学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
俺は白銀耀。
デュエマ部とかいう同好会紛いの部活の部長であることを除けば、至って普通で平凡な高校生――のはずだった。
しかし、今ではワイルドカードの事件や魔導司の襲撃によって日常などあって無いようなものだ。
だが、今日ばかりは久方ぶりの日常が訪れようとしていた。
「そういえば、あたし達も来年には受験生なんだよねー」
今日の剣道部は、顧問の先生が出張で居ないので自主練だという。だからか、珍しく花梨が練習の合間にデュエマ部の部室にやってきていた。
しかし、藪から棒にあまり考えたくはないことを言ってくれたな、この幼馴染は。
「何なんだいきなり」
「いやさ、お兄ったら推薦入試の枠も決まってひと段落したから次の日曜日にデュエマの大会に行きたいとか言い出すんだよ。有り得なくない? 仮にも受験生なのに」
「お兄? ああ、刀堂先輩のお兄さんですか」
成程、兄貴が受験生だからな。そりゃあ、心配にもなるか。
「ま、まあ休息は大事デスしネー」
「だけどさぁ」
「そうだ花梨。俺達も週末にデュエマの大会に行く予定があるんだけど、一緒に来るか?」
「にゃ……あたしは、お兄に着いて行くから」
いつものように、はにかみながら花梨は言った。
「そうか。残念だ。何か、天才デュエマプレイヤーが出没するっていう大会があるみたいでよ、それに出ようと思ってたんだが」
「天才デュエマプレイヤー?」
「そうデス! 私のデータベースによれば、久方ぶりに彼が大会に参加するようなので、彼が昔よく出ていた大会の開催場所を見ていたんデスよ」
「ふうん……そうなんだ。それじゃあ、そろそろあたしは自主錬に戻るよ」
部活が休みの日でもこいつは鍛錬を欠かさない。本当にストイックな奴だ。
血は繋がってないけど、兄貴に似たのかね、これは。
そう言って、花梨が扉を開けたその時だった。
「ヒャッハー! マジで気分は
クリーチャーの咆哮かと思った。
鼓膜が揺さぶられ、横隔膜が振動で震える。
部屋を出ようとした花梨が飛びのいた。
そして、すごい剣幕の生活指導の先生が廊下を横切っていった。
どうしたんだろう、と俺達も廊下を覗くと、声が聞こえてくる。
「お前達はっ! 何で学校でモヒカン刈りにしてくるんだッ! 何考えとるんだ!」
と、後から追いかけるように生徒指導の先生の叫び声が聞こえてくる。
見ると、確かにモヒカン刈りにした数名が走って先生から逃げていく姿が認められた。
何だ? この学校、変な部活こそあるが、そんなに風紀は乱れてなかったんだがな。
「なんつーの? DQNって何時の時代の何処にでも湧くんだなあ」
「ですが、此処最近この学校ではモヒカン刈りが流行ってるようですよ。うちの学校、頭髪についてはそこまで厳しくないですが、真面目な先生方はやはり良い顔をしないでしょうね。特にカラフルに染めたりとかも増えてるみたいで」
「何というか、うちの学校ヤンキーとか居なかったから、いきなりすぎて戸惑ってる先生も多いみたいだよ」
「うーん、謎デスネ……」
はあ。変なのも流行ってるもんだ。
確かにここ最近、妙に学校でモヒカンカットを見るのが多くなったような気がする。
一体どうしたって言うんだろうな。何で流行ってるんだ?
※※※
草木も眠る丑三つ時の事。
街灯もすっかり消え、街は暗闇に包まれる。
そんな中――
「待てッ!!」
飛び交う影。仮面で顔を覆い、マントを翻した男は屋根を蹴り、宙を跳び、闇の中で舞う。
その手に握られた1枚のカードが光り輝くと、その視線の先にある異形を照らし出した。
同時にその異形の前に、機械の龍が立ち塞がる。
「よし、よくやったぞ《オーパーツ》!」
挟み撃ち。
これで逃げる異形の退路は完全に塞がれることになった。
「デュエルエリアフォース!」
展開されていくシールド、空中に散らばり、手元には山札が置かれる。
夜の貴公子の一声で、夜の街は、その一声で一瞬にして戦場となった。
そこは、人と異形が対等に決闘することが出来る空間。
月の光が雲から漏れ、怪し気に仮面が煌いた。
「さあ覚悟しろ。月に代わり、私が成敗しよう!」
彼の名は三日月仮面。夜の鶺鴒の街を駆ける、一陣の風――
※※※
「……どこに落ちた? この格好でコレはいまいち恰好がつかないな……」
先程の戦いの余韻も残さぬままハンドライトが地面を照らす。
大した相手ではなかった。それだけなら単に弱いクリーチャーであると処理出来た。
しかし、最近起こりだした事態はそれだけで済まされるものではない。
三日月仮面は、ライトで照らした地面から落ちたカードの1枚をようやく見つけ、手に取った。
『ピコピコ』
デッキケースから電子音のような相棒の声が響く。
それに彼も頷いた。手に取ったカードからは、既に何も感じない。
だが、先程までは実体化するワイルドカードだった。
「お前もそう思うか。こいつはトークンじゃなくて、ワイルドカード……それも、他の奴に影響されて引き寄せられたものだということに」
『ピコ』
即ち。ワイルドカードの大量発生。
元の憑代すらないトークンではなく、1体1体が人に憑依して力を吸い取る力を持つ”本体”。
それがバラバラの種族の者であれば、まだ偶然と断じることが出来たが、
「此処最近出てきているクリーチャーは全て、”同じ文明”で”同じ種族”。それが連続して出てきている以上、最早偶然では済まされない」
『ピコ……』
「何、オレ達が回収すれば良い。不安そうにするな。しかし……今まで、この種族のクリーチャーのワイルドカードは確認されていなかったんだがな」
手に取ったカードの右上に視線は映る。
そこには、明らかに他のカードとは違う存在であることを示唆するマークが押されていた。
「――
※※※
「お前達!! 今日のこのデュエマの大会、絶対に優勝するぞ! 天才プレイヤーとやら、この目で拝んでやるぜ!」
「ま、私達としては久々にデュエマ部らしい活動が出来るので万々歳デスけどネー!」
「眠いです……眠い……昨日、遅くまでデッキ組んでた所為で……」
エレベーターに乗りながら、俺達はそんなことを駄弁っていた。
そう。今日行われるのは、デュエマの大会。それがこのショッピングモールで行われるというのだ。
入賞賞品は、貴重なスーパーデッキやクロニクルデッキなどの白物。これは手に入れなければならない、と万年金欠同好会である俺達は一発奮起し、3人がかりで手に入れにかかった次第である。
「何なら桑原先輩も連れてくれば良かったデスよねー」
「あの人は今受験中ですし、無理に連れてくるのはダメですよ。今頃家で受験勉強に追われているはずです」
その通り。桑原先輩は今、俺達と違って受験にも追われている。
このショッピングモールに連れてくるわけにはいかねぇよ。流石にデュエマの大会とはいえ。
そんなことを考えながら、俺達はモールの中を時間つぶしがてらふらついていた。
……しかし、ふと俺は足を止める。
専門店街を行き交う足並み。その中に、奇妙な髪型をした男達がちらちら見えたからだ。
「なあ、ブラン? 俺にはモヒカンの男達がちらちら目に付くんだが、気の所為か?」
「あ、ちょっと時間がありマスし、カード買っていきマセンカ?」
「この辺りにカードショップがあるんで、そこで買えば良いでしょう。主催はその店らしいですが、会場は別の場所を借りているようですので、遅れないようにはしたいですね」
「なあ、突っ込めよ? 無視すんなよ? おかしくね? 何でモヒカン流行ってんの? おかしくねぇ!?」
俺が必死の様子で訴えると、ようやく二人は呆れた様子で言った。
「アカル……特定のコミュニティ、また狭い地域……即ちソサエティーに於いて、特定の何かが流行るのはそう珍しい事ではないデス。昨日のモヒカンだって、同じような物デスよ」
「そうか? そうなのか? 本当にそうなのか? モヒカンなんて、俺昨日初めて見たくらいだぞ?」
「きっと先輩が心配し過ぎなのですよ。何でもかんでも妖怪の所為みたいに、ワイルドカードの所為にする癖がついているのではないですか?」
そ、そうか。そうなのか。じゃあ、ひとまずモヒカンは置いておくとするか。
……さて、ブランたち曰く、デュエマイベントの前にやはり訪れておきたいのはカードショップだという。
デッキシートを提出しなければならない以上、もう大幅なデッキの変更は出来ない。しかし、それでも色とりどり、より取り見取りのカードを前にするとデュエマプレイヤーの血が騒ぐのか、ブランと紫月は人のごった返したカードショップの前で、
「墓地退化のパーツを買いたいデス!」
「私も気になるカードがあれば買っていく方針で」
などと言ってそわそわしている。
「お前ら本当飽きねえよなあ」
気分は子供を連れ歩く親。
こいつらは好きな所にほいほい行くので、着いて行く俺も大変だ。
とはいえ、かく言う俺も人の事は言えない。俺だってジョーカーズだけ握るというわけにはいかないから、別のカードをチェックしている。
ストレージのカードを漁ったり、ぶら下がっている安価のカードを探したり、などだ。
「カードを選びまショウ! まだ時間はいくらでもあるデス!」
「ですね。まだ1時間もあります」
「また知り合いに出会うかもしれないデスしネ!」
「また気まずくなりかねないんだが……」
まあいい。俺だってジョーカーズのデッキだけ握ってる訳じゃねえし、色々新しいデッキに使えそうなカードを探してみるとするか。
丁度いい所に、安価なSRカードが多々ぶら下がっているコーナーがある。
と言ってもこんなに種類があっても目移りしちまうんだよな……。
「あ、でもぶっちゃけ《ガシャゴズラ》とか使ってマフィ・ギャングのデッキ組んでも良いかもしれねぇな。しかもキズ入りで安くなってるし。《洗脳センノー》地味に出せるじゃん、コイツ――」
「お、《ガシャゴズラ》じゃねーか。キズ入りで安くなってるじゃねぇか。丁度良いや、オレのデッキに入るかもしれねぇし買っとこ――」
隣で声がすると共に、カードに手が同時に触れた。
ん? とくぐもった声が同時に聞こえてくる。
顔を見合わせると、思ったよりも近くて思わず仰け反った。
相手の髪型はとても特異なものだった。言うなれば総髪。頭の後ろで髪を括っている。
そして、背丈は少なくとも俺よりも一回り高い。
それだけなら良かったのだが、相手は目を丸くして俺を指差していった。
「お、オイ、耀じゃねえか!?」
驚いたような顔を浮かべるのは、今度は俺の方だった。
思わず首を傾げる。
いや、知り合いにこんな背が高くて、侍みたいな髪をした奴が居たっけな、と。
この人、俺の名前を知ってる以上、恐らくどこかで会ったことがあるにはあるはずなのだが……。
「いやいや、オレだよ耀! お前、しばらく会ってねぇ間に忘れちまったのか!?」
「えーと……なんつーか、えと、その」
そんなオレオレ詐欺みたいに言われても困る。
俺が言い淀んでいる間に、店の物陰からひょっこりと誰かが飛び出した。
「ねえ、お兄。何かあったの?」
再び、俺は飛びのいた。
そこに現れたのは他でもない幼馴染、花梨だ。
ちょっと待て。何でこいつまでここにいるんだ。
オマケに、今こいつ何て言った?
「あ、耀じゃん! やっほ!」
「お、おう、花梨……」
「何かありましたか、先輩」
「アカル、変な声上げてどうしたんデス?」
俺の声に釣られてか、向こうで買い物してたブランと紫月まで寄ってきた。
そして、花梨の姿。その前に立って居る青年の姿に気付いたらしい。
「あ、ブランちゃんに紫月ちゃんまで」
「カリン!? カリンも此処に来てたんデスね!」
「正直驚きました。まさかここでエンカウントするなんて」
「なあ、それは良いんだけどよ、花梨……この人って」
「耀。一回か二回は会ったことあるでしょ? あたしのお兄」
確かに夏祭りの時にそんなことは言っていた気がする。
え、ちょっと待て。確か前会った時はぶっちゃけもうちょいチビだったような気がするんだが。
「ブランちゃんと紫月ちゃんにも紹介するね。あたしのお兄だよ」
「刀堂ノゾムだ。よろしくな」