学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第37話:戦車暴走─三日月仮面、再び

「……成程。この人が刀堂先輩のお兄さんだったのですね」

「まーね。にゃはは、耀も久々に会って驚いたでしょ?」

 

 驚いたなんてもんじゃねえよ。

 何でこんなところでエンカウントしなけりゃいけねぇんだ。

 よりによって、刀堂兄妹とデュエマ大会の行き先が同じだったなんて……。

 ブランと紫月も流石ににわかには信じられないような表情だった。が、事実だ。

 

「にしても久々だなぁ、耀! 最近めっきり会わなかったからよ、しかしちっこくなったか?」

「いや、ノゾム兄の身長が伸びただけじゃね?」

「そうか? そうかぁ! まあ、海のでかさに比べりゃ、ちっぽけなことだよなぁ! はっは!」

 

 ブランと紫月が顔を見合わせて、呆れたような表情を見せた。

 

「何と言うか……愉快な方デスネ」

「ええ、主に頭のネジが」

「お? 君達が耀の部活仲間だっけか? こいつ、変に生真面目で頭カッチカチで融通が利かないから苦労してるだろ?」

「オイ! 何言ってんだあんた!」

「まあ、間違っては無いですね」

「生真面目で頭カッチカチは間違ってないデース」

「ははは、とにかく仲良くしてやれよ?」

 

 こ、こいつらまで……この馬鹿兄、次に変な事言ったらぶっ飛ばす……。

 仕方ねえ、とりあえず話を逸らそう。

 ノゾム兄が花梨の家に来たのは、俺が中学1年の時。その頃から、どこかあっけらかんとしたところは変わらなかった。

 何で彼が花梨の家に来たのかは詳しく聞いてないけど、俺と花梨、そしてノゾム兄でデュエマして遊んでいたのを憶えている。

 だけど、本当にお調子ものなのが玉に瑕だ。花梨と血は繋がってないのに似ていて、子供っぽいのもあるし。

 

「ところでノゾム兄、今日はデュエマの大会に参加するんだよな? 花梨からはそう聞いたけど」

「あー、いや、ちょっと出ようとしたんだけど、な?」

「う、うん……」

 

 顔を見合わせて気まずそうな顔をする二人。

 何かあったのだろうか。

 

「なんつーか、お前ら……参加するなら、覚悟した方が良いっつーか、今日は止めといたほうがいいというか……」

 

 

 

 ※※※

 

 

「ヒャッハー!! マジで気分はJOEジョーJOEジョーだぜー! クレイジー!」

「最高に気分がハイになるっていうか」

「マジでオーバーでエクスプロードというか」

「とにかくWでメラビートな気分というか」

「ヒャッハー!!」

 

 何でこうなるまで放っておいたんだ!!

 一体何がどうなっている? 俺達はエントリーをしようと、特設会場にある受付に向かったものの、そこには既に何人ものモヒカンの姿が並んでいるのが見える! 

 いやいやいや、何故だ!? DMPの間でモヒカンが流行ってるのか?

 あのいかにも厳つい顔した上に革ジャン、肩パッドまで着いてる世紀末ファッションの連中は一体何なんだ!?

 

「先輩、取り合えず主催の店長さんに言いましょう。あまり服装や外見で人の中身を判断するのはよくないですが、このままでは何も知らずにここにやってきたチビッ子が大泣きしかねません」

「この絵面はキツい、デスね……」

「そ、そうだな、せ、せめて肩パッドは取らねえと、刺さったら危ないもんな、壁に」

「先輩落ち着いて」

 

 受付の先頭に駆け寄り、俺はそこにいるであろうスタッフや店長さんに声を掛けようとした。

 が――

 

 

 

「ヒャッハー!! マジで気分はJOEジョーJOEジョーだぜー! クレイジー!!」

 

 

 

 その声を聞いて、唖然としたのは言うまでもないだろう。

 目の前に居たのは、赤いモヒカンに店の名前が書いてあるエプロンをかけた男の姿だったからだ。

 おかしいだろ。店長までモヒカンに染まってんじゃねえか。

 

「というわけなんだよ」

「どういうわけなんだよ!?」

「いやぁ、オレと花梨が並ぼうとしたときには、もうこの有様でな。流行りなんだろうが、どうも近寄り難くてな」

「流行ってんのか……?」

「流行ってるのデース?」

「流行ってるのですか?」

 

 仕方ねえ。変な連中に何か変な絡まれ方されるのも嫌だし、此処は出直そう。

 今日のデュエマ大会に参加する企画は中止。俺はブランと紫月に目配せし、くるり、と回れ右をして会場を出ようとしたが。

 

「オイ! あそこにモヒカンじゃねぇ奴らが居るぞ!」

「あんなに女を連れて、とんだハリキリボーイだぜ!」

「粗挽きミートボールにしてやるぜ!」

 

 退路を塞ぐかのように、新たに3人のモヒカンが現れた。

 しかも絡まれたし。モヒカンじゃなかったら断罪って、もうどんな世界観なんだ。

 俺の知ってる21世紀はいつから20世紀末になっちまったんだ。俺の知らない間に世界はいつ核の炎に包まれたんだ!?

 

「先輩、どうしますか。私は先輩を囮にし、逃げますが」

「よく本人に向かって言えたなお前!!」

「とにかく、こうなったらスリングショットで!」

「ちょっと!? 戦うの!? あたし今日、竹刀持って来てないよ!?」

「竹刀持っていたら戦うつもりだったのかよお前!」

 

 ぽきぽき、と指を鳴らして詰め寄る3匹のモヒカン達。

 このままだと無事じゃ済まねぇぞ。主に俺が。

 あれ? 紫月さん? さっきから何で俺の後ろに隠れてるんですか? 盾か? 俺ひょっとしてシールダー?

 

「待てよ」

 

 前に出てきたのは、ノゾム兄だった。

 ちょっと待て、あんたも今日竹刀持って来てないだろ。一体何をするつもりなんだ。

 

「お前らもデュエマしにここに来たんだろ? つまり、DMPってことだ。要は、デュエマで決着を付ければ良いじゃねえか」

「すげぇ自然な流れでデュエマに持っていこうとしてる!」

「お兄やめなよ、何でもデュエマで解決できると思ったら大間違いだよ! 今、何か棒状のもの……えと、バールみたいな物を持ってくるから!」

「そうデース! 今、そいつらの額に鉛玉をぶち込むのでそこをどくデース!」

「白銀先輩、モヒカンよりうちの先輩方の方が危険なのですが」

「うん、やっぱりデュエマで決めよう!! 平和だし!! ノゾム兄、それが良いぜ!」

 

 やべぇようちの女子、下手したら血の海が降るところだったよ!

 

「デュエマだとォ? 良いぜ、俺達もデュエマプレイヤーだからな。だが――」

 

 更に後ろから、5人のモヒカンが現れる。

 うげっ、マジかよ。まだあんなに居るのか。

 

「俺達の中の1人にでも負けたら、てめぇら全員、この場でモヒカンだ!」

「ちょっと!? モヒカンとか嫌だよ、お兄!?」

「はぁ、成程ねぇ」

 

 全員を見渡しながら、ノゾム兄は笑みを浮かべる。

 無茶苦茶だ。もうこんな勝負受けずに、さっさと逃げた方が――

 

「――面倒だ。まとめて相手してやる」

 

 その場に居る全員が耳を疑った。

 今、この人なんつった? この数をまとめて相手って……。

 

「デッキなら幾らでもある。面倒だから、全員まとめてかかってきやがれ」 

 

 

 

 ※※※

 

 

まあ強かった。本当に強かった。

 一度にたくさんのモヒカン共を相手に、自分のターンが来る度平行移動しているノゾム兄の姿は面白かったが、次々にモヒカンが敗れていくに連れて、その頻度も減っていき。

 

「てめぇ!! 何者だ!! どうやって1戦1戦1人1人、それぞれのデッキを、戦況を記憶して把握してやがる!? どうなってるんだ、お前の頭は!?」

 

 場に大量のクリーチャーを並べて、足掻き続ける最後の1人を前に、ノゾム兄は再びあの不敵な笑みを浮かべた。

 

「さぁな? ちょいとばかし、此処が人より良いだけよ」

 

 こつん、と頭を自分で小突き、ノゾム兄は突き付けるように言い放つ。

 

「場に、水のクリーチャーは7体。天才シンパシーでコストを70軽減し、1マナでオレはこいつを召喚する」

 

 コストを70軽減!?

 つまり、出てくるのは――

 

 

 

「――《伝説の正体 ギュウジン丸》召喚。効果で、お前のクリーチャーを全て山札の一番下に送り、それが7体以上ならばオレはゲームに勝つ」

 

 

 

 現れたのは、ロボットのようなクリーチャー。

 並べられたモヒカンのクリーチャーは全て排除され、同時に《ギュウジン丸》のエクストラウィン効果も発動し、ノゾム兄がゲームに勝利する。

 あれこそが、ノゾム兄の最大にして最強の切札。パワー71000のワールドブレイカーに加えて、71という重いコストを専用能力の天才シンパシーでカバーしている上に、全体除去とエクストラウィンという凶悪効果をこれでもかと詰め込んだ強大な兵器だ。

 これにて、モヒカン軍団は全滅。

 その凄まじい奮闘っぷりを見ながら、紫月が思い出したようにつぶやいた。

 

「……先輩、まさか……天才プレイヤーと言うのは、刀堂先輩のお兄さんのことでは」

「まさか、それは無いデショ?」

「ですが、偶然に偶然が重なっていたという可能性があるのでは」

「いや、ノゾム兄だぜ? 確かに俺達より偏差値の高い高校通ってたり、成績が滅茶苦茶良かったり、どうして暗記してるのか分からない円周率の数字覚えてたりするけど、ありえねーよ」

「あの、先輩、疑惑に拍車をかけたような気がするのですが……」

 

 向こうで「おーい、どうしたんだ? 早く行こうぜ。通してくれるみてーだ」と朗らかに手を振っているノゾム兄を見ながら、俺達は大会の会場を出たのだった。

 まさか、俺達が戦おうとしていた相手がノゾム兄だった……なんてのは、偶然の一致過ぎるよなあ。

 

 

 

※※※

 

 

 

「やっぱりおかしいデスよ!」

 

 ノゾム兄の無双っぷりの余韻も醒めぬまま、俺達デュエマ部員は刀堂兄妹が離れた隙に、ブランのタブレットを囲んでいた。

 曰く。此処最近、この街では何故かモヒカンが流行っている事。

 そして、いずれもモヒカン頭の男達は「気分JOEJOE」などと抜かしており、完全に頭のネジが飛んでいることがネットの書き込みで散見された。

 

「しかも、この街という限定的な範囲で流行ってるなんて……」

『間違いなく、ワイルドカードでありますなぁ!』

 

 飛び出してきたのはチョートッQだった。

 ちょっと待て。それなら何で今の今まで隠れてたんだコイツ。

 と思ってたら、シャークウガとワンダータートルも飛び出した。

 

『正確に言えば、憑依というより影響を受けている、ってところだなあ。本体の気配は感じなかったものの、それに同調している傾向がみられたぜ』

『詳しくは、まだ町中にサーチを掛けてみんと分からんが、今の所あの極端な性格の変わり方、恐らくあれは火文明のクリーチャーの仕業とみるのが大きいじゃろ』

「そうなのか?」

 

 チョートッQが頷く。

 

『火文明のクリーチャーと言うのは、憑依にせよ同調にせよ、相手に対して大きく、そして激しく性格を変えることが大きいのでありますよ。特に、元は明るく朗らかな性格だった花梨殿が、修羅にまで成り果てたドギラゴン剣バスターの件を見れば分かるであります』

「確かに。それ以降は、そこまで対象の性格を変えていないデスからネ。科学部の部長も元々あんなマッドな性格デシタし」

「元々だったら、もっとタチが悪いですよ……まあ、桑原先輩も元々持ち合わせていた本質を引き出された、というところが大きかったということでしょう」

「だけど、花梨は元はあんな性格じゃなかったのを見るに、やっぱ火のクリーチャーというのはそれだけ相手の心に強く干渉するってことか……」

 

 火、いや赤はもとより混沌を司る色だからな。

 そうなれば、一刻も早く元凶を突き止めなければならない。

 

『サーチ完了……じゃ』

 

 街に出たのは良いが、ワンダータートルはブランの頭の上に乗っかったまま、完全に困り果てた様子で呟く。

 

『いかん、のう……コレは』

「え?」

『ワシが甘かった。何故こうなるまで放っておいたのか……いや、奴らが一枚やり手だったのか』

 

 どういうことだろうか。

 ワンダータートルが此処まで焦っているのも珍しい。

 その語調は、完全に不意を突かれたと言わんばかりに動揺の色が隠せていない。

 

『敵は、何体もおる……ざっ、とこの街に10匹以上……! トークンではない、ワイルドカードが……!』

「なあ!?」

「そ、そんなにいるんデスか!?」

「……これは、参りましたね」

『おいおい、冗談じゃねーぜ!? 何でそんなにいるんだよ!?』

『恐らく、モヒカンの流行は唯の前兆にすぎん……街中では、他にも影響が出ている個所があるはずじゃ』

 

 嘘だろオイ。

 ……そうなるともう、一分一秒が惜しい。

 大量のワイルドカードが町中にばら撒かれているようなものじゃないか。

 待てよ。大量のワイルドカードが出現した……前にも似たようなことがあったような。

 

「おーい、お前らー。喉乾いただろ? ジュース買ったんだけど飲んでくかー?」

「わりぃ、ノゾム兄! ちょっと急用が出来た!」

「Sorry! 私達、他の大会の会場を探さないといけないのデ!」

「此処で失礼します」

「ええ!? どうしたの3人共!? ……行っちゃった」

 

 花梨とノゾム兄には悪いが、さっさとワイルドカードを捕まえないといけない。

 俺達は急ぎ、ショッピングモールを出ることにしたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 早速、街で起こっていた混乱は目を疑うものであった。

 

「オーイ!! いつになったら変わるんだこの信号!」

 

 道路から怒号が飛んできたので向かってみると、赤信号のまま止まっている信号。

 しばらくそれを見つめていたが、確かに変わる気配がない。

 後ろには車の長蛇の列が出来上がっていた。

 

『任せな! 炙り出す!』

 

 シャークウガが飛び出し、信号機に向かって水球を投げつけたその時。

 ぎえええ、という叫び声と共に信号機から何かが浮かび上がった。

 信号機から浮き出たクリーチャーの影。それもまた、信号機に似ているものだったが……。

 

「《チョクシン・ゴー》……! 火文明のジョーカーズのクリーチャーです」

「ジョーカーズ、だと!?」

「何気に、こうしてワイルドカードとして対峙するのは初めてデスね……」

 

 きっ、と3つの目でこちらを睨むチョクシン・ゴーは歩道に降り立った。

 俺はすかさずデッキケースを取り出そうとするが、

 

「……熱ッ!?」

 

 熱い。デッキケースからカードを取り出してみると、その一番上に置いている”皇帝”のカードのみが輝いている。

 

「何だ……!? エリアフォースカードが……!?」

『エリアフォースカードが反応しているであります! 何か、強いものに引き寄せられているような……!』

「それなら、ここは私に任せてください」

 

 紫月が躍り出て、デッキケースを握りしめる。

 

「先輩。エリアフォースカードが一枚噛んでいるのならば、先輩はそちらへ向かってください。何か関係があるのかもしれません」

「ああ、分かった!」

「エリアフォースカードが反応している場所に行けばいい、ってことデスね!」

 

 シャークウガもやる気満々、と言わんばかりに拳を掌に打ち付けた。

 

「シャークウガ」

『おうよ!! 任せておきなぁ!!』

「デュエルエリアフォース」

 

 周囲は空間に包まれていく。

 彼女に背中を託し、俺達は次の反応がある場所に向かうのだった。

 

 

 ※※※

 

 

 事態は、どんどん悪くなっているように思えた。

 そもそもがワンダータートルが魔力を集中させてサーチをしないと炙り出せなかった辺り、相手のステルス性能が高いのは間違いないと彼は言っていたが、それ以上に増殖するスピードが異様に早いように思えた。

 そして、同時に俺の”皇帝”のカードの熱もだんだん強くなっていった。

 

「エリアフォースカードがどんどん熱くなってる……発火しねぇよな?」

「そんなこと言ってる場合デスか!」

「場合だよ! 割と現実的な問題だ!」

「そんなことより、あれを見るデース!」

 

 次に通りかかったのは、近くの大きな公園。

 しかし、ブランが俺の懸念などすっ飛ばして指差した先には、奇妙な光景が広がっていた。

 

「ウオオオオオオ!! ホームランンンンンンンッッッ!!」

「何のォ!! レシーブしてやるぜ!! せいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 何なんだコレは。

 俺の目が節穴で無ければ、野球のバットの如くどこから持って来たのかボーリングのピンを振り上げている少年たち。

 そのうちの1人がサッカーゴール目掛けてラグビーボールをボーリングのピンでスマッシュすると同時に、ゴールキーパーと思しき少年がテニスのラケットでそれを打ち返そうとしている、最早どこから突っ込めばいいのか分からない図面であった。

 

「ゴォォォォォル!!」

「くそっ、三振だ……まさか、さっきのクォーターでガターを取られるとは……」

「スポーツ用語が何から何までごちゃまぜじゃねーか!!」

「意味が分からないデース!」

「誰だよこんなスポーツやらせてんのは!」

 

 見ると、どうやら今日は少年サッカーの試合がこの公園の運動場であるようだったが、何かがおかしい。

 試合をしている少年たちのみならず、審判、監督、観客までもがノリノリで熱狂しているという始末。

 頭がおかしいとはこのことだ。狂ってやがる。人類には早すぎたんだ。

 

『ワイルドカードでありますよ! にしても、スポーツに興じるクリーチャーもいるでありますが、人間のスポーツというのは随分とまあ奇妙奇天烈奇怪でありますなぁ』

「あってたまるか、こんな世紀末スポーツ! ワイルドカードの仕業じゃなきゃ、狂人の集会だっつーの!」

『巨大な気配を感じるが、姿を隠しておるか。仕方ない。爺がちと、ひと踏ん張りするかのう』

 

 言ったワンダータートルが巨大化し、恐らく運動場の上空を支配しているであろうそれに向かって”吠えた”。

 空が割れるような轟音と共に、空間がひび割れて、そこに居た異形が姿を現す。

 それは、ボゥリングのピンのような胴に、左手に野球のバット、右手にはテニスのラケットを掲げた道化の化身。

 

「《スポーツ大尉》! 火のジョーカーズのクリーチャー、デス!」

『やれやれ、道理でこんな滅茶苦茶な催しが生まれるわけじゃわい』

「で、でけぇ……! あいつのパワーは12000でコストは8。やっぱりゲームでのスタッツの高さは、ワイルドカードとしての影響力にそのまま反映されるのかよ!?」

 

 怒り狂った様子で、こちらへ飛び掛かってくるスポーツ大尉。

 それに、ブランとワンダータートルが立ち塞がった。

 

「アカルは先に行ってくだサイ!」

『ああ此処から先は迷宮入りじゃ。すまんの』

「ワンダータートル! デュエルエリアフォース、お願いしマス!」

『うむ!』

 

 取り合えず、この頭のおかしいスポーツを止める為にもブランに此処を任せることにする。

 しかし……大丈夫かなあ、この街。次から次へと頭のおかしい案件が飛び出してきてるんだが。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「どんどん強くなってるな、反応は……」

『とにかく進むのみ、でありますよ!』

 

 しかし、こんなにトークンじゃなくてワイルドカードが出てきたのは、あのパンダネルラ将軍の時以来じゃないだろうか。

 あの時は、パンダネルラ将軍がエリアフォースカードを手に入れたことで引き起こされた大惨事だったが……。

 待てよ。そうなると、今回の件もエリアフォースカードを手にしたワイルドカードの仕業ってことか?

 

「なあ、チョートッQ。今回の事態を引き起こした黒幕ってのは、居るんだよな?」

『いるでありましょうな。そしてそれは、エリアフォースカードを手に入れたワイルドカードでありますよ』

「……俺も同じこと考えてた。だけど、何かそれだけじゃねぇ気がするんだよ」

皇帝(エンペラー)のエリアフォースカードでありますか?』

「ああ。そして、エリアフォースカードのことも気になるんだ」

 

 そうだ。チョートッQ。お前はエリアフォースカードがワイルドカードを止められる唯一の手段だって言ったよな。だけど、同時にエリアフォースカードはワイルドカードに力を与えるものだった。

 そう考えると、この2つが全く別のものではなく、むしろ深く関わり合うものであることは不自然な事じゃないはずだ。

 

「チョートッQ。もう1回聞く。お前達はエリアフォースカードとワイルドカードについて、どこまで知ってるんだ?」

『そう言われても困るであります。我は、意識があった時には既に人々に影響を与えるワイルドカードを自らを使役するマスターと共に討滅しろ、ということ……そしてエリアフォースカードを守れと刷り込まれていたでありますよ。それ以外は何も覚えていないであります。シャークウガも、ワンダータートルもそれは同じはずでありますよ』

「……覚えてない、ね」

『むっ、マスターは我を疑うでありますか!?』

「確かに俺達は今まで、何も分からずにワイルドカードを封じることだけを続けてきた。それは、お前達の”命令に従う”という事。そして、俺達の”日常を守る”という利害の一致が前提だった」

『……マスターにしては、随分と打算的な事を言うでありますな』

「勿論、それだけって言つもりもねぇ。ねぇけど――魔導司(ウィザード)の件。そして、今回の大規模な異変から考えると、もうその段階は過ぎたと俺は思ってる」

 

 何故、エリアフォースカードが封印する対象であるワイルドカードに力を与えるのか。

 そして、チョートッQたちが余りにも自らに関係するエリアフォースカードやワイルドカードについて知らなさすぎるのか。

 

「――そろそろ知る必要があるんだよ。エリアフォースカードの事も、そしてワイルドカードの事も。そして、俺にお前を手渡した、あのカードショップの爺さんは、間違いなくそのことを知ってるはずなんだ」

 

 おぼろげにしか覚えていない、あの不思議なカードショップでの記憶。

 しかし。間違いなく、エリアフォースカードとワイルドカードについて知っている何者かが、この街に居る、あるいは居たはずなんだ。

 そして、今俺の手元にそのカードがある以上、居ないという線は薄い。

 同時に、”皇帝”に覚醒した俺のエリアフォースカードが強く反応している今回の事件。もし、突き止めることが出来たならば、俺はこの謎に一歩近づくことが出来るんじゃないか?

 

『マスター! ワイルドカードの反応でありますよ!』

 

 チョートッQの叫び声が響いた。

 見ると、彼が指差しているのは商店街の裏路地。

 丁度、Tシャツ姿の青年が物憂げな表情で通りかかろうとしている個所だ。

 が、次の瞬間、裏路地から何かが伸びている。

 とても長い手のような何かだ。

 

「うわっ」

 

 次の瞬間、青年がそれに掴まれて細長い路地の入り口へ消えた。

 まずい。このままでは、あの人が危ない。

 すぐに路地に駆け込んだ俺達だったが――

 

「や、やめろおおお!! 何なんだお前はあぁぁ!!」

 

 男は、椅子のような何かに縛り付けられていた。

 椅子は床屋の入り口にあるくるくる回るアレ――サインポールが背もたれから伸びており、そこに目と口がついているという異形だった。

 へへへへへ、と狂気を孕んだ笑みを浮かべながら、マジックハンドの如く伸びた4本の手にはバリカン、鋏、その他諸々が握られている。おまけに、サインポールの頭からは何に使うか分からない丸ノコまで伸びており、下手をすれば男が危ない。

 見れば、路地には髪の毛が散らばっており、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「や、やめろお!! 頭を剃るなぁ!! 明日は出勤なのにいいいい!!」

『へへへ、お客さん、すぐに気分はJOEJOEになりますよ、へへへへ。動いたら、丸ノコが何をするか分かりやせんが』

「う、うわ、やめ――」

 

 時既に遅し。

 バリカンは男の髪の両脇をしっかりとらえ、あっという間に刈り取った。

 俺達はその様子を黙って見ていることしかできなかった。

 そして――

 

「ヒャッハー!! マジで気分はJOE(ジョー)JOE(ジョー)だぜー! クレイジー!!」

 

 遂に、怪奇事件の正体見たり。

 俺達は震えながらその光景を眺めることしかできなかった。

 

「ヒャッハー、世の中敵だー!」

 

 そう言いながら、男は俺達の脇を素通りして大通りへ走っていく。

 その跡には、男の髪が床に散らばっていた。

 

『何だァ? お前達もモヒカンにしてやろうか!?』

「結構です!!」

『《バーバーパパ》……火のジョーカーズのクリーチャーでありますよ!』

『何だァ? お前もジョーカーズか、新幹線。へへへへ、お前もモヒカンにしてやろうか?』

『新幹線に髪なんか無いでありますよ!!』

「そもそもお前のモヒカンに対する異様な拘りは一体何なんだ!!」

 

 いや、とにかくだ。

 この無駄にホラーなジョーカーズをどうにかして倒さねえと……。

 

『人間……この丸ノコ……髪を刈り取る形をしているだろう?』

「どう見ても命を刈り取る形だよ馬鹿野郎!」

 

 ギュイイイイン、と音を立てて電ノコが回転した。

 明らかに髪を切るためのものではないそれは、最早凶器の域。

 

『マスター! エリアフォースカードを!』

「ああ!」

 

 熱のこもったそれを握りしめて、俺はバーバーパパと相対する。

 しかし。次の瞬間、背後からも気配を感じ、振り返った。

 

『ほほほほ、バーバーパパ。助太刀に入りましたぞ』

 

 現れたのは、全身が楽器で造られた道化の化身、《絶対音カーン》。

 こいつも確か、火のジョーカーズだ。

 

「増援っ……! 挟み撃ち……!?」

『ほほほほ、そなたにはこの偉大なる作曲家・モーツァルトの鬘を差し上げますぞ』

「いや、いらねーっす、ハゲてないんで俺」

『心配無用、毛髪ごと接面を溶接すれば良い話ですぞ』

「テメェらの毛髪に対する異様な拘りは何なんだ!!」

『へへへへ、さあ選ぶんだな、モヒカンか』

『モーツァルトか』

 

 どっちにしたって、捕まったら社会的な死亡不可避だ、これは……。

 しかしまずいぞ。どっちから倒すか……。いや、隙を見せれば、どっちかに毛髪を改造されそうな勢いだ。

 

『マスター、どうするでありますか?』

「そんなの分かんねぇよ……! 百歩譲ってモヒカンか? 鬘を溶接されたら頭皮まで死にそうだし、うん、そうだ先に……でもモヒカンも絶対嫌だぁ!!」

『マスター!?』

 

 万事休す、絶体絶命。

 覚悟を決めて、絶対音カーンの方へ向き直ったその時だった。

 静寂を壊すかのように、それは響き渡る。

 

 

 

 

「ハハハハハハ!! 困っているようだな少年!!」

 

 

 

 この場の全ての視線が路地を囲む壁の一角に集められた。

 胡散臭い三段笑いが変声機を通して響き渡る。 

 ちょっと待て。この登場パターンに、この声は……。

 

 

 

「愛と正義を貫く、煌く満月の代行者……三日月仮面、只今参上ッ☆」

 

 

 

 跳んだそれは空中で宙返りしたかと思うと、俺と絶対音カーンの前に降り立った。

 助かった。助かったが、よりによってこの人か。何つーか、よくこんな恥ずかしい恰好で恥ずかしい台詞を堂々と言えるよなこの人……。

 黒いマントが翻り、ダサ――いや、カッコいいということにしておく――彼は、自信満々に言い放つ。

 

「ハハハハ! 白銀耀! デュエマは1対1で行うものだからな! 助太刀に参った!」

「ひ、久しぶりっすね……前に1対3やってたあんたが言っても説得力が皆無なんすけど」

 

 もっとも、1は三日月仮面で3はクリーチャーだから、不利な状況で戦ってたのは三日月仮面なんだけどな。

 

「少年、この私を頼ってくれても一向に構わんのだぞ? 悪い話ではないと思うのだが」

「いや頼んでねーんだけど……まあいいや、助かりました。ちょいと数が多かったんで、背中は頼みます」

「そう来なくてはな!」

 

 俺はバーバーパパに、そして突然現れた三日月仮面は絶対音カーンと対峙する。

 とにかく、これで1対1と1対1だ。三日月仮面はまず負けないだろうし、俺も絶対負けるわけにはいかない。

 

『モヒカンにしてやる!』

『ほほほほ、良いでしょう。相手をしてさしあげましょう』

 

 それぞれのエリアフォースカードが光り輝く。

 そして、同時にこの裏路地を戦場へと塗り替えていく。

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