学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
俺と玲奈のデュエル。
2ターン目に《ヤッタレマン》を繰り出す俺に対し、彼女は《ブラッドギア》で火と闇のクリーチャーのコストを下げてくる。
「──こ、これって……バイクか?」
「バイクなんてヤバンなデッキは使わないわ!」
「バイク使いに怒られるぞ!」
言いつつ俺は《フェアリー・クリスタル》でマナを増やしていく。
マナゾーンに落としたカードが無色カードだったので、更にもう1枚カードをマナに置ける。
順調だ。向こうがコスト軽減なら、こっちは大量ブーストで差を付けてやる。
「──ブーストで差を付けてやる、なんて思ってるんじゃない? でも、そんな生温いデッキじゃ勝てないんだから! 3マナで《神滅翔天 ポッポ・ジュヴィラ》を召喚するからね!」
現れたのはファイアー・バードのクリーチャー。
だけど、火と闇の多色クリーチャーだからか何だか禍々しい。
待てよ。確かあいつ何処かで見た事がある。確か効果は──
「ポッポ・ジュヴィラの効果で墓地にカードを3枚置くわ! この子がいる限り、あたしのフェニックスは墓地のクリーチャーが進化元になるんだから!」
「フェニックス──し、しまった!?」
そうだ、思い出した。
フェニックス。デュエマに於いてはドラゴンに並ぶ花形種族だ。
強力な進化クリーチャーで構成された種族ではあるが、進化元の数が多く、召喚難易度はかなり高い。
しかし──《ポッポ・ジュヴィラ》がいると話は変わって来る。
「こっちは3マナで《パーリ騎士》を召喚して墓地にカードを置く!」
「ターンを渡しちゃったね。じゃあ、行くんだから!」
4枚のマナが溜まる。
墓地に落ちた屍の龍を吸収し、それは顕現する。
「──墓地の《グールジェネレイド》と《ピース・ルピア》を進化元に、《暗黒鳳 デス・フェニックス》に進化!」
現れたのは混沌と死を齎す破滅の不死鳥。
《ポッポ・ジュヴィラ》の効果で墓地のカードを進化元に現れた怪物は、すぐさま俺のシールドを目掛けて飛んで来る。
「《デス・フェニックス》で攻撃! シールドをW・ブレイクするんだから!」
「トリガーはっ……」
「トリガーは発動しないんだから! 《デス・フェニックス》がブレイクしたシールドは直接墓地に置かれるよ!」
そうだ、こいつそんな効果があるんだった……!
言わば、スピードアタッカーのボルメテウスみたいなもんだ。
直接墓地に置かれたシールドのS・トリガーは発動しない。
おまけにこっちの手札も増えない。
それが4コストで飛んで来るんだから堪ったもんじゃないぞ!
……ただ破壊しただけだと、闇のデッキならすぐ墓地から場に出てきてしまう。
「なら、《ポッポ・ジュヴィラ》諸共破壊する! 《ジョリー・ザ・ジョニー》を7マナで召喚だ!」
「来たわね……マスターカード!」
それならいっその事、全部まとめて破壊してしまえば良い。
マスター・W・ブレイカーなら、両方一気に墓地に突き落とすことが出来る!
「《ジョニー》でシールドをマスター・W・ブレイク!」
マスター・W・ブレイクはシールド諸共相手のクリーチャーを破壊する。
《ポッポ・ジュヴィラ》、そして《デス・フェニックス》は破壊された。
これで、少なくとも次のターンに《デス・フェニックス》のシールド焼却は受けないだろう。
「何とか命拾い出来た……」
「《デス・フェニックス》の効果発動! 相手の手札を全て破壊するからね!」
「あっ……やべ──!」
しまった。こいつ、場を離れたら相手の手札を全部墓地に落とす効果があるんだった。
マッドネスも無いし、次のターン以降どうすれば良いんだ?
かといって、《デス・フェニックス》は無視できないクリーチャーだったし、これが最適解だと思いたいが……!
「──S・トリガー、《Dの牢閣 メメント守神宮》! 効果で場のクリーチャーは皆ブロッカーになるんだから!」
つっても、《ジョリー・ザ・ジョニー》はブロックされないから、あんまり痛手じゃないな。
……でも1ターン止められちまうな。それはちょっとかったるいかもしれない。
にしても光のカードか。純粋な火と闇のデッキとばかり思ってたんだけども。
「あたしのターン、5マナで《
「また出てきた……!」
「これでターンエンドするからね」
再び増える墓地、次のターンにはまた《デス・フェニックス》が出て来る。
……手札も無いし、これどうすりゃ良いんだ……!?
「俺のターン、ドロー──」
「《メメント》のD・スイッチ発動! 相手のクリーチャーを全員タップするんだから!」
「うぐっ……!」
実質1ターン休みだ。
……引いたカードもコストが高過ぎて出せない。
完全に縛られてしまってるぞ。
それにしても……何なんだろう、この違和感は。
何か、何か致命的な事を見落としてしまっているような気がする──!
「あたしのターン……5マナをタップ。《ポッポ・ジュヴィラ》の効果で墓地の《デス・フェニックス》を進化元に!」
「墓地の……フェニックス!?」
待てよ。
待てよ待てよ待てよ。
フェニックスを進化元にするフェニックス!?
そんなカード──1枚しかないじゃないか!
「これで終わりなんだから! 進化、《究極銀河ユニバース》!」
──《ユニバース》。それは特殊勝利効果を持つフェニックス。
数多くのプレイヤーによって、エクストラウィン効果を利用するデッキが開発されてきたが、結局浪漫の域は出なかった。
何故なら、《ユニバース》はメテオバーンで一番下の進化元を墓地に置き、それがフェニックスなら勝利するという条件だからだ。
ただでさえ進化を難しいフェニックスを進化元にするので、達成は難しい。
しかし、《ポッポ・ジュヴィラ》が居るなら話は別だ。
墓地に落ちたフェニックスを直接進化元に出来るのだから!
「《ピース・ルピア》に《メメント》……デッキに入ってた不自然な光のカードは……このためか!」
気付いた時にはもう遅い。
メテオバーンは攻撃時に発動する。
もうどうやっても止められない!
「攻撃時にメテオバーン発動……フェニックスを墓地に置いたから、あたしの勝利なんだから!」
※※※
玲奈ちゃんに敗けた後の大会の結果だが、その彼女はと言えば次の試合で白バイクに轢かれ、決勝まで進んだ紫月もそれに負けたらしく、結局デュエマ部は誰一人として優勝は出来なかったらしい。
しかし、紫月が準優勝の賞品を貰ったらしく、後でそれが何なのか見ておこうとは思った。
「う、うう……負けるなんて……」
「まあ、俺も運が良かっただけだし、次の試合で使い果たしてるからな、運」
「やはり大会でずっと勝ち続けるのは難しいですね」
「でも、あの打点は過剰すぎデス……」
海の家の近くで項垂れる4人。
「れ、レンに良いとこ見せたかったなあ……」
「おい貴様等。何をそこで腑抜けている」
「ジュースとアイス持ってきましたよ、先輩。あと、玲奈さんにも」
「アイス!? やったデース!!」
「僕の奢りだ。感謝するんだな」
おお、この暑い時にアイスは本当に有難い。
黒鳥さんには本当に頭が下がる。何だかんだで俺達のことを気遣ってくれてるのか。
「にしても、大会の結果、見たぞ玲奈」
「……ふんっ。どうせ、あたしみたいな子供に、まだ大会は早かったって言いたいんでしょ」
「精進は無論必要だ。だが、貴様と白銀の戦い、遠巻きから見てはいたが――よく敢闘していたぞ」
「!」
がばっ、と玲奈は起き上がり、食いつくように黒鳥さんに言った。
「……そんなこと、急に言われたって嬉しくない!」
「貴様は、どのデッキもそつなく扱えている。技量はこの間よりも上がっているぞ。まあ、あいつが戯れ半分で作ったアレで2勝。デッキの癖の強さをプレイングで補えていると言える」
「……」
「だが、まだ貴様にマッチするデッキは見つかったとは言い難い。後は貴様がそれを見つけるだけ。だから美学が大事だと言っているのだ。デッキは芸術作品。貴様が何を作るのか、貴様が決めろ」
ぽふん、と玲奈の頭に手を置くと黒鳥さんは言った。
「まあ、頑張ったではないか。玲奈」
「……なでなでしないでよ。子供扱いしないで」
そう言って振り払うが、満更ではないようだ。
あれ……? ちょっと顔赤くなってるよーな……。
「やれやれ、師匠はロリコンですね」
「おい紫月、あらぬ誤解を広めるのはやめないか」
「……今度は絶対に優勝する。で、レンにも勝つ!」
「それは無理だな。僕には負けない自信があり、それは経験で裏付けされている。もっと精進するんだな。美学を身に着けて」
「だから美学ってなによー!!」
ははは、と笑いながら2人の口喧嘩を見守る俺達。
何だ。結局、仲が良いんじゃねえか。
バニラアイスをプラスチックのスプーンで削りながら、俺はその光景を眺めていた。
「俺も玲奈ちゃんに敗けてられないな……」
「……そういえば先輩。準優勝で、賞品を貰いまして」
「お、改めておめでとう、紫月」
「いえ。もっと私も強くならないといけないので」
「うぅ……それでその賞品って何だったのデスか?」
「実は」
そう言って彼女はぴらっ、とチケットのようなものを俺に見せた。
「今日の夕方からある夏祭りの縁日のチケットです。食べ物とか買えるアレですよ」
「なぁんだ、チケットか……デュエマ関係ねぇじゃん。夏っぽさはあるけど」
「でも、夏祭り、折角デスし行ってみませんカ?」
「そうだな。一旦着替えて、また準備すっか――」
「ねえ、耀さんっ」
声が聞こえた。玲奈だ。
どこか嬉しそうな表情で、彼女は俺にデッキを突き付けて言った。
「うん、それじゃあ紫月さん、翠月さん、ブランさん! 今度またデュエマしよう!」
「次は負けないデース!!」
「やれやれ……またライバルが出来てしまいましたね」
「ふふ。でも、しづも楽しかったでしょ?」
「まあ、それなりには」
こうして、ビーチデュエル大会は幕を閉じた。
だけど、夏の一日に過ぎないはずの今日の事件は、まだ終わらなかった。
「それじゃあ、着替えて夏祭りに行く準備でもすっか!」
そう。このデュエル大会の余波に過ぎないと思っていた夏祭りは――思わぬ方向に転がっていくことは、まだ俺は知る由も無かった。
※※※
「あ、レン。玲奈ちゃんも」
夏の戦場での戦いは終わりを迎え、ビーチデュエル大会の片付けが行われていた。
そこには、司会を務めていた女性――如月コトハの姿もあった。
「コトハ。司会、ご苦労だったな」
「いやいや、あたしが好きでやってるからこれで良いのよ。あんたも悪かったわね。枠に埋め込むようなことしちゃって」
「構わん」
「コトハさんっ!」
ぎゅうっ、と彼女に飛びつく玲奈。
彼女は如月は以前にデュエルを教えてもらっており、それがきっかけで仲良くなっていた。
「ところでレン。あんたが言ってたデュエマ部の子達、今日来てたんでしょ?」
「ああ。白銀耀。あいつはなかなか見所があるぞ」
「あたしは勝ったけどね!」
「貴様はうるさい」
「むー……折角勝ったのに」
「でも、あんたが言うってことはまあまあ強いんでしょ?」
頷いた黒鳥は、睨むような目つきで如月に言った。
「――奴は、強くなるべくして強くなっているからな。僕達と同じだ」
如月の顔つきが険しくなる。
「僕達と同じ」。
その言葉に嫌なものを感じた。
「……そ、それはどういうこと? まさか……」
「後でまた連絡する」
「何の話?」
「プライベートの話だ。大人の女性は無暗に人の事情に突っ込んだりはしないぞ、玲奈」
「なっ、分かってるわよ!」
気になるけど、と付け加える玲奈。
如月はしばらく考え込むような顔をしていたが、ふと思い出したように
「そうだ! 片付け! それじゃあ、このステージをお願い!」
「分かった。玲奈。怪我をするなよ?」
「分かってるわよ!」
そう言って機材を片付けていく2人。
それを眺め――如月は呟くように言った。
「……また、デュエマで傷つく人が――出てくるって言うの?」
玲奈から返してもらったデッキを握りしめ、彼女は1人の男の顔を回想する。
「――本当、こんな時に限って居ないんだから。馬鹿」