学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第30話:塔の刺客─花火大会

 ――花火。それは、暗く深い夜空に咲き誇る一面の花束。

 近くで打ち上げられているからか、硝煙の匂いが鼻を吹き抜け、ぽん、ぽん、と花火のはじける音が耳を打つ。

 夜空は、放たれた閃光で明るく輝き、見る人々を魅了させていた。

 

「綺麗デスネ! たーまやー!」

「うわあー、凄いや耀、今度は100連発花火なんだってさ!」

「この近くの海で船から打ってるらしいですね」

「わはぁ……最高だよぉ、しづ……スケッチしたいくらい」

「花火ばかりは、一瞬で消えてしまう。だが、見る人の心に強烈に夏を焼き付けていくんだよ。それもまた、粋だねぇ」

 

 俺達は神社から、今日の目玉である花火大会を見届けていた。

 花火なんてまともに見るのは久々だけど――本当に、記憶に焼き付いていきそうなくらい、眩しい夜だ。

 しかし今日だけで本当色々あったな……海でのデュエル大会に、祭り会場でのあれこれ、そして4連勝チャレンジ……。

 正直、かなり疲れた。疲れたけど、実りのある一日だったかもしれない。

 

「……耀、どうかな? 花火」

「ああ。綺麗だ」

 

 花梨が隣にやってくる。

 ひひっ、といつもの笑みを浮かべると彼女は言った。

 

「そうでしょ! 良かったなあ、あたし……耀とこうやって、また花火とか見れて」

「え?」

「あたし達、小さいころから一緒じゃん? なのに、最近すれ違ってばっかだったからさ。でも、耀があたしを助けてくれたり、デュエマ部の皆があたしを受け入れてくれたりして、とても楽しくて。デュエマが全部繋いでくれたのかなって」

 

 俺は黙りこくっていた。

 確かに、彼女を助けたのは事実だ。デュエマが繋いでくれたというのも、彼女が知っている以上にこの上なく合っている答えだろう。

 しかし。同時に俺は、これ以上ワイルドカードの事件に巻き込まれる人を増やしたくないと思っている。

 彼女は、俺の中にある日常の1つ。彼女は非日常の領域に入っちゃダメなんだ。

 親友として、幼馴染として、それが俺に出来ることだ。

 

「……だから、耀も色々頑張ってるみたいだけど、無茶とかしちゃダメだよ」

「えっ……?」

「あ、いや、何でも無いんだ。耀も2年で部長になっちゃったから大変だろうな、って」

 

 誤魔化すように花梨は笑った。無茶とかするな……か。

 ごめん、花梨。そいつは無理な相談だ。

 このワイルドカードとの戦いは、俺にとってはもう切っても切れない因縁だ。

 こうやって力を手にしてしまった以上、俺はこの事件がどのようにして起こったのか、突き止める必要がある。

 戦っていること自体、死ぬリスクがある以上は無茶してるようなものなのだろう。

 力には相応の責任がある。だからこそ――

 

「……ま、気を付けるよ」

 

 ――何かを悟っているような彼女の言動が、酷く俺を不安にさせたのだろう。

 彼女は実は、巻き込まれているのではないか? 俺の知らない所で、危険な目に遭っているんじゃないか?

 そう、不安にさせるのだ。

 すると、また大きな花火が上がった。菊の花のように、金色の糸が黒い空に枝垂れていく。

 

「すごいわ、しづ! これは一生の思い出だわ!」

「みづ姉、花火くらい毎年見れますよ」

「もう、そんなこと言って! しづ、どう思う?」

「……まあ、綺麗なのは綺麗ですが……目がチカチカ」

「確かにすげぇ明るいなぁオイ。夜の空が夜の空じゃないみてぇだぜ」

 

 ぽんぽん、と閃光弾は次々夜空を飛んでいく。

 中には蛍の光のように緑色の光が飛び回るもの、菊の花のように山吹色の火花が枝垂れ咲くものなどなど、そのバリエーションは見る者を飽きさせない。

 本当に、日本人というのは昔から花火が好きな理由が分かった気がする。

 

「そう! 花火は芸術! 芸術は爆発だ! たーまやー!」

「何かこの人が言ったら途端に危なくなったぞ!」

「白銀ェ!! お前ももっと楽しめェ!! 今日はテメェの4連勝記念、ラムネで乾杯だコノヤロー!!」

 

 そう言って、桑原先輩は俺達に1本ずつラムネを渡す。

 わざわざ買ってきてくれたのだろうか。

 

「あ、ありがとうございます」

「気にすんなってことよ。それとだ。今日俺に勝ったお前に、もう1枚サプライズだぜ」

「? 何ですか」

「まあ、気にせず受け取れ! テメェの強さへの純粋なリスペクトだ! 強い奴は、もっと強くなるべきだからな!」

 

 押し付けられるように渡されたのは、スリーブで隠されたカード。

 中身は……って、これは……。

 

「本当に良いんスか!?」

「ハッハ、気にするな! テメェにも使ってほしかったからな。同じビマナの同志、じゃねーか!」

「は、はぁ」

「みづ姉、どうしたんですか桑原先輩(アレ)

「芸術を見ると心がハイになっちゃうのよ……」

「絶対変な薬キメてマスね……」

「人聞きの悪い事を言うんじゃねぇ!!」

 

 まあ、テンションがハイになっている桑原先輩は置いておくか、この際。

 俺は花火をぼーっと眺めているだけで十分だ。

 

「アカル! 楽しんでマスか?」

「……ブラン」

 

 ……というわけにはいかないらしい。

 騒がしそうなのに絡まれた。

 

「そういえばアカル、知ってマスか? イギリスでは花火は冬の風物詩なんデスよ?」

「何で冬なんだ?」

「イングランドでは、11月5日にガイ・フォークス・デイという記念日があってデスね。時の国王、ジェームズ1世を暗殺しようとして爆薬を国会に仕掛けようとしたところ、失敗した……という日なんデスよ。だから冬の風物詩デス」

「物騒だなブリテン」

「で、暗殺首謀者のガイ・フォークスの失敗に感謝し、花火で騒ぎ立てるというわけデス!」

「それ考えたら、日本の花火は平和なモンだなぁ」

「イギリスの花火も好きデスよ? デモ、こうやって静かな空に打ち上げられる日本の花火も、私は大好きデス!」

 

 だけど、一度でいいからそのイギリスの花火とやらも見てみたい。

 冬の花火というのも、なかなかオツなものだろう。

 

「それに、日本とかイギリスとか関係なく――私はこうやって、皆で見る花火が大好きデスから!」

「……そうか」

「日本に来て、良かったデス!」

 

 花火はもうじき終わろうとしている。

 最後に、派手に空を彩っていく七色の火花を、俺達は見守るようにして望んでいた――

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『いやー、花火は綺麗でありましたなぁ!』

 

 そう言って、俺の周りを飛び回るチョートッQ。

 あの後、各自解散になった。

 俺は沿岸沿いの帰り道を、一人歩いていた。まだ、車のライトや電灯で明るいが、空はもう真っ黒だ。

 

『にしても、夜の海岸というのもなかなか乙でありますな、マスター』

「そうなのか?」

『昼にはない落ち着くや風情というものがあるでありますよ。デートスポットにもピッタリであります。覚えておくでありますよ。まあ、カードが恋人のようなマスターには縁遠い話でありますが』

「頭分解されてぇか新幹線野郎。つか、お前からそんな話を聞くとは思わなかったぜ」

『我は新幹線のクリーチャーでありますよ? 景色や風情も大事にするであります』

「成程。元が人を運ぶ列車だからこそ、か」

『それに、夏の夜の海は光ると聞いたでありますよ』

 

 分からないでもない。

 この季節は、夜光虫が沢山流れてきて、海水浴場の砂浜から海が光っているように見えるのだ。

 普段なら見に行かないけど、折角だし見に行ってみるのも悪くはないだろう。

 

「じゃあ、見てみっか」

『ああ、結構! マスターの手を煩わせるほどではないであります。自分が勝手に飛んで見に行くので、マスターは早く今日の疲れを癒すでありますよ』

「癒す? 俺が?」

『そうであります。今日のマスター、かなり予定に振り回されたのでは? 我はマスターに従うエリアフォースカードの守護クリーチャーでありますよ。マスターの健康を考えるのは至極当然、当たり前であります』

「まあ、そういうことなら良いんだけどよ」

『自分は後で帰ってくるでありますよ。マスターの居場所くらいなら、すぐ把握出来るであります』

 

 と言って、そそくさと彼は飛んで行ってしまう。

 今更だけど新幹線が飛んで行くなんて、字面だけ見たらとんでもねぇな。

 そんでもって、あいつも何だかんだで俺の事を気遣ってくれてるのか。

 

「……何で、だろうな」

 

 そんな言葉が不意に零れた。

 ……あいつは、何も覚えていない。

 シャークウガも、ワンダータートルも何も覚えていない。

 分かっているのは、あいつらはエリアフォースカードの守護クリーチャーであるだけ。

 自らに組み込まれた使命に従い、主と共にワイルドカードを狩る。

 それだけを頭に入れられて、広い世界に放り込まれた存在。

 そんなあいつらに、俺らは何かしてやれてるだろうか。……いや、きっと何も出来ていないし、人間がクリーチャーにしてやれることなんてたかが知れてるんだろうな。

 俺達はこの事件に巻き込まれたんじゃねえ。必然。互いに人間とクリーチャーが引き寄せられたのだとすれば。

 運命のような何かで引き寄せられたのだとすれば、すっげー不思議な気分になる。

 ……ことは俺達の周りで完結してるわけでもないみたいだし、やっぱり一度乗り掛かった舟、最後まで付き合うしかないのだろうか。

 

「ん」

 

 ふと、海岸を見た。

 夜の砂浜に座り込み、きらきらと光る海を見る誰か。

 浴衣姿らしいが、街灯に照らされているので、よく目を凝らしてみると、誰だかすぐにわかった。

 

「……あいつ、あんなところで何やってんだ?」


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