学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第33話:体育大会の罠─消えたトロフィー

「火廣金。今暇だろ」

「暇ではないと言ったら?」

「暇だな、OK」

「俺の意思は全無視か」

 

 アルカナ研究会・拠点。

 トリスは紅茶を濯ぐと、火廣金に差し出す。

 既に嫌な予感しかしない彼は顔をしかめてそれを受け取らない。

 

「いやさ、今お得意様が買っている魔法生物がいるんだけどよ」

「魔法生物」

「そう。知能が人間、いや魔導司並みにまで育て上げられたスーパー魔法生物なんだとよ」

「何でそんなものの話が出て来るんだ」

「うちで預かってんだよ。アルカナ研究会はペットホテルじゃないのにな。でも、あたしも世話になった相手だし下手に断れなかったんだよ」

「はぁ、それがどうしたんだ? まさか手が掛かるから俺に回収しろって言うんじゃないだろうな」

「ハズレ」

 

 トリスは肩を竦めると言った。

 

「そいつさあ、めっちゃ頭が狡賢くってよ、まあ確かに手が掛かったんだよ。慣れない環境だし?」

「はあ、要領を得ないな。結論から言え」

「短気は損気だぞ、ヒイロ」

「君が言うな」

「チッ」

 

 舌打ちしたトリスは頭を掻きむしる。

 そして言ったのだった。

 

 

 

「まあ結論から言えば──逃げられた」

「……今何て?」

 

 

 

 大不祥事である。

 火廣金の顔から血の気が引いた。

 

 

 

「ってわけでさあ、探してきてくんない?」

「絶対いつか辞めてやる、こんな職場……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 俺は白銀耀。デュエマ部という部活とは名ばかりの同好会の部長をやっていることを除けば、普通の高校生――でもない。

 俺達を繋ぎとめた因縁にして運命の歯車、ワイルドカード。

 文字通り、野生のクリーチャーとなって人々に憑依したり、実体化して悪事を働くこいつらの事件によって、俺の日常は一変してしまった。

 奴等と戦うには、エリアフォースカードが必要だ。しかし、それを狙う連中まで最近は出てきて、もうどうすればいいんだって話だぜ。

 とはいえ、新学期が始まってからというものの、俺の日常生活は取り合えず日常生活の体を保っていた。

 

「……」

 

 体育祭。

 この暑苦しい天気の中、全校生徒が半ば強制的に運動させられ、競わされるという好きな奴からすればとことんまで好きで、嫌いな奴からすればとことんまで嫌いな行事の1つと言えるだろう。

 まあ、俺はどちらでもないというのが本音だ。体育自体、得意でも不得意でも無いしな。

 ただ、この会場設営はやはり好き好んでやりたがる奴はなかなかいないだろう。

 で、俺が朝から真っ先に蝉が鳴く中、土曜日に登校して(どうせ部活で登校するつもりだったとはいえ)前日準備の会場設営に従事させられている理由はと言うと――

 

「いやぁ、すまんな白銀! 体育祭実行委員の1人が風邪引いて来れなくなっちまって、急に代理を頼んで済まなかった!」

「いえ、良いんすよ俺は」

「去年も実行委員会やってくれたしよ、要所要所でいろんな事やってるよなお前」

 

 テントに紐を括り付けながら、俺は体育祭実行委員の先輩に軽く受け答えする。まあ、こうやって代理や雑用をするのは珍しい事ではない。

 俺自身、暇なデュエマ部の部長ではあるので、こうやって便利屋として呼び出される時は多い。

 そういう時はワイルドカードの事件さえ無ければ、俺も大抵暇を持て余しているので、特に断る理由も上げることが出来ず、ずるずる手伝うのがお決まりだ。

 

「つか、お前結構色々な事手伝ったりしてるよな。頼まれたら断れない性分?」

「いや、まあ」

「はっはー、気を付けろよ? 世の中には無理難題をお前みたいなやつに押し付ける悪い奴もいるんだからよっ。それでも、お前みたいな奴が、もっと実行委員に居れば良かったんだがねえ」

「そっちの準備、かなり大変そうじゃないすか。皆疲れてるのでは?」

「いーや、委員会も一枚岩じゃねぇのよ。意見が割れたり、楽して手ェ抜こうとする奴がいたり……委員長の気苦労が分かるぜ」

 

 そういうものなのか。やはり組織というのは、往々にしてなかなかうまくはいかないものらしい。

 

「今日休んだ奴だって、普段の所業から仮病で休んだんじゃないかって言われてるしな……まあ、それくらいギスギスしてんのよ。皆連日の準備でイライラが溜まってるからな」

「……そうすか」

「まあ、去年よりも状況は悪い。すまんなぁ。お前には本当に悪い事をした! 後日、礼はちゃんとするから、な?」

「いや、いいんすよ、そこまでしなくても」

 

 こうやって人の役に立つというのは、俺の性分からすれば悪くない。

 わざわざここまで申し訳なさそうにされるのも困る。

 先輩が去った後、俺はパイプ椅子を組み立てて並べていた。

 

『にしても、このクッソ暑い中、人間はよく働こうと思えるでありますなぁ?』

「3年生にとっちゃ最後の思い出だしな」

 

 茶々を入れてくるチョートッQ。

 腕を組むと、ずいっ、と俺の方に顔を寄せてきた。

 つか、他の奴には見えないからって急に実体化してくるのやめねぇかお前は。

 

『おっと、それくらいなら我が手伝うでありますよ』

「良いんだよ。これは俺が頼まれたことなんだから」

『マスターも進んで苦労を買って出る癖があるでありますなぁ。時にそれは悪癖に成り得るので、働きすぎには注意するでありますよ』

「わぁーってるよ。自分の身体の事に関しては自分しか分からんからな」

「おう、白銀! テメェも此処にいたのか!」

 

 遠巻きから声が響く。

 そして、目線を思わず上げた。

 美術部3年、景気が良く、芸術を己の身体で語るチビと専らの評判の桑原先輩だった。

 その姿は、今日は上下体操服短パン。頭にはタオルがバンダナのように巻かれていた。

 

「桑原先輩も手伝いっすか?」

「ああ。美術部は、3つの組のパネルイラストを描くというのが毎年の恒例なのさ」

「パネルイラスト、っすか」

「ああ。入場門の近くに立てるんだ。でかい木製の板に描いた奴をな。テメェも去年見ただろ?」

「絵……おお、あの絵っすか」

 

 そういや、やたらとでかい絵が3つ、立てられていた気がする。

 んでもって、それぞれの絵には赤組、白組、青組と書かれていたんだっけか。

 それが体育祭の組の象徴みたいなもんだったな。

 

「それで、翠月が赤組の絵を担当したのさ。騎馬戦してる女の子の絵なんだが、あいつやっぱ人のデッサンうめぇな。1年の中でもずば抜けてる。顔は今回、あいつが全部塗ったしなあ」

「翠月さん、凄いんすか」

「こないだの読書感想画もあいつ金賞取ってるし」

 

 どうやら紫月の自慢のお姉さんというのは本当に間違っていないみたいだ。

 絵が得意、ってのは大きなスキルだよな、やっぱり。

 

「で、俺達はそれを倉庫から運び出すところなんだ。テメェも自分の作業が終わったら見に来い。つか手伝いに来るか?」

「今終わったんで、行きますよ」

「そうか! それじゃあ頼むわ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 運び出されていく2枚のパネル。俺達は、それを枠にはめるという作業を行っていた。

 

「で、翠月さんは?」

「今、赤組のパネルを運んでいるぜ。あいつも他の奴と完成を喜んでいたよ」

「そうすか」

 

 こうして、順調に作業は進んでいき、パネルも全て立てかけた。

 翠月さんが額の汗をぬぐいながら、やってくる。

 

「先輩方、手伝っていただき、ありがとうございました」

「いやぁ、このくらいどうってことないぜ」

「それもそうだが白銀。テメェ、本当ならやらなくていいことまでやってんだぜ? 今日はまだ前日準備があるし、余力は残しておけよ?」

「そろそろ、実行委員もリハーサルが始まるのではないですか? 当日の行進の練習があるとか」

 

 確かに翠月さんの言う通りだ。

 

「あっ、やべ。時間じゃねえか」

「おーう、頑張れよー」

 

 雑用も一通り済んだし、後は代理としての仕事をまっとうしないとな。

 そんなこんなで実行委員会の開会式のリハーサルは始まり、当日どこで待機しているかを改めて確認したり、行程で修正したいところはないかを相談したり、と大詰めだ。

 とはいえ、正規の実行委員じゃない俺には、あまり首を突っ込むことが出来ない所もあるんだがな。

 リハーサルの前に水を飲みながら休憩していた俺だったが――

 

 

 

「諏訪部! トロフィーはどこにやったんだって聞いている!」

 

 

 

 怒号がこっちまで飛んできた。

 何だ? いったい何があったって言うんだ?

 もうリハーサルの5分前だってのに。

 

「だぁーら、俺はちげーっつってつってんだろ委員長」

「お前の管理がなっていないからだぞ! 目を離した隙に無くなっていた!? 少し見ておけと言っておいただけなのに、この体たらく!」

「俺じゃねえよ、盗ってねぇ。確かに俺ははたから見りゃだらしなく見えるかもしれねぇが、犯罪なんて割の合わねぇことすっかよ」

 

 あれは3年生の先輩だ。

 片方は、体育祭実行委員の委員長。男勝りな女子、天乃先輩。

 もう片方は、同じく3年委員の諏訪部先輩だ。もっとも、ジャン負けで委員になった上に普段から素行が良くねぇ上にサボり癖、遅刻癖があるから、真面目な委員長から目の仇にされてるらしい。

 

「あーあー、だから実行委員なんざやりたくなかったんだよ」

「何か言ったか諏訪部! 貴様、言いたいことがあるなら言ってみろ!」

「ああ、言ったよ何度でも言ってやるよ!」

 

 そうこうしているうちに、取っ組み合いになる2人。

 ああもう、高校3年にもなって何て大人気ない!

 

「ま、まあ、二人とも落ちついてくださいよ、先輩方――」

「「部外者は黙ってろォーッ!!」」

 

 直後。裏拳×2が俺の顔面にめり込む。

 り、理不尽……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「事件の香りがしマス! ゾクゾクしてきマシタ! これは、興味――じゃなかった正義のために解決すべきデス!」

 

 自称探偵こと、或瀬ブラン氏のコメントである。

 

「体育祭のトロフィーが無くなったなど、非常にどうでも良いのですがね、やるなら勝手にどうぞ」

 

 シスコンこと、暗野紫月氏のコメントである。

 

「あの芸術的なトロフィーが失われるとは……何てことだ。美術部としては、何が何でも取り返すべきだと思う」

 

 美術部部員、桑原甲氏のコメントである。

 

「いやあ本当見事に三者三様のコメントありがとうございますッッッ!! 全くその通りだよバッキャロー! こちとらとばっちりで裏拳食らった挙句、実行委員全員の責任問題になってんだよ! 代理なのに! 俺代理なのに!」

「ホイホイ人の頼みごとを毎度毎度引き受けるのは善意でしょうが、悪癖ですよ先輩」

「つってもよぉ、ちょっと目を離した隙に無くなるなんてことはないから、やっぱり諏訪部先輩がどっかに隠したんじゃないかって委員の中じゃ軍法会議状態。流石に元は部外者の俺がずっといるのはアレだから帰ってくれと言われて帰ってきた。最悪、俺も追及されるかもしれねえが」

「よく帰ってきたデスよ、耀……」

「災難でしたね」

 

 それは、リハーサルが始まる5分前のことであった。

 天乃先輩は、少し席を外すから適当に近くにいた諏訪部先輩にトロフィーを見ていてくれと言ったらしい。

 もっとも、周囲には人がいるし、盗もうと思っても盗めるようなでかさじゃないのが疑問なんだが、数分後。

 そこにトロフィーは無く、天乃先輩は諏訪部先輩を問い詰めた。

 だが、諏訪部先輩は少し目を離した隙にトロフィーが無くなった、の一点張りだ。

 しらばっくれる諏訪部先輩にブチ切れした天乃先輩は、普段の素行の悪さも相まって、諏訪部先輩を本格的に糾弾することにしたらしい。そして今に至る。

 

「なら、今回は私の出番デスね、耀!」

「はぁ、そうか……」

 

 この探偵が変なやる気を出し始めた。

 ああ、これ以上事態がややこしくなりませんように……。

 

「諏訪部は確かに怠惰なところこそあるが、しょうもない理由で物盗りをするような奴じゃねぇよ」

「犯罪者が本性を隠すなんてよくあることですが」

「決めつけはよくないデスよ!」

「とにかく、明日までにトロフィーは何が何でも見つけなきゃいけない」

「何で白銀先輩が頑張るんですか?」

 

 俺がこういった怪奇事件に立ち向かう理由。そんなのは決まっている。

 

「ワイルドカードが絡んでいる可能性は考えられないか? 俺はそっちの線から調べてみたいんだ」

 

 不可解な事件を引き起こすワイルドカード。

 実際、それに似た事件は夏休み中にも何度か遭遇しているし、その度に俺達はクリーチャーの撃破をしている。

 今回の事件も、ひょっとしたらクリーチャーの仕業じゃないか、と俺は睨んだ。

 

「確かに、アリバイこそありませんガ、状況証拠は余りにも不十分、諏訪部先パイが犯人というには余りにも不十分デスね。私は現場100回、やってみたいと思いマス!」

「現場100回? でもそれって、探偵というより刑事……やっぱりガバ探偵か」

「どっちも基本は同じデース!」

「もうしかしたら、誰かがうっかり何処か別の場所にやっちまって、言い出せないでいる可能性もありないわけじゃねーと思うぜ」

「それもありですね。ともかく、現場を見ないことには何とも言えないです」

 

 何結局何だかんだ言って乗り気じゃねえか、素直じゃないな。

 

「とにかく、本当なら被害者も加害者も居ない方が良いんだ。勿論、最悪はそっちの線でも考えないといけねぇが」

「やれやれ、先輩はお人好しが過ぎますね」

 

 ふふっ、と紫月が俺の方を向いて微笑む。

 

「良いですよ。協力しましょう。この間の借り、返さなければいけませんからね」

「待ってくだサイ、耀! 今回こそ、私に任せてくだサイ!」

「はぁー、やれやれ」

 

 本当にうちの部活の女子は血の気が多くて困る。

 結局君ら、やる気なのね?

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