学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「成程。刀堂先輩の家はここで焼きそば屋をやってたんですね。だから焼きそばサムライ」
紫月は物珍しそうに看板に目を遣った。
焼きそばを啜っていた俺は頷いた。
にしても、この乱暴なソースの味が実にお祭りの焼きそばらしくて良い。
香ばしく焼かれた豚肉も、肉汁が染みついた麺も実に箸が進む。
「なら誘ってくれても良かったのに」
「だ、だって……耀、カードの大会とか去年はいっぱい部活の先輩と行ってて、すごく忙しそうにしてたから……。今年はまさか祭りに来るなんて思わなかったんだもん」
刀堂家は代々、近所でも有名な剣道場の家系。
……それとは特に関係はないが去年から焼きそば屋の係をやっているという。
こういう祭りにはあまり興味が無かったからか、俺は知らなかったし、カードゲームばっかりやってたのも事実と言えば事実だ。
「そりゃ悪かったな……」
「良いんだよ、こうやって今日は来てくれたし」
にしても最近の花梨はとても元気が無かったから、こうやって話せるようになったのは嬉しい。
以前よりも笑顔が戻ってきている。
本当に良かった。
「それに、あたしも耀が好きな事やってるのを見るのが一番好きだよ、にゃはは……」
「お、おう……そうか」
……にしては、妙に顔が赤くなってる気がするのは俺の気の所為か?
後、すっげぇ怖い顔で紫月が睨んでる。何故だ。また犯罪者か。
「ところで2人共、最近はデュエルの方はどう?」
「俺は新しい弾でもっとジョーカーズが強化されたら、そっちの方も挑戦してみてぇって考えてるんだ。何やら新しい動きがあるみてぇだからな」
「紫月ちゃんは?」
「最近、私はもっと強くなろうと思って、色々ムートピアの可能性を考えているのです。《シャークウガ》ももっと生かしてあげないといけないですからね」
確かに、ムートピアデッキの可能性は此処最近でかなり広がったと聞いた。
だんだん《シャークウガ》の肩身が狭くなっている気もするが……いや、元から狭いかあいつは。
「だけどよ、何を組もうとしてるんだ?」
「今のデッキとは違うコンセプトのデッキです。ただ……いまいち見通しが立たなくて」
「見通しが立たない?」
「はい……」
珍しいな、此奴にしては。
頭脳戦は彼女の領分のはずなんだが。
「紫月ちゃんがデッキの事で悩むなんて珍しいなあ」
「デッキで悩むのは全プレイヤー共通ですよ。ですが、もっと根本的かつ現実的な問題が私には立ち塞がっているのです」
「根本的かつ現実的な問題? 何それ」
「何が言いてぇんだ」
「……ポケットマネーが」
「……ああ」
確かに、現実的かつ根本的な話になったな。
と言っても、一瞬俺にはそこまでピンと来なかったが――
「大体、先輩はいろんな人からカードを貰ってるじゃないですか。最初のジョーカーズだって、1000円ぽっきりで《ナッシング・ゼロ》4枚入りのものを貰ったらしいですし、《ジョニー》も師匠から譲り受けたものであることを忘れてはいけませんよ」
「た、確かにそれはそうだ……他人事だと思って悪かった。だけど俺も箱は買ったりしてるんだぜ。良いカードが当たらないけど」
「そういえば耀って、くじ運は昔から壊滅的に悪かったよね……」
「ああ、壊滅的な程にな」
少なくとも、「ハムカツ団とドギラゴン剣」を買って、出てきたキラカードが全部《ゴッドファーザー》だった俺の災厄極まる運は伊達じゃあない。
その代わり、それを色んな人に助けてもらってるわけではあるけど。
……まあ、俺は成り行きでクリアしている問題事が、他の奴には大きな問題として立ち塞がっているのか。
それが金。結局の所経済面だけは如何ともし難いのである。
「今組もうと思ってるデッキのキーカードがとても高騰していて……どうにかして、手に入れようと思っているのですが」
「他のパーツは?」
「もう持ってます。後は本当に、それだけなんですけど……残り1枚がどうしても足りなくて」
「お小遣いが」
「はい……」
項垂れた紫月は呟くように言った。
成程。手持ちの資金ばっかりはどうにもならねぇわな。
しかし、それは俺の方も同じだ。どこかでバイトでも始める必要があるのだろうか。
使い道は一見不純には見えるものの、俺達にとっては死活問題である。
文字通り、生きるか死ぬかの戦いに身を投じている以上は仕方がない。
「ふ、2人共凄いなあ。あたしなんか、最近カードを買ったのは良いけどどうやって生かせばいいか分からなくて。お兄にも聞いてみたりしてるんだけど」
「お兄? お兄さんがいたのですか」
「ああ。花梨には1つ上の兄貴がいる」
「血の繋がりは無いけどね」
「そうだな。それに俺もあんまり会ったことはないんだよ」
「……そうですか」
「今度、また機会があったら会わせてあげるよ。今、お兄は受験勉強で忙しいから」
「そうか。あの人も受験か」
まあ、人の家の事情には深く突っ込まないことにはしているから俺も詳しくは知らない。
だけど、デュエマも剣道も、そして頭もとても良い人だった。
それを鼻にかけることもしないし、人間も出来ている。こんな人はそうそういない。
「そういえば耀。知ってる? 此処でデュエマのイベントがあるんだってさ」
「……え? マジで?」
一応デッキは持って来てるけど、一体どんなイベントなんだ。
まさか、またトーナメントの大会か? と俺は思ったが――
「ううん、どうやら4回連続で勝ったら、景品がもらえるってイベントで、敗けたら勝った方が連勝に挑戦する……って感じのイベントらしいよ」
「マジか」
「名付けて、”連勝デュエチャレンジ!”誰が考えたんだろうね、こんなの」
連勝、か……簡単そうに見えてこれがなかなか難しそうだ。
それも普通のトーナメント以上に。
何せ、大勢の前で手の内を曝すことになるのだから、自分が使っているデッキに強いデッキを持ち込まれたらあと少しで連勝達成だったところを逃すことになりかねないのである。
「先輩。これも鍛錬のうちです。やってみましょう」
「ああ……でも、お前は?」
「流石に手の内が知れてる身内と戦うのは、気が引けるので今回は席を譲りますよ」
「花梨は? これから休憩だろ?」
「あ、あたしは今日デッキ持って来てないから……」
「そうかぁ」
ブランにも声を掛けておこうかと思ったけど、手の内が分かってる身内と戦うのは気が引けるという紫月の言葉には概ね同意出来た。
こういう場所でのデュエルは知らない人と出来るから良いんだろ。
「でも悪いな。俺だけ出るなんて。ちなみに景品は?」
「新弾……”マジでBADなラビリンス!”のパック10枚みたいだよ。無くなったら終わり」
「何か魅力的じゃねえなぁ。俺ツキ悪いし。まあ、貰えるもんは貰うか」
俺はすぐに駆け出す。
誰かに景品が取られる前に先んじて4勝してやるか!
「先輩、待ってください!」
「へっ、置いていくぞ紫月! 花梨!」
「やれやれ、本当突っ走ったら一直線なんだから……」
そんなわけで、イベントをやってる会場に出向くことにしたのだった。
※※※
「デュエマのイベント、デスか?」
「ああ、そうだ」
縁日の一角でかき氷をプラスチックのスプーンで削りながら、3人は談笑していた。
その中に、今日この祭りの会場で行われるデュエマのイベント、”連勝デュエチャレンジ”について突如話題が飛び出してきたのである。
桑原は不機嫌そうに、
「デッキは持って来てるか?」
「うーん、一応ワイルドカードが出てきた時の為に持ってきてマスけど」
彼の顔は引き攣る。
ブランも言ってしまってから気付いた。
今横に居るのは紫月ではない。翠月だ。当然、何のことか知らない彼女は困惑しており。
「ワイルド?」
「い、いや、何でもないデス、ミヅキ! 新しいクリーチャーの事デスヨ!」
「そ、そんなものが……私最近やってないから知りませんでした」
(し、信じた……デスか?)
うっかり隣に並んでいるのがいつもの後輩と同じ顔だったがため、油断した。
探偵を名乗る割に聊か迂闊すぎやしないか、と桑原はこの様子を心底肝を冷やした様子で見届けていた。
(アホか此奴、よりによって翠月の前で……)
「デ、デモ、今日は折角デスし、縁日で遊びたい気分デス」
「はぁん」
「じゃあ、私も見に行きマス!」
「4連勝したら景品が貰えるイベントかぁ。どんな景品なんだろ」
ふぅ、と息をつくと桑原は言った。
勿論、それはワイルドカードの事を翠月に悟られなかったという安堵の息でもあるが。
(こんなんじゃ、バレるのも時間の問題だぜ……やれやれ)
「そういえば桑原先パイは出なくていいんデスか?」
「あ?」
ブランに突然聞かれて、桑原は当惑したような表情を浮かべる。
「デッキ、持って来てるんデスか、桑原先輩」
「いや、まあ……ああ。一応な」
これも勿論、万が一のための護身用である。
桑原は自力でエリアフォースカードでクリーチャーと戦えないが、それでもないよりマシという考えの下だ。
「じゃあ出てみたらどうデスカ!?」
「……そーゆーつもりじゃなかったんだが……」
「受験勉強で忙しいはずですし、ストレス発散はどうですか?」
「……そうだな。たまにはいいかもしれねぇな」
遠慮がちではあったが、内心はそう悪いものではなかった。
「……フン、腕試しといこうじゃねーか」
「その意気デス!」
「私も、桑原先輩のデュエル、見てみたいです!」
「よし、行くか――」
※※※
「《超絶特Q ダンガンテイオー》でダイレクトアタックだ!」
一気に炸裂する一斉攻撃。
これで、ようやく3勝目。大会の時ほどガチガチなデッキを使ってる人も居なかったというのもあって、存外勝ち進むのは容易だった気がする。
電球と提灯がぶら下がった境内前のステージで、俺は大勢の観客の前でデュエルを行っていた。
形式は大体花梨と聞いたのと同じで、境内前のステージで1組がデュエルし、敗けた方が抜けて、再び挙手した観客の中から挑戦者を選出する……という方式だ。
運よく俺は挑戦権を勝ち取り、今の今まで危うい試合もあったが3度の勝利を手にしていた。
あと一回で4連勝達成、景品が貰える。
『4戦目ー! 挑戦者の方はいませんかー!』
「せんぱーい、最後の最後で油断しないでくださいよー」
「耀ー! ファイトー!」
「何だ、テメェらも居たのか」
聞き覚えのある声が響いた。
見下ろすと、紫月と花梨が居た方面にブラン、翠月、そして――
「桑原先輩ィ!? 何であんたここに!?」
「やっぱりここに来てたのかよ、白銀。今3勝目みてーじゃねぇか」
高らかに言う桑原先輩。
何でこの人、こんなところに来てるんだ。
「ブラン先輩、みづ姉……何故桑原先輩がここに……?」
「婦人部の手伝いに来てたみたいデスヨ!」
「それで、イベントの話を聞いて、白銀先輩と戦いたくなっちゃったみたいで」
「つーわけでだ」
不敵に笑う彼はステージの上に上がってくる。
……マジか。俺は桑原先輩とあまり戦ったことがない。
成程、相手にとって不足はないわけか。
『おぉーっと4人目の挑戦者だぁーっ! チャレンジャー、ここで勝ち切って4戦を達成できるか!?』
「桑原先輩……!」
「ハッ、どうした? 震えてるぜ。俺だって強くなってんだ。テメェらの足手纏いじゃねぇことを思い知らせてやらぁ!」
相対する俺と先輩。
電球の熱が降り注ぎ、人々の声と熱がステージを包み込む中、最後の試合が始まろうとしていた。
「……行きますよ、桑原先輩!」
「さぁ、美しき芸術の始まりだ。祭りはキャンパス、テメェの戦いがどう描かれるのか楽しみだぜ!!」
『それでは、挑戦者が出揃いました! 早速、デュエルを開始してください!』