学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第26話:ビーチデュエル大会─死の鳳

※※※

 

 

 

 俺と玲奈のデュエル。

 2ターン目に《ヤッタレマン》を繰り出す俺に対し、彼女は《ブラッドギア》で火と闇のクリーチャーのコストを下げてくる。

 

「──こ、これって……バイクか?」

「バイクなんてヤバンなデッキは使わないわ!」

「バイク使いに怒られるぞ!」

 

 言いつつ俺は《フェアリー・クリスタル》でマナを増やしていく。

 マナゾーンに落としたカードが無色カードだったので、更にもう1枚カードをマナに置ける。

 順調だ。向こうがコスト軽減なら、こっちは大量ブーストで差を付けてやる。

 

「──ブーストで差を付けてやる、なんて思ってるんじゃない? でも、そんな生温いデッキじゃ勝てないんだから! 3マナで《神滅翔天 ポッポ・ジュヴィラ》を召喚するからね!」

 

 現れたのはファイアー・バードのクリーチャー。

 だけど、火と闇の多色クリーチャーだからか何だか禍々しい。

 待てよ。確かあいつ何処かで見た事がある。確か効果は──

 

「ポッポ・ジュヴィラの効果で墓地にカードを3枚置くわ! この子がいる限り、あたしのフェニックスは墓地のクリーチャーが進化元になるんだから!」

「フェニックス──し、しまった!?」

 

 そうだ、思い出した。

 フェニックス。デュエマに於いてはドラゴンに並ぶ花形種族だ。

 強力な進化クリーチャーで構成された種族ではあるが、進化元の数が多く、召喚難易度はかなり高い。

 しかし──《ポッポ・ジュヴィラ》がいると話は変わって来る。

 

「こっちは3マナで《パーリ騎士》を召喚して墓地にカードを置く!」

「ターンを渡しちゃったね。じゃあ、行くんだから!」

 

 4枚のマナが溜まる。

 墓地に落ちた屍の龍を吸収し、それは顕現する。

 

 

 

「──墓地の《グールジェネレイド》と《ピース・ルピア》を進化元に、《暗黒鳳 デス・フェニックス》に進化!」

 

 

 

 現れたのは混沌と死を齎す破滅の不死鳥。

 《ポッポ・ジュヴィラ》の効果で墓地のカードを進化元に現れた怪物は、すぐさま俺のシールドを目掛けて飛んで来る。

 

「《デス・フェニックス》で攻撃! シールドをW・ブレイクするんだから!」

「トリガーはっ……」

「トリガーは発動しないんだから! 《デス・フェニックス》がブレイクしたシールドは直接墓地に置かれるよ!」

 

 そうだ、こいつそんな効果があるんだった……!

 言わば、スピードアタッカーのボルメテウスみたいなもんだ。

 直接墓地に置かれたシールドのS・トリガーは発動しない。

 おまけにこっちの手札も増えない。

 それが4コストで飛んで来るんだから堪ったもんじゃないぞ!

 ……ただ破壊しただけだと、闇のデッキならすぐ墓地から場に出てきてしまう。

 

「なら、《ポッポ・ジュヴィラ》諸共破壊する! 《ジョリー・ザ・ジョニー》を7マナで召喚だ!」

「来たわね……マスターカード!」

 

 それならいっその事、全部まとめて破壊してしまえば良い。

 マスター・W・ブレイカーなら、両方一気に墓地に突き落とすことが出来る!

 

「《ジョニー》でシールドをマスター・W・ブレイク!」

 

 マスター・W・ブレイクはシールド諸共相手のクリーチャーを破壊する。

 《ポッポ・ジュヴィラ》、そして《デス・フェニックス》は破壊された。

 これで、少なくとも次のターンに《デス・フェニックス》のシールド焼却は受けないだろう。

 

「何とか命拾い出来た……」

「《デス・フェニックス》の効果発動! 相手の手札を全て破壊するからね!」

「あっ……やべ──!」

 

 しまった。こいつ、場を離れたら相手の手札を全部墓地に落とす効果があるんだった。

 マッドネスも無いし、次のターン以降どうすれば良いんだ?

 かといって、《デス・フェニックス》は無視できないクリーチャーだったし、これが最適解だと思いたいが……!

 

「──S・トリガー、《Dの牢閣 メメント守神宮》! 効果で場のクリーチャーは皆ブロッカーになるんだから!」

 

 つっても、《ジョリー・ザ・ジョニー》はブロックされないから、あんまり痛手じゃないな。

 ……でも1ターン止められちまうな。それはちょっとかったるいかもしれない。

 にしても光のカードか。純粋な火と闇のデッキとばかり思ってたんだけども。

 

「あたしのターン、5マナで《法と契約の印(モンテスケールサイン)》を唱えるから! 効果で墓地から《ポッポ・ジュヴィラ》を場に出すよ!」

「また出てきた……!」

「これでターンエンドするからね」

 

 再び増える墓地、次のターンにはまた《デス・フェニックス》が出て来る。

 ……手札も無いし、これどうすりゃ良いんだ……!?

 

「俺のターン、ドロー──」

「《メメント》のD・スイッチ発動! 相手のクリーチャーを全員タップするんだから!」

「うぐっ……!」

 

 実質1ターン休みだ。

 ……引いたカードもコストが高過ぎて出せない。

 完全に縛られてしまってるぞ。

 それにしても……何なんだろう、この違和感は。

 何か、何か致命的な事を見落としてしまっているような気がする──!

 

「あたしのターン……5マナをタップ。《ポッポ・ジュヴィラ》の効果で墓地の《デス・フェニックス》を進化元に!」

「墓地の……フェニックス!?」

 

 待てよ。

 待てよ待てよ待てよ。

 フェニックスを進化元にするフェニックス!?

 そんなカード──1枚しかないじゃないか!

 

 

 

「これで終わりなんだから! 進化、《究極銀河ユニバース》!」

 

 

 

 ──《ユニバース》。それは特殊勝利効果を持つフェニックス。

 数多くのプレイヤーによって、エクストラウィン効果を利用するデッキが開発されてきたが、結局浪漫の域は出なかった。

 何故なら、《ユニバース》はメテオバーンで一番下の進化元を墓地に置き、それがフェニックスなら勝利するという条件だからだ。

 ただでさえ進化を難しいフェニックスを進化元にするので、達成は難しい。

 しかし、《ポッポ・ジュヴィラ》が居るなら話は別だ。

 墓地に落ちたフェニックスを直接進化元に出来るのだから!

 

「《ピース・ルピア》に《メメント》……デッキに入ってた不自然な光のカードは……このためか!」

 

 気付いた時にはもう遅い。

 メテオバーンは攻撃時に発動する。

 もうどうやっても止められない!

 

 

 

「攻撃時にメテオバーン発動……フェニックスを墓地に置いたから、あたしの勝利なんだから!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 玲奈ちゃんに敗けた後の大会の結果だが、その彼女はと言えば次の試合で白バイクに轢かれ、決勝まで進んだ紫月もそれに負けたらしく、結局デュエマ部は誰一人として優勝は出来なかったらしい。

 しかし、紫月が準優勝の賞品を貰ったらしく、後でそれが何なのか見ておこうとは思った。

 

「う、うう……負けるなんて……」

「まあ、俺も運が良かっただけだし、次の試合で使い果たしてるからな、運」

「やはり大会でずっと勝ち続けるのは難しいですね」

「でも、あの打点は過剰すぎデス……」

 

 海の家の近くで項垂れる4人。

 

「れ、レンに良いとこ見せたかったなあ……」

「おい貴様等。何をそこで腑抜けている」

「ジュースとアイス持ってきましたよ、先輩。あと、玲奈さんにも」

「アイス!? やったデース!!」

「僕の奢りだ。感謝するんだな」

 

 おお、この暑い時にアイスは本当に有難い。

 黒鳥さんには本当に頭が下がる。何だかんだで俺達のことを気遣ってくれてるのか。

 

「にしても、大会の結果、見たぞ玲奈」

「……ふんっ。どうせ、あたしみたいな子供に、まだ大会は早かったって言いたいんでしょ」

「精進は無論必要だ。だが、貴様と白銀の戦い、遠巻きから見てはいたが――よく敢闘していたぞ」

「!」

 

 がばっ、と玲奈は起き上がり、食いつくように黒鳥さんに言った。

 

「……そんなこと、急に言われたって嬉しくない!」

「貴様は、どのデッキもそつなく扱えている。技量はこの間よりも上がっているぞ。まあ、あいつが戯れ半分で作ったアレで2勝。デッキの癖の強さをプレイングで補えていると言える」

「……」

「だが、まだ貴様にマッチするデッキは見つかったとは言い難い。後は貴様がそれを見つけるだけ。だから美学が大事だと言っているのだ。デッキは芸術作品。貴様が何を作るのか、貴様が決めろ」

 

 ぽふん、と玲奈の頭に手を置くと黒鳥さんは言った。

 

 

 

「まあ、頑張ったではないか。玲奈」

「……なでなでしないでよ。子供扱いしないで」

 

 

 

 そう言って振り払うが、満更ではないようだ。

 あれ……? ちょっと顔赤くなってるよーな……。

 

「やれやれ、師匠はロリコンですね」

「おい紫月、あらぬ誤解を広めるのはやめないか」

「……今度は絶対に優勝する。で、レンにも勝つ!」

「それは無理だな。僕には負けない自信があり、それは経験で裏付けされている。もっと精進するんだな。美学を身に着けて」

「だから美学ってなによー!!」

 

 ははは、と笑いながら2人の口喧嘩を見守る俺達。

 何だ。結局、仲が良いんじゃねえか。

 バニラアイスをプラスチックのスプーンで削りながら、俺はその光景を眺めていた。

 

「俺も玲奈ちゃんに敗けてられないな……」

「……そういえば先輩。準優勝で、賞品を貰いまして」

「お、改めておめでとう、紫月」

「いえ。もっと私も強くならないといけないので」

「うぅ……それでその賞品って何だったのデスか?」

「実は」

 

 そう言って彼女はぴらっ、とチケットのようなものを俺に見せた。

 

「今日の夕方からある夏祭りの縁日のチケットです。食べ物とか買えるアレですよ」

「なぁんだ、チケットか……デュエマ関係ねぇじゃん。夏っぽさはあるけど」

「でも、夏祭り、折角デスし行ってみませんカ?」

「そうだな。一旦着替えて、また準備すっか――」

「ねえ、耀さんっ」

 

 声が聞こえた。玲奈だ。

 どこか嬉しそうな表情で、彼女は俺にデッキを突き付けて言った。

 

「うん、それじゃあ紫月さん、翠月さん、ブランさん! 今度またデュエマしよう!」

「次は負けないデース!!」

「やれやれ……またライバルが出来てしまいましたね」

「ふふ。でも、しづも楽しかったでしょ?」

「まあ、それなりには」

 

 こうして、ビーチデュエル大会は幕を閉じた。

 だけど、夏の一日に過ぎないはずの今日の事件は、まだ終わらなかった。

 

「それじゃあ、着替えて夏祭りに行く準備でもすっか!」

 

 そう。このデュエル大会の余波に過ぎないと思っていた夏祭りは――思わぬ方向に転がっていくことは、まだ俺は知る由も無かった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あ、レン。玲奈ちゃんも」

 

 夏の戦場での戦いは終わりを迎え、ビーチデュエル大会の片付けが行われていた。

 そこには、司会を務めていた女性――如月コトハの姿もあった。

 

「コトハ。司会、ご苦労だったな」

「いやいや、あたしが好きでやってるからこれで良いのよ。あんたも悪かったわね。枠に埋め込むようなことしちゃって」

「構わん」

「コトハさんっ!」

 

 ぎゅうっ、と彼女に飛びつく玲奈。

 彼女は如月は以前にデュエルを教えてもらっており、それがきっかけで仲良くなっていた。

 

「ところでレン。あんたが言ってたデュエマ部の子達、今日来てたんでしょ?」

「ああ。白銀耀。あいつはなかなか見所があるぞ」

「あたしは勝ったけどね!」

「貴様はうるさい」

「むー……折角勝ったのに」

「でも、あんたが言うってことはまあまあ強いんでしょ?」

 

 頷いた黒鳥は、睨むような目つきで如月に言った。

 

 

 

 

「――奴は、強くなるべくして強くなっているからな。僕達と同じだ」

 

 

 

 

 如月の顔つきが険しくなる。

 「僕達と同じ」。

 その言葉に嫌なものを感じた。

 

「……そ、それはどういうこと? まさか……」

「後でまた連絡する」

「何の話?」

「プライベートの話だ。大人の女性は無暗に人の事情に突っ込んだりはしないぞ、玲奈」

「なっ、分かってるわよ!」

 

 気になるけど、と付け加える玲奈。

 如月はしばらく考え込むような顔をしていたが、ふと思い出したように

 

「そうだ! 片付け! それじゃあ、このステージをお願い!」

「分かった。玲奈。怪我をするなよ?」

「分かってるわよ!」

 

 そう言って機材を片付けていく2人。

 それを眺め――如月は呟くように言った。

 

「……また、デュエマで傷つく人が――出てくるって言うの?」

 

 玲奈から返してもらったデッキを握りしめ、彼女は1人の男の顔を回想する。

 

 

 

「――本当、こんな時に限って居ないんだから。馬鹿」


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