学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第27話:夏祭り─勝ち抜き勝負

――夏祭り。それは、一夜を彩る灯りが煌き、人々の活力と熱で賑わうまた一つの”夏”。

 太鼓の音が鼓膜を叩き、焼きそばの焼ける音が腹を鳴らし、景気の良い客寄せの声が人々を惑わせ、夏の中へと誘惑していく。

 そんな中に、確かに俺達デュエマ部も居た――はずだった。

 縁日の屋台が並ぶ神社の、鳥居の前で待ち合わせという話だったのだが、未だに俺しか来ていないのである。

 

「くっそ、おせぇな……」

『まだ5分しか経ってないでありますよ』

「わぁーってるよ、だけど遅れてることにイライラしてるというよりも、この蒸し暑い中、突っ立ってるだけでじめじめじとじと気持ち悪くてイライラしてるんだよ……」

『やーれやれ、マスターは器が小さい男でありますなぁ』

「うっせー、分解(バラ)すぞおめーのおもちゃみてーな頭」

 

 暑い。

 もう夜で暗いというのに、高めと温度と湿度、そして電球と人々の体温が合わさった結果、今の俺にとって非常に不快な空気が醸し出されていた。

 祭りに夢中になっているならともかく、こうやってただ突っ立って待っているだけというのはとてももどかしいものだ。

 

「アカルー!」

 

 声がした。

 階段の下を覗き込むと、そこには見慣れた人影の姿。

 ブランと紫月、そして翠月が息を切らせて駆け上ってくる。

 彼女達の姿を見た時、俺は思わず感嘆の息を漏らした。

 

「浴衣、か」

「ハイ! 折角デスから、チャレンジしてみマシタ!」

「私達が手伝いに行ってたので……申し訳ありません、白銀先輩。遅れました」

「いや、別に気にしてねぇよ。そうか。それでか」

 

 ブランも翠月さんも、そして紫月も、皆木綿地の平織り、いわば浴衣と呼ばれるものを着込んでいた。

 3者3様でデザインも違っており、ブランは藍色に水仙といういつものイメージとはまた違った落ち着いたデザインで知的な印象を与える。翠月さんは空色の明るい地を飛び回る燕柄で凛とした彼女のようなデザイン、そして紫月はというと藤色に白い朝顔の花があしらわれたものを纏っている。

 ……何かこう、3人共外見の素材は本当に良いんだな、とつくづく感じる。似合ってはいるんだ。

 普段の残念っぷりを忘れそうになるところだった。生意気クールな後輩と、シャーロキアンの探偵馬鹿と同一人物とは思えない。

 

「はぁー。何かわりーな。3人ともおしゃれしてんのに、俺だけこんな格好で」

 

 かく言う俺は半ズボンにメッシュの黒いシャツという涼しさ重視の服装だったがため、3人に比べると聊か華やかさに欠ける。まあ、こんな格好の人もいるんだけどさ。

 完全に俺だけこのメンバーの中で浮いてる感がある。

 

「構いませんよ。私達は」

「そうかぁ?」

「それじゃあ、早速回っていきまショウ!」

「縁日の屋台、楽しみですね!」

「そうだなぁ。ま、たまには童心に帰るのも悪くねーか」

 

 縁日の屋台が並ぶ神社には人、人、人。

 その中をすり抜けるようにして浴衣の少女が舞っていく。

 案外マッチしている金髪と和装の組み合わせ。彼女は無邪気な笑みを浮かべながら、言った。

 

「夏祭りに来たら、そりゃ焼きそばを食べるのがオーソドックスデショ!」

 

 うん、色気より食い気ですかブランさん。

 

「金魚すくいもやりたいですね! あ、ザリガニ釣りもあるみたいよ、しづ!」

「やれやれ皆さん子供ですね……あ、かき氷。やっぱり色気より食い気です、練乳たっぷりかけてもらいましょう」

「お前ら好き勝手に動きすぎだろ、一回集まれ!! 高校生で迷子とか恥ずかしいにも程があるぞ!!」

 

 まあ、縁日ではしゃぐ気持ちは分からなくもない。

 だけど、こうも個性がバラバラだとどこかでトラブルが起こりそうな気がしてくる。

 だからこそ、一旦全員でどこに行くか決めようと思ったのだが……。

 

「まあ待ってください。一旦ここは食べ物系を後回しにしましょう。食べ物を持ちながらでは、聊か歩く時に邪魔になります」

「でも、売切れたらどうするデスか!」

「焼きそばくらい家で作ればいくらでも……」

「デース!! 縁日で食べるから美味しいんじゃないデスカ!」

「それよりかき氷や綿菓子といった一般の家庭では作りにくいものから……」

「結局食べ物に落ち着いてるじゃねーか!」

「冗談ですよ、だからそれこそまずはみづ姉の金魚すくいから……」

「それはシヅクがミヅキのことが大好きだからデショ!?」

「あらやだ、しづったら……」

「そういう理由ではありません!」

「あーもう、滅茶苦茶じゃねーか、俺ァ取り合えず全員分の焼きそば買いに行ってくるから、お前ら好きなところに遊びに行ってこい!! 言っとくけど、離れんなよ!? 迷子にはなるなよ!?」

「わーい、やりマシタ!」

「俺言っておくけど、部長だからな!? パシりじゃねぇからな!?」

「完全に部の保護者になってるわね、白銀先輩……」

「本人が世話焼きな性格ですからね。ある意味師匠と通じるものがあります」

 

 ですが、と紫月は俺に近寄ると

 

「4人分ともなると持つのが大変でしょう。私が一緒に並んでも構いませんが」

「何で上から目線なんだよ」

「……ふふっ」

 

 その隣で翠月さんがクスクス笑ってるけどどうしたんだ。

 別にたかだか焼きそば程度、ビニール袋に入れれば持つのは苦ではないのだが。

 まあ、両手が塞がるのは確定だけど。

 

「んじゃあ、頼むぜ……何でおめーらニヤニヤしてんだ」

「それじゃあ私はミヅキと一緒に金魚すくいに行ってくるのデ!」

「焼きそば、お願いしますよ、2人共! かき氷は私が買っておくからね、しづ」

「何でそんなに楽しそうなんですか」

 

 去っていく2人を見ながら、俺達は溜息をついた。

 取り合えず、焼きそば屋に足を運ぶ。

 看板を見てみると「焼きそばサムライ」という名前だ。何でサムライなんだ、訳が分からん。

 

「いやぁ、悪いな紫月。手伝わせるようなことになっちまって」

「いえ、良いんです。私は別に」

 

 別にとは言うが、こんなところで2人っきりだとどっちかのクラスメイトに見られた時に妙な勘違いされそうで怖いんだよなあ……。

 紫月にそんなこと言ったら「何ですか、私はみづ姉一筋です、沈めますよ」とかすっげぇ怖い顔で詰め寄ってきそうだからやめておくか。

 後、まさか桑原先輩とか今この場にいねぇよな。流石に受験勉強で海に来れなかったのに夏祭りは来てるということはねぇはずだ。安心安心。

 

「そ、それはともかく白銀先輩。この浴衣、どうでしょうか? みづ姉に選んで貰ったのですが」

「んあ? ああ、似合ってると思うぞ」

「適当に言ってませんか」

「適当じゃねえよ?」

「むぅ」

 

 何でそこで不機嫌になるんだよ。こっちは思ったことを正直に言ってるだけなのに。

 まるで説き伏せるように彼女は言った。

 

「良いですか、先輩。これはあくまでもみづ姉が選んだものですよ。感想を言わないのはみづ姉に失礼だと思いませんか」

「何言ってんだお前」

「良いですか、もっとこう……落ち着きがあるとか、趣があるとか」

「俺にそんな語彙力があると思ってるのか」

「……はぁ。デュエマ馬鹿の白銀先輩に期待した私が馬鹿でしたよ」

「何でさ!! 大体お前、今日はどうしたんだ!? いちいち俺に服の感想を求めたりしてさぁ!!」

「うっ……!?」

 

 ぼんっ、と紫月の顔がいきなり真っ赤になる。

 何だ。どうしたんだ。何でそこでいきなり恥ずかしがるんだ。

 

「む、むぅ……う、うるさいですね。自意識過剰にも程がありますよ。唐変木。鈍感。犯罪者」

「何でだ!! 最後のを取り消せ!!」

「大体、女の子はこういうものなんですよ。女の子の外見に気を配れないのは高校生男子としてどうなんですか。いや、カードゲームのカードが恋人のような白銀先輩には関係ありませんでしたね」

「ったく、本当に何なんだよお前は……」

 

 慌てて取り繕うように、そっぽを向いて早口で反撃する紫月。本当にどうしたんだこいつ。

 やれやれ、最近ちょっと丸くなったと思ったら、すぐにコレだ。

 おっと、こんな馬鹿みてーな会話をしてるうちに、列の一番前。

 売り子の声が飛んでくる。

 

「次の方ー、注文どうぞー」

「あ、はーい。焼きそばよっつ――」

 

 言いかけた途端、俺達は固まった。

 

「あ、あれ、耀……? 紫月ちゃん……? な、何でこんなところに……?」

「花梨、どうしたんだ」

「……刀堂先輩。お疲れ様です」

 

 マジかよ。

 こんなところで同級生どころか幼馴染に会っちまったよ!

 花梨は今、手伝っている途中だからかバンダナとエプロンを付けていた。

 そして、取り乱したものの――

 

「え、えと、取り合えず注文を」

「あ、うん。悪かった」

「……むぅ」

 

 この時。紫月がかなり不機嫌そうな表情をしていたことに、俺は気付かなかった――

 

 

 

※※※

 

 

 

「はーい、いらっしゃい、安いよ安いよ、婦人部のチャリティー絵葉書!! ついでに俺が描いたのもあるから持ってけドロンボー!!」

「……」

「……」

 

 一方のブランと翠月はある屋台の前で立ち止まっていた。

 絵葉書の販売もやってるのか、と近寄って見てみたら、売り子をやっているのは非常に見覚えのあるチビであった。

 それが全く見覚えのないテンションで客寄せをやってるのだから驚きである。

 思いの外人が集まっているのだが、取り合えず何事か問いただそうと思い、2人は並んでみる。

 

「さあ、次のお客――」

「デース!」

「桑原先輩、どうしたんですか!? 受験勉強は!?」

 

 店番――桑原は心底驚いたようだった。

 引き攣った顔で、受け応える。

 

「何でテメェらがこんなところに……」

「それはこっちの台詞デース!!」

「或瀬と紫月……ということは白銀もいるんだな?」

「翠月ですよ! 間違えないでって言ってるじゃないですかぁ!」

「双子なのに分かるかァ!! くそっ、よりによってテメェかよ!」

「部活でいっつも顔合わせてるじゃないですかぁ!」

 

 確かにフードがないと見分けがつかない。

 ブランと一緒にいるので、桑原が間違えたのも無理はないと言えた。

 だが、それはともかくとして、受験勉強で海に来れなかったはずの彼が何故この場に居るのかを問いたださねばならない、とブランの探偵としての使命が胸の中で囁いていた。

 

「さぁ、桑原先パイ。どうしてここにいるのか、続きは署で……」

「何でだァ! サボってここにいるんじゃねぇんだよ!」

「いつも部室じゃなくて屋上にいるくせに!」

「あれはサボってんじゃねえ、お前知ってて言ってるだろ!」

 

 取り合えず、これ以上一生懸命売り子をやっている先輩を弄るのも良くないと思い、真面目に彼の話を2人は聞くことにしたのだった。

 

「とにかく俺はうちのオカンがいる婦人部の絵葉書屋の手伝いをさせられてるだけだ! 遊びに来てんじゃねーんだよ!」

 

 特に衝撃の事実も何もなく。

 心底がっかりした表情を浮かべるブランに、桑原は再び怒りを覚えた。

 

「つか、テメェらこそどうしたんだ!!」

「ビーチデュエル大会の副賞でチケットが沢山貰えたので遊びにきマシタ!」

「お、お疲れ様です桑原先輩……」

「クッソぉ、或瀬……テメェも来年には受験で勉強地獄だ、覚悟しとけよ!」

「知らないデスねー?」

「くっ、このエセ外国人め……それはともかくこの絵葉書、1枚50円、10枚で500円だ、買うよなぁ?」

「うわぁ、びた一文負けないんデスネ!」

「っせぇ! 並んだからには買ってけや!! もうすぐ交代だから、ちょっと待ってろ!!」

 

 身内だから大分乱暴な接待にはなっているようだ。

 仕方ないので1枚ずつ買っていくことにしたのだった。

 で、売り子の交代で業務から解放されたと見た桑原は、ブランと翠月と合流したのだった。

 

「成程な。それで、紫月が準優勝。白銀は黒鳥師匠の従妹と対戦し、勝利……か。あの黒鳥師匠の従妹なら、それなりに強いはず。よく勝てたモンだ」

「ハイ!」

「いや、何でテメェが誇らしげなんだ? テメェはそれにボロ負けしてるよな?」

「ハイ! ボロ負けデス!」

「ああ、腹立つ。で? その紫月と白銀は何処だ?」

「2人なら焼きそばを買いに行ってると思いマスよ」

 

 どこか訝し気に彼は顎に手を遣った。

 

「ほーん……それと、或瀬。その浴衣はどうしたんだ」

「あ、先パイ! この姿にドキドキしてるんデスネ!」

「ちげぇよアホ。自意識過剰が過ぎるぜ」

「私は前から買ってた浴衣デスけど、ミヅキとシヅクはさっき買ってきたんデスよね!」

「ええ、そうね」

 

 翠月は微笑ましい妹の先ほどの姿を思い返しながら、言った。

 

 

 

「しづ、とっても楽しみそうな顔で浴衣を選んでたから――珍しいわ。いつも服は私に選ばせるのに」

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