学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
――花火。それは、暗く深い夜空に咲き誇る一面の花束。
近くで打ち上げられているからか、硝煙の匂いが鼻を吹き抜け、ぽん、ぽん、と花火のはじける音が耳を打つ。
夜空は、放たれた閃光で明るく輝き、見る人々を魅了させていた。
「綺麗デスネ! たーまやー!」
「うわあー、凄いや耀、今度は100連発花火なんだってさ!」
「この近くの海で船から打ってるらしいですね」
「わはぁ……最高だよぉ、しづ……スケッチしたいくらい」
「花火ばかりは、一瞬で消えてしまう。だが、見る人の心に強烈に夏を焼き付けていくんだよ。それもまた、粋だねぇ」
俺達は神社から、今日の目玉である花火大会を見届けていた。
花火なんてまともに見るのは久々だけど――本当に、記憶に焼き付いていきそうなくらい、眩しい夜だ。
しかし今日だけで本当色々あったな……海でのデュエル大会に、祭り会場でのあれこれ、そして4連勝チャレンジ……。
正直、かなり疲れた。疲れたけど、実りのある一日だったかもしれない。
「……耀、どうかな? 花火」
「ああ。綺麗だ」
花梨が隣にやってくる。
ひひっ、といつもの笑みを浮かべると彼女は言った。
「そうでしょ! 良かったなあ、あたし……耀とこうやって、また花火とか見れて」
「え?」
「あたし達、小さいころから一緒じゃん? なのに、最近すれ違ってばっかだったからさ。でも、耀があたしを助けてくれたり、デュエマ部の皆があたしを受け入れてくれたりして、とても楽しくて。デュエマが全部繋いでくれたのかなって」
俺は黙りこくっていた。
確かに、彼女を助けたのは事実だ。デュエマが繋いでくれたというのも、彼女が知っている以上にこの上なく合っている答えだろう。
しかし。同時に俺は、これ以上ワイルドカードの事件に巻き込まれる人を増やしたくないと思っている。
彼女は、俺の中にある日常の1つ。彼女は非日常の領域に入っちゃダメなんだ。
親友として、幼馴染として、それが俺に出来ることだ。
「……だから、耀も色々頑張ってるみたいだけど、無茶とかしちゃダメだよ」
「えっ……?」
「あ、いや、何でも無いんだ。耀も2年で部長になっちゃったから大変だろうな、って」
誤魔化すように花梨は笑った。無茶とかするな……か。
ごめん、花梨。そいつは無理な相談だ。
このワイルドカードとの戦いは、俺にとってはもう切っても切れない因縁だ。
こうやって力を手にしてしまった以上、俺はこの事件がどのようにして起こったのか、突き止める必要がある。
戦っていること自体、死ぬリスクがある以上は無茶してるようなものなのだろう。
力には相応の責任がある。だからこそ――
「……ま、気を付けるよ」
――何かを悟っているような彼女の言動が、酷く俺を不安にさせたのだろう。
彼女は実は、巻き込まれているのではないか? 俺の知らない所で、危険な目に遭っているんじゃないか?
そう、不安にさせるのだ。
すると、また大きな花火が上がった。菊の花のように、金色の糸が黒い空に枝垂れていく。
「すごいわ、しづ! これは一生の思い出だわ!」
「みづ姉、花火くらい毎年見れますよ」
「もう、そんなこと言って! しづ、どう思う?」
「……まあ、綺麗なのは綺麗ですが……目がチカチカ」
「確かにすげぇ明るいなぁオイ。夜の空が夜の空じゃないみてぇだぜ」
ぽんぽん、と閃光弾は次々夜空を飛んでいく。
中には蛍の光のように緑色の光が飛び回るもの、菊の花のように山吹色の火花が枝垂れ咲くものなどなど、そのバリエーションは見る者を飽きさせない。
本当に、日本人というのは昔から花火が好きな理由が分かった気がする。
「そう! 花火は芸術! 芸術は爆発だ! たーまやー!」
「何かこの人が言ったら途端に危なくなったぞ!」
「白銀ェ!! お前ももっと楽しめェ!! 今日はテメェの4連勝記念、ラムネで乾杯だコノヤロー!!」
そう言って、桑原先輩は俺達に1本ずつラムネを渡す。
わざわざ買ってきてくれたのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「気にすんなってことよ。それとだ。今日俺に勝ったお前に、もう1枚サプライズだぜ」
「? 何ですか」
「まあ、気にせず受け取れ! テメェの強さへの純粋なリスペクトだ! 強い奴は、もっと強くなるべきだからな!」
押し付けられるように渡されたのは、スリーブで隠されたカード。
中身は……って、これは……。
「本当に良いんスか!?」
「ハッハ、気にするな! テメェにも使ってほしかったからな。同じビマナの同志、じゃねーか!」
「は、はぁ」
「みづ姉、どうしたんですか
「芸術を見ると心がハイになっちゃうのよ……」
「絶対変な薬キメてマスね……」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねぇ!!」
まあ、テンションがハイになっている桑原先輩は置いておくか、この際。
俺は花火をぼーっと眺めているだけで十分だ。
「アカル! 楽しんでマスか?」
「……ブラン」
……というわけにはいかないらしい。
騒がしそうなのに絡まれた。
「そういえばアカル、知ってマスか? イギリスでは花火は冬の風物詩なんデスよ?」
「何で冬なんだ?」
「イングランドでは、11月5日にガイ・フォークス・デイという記念日があってデスね。時の国王、ジェームズ1世を暗殺しようとして爆薬を国会に仕掛けようとしたところ、失敗した……という日なんデスよ。だから冬の風物詩デス」
「物騒だなブリテン」
「で、暗殺首謀者のガイ・フォークスの失敗に感謝し、花火で騒ぎ立てるというわけデス!」
「それ考えたら、日本の花火は平和なモンだなぁ」
「イギリスの花火も好きデスよ? デモ、こうやって静かな空に打ち上げられる日本の花火も、私は大好きデス!」
だけど、一度でいいからそのイギリスの花火とやらも見てみたい。
冬の花火というのも、なかなかオツなものだろう。
「それに、日本とかイギリスとか関係なく――私はこうやって、皆で見る花火が大好きデスから!」
「……そうか」
「日本に来て、良かったデス!」
花火はもうじき終わろうとしている。
最後に、派手に空を彩っていく七色の火花を、俺達は見守るようにして望んでいた――
※※※
『いやー、花火は綺麗でありましたなぁ!』
そう言って、俺の周りを飛び回るチョートッQ。
あの後、各自解散になった。
俺は沿岸沿いの帰り道を、一人歩いていた。まだ、車のライトや電灯で明るいが、空はもう真っ黒だ。
『にしても、夜の海岸というのもなかなか乙でありますな、マスター』
「そうなのか?」
『昼にはない落ち着くや風情というものがあるでありますよ。デートスポットにもピッタリであります。覚えておくでありますよ。まあ、カードが恋人のようなマスターには縁遠い話でありますが』
「頭分解されてぇか新幹線野郎。つか、お前からそんな話を聞くとは思わなかったぜ」
『我は新幹線のクリーチャーでありますよ? 景色や風情も大事にするであります』
「成程。元が人を運ぶ列車だからこそ、か」
『それに、夏の夜の海は光ると聞いたでありますよ』
分からないでもない。
この季節は、夜光虫が沢山流れてきて、海水浴場の砂浜から海が光っているように見えるのだ。
普段なら見に行かないけど、折角だし見に行ってみるのも悪くはないだろう。
「じゃあ、見てみっか」
『ああ、結構! マスターの手を煩わせるほどではないであります。自分が勝手に飛んで見に行くので、マスターは早く今日の疲れを癒すでありますよ』
「癒す? 俺が?」
『そうであります。今日のマスター、かなり予定に振り回されたのでは? 我はマスターに従うエリアフォースカードの守護クリーチャーでありますよ。マスターの健康を考えるのは至極当然、当たり前であります』
「まあ、そういうことなら良いんだけどよ」
『自分は後で帰ってくるでありますよ。マスターの居場所くらいなら、すぐ把握出来るであります』
と言って、そそくさと彼は飛んで行ってしまう。
今更だけど新幹線が飛んで行くなんて、字面だけ見たらとんでもねぇな。
そんでもって、あいつも何だかんだで俺の事を気遣ってくれてるのか。
「……何で、だろうな」
そんな言葉が不意に零れた。
……あいつは、何も覚えていない。
シャークウガも、ワンダータートルも何も覚えていない。
分かっているのは、あいつらはエリアフォースカードの守護クリーチャーであるだけ。
自らに組み込まれた使命に従い、主と共にワイルドカードを狩る。
それだけを頭に入れられて、広い世界に放り込まれた存在。
そんなあいつらに、俺らは何かしてやれてるだろうか。……いや、きっと何も出来ていないし、人間がクリーチャーにしてやれることなんてたかが知れてるんだろうな。
俺達はこの事件に巻き込まれたんじゃねえ。必然。互いに人間とクリーチャーが引き寄せられたのだとすれば。
運命のような何かで引き寄せられたのだとすれば、すっげー不思議な気分になる。
……ことは俺達の周りで完結してるわけでもないみたいだし、やっぱり一度乗り掛かった舟、最後まで付き合うしかないのだろうか。
「ん」
ふと、海岸を見た。
夜の砂浜に座り込み、きらきらと光る海を見る誰か。
浴衣姿らしいが、街灯に照らされているので、よく目を凝らしてみると、誰だかすぐにわかった。
「……あいつ、あんなところで何やってんだ?」