学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

54 / 316
第39話:舞う三日月─戦車の守護獣

「――皇帝(エンペラー)……か」

 

 物憂げに、石碑に張り付けられたカードを眺める少女。

 白いローブで顔を覆い隠しており、その素顔は分からない。

 しかし、その視線の先には大いなる魔力が、彼女自身から集積されていた。

 集められた一点に、そのカードは存在していた。

 

「復元、もうすぐ終わるのか?」

 

 声が響く。

 振り返ると、そこには自らが最も信頼の於ける部下、トリス・メギスの姿を認めた。

 彼女は、どこかおぼつかない足取りで自らと同じ少女の姿を取る魔導司に近寄った。

 

「枯樹生華……もう、直に元の姿を取り戻す」

「じゃあ、そろそろコレ返すわ。やっぱ、これはお前が使ってるのがお似合いだ」

 

 ぽん、と手渡されたのはデッキケース。

 それをどこか虚ろな瞳で眺めた彼女は手に取る。

 

「トリス……君には迷惑をかけてばかりだね。こんなに穢れた私の言う事に従うには勿体ない逸材なのに」

「そんなことは気にしなくて良い。それより、あたしを信頼してくれるなら……いい加減、話してくれよ」

 

 トリスは、キッ、と彼女を睨む。

 

 

 

「何処まで知ってんだ……? エリアフォースカードの事、そしてワイルドカードの事を」

「……」

 

 

 

 彼女は沈黙し、答えない。

 だが、その心中を察したのかトリスは溜息をつくと、彼女の背中を叩く。

 

「……悪かったよ」

「何故? 君が謝る」

「エリアフォースカードの存在、ワイルドカードによる事案が発生してから、お前は協会から、その回収を請け負い、同時にどこか狂うかのように打ち込んで来た。心配だ。お前は、一人で抱え込むつもりなのか? そう考えると心配になってな」

「……でも、時が来るまでは話せない」

「そうか」

 

 トリスは言うと振り返った。

 そして、部屋を出ようとする。

 しかし、それを呼び止めんとばかりに彼女は言った。

 

「待て、トリス。命令だ」

「!」

「……エリアフォースカードの回収。願わくば、あの白銀耀の持つエリアフォースカード……そして、今回目覚めたエリアフォースカードの回収を頼む」

「お安い御用……ってわけにはいかないな。かなり骨を折るはずだ」

「そうだ。だが、それを防ごうと仲間が行く手を阻んでくるだろう。奪えるなら、奴等から奪え。1枚。1枚で良い。それだけあれば、サンプルには十分だ」

「……あいよ」

 

 そう言って、フランクに手を振ると彼女は部屋を出て行こうとする。

 しかし、その前にトリスは振り返ると言った。

 

 

 

「あたしの、α(アルファ)。そして、お前のἈρκα(アルカ)。2つが揃えば、無敵だ。復元が楽しみだよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 バーバーパパと絶対音カーンを撃破した俺と三日月仮面は、戦いの余韻醒めぬまま次の手を講じていた。

 というのも、今回の事件を引き起こした黒幕が居るという以上、それを叩かなければ事態は収束しないからである。

 チョートッQもシャークウガやワンダータートル程ではないが、魔力探知が出来るので、それで居場所を探させていたのであるが、なかなか見つからないらしい。

 

「で、三日月仮面は何でこんなところに?」

「ふっ、私はここ数日、火のジョーカーズが起こした数々の事件を解決していたのだよ」

「お、俺達よりも先に!?」

「ああ。だが、大本が強力なのか、奴らは思っていた以上にこの街に潜伏していたらしい。今日、再び暴れだしたということだ。私の身体も一つしか無い以上、君に協力を頼みたいのだが」

「それは良いんすけど、大丈夫すか? 白昼堂々と、その恰好で出歩くのは流石に……不審者と間違われますよ」

「ははは、それもそうか」

 

 何だ、自分で解ってるのか。

 でも、それはそうとどうやって移動するつもりなのだろう。

 多分、世を忍ぶためとかそんな理由でこの格好のはずなのに、却って目立っては本末転倒だし。

 

「それについては問題ない。我が相棒、オーパーツは巨大ロボット型ドラゴン」

「ロボット型ドラゴン? ドラゴン型ロボットじゃなくて?」

 

 あくまでもドラゴンであることを強調したいらしい。

 三日月仮面の背後に浮かび上がったクリーチャーを指差して俺は毒突いた。いつ見ても、このクリーチャーの姿はどこがドラゴンなのか分からないのだが。

 

「当然、これに飛び乗って移動するというわけだ!」

「はぁ」

 

 まあ、ダンガンテイオーも似たようなこと出来るらしいし、最早驚くことではなかった。

 予想以上にウケなかったのか、落胆の様子が見られた三日月仮面であるが、気を取り直していった。

 

「少年、君も乗せていっても一向に構わんぞ? 水文明特有の隠密魔法が掛かっているから、誰にも見えん」

「じゃあ、有難く……でも、何処に行くんですか?」

「これから考える!!」

「オイ」

 

 逆に言えば、本当に手掛かりが少ないという事なのだろう。

 そろそろブラン辺りがサーチで見つけて欲しいところなんだけど……そう思ったその時。

 急にデッキケースの中に入っているエリアフォースカードが飛び出した。

 

「あっ!!」

 

 宙に浮かんだそれは、いきなり何処かへ逃げ出すかのように真っ直線に飛んで行く。

 チョートッQが青褪めた顔で言った。

 

『マスター、追いかけるでありますよ!』

「仕方ない、三日月仮面さん、乗せていってください!」

「相分かった! こちらも全速力で追いかけるとしよう!」

 

 そう言うと、オーパーツの肩に乗せられた。

 え? ちょっと待て。ハッチとかねぇのかこのロボット型ドラゴンとやらは。

 

「良いか? しっかり掴まれよ?」

「待って、まだ心の準備が――」

「オーパーツ! 目標はあのエリアフォースカードだ! 追尾しろ!」

 

 巨大な機械龍、オーパーツは一度無機質な音を鳴らしたかと思うと、勢いよく空へ飛び出す。

 

「ちょ、ちょ、待ち――」

「安心しろ。オーパーツの魔力で、君が落ちることは多分無い!」

「そう言われても――」

 

 この日。俺は一生分の高所恐怖症のトラウマを植え付けられた。

 心像に悪い。オーパーツが降り立った時、しばらく動けなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 辿り着いたのは、街の外れにある殺風景な波止場だった。

 見ると、そこにはブランと紫月の姿もあった。

 2人共、驚いた様子でオーパーツに乗っている俺と三日月仮面を眺めていたが、俺だって驚いている。

 何で2人が此処に居るんだ?

 

「白銀先輩に……三日月仮面、ですか」

「何故、三日月仮面がここに? Why!?」

「そりゃこっちの台詞だ! 何でお前らが!?」

「話は後だ。彼のエリアフォースカードが、恐らく此処に来たと思うのだが」

「!」

 

 紫月とブランは顔を見合わせる。

 どうやら、何か知っているようだ。

 

「私達は、アカルのエリアフォースカードが強い魔力を放って此処に向かってきているのを知って、追いかけてきたのデスよ。丁度、位置が近かったデスからネ」

「はい。シャークウガが、今までにない程エリアフォースカードが強い力で、且つ高速移動していると言ったもので」

「エリアフォースカードが、アカルの手元を離れたんじゃないか? って心配になって追いかけていたのデス。デモ、魔導司の反応は無かったデスし、どうしたんだろうっ、て」

 

 それは心配をかけたな。

 だけど、ともあれこれで全員集合か。

 

『ともかく、問題はエリアフォースカードであります! 此処にやってきたので間違いないでありますが』

『ああ、それなら今から向かうところだったんだよ。この港の廃倉庫。そこに皇帝(エンペラー)の反応をびりびりと感じたんだ』

「今から先輩に連絡するところだったのですよ」

「そうだったのか」

 

 とにかく、あれがないと俺は戦えない。それに、エリアフォースカードが勝手に飛んで行った先に何があるのか。

 

「まあ、またあの胡散臭い仮面がいるのがちょっと気に食わないですが」

「デモ、カッコいいじゃないデスか!」

「ブラン先輩の感性なんてアテになりません」

「ははは! ともかく、少年少女よ。急がば回れとはいうが、今は一秒が惜しいのではないか?」

「それもそうだ。お前ら! とにかく、強力な助っ人も居るんだ。早く行こうぜ!」

 

 こうして、俺達4人は廃倉庫とやらに向かうことになった。

 この波止場はあまり人が居らず、せいぜい釣りにやってきている中年くらいなもの。

 おまけに、今は使われていない倉庫まであり、身を隠すには絶好の場所ということか。

 立ち入り禁止のスロープを潜り抜けた先には、暗闇の中に輝く皇帝(エンペラー)のカードがあった。

 

「こんなところに……! 何で勝手に飛んでいったんだ、このカードは……」

 

 それを手に取る俺。

 ブランと紫月は警戒するように辺りを見回している。

 

「見たところ、クリーチャーらしき影は見当たりませんね」

「ワンダータートルの探知にも引っ掛かってないようデスが」

「気を付けたまえ、諸君。何が居るか分からないぞ」

 

 エリアフォースカードを握りしめながら、俺を先頭に一同は進んでいく。

 そして、ようやく突き当りに着こうかと思ったその時だった。

 

 

 

 

 チュン

 

 

 

 

 何かを穿つような金属音。

 

 

 

「シヅク!!」

 

 

 

 ブランの声が響いた。

 間もなく、何かが紫月の頭上へ降りかかるのが見える。

 しまった、襲撃か!

 

「チョートッQ!!」

 

 間一髪。チョートッQの突貫によって、それは吹き飛び、向こうの壁へ叩きつけられる。

 危ない所だった。

 紫月は腰を抜かした様子で震えている。

 

「だ、大丈夫か!?」

「平気です。がっ……どうも、奥に何かいますね」

 

 どうやら、落ちてきたのは鎖で吊るされていたドラム缶らしい。それが何かの拍子に切れて落ちてきたようだ。

 しかし、それを考える間もなく、拍手が暗闇の中から聞こえてきた。

 

 

 

『此処まで来るとはな』

 

 

 

 急に、廃倉庫の灯りがつく。

 ようやく、俺達は倉庫の奥に居た異形の正体を認めた。

 今の今まで、クリーチャーのサーチをかいくぐり、ずっと潜伏していたそれが露わになる。

 

「なっ……!」

 

しかし、それを見た途端に俺は腰を抜かしそうになった。

 確かに予想はしていた。ジョーカーズを統べることが出来るならば、このクリーチャーしかいない、と。

 俺は昏倒するようなショックを受けた。

 

 

 

「《ジョニー》……!? 《ジョリー・ザ・ジョニー》……なのか?」

 

 

 

 赤く、鍔の長い帽子に赤い西部服。

 炎の意匠が施されたスカーフに鋼の身体。

 見ただけで、一瞬で誰なのかが分かるヒロイックな容貌。

 

『うっ、うわああ!? とてつもないマナ……今までのワイルドカードとは規格外、段違いでありますよ!?』

『そうだ。俺はマスタークリーチャー。お前達とは格が違う』

 

 チョートッQが怯えるほどの力。

 シャークウガも、ワンダータートルも、戦慄を隠せないようだった。

 

「まあ、薄々感付いていましたがね。これが、ワイルドカードを従えていたと考えるのが自然ですか」

 

 孤高のガンマンは、ようやく立ち上がった。

 幾度となく切札として頼ってきたクリーチャーが、今は目の前に対峙している。

 この感覚は、恐怖以上に、畏怖と呼べるものだった。

 それでも俺は前に進み出て、叫ぶ。

 

「おい、ジョニー! 良いから、早くワイルドカードを止めろ!」

『俺には権限が無い。不可能だ……痛ッ』

 

 次の瞬間、ジョニーが頭を抑える。そして、苦しそうに呻きだした。権限、ってどういうことだ!?

 見ると、彼の胸元から、轟轟と燃え上がるカードが飛び出す。しかし、それに似たものを俺は知っている。

 あれは……!?

 

『エリアフォースカード! それも、白銀耀の皇帝(エンペラー)のように目覚めておる、じゃと!?』

『読めてきたぜ! あのクリーチャーは、エリアフォースカードを手にしたのは良いが、その力に取り付かれて暴走してやがる!』

「どうすれば良いのデース!?」

『白銀……耀!』

 

 彼は、無機質に俺に銃口を突き付ける。

 

『俺と決闘をしろ。皇帝(エンペラー)を司るお前とチョートッQ。そして、戦車(チャリオッツ)を司るこの俺と』

戦車(チャリオッツ)……!?」

 

 それは、大アルカナの戦車を意味する7番目のカード。戦車、即ち騎兵を意味する。

 あの燃えているカードは、その戦車のカードというのか!?

 

「名前がついている……まるで、先輩の皇帝(エンペラー)のように、目覚めた後のようですね」

「そうだな……」

 

 確かにそれが一番手っ取り早い。

 だけど、その言葉に俺は違和感を感じた。

 今までのワイルドカードとはどこか違う。ジョニーは明らかに苦しそうだし、まるで自分自身を倒して欲しいと言わんばかりだ。

 今回の事件。今までのどの事件とも違う気がする。

 

「アカル、どうするデスか?」

「あのクリーチャー、どこか様子がおかしいですよ……!」

「決まってる! ここで奴を倒す! ワイルドカードが何なのか、ジョニーは知っている! この戦いは、俺達に道を示すためのものだ! そうだろ、チョートッQ!」

 

 そう呼びかけた。

 しかし、チョートッQから返事は無い。

 

『そ、そうであります……でも、でも……!』

「チョートッQ!? おい、どうしたんだよ!?」

 

 チョートッQの様子がおかしい。

 混乱しているような、取り乱しているような。

 しまいには、頭を抱えて唸り始めた。

 

『動くな』

 

 次の瞬間。ジョニーの銃口が、俺の額を捉えた。

 いきなりの行動に、俺もチョートッQも、その場に居た誰もが何も出来なかった。

 

「って、オイ!? ジョニー!?」

 

 間もなく銃声が轟く。

 が、銃弾は俺のすぐそばを掠め、カキィィン、と後ろの方で何か硬いものに弾かれた。

 俺達の視線は銃弾の飛んだ方へ注がれる。

 

 

 

「チッ、物騒だな。気付かれてたか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。