に向けたので、結局俺の家に連れていくことになってしまったのだった。
結果、ブランと桑原先輩の同伴で俺の家に連れて行き、怪我の手当やその他諸々をした後でブラン宅に連れていく、という話になったのだった。
で、一通り彼女の外傷を調べて手当したブランが俺の家のソファベッドに紫月を寝かせていたのだった。
「んじゃあ、俺はそろそろ家に帰らなきゃいけねぇからよ。お前らも遅くなり過ぎねぇようにな」
「っはい! 桑原先輩、ありがとうございました!」
「良いってことよ。むしろ、俺は何にもやってねぇから。最後決めたのは白銀だしよ」
そう言って、桑原先輩が玄関から出て行くのを見送り、俺はリビングに戻る。
寝息を立てている紫月と、その傍で休んでいるブラン。
「……よ、ブラン。世話掛けたな」
「イエ、大丈夫デス。後、私は言い訳色々考えてありますシ、まだ時間は大丈夫デスよ?」
「流石探偵……って言えば良いのか? まあいいや。ところで、紫月の怪我は?」
「シールドによる擦り傷、切り傷だけじゃなくて、殴ったような打撲痕がいくつか。あのトリス・メギスにやられたのでしょうカ」
俺は拳を握りしめる。
あいつ、紫月に暴力を――
「ッ……」
「アカル……あ、そうデス!」
ブランは俺があまりにも怒っているからか、敢えて話題に変えにきたようだった。
「……ところで、アカルの両親って、何やってるんデスか? 2人共いないってのはどういうことデスか?」
「……ああ」
俺も彼女の心境を察する。
「何かの研究をやってるみてーだ。俺も詳しくは聞いた事ねぇけど」
「そう、デスか……」
「寂しくはねぇよ? 昔っから慣れっこだからな」
そう。
父さんも母さんも、家にはあまりいないことが多い。
最近は帰ってきても会話すら少ない。
だけど、俺にとってはそれがもう当たり前だった。慣れていた。
「ご、ごめんなサイ……私、空回りしてばかりデ」
「……いーんだよ、気にしてねえ。怒るのもエネルギーがいるからな。話題逸らしてくれてありがとう。で、腹減ってねぇか? 弁当買ってあるから食ってけよ」
「良いんデスか!? いただきマス!」
俺は溜息をつく。机の上に置いておいた、コンビニのヒレカツ弁当にブランが飛びついていくのを苦笑いで眺めながら。
もう、8時だ。外も暗い。
紫月の傍に寄り添い、彼女の顔を見た。
あのデュエルの時とは打って変わって、本当に穏やかだった。
「……はぁー、本当大変な一日だったぜ」
トリス・メギスに攫われた紫月。大魔導司なるアルカナ研究会のトップ。
そして、謎の三日月仮面。
情報量が多過ぎて、まだ混乱してるけど、何とかなって良かった。
『白銀耀……ありがとよ』
「!」
デッキケースからカードが飛び出してくる。
シャークウガだ。
『本当は、俺が此奴を守ってやらなきゃいけねぇのに……本当に礼を言うぜ』
「いーんだよ。人間もクリーチャーも、困ったときはお互い様だぜ」
『そうか……』
「……本当、無事でよかったぜ。紫月――」
「……せん、ぱい……」
どきり、として彼女の方に目を向けた。
見れば、薄っすらではあるが、紫月が目を開けている。
目を……覚ましたのか。
がばっ、と起き上がると、何かを思い出しかのように頭を抱え、息が荒くなる。
「だ、大丈夫か、紫月!?」
「な、何とか……」
そして――急に力が抜けたように、俺の胸に倒れ込んでくる。
「ってオイ!」
「……った」
「っ……!」
ひっく、ひっく、とすすり泣く声。
「怖かった……本当に……怖かった……寂しかった……苦しかった……私が私じゃなくなっていくみたいで、暗闇の中で私1人で……誰も助けてくれなくて……!」
「……」
「……何で、助けに来たんですか……実の姉以外、誰も信用できない私を……どうしようもない私を、何で……」
「……大事な後輩だからだろ」
ぽん、と頭に手を置く。
「……どうしようもないわけねぇだろ。大事な後輩を、仲間を、見捨てたら俺は死ぬより辛い目に遭う。悪態もつくし、喧嘩もするけどよ、それでも大事な仲間なんだよ。助けに行かなきゃ、って思うだろ」
「だって、だって――」
「それに、謝りたかったんだ。俺はお前に助けてもらってるのに、お前に色々酷い事言ったしな」
「そ、そんな……私だって。私、憶えてます。薄っすらと。あのデュエルの事も。先輩がどれだけ酷いダメージを負ったのかも」
「良い。そんなことより、謝らせてくれ」
泣きながら言う彼女に、俺は言った。
「――本当にごめんな。紫月」
「――私も……すみませんでした。先輩」
この後、堰を切ったように泣き出した紫月を受け止め続けるのを、ブランはずっと黙ってみていた。
いつもはクールで、氷のような仮面をかぶっている彼女は、本当はとても弱い面を持つ年相応の少女で。
俺も、貰い泣きしそうになってしまった。
俺は、部長として部員を守らなきゃいけないんだ。
なのに――守れなかった。
「……先輩は馬鹿ですよ。一歩間違えたら、先輩は死ぬところだった。私が、先輩を手に掛けるところだった。そんなの、絶対に嫌だったから――」
「でも、現に俺はこうして生きている。お前も、元に戻ってる」
だけど、こうして連れ戻すことが出来た。
後悔の念が無いわけじゃねえけど、それだけでもう十分だった。
「結果論です。先輩はもっと、リスクとリターンの天秤を……」
「リターンはお前が此処にいること。それだけで十分だ。リスクなんて、考えてられるかってんだ」
「……ばか」
「何でだ!?」
紫月は顔を真っ赤にしてるし、俺はさっきから困惑してばかりだし、どうするんだこの場は……。
「……でも、ありがとうございます」
「……いーってことよ。それに、出来れば、俺が代わりにお前の受けた苦しみを受けたかったくらいだ。俺は部長失格だな。部員をこんな目に遭わせて」
「そんな。先輩は、自分を責める必要は無いです。私が敗けたのが、いけないんです。だから、これからも戦わせてください。私は、紫月は、もっと強くなります……! 今度は、先輩の手を煩わせないくらいに」
俺も負けてから強くなった。
これ以上彼女の意思を否定するのも逆に違うような気がした。
難しいけど、俺も皆を守らなきゃいけない。そして、彼女も守られるだけじゃ嫌だ、と言った。
俺は何を優先するべきか、分からなくなる。
だけど――
「……そうか。お前がそう思うなら、それで良いのかな」
今は、それぞれの信じる道を応援し、共に進もう。
それだけだ。
「それとな、紫月」
「? 何でしょう」
「俺を信じてくれて、ありがとな」
「!」
彼女の顔が赤くなる。
「何で……私は、言ったはずです。みづ姉以外を、受け入れる事が出来ない人間だって」
「違うさ。俺に前、言ってくれただろ。目の前の事に真っ直ぐになれるって」
「あっ」
気付いたように、彼女は口を開いた。
そして、恥ずかしそうに俯いた。
「お前はもう、十分に俺達の事を信じてる。俺は、それに応えたかったのさ」
※※※
話を聞いた所によると、連れ去られた後、紫月はトリス・メギスから罵詈雑言の嵐と暴力を浴びたらしかった。トリス・メギスは何らかの理由で人間を酷く憎んでおり、火廣金とはまた気色が違う、と感じたし、同時に本当に許せない相手になった。
また、精神汚染という魔術で彼女の感情の負の面を表面化させたらしい。
本当に憤りは隠せない。だが、その後遺症も今の所はないようだ。
で、結局の所エリアフォースカードに起こった変化や三日月仮面等の謎を残しつつも、この事件は幕を閉じたのだった。
あの後、カードによる事件も、魔導司による騒動も起こらず、穏やかに、何事もなく日が過ぎていき。とうとう平穏に、夏休みまで秒読みとなったある日の放課後の事だった。
「……で、紫月。どういうことだ?」
「はい。今度、夏休みに海水浴場でビーチデュエル大会なるものがあるようですよ、先輩」
「本当デスか、シヅク!」
「ビーチデュエル大会……?」
俺は首を傾げる。
そうか。もう真夏、海の季節か。
確かにここ最近大変な事が続いたし、皆で海に行って一休み――ってのも良いと思ったが、ビーチデュエル大会なるものの詳細が気になる。
「ともかく、私も強くなりたいですし。先輩の為にも」
「お、おう……」
「それに守られるだけは嫌なんです。もっと鍛えます。そして、あの魔導司にいつかリベンジを」
「私も、もっと強くならないと、デスネ! メタリカを極めるデース!」
「白銀先輩曰く、強くなるとエリアフォースカードも変化するらしいですし、そこを目指さないと」
「お、おい……それについては俺もまだ何が何だか分からねえんだけど」
タロットカードのようになったエリアフォースカードを見る。
映し出された
これが一体何を意味するのか、俺は分からない。あいつは成長した、と言っていたが――
「とにかく、海デスネ海! 皆で行きまショウ!」
「おいブラン。現国の補習あったよな?」
「うっ……アカル、酷いデース」
「まあ、補習はきっちり終わってからですね」
「おいおい、俺はまだ行くとは……」
「先輩」
ぎゅっ、と紫月が俺の手を握ってくる。
「……行きますよね?」
上目遣いで懇願するような、いつもの彼女とはどこか違った仕草。
まるで妹が兄に物をねだるような……。
あれから、紫月の態度はまた少し軟化したような気がする。
と言っても誤差みたいなモンだし、普段はあの仏頂面だけど。
「……わぁーったよ。お前らがどうしても行きてえみたいだし」
ぱぁっ、といつもの無表情が若干明るくなった……ような気がする。
ブランも「海デース!」とはしゃぎだした。
チョートッQやシャークウガ、ワンダータートルも海だ海だと騒ぎ出す。
「おい、おめーら。あんまりはしゃぎすぎんじゃねーぞ?」
「嬉しいんデスよ! こうやって皆で遊びにいけるのが!」
「そうですね。たまには……良いと思います」
「そうだな。これで、良いのかもしれねえな」
デュエル大会に海か――忙しくてしばらく行ってなかったけど、いっちょ行ってみるとするか。
何であれ、こうして俺達の日常はまた、戻ってきたんだ。