学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第三章:アルカナ研究会決戦編
第42話:証明、結晶龍の王─平和的タイマン


「お兄ー、降りてきて、ってさー。早く来なよー」

 

 刀堂花梨は、呼んでも来ない兄の部屋にやってきていた。

 勉強で忙しいのは分かるが、夕食を抜かすのは心配だ。

 だから直接呼びに来たのである。すぐさま、慌てた様子で、彼は飛び出してきたのだ。

 

「わりわり、今行く」

「もう、明日は耀達と約束してるんでしょ?」

「分かってるよ、飯はちゃんと食わなきゃな」

 

 そう言って彼は階段を駆け下りていく。

 見ると、勉強机の上にはデュエマのカードが散らばっていた。

 

「お兄ったら……完全に浮足立ってる……剣道部失格だよ」

 

 そう呟いて、彼女はせめて片付けでもしてやろうと彼の机に近づいた。

 その時。机の上に彼女は見たことのないものを認めた。

 

「あれ、写真立て。お兄、こんなの持ってたんだ」

 

 言った彼女は写真を見る。

 そこには――

 

「えっ?」

 

 思わず、素っ頓狂な声が出た。 

 見たことのない写真。そして、ノゾムの隣には、見たことのない少女が映っていた。

 短い髪に、眼鏡を掛けた大人しそうな印象で、ノゾムとは正反対だった。

 彼女の肩を抱き寄せ、ピースサインをカメラに向けて弓なりに口を引き絞ったノゾムに、困惑しつつも微笑む眼鏡の少女。

 

「この女の子、誰だろ……昔のお兄と一緒に映ってるけど」

 

 首を傾げる花梨。

 昔の友人か、あるいは――

 

「あたし、知らない」

 

 そこまで考えて、花梨は呟いた。外の窓をふと見る。

 静かに、雨がしとしとと降っていた。

 

 

 

「お兄の昔の苗字も、お兄が昔何処にいたのかも――何にも、聞いていない」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお、遅れたぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫ぶ刀堂ノゾム。自転車をぶっ飛ばしているのは塾の朝講習に遅れそうだからである。

 弟分たちとのデュエルの約束が楽しみ過ぎて、うっかり寝坊したから、と自分の中で分析はしているが、本当に遅刻しかかるとは自分でも思わなかった。

 だが、焦る反面楽しみでもあった。

 土曜の朝から塾に行かねばならないのは憂鬱以外の何物でもないが、それでも耀達と対戦の約束を取り付けているのは心が躍る。

 

「あ」

 

 しまった。心が浮ついた。

 ぶっ飛ばしている自転車のすぐ先に、歩いている子供をノゾムは認めた。

 細い道路で、このままだとぶつかる。体温が氷点下まで下がったような気がした。

 

「ふむ。この構図も悪くない」

 

 子供――らしき人物は、何やらぶつぶつ呟いており、全く周囲を見ておらず、こちらに気付く様子はない。

 叫んで危ないとでも言えばよかったのであるが、この時のノゾムの思考回路は、”行動”へ繋げられた。

 

「やっべ!」

 

 すぐにハンドルを切り、間一髪ぶつからずには済んだが、自転車のタイヤがずぶっ、と水溜まりに沈む。

 そして思いっきり水飛沫を跳ね上げた。

 勿論、それは今しがた避けた子供――尚、体格は中学生かと思ったが、耀達と同じ制服を着ていたことに気付いたのは少し後である――にぶちまけられる結果に。

 

「冷たッ!? 水!? 泥水!? 水たまりの!?」

「わりぃ!! すまねぇ、ガキンチョ!!」

「くっ、カ、カバンが――中身は……ああ、濡れてやがる!! テメェ!! 覚えてやがれ!!」

 

 思ったよりも低い怒号が後ろから飛んでくる。

 ああ、申し訳ないことをしてしまった、と反省はするが、今更自転車を止めることは出来ないし、止まらない。

 そのままノゾムは塾へと飛ぶように駆けていくのだった――

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「それで、お前今起きたんだって!? 何時に寝たんだよ!? 無茶し過ぎだろ!?」

 

 俺――白銀耀は思わず、スマホに向かって思わず怒鳴った。

 あの日――一週間前の、戦車(チャリオッツ)が起こした事件以降も火のジョーカーズによる事件は続いた。

 そんな中、ブランは家に帰ると夜遅くまで何やら調べていたのか、翌朝から寝ていることが多くなった。

 一体何を調べているのかは分からない。少なくとも、戦車(チャリオッツ)のワイルドカードが起こしたと思しき事件の調査も行っているようではあったが、それだけではないようだった。

 で、今日は土曜日。俺達は休日も部活で一応此処に来るのだが、此処に来ているのは俺達だけではなかった。

 

「ねえ、耀。お兄そろそろ来るんだってさあ。塾の朝の講習終わるんだって」

「マジか!? おいブランの奴、何やってんだよ……! 早くしねえとノゾム兄が来るじゃねえか!」

『Sorry!! 私の責任なので、先に始めちゃってくだサーイ!』

「ったく……」

 

 俺は溜息をつく。

 彼女が良いと言っても、俺達が良くないのであるが。

 そう。今日は花梨の兄、刀堂ノゾムがこの間の埋め合わせに、と言ってデュエマ部に遊びに来るのだ。

 この間、結局俺達と対戦が出来なかったのを惜しく思ってるらしい。にも関わらず、あいつめ……遅れて来るというのだ。

 

「ふああ」

 

 欠伸が聞こえてくる。

 紫月だ。彼女は如何にも気だるそうに、口を開けると身体を伸ばす。

 如何にも自分は無関心と言わんばかりの表情だった。

 

「もうブラン先輩抜きでいーんじゃないですか」

「お前もお前で薄情だな!」

「そのブラン先輩が先にやっててくれって言ったんじゃないですか、私電話聞こえてましたよ」

「そうは言うけどな!」

「もう、ブランったら、どうしたんだろ……一体何調べてたのかなあ」

「どうせ碌でもねぇ事だろ」

 

 そう俺が言ったその時。

 部室の扉が思いっきり開いた。

 もしやブラン、またはノゾム兄か、と思って俺達の視線はその先へ注がれる。

 が。

 

「失礼するぞー、白銀、或瀬、紫月ー」

 

 そのシルエットは想像以上にチビで、その声は想像以上に野太いものであった。

 筆を挟んだヘアバンドを頭に巻いた桑原先輩だ。

 これは予想外。今日は特に用事が無いのか、慌てた素振りも見せない、が非常に不機嫌そうであった。

 何故かブレザーも脱いでるし。

 

「おや? 或瀬が居ねえじゃねえか。その代わり見ねえ顔が居るな」

「桑原先輩! どうしたんですか?」

「これはまた……」

「え、えと、この人って」

 

 ああ、そうか。

 花梨は桑原先輩と直接会うのは初めてだったのか。

 

「美術部の桑原先輩だよ。よく、此処に遊びに来るんだ」

「こいつがテメェの言ってた幼馴染か? 剣道部の……」

「は、はいっ。刀堂花梨って言います!」

 

 言った彼女は、じぃっと桑原先輩の顔を見ていた。

 困惑したように彼は返す。

 

「……どうした?」

「先輩の名前は、コンクールの入賞した絵で見たことがあったけど、直接会うのは初めてだなぁって。まさか、耀達と知り合いだったなんて」

「ああ。そいつは嬉しい限りだ。絵描きは、描くのと、自分の絵を見て貰うのが一番の悦びよ。ありがとな」

 

 ぶっきらぼうに返すが、どこか柔らかい語調で彼は言った。

 それにしても、美術部がコンクールに入選したという話を聞くと、必ずと言っていい程桑原先輩の名前が挙がる。

 校内でもその名前を知る人は多いってことか。

 彼はどかっ、と傍若無人にソファベッドに座ると言った。

 

「にしても、機嫌が悪そうですね。どうしたのですか」

「朝っぱらから後ろから自転車が走ってきて、水たまりを盛大にひっくり返しやがってな。鞄が濡れてラフが濡れた。今、ブレザーも一緒に乾かしてるところだ」

 

 それは朝から機嫌が悪くても仕方がない。 

 災難だったな、先輩……。

 とはいえ、乾かせばそれは大丈夫らしく、切り替えた様子で言った。

 

「にしても、ご苦労だな。わざわざ他の部の奴も呼んで集まって」

「ああ、今から花梨の兄さんが此処に来るんですよ。こないだ、デュエマの大会で会ったけど、色々あって結局デュエルできなかったから、って」

「それは律儀なこったな。で、強いのか?」

 

 桑原先輩らしい直球ストレートな問いだった。

 

「強いなんてものではありません。同時に複数人相手に勝ってしまったくらいです」

「何だそりゃ。お前、そんな奴に勝てるのか?」

「いーや、今の俺の実力をあの人にぶつけるだけですから!」

「……そうか。テメェらしいな」

 

 くっくっ、と低い声で彼は笑う。

 

「それに、花梨の兄貴、先輩と同い年なんですよ」

「なっ、受験生かよ」

「……ええ。私達よりも偏差値が上の高校で、もう進学先も内定してるんだとか」

「とんだガリ勉野郎だな」

「会ってみたら分かるけど、そういうタイプじゃないんだよねー……」

「つか、桑原先輩も強いじゃないですか。良い勝負が見れるかもしれませんし」

「俺はそうでもねぇよ。大体、一番ムキになってデュエマやってたのって小学校の終わりくらいなもんだしなあ。俺はもっと強くならなきゃいけねえのに」

 

 そうは言いつつ、桑原先輩も最近のワイルドカードの事件に出来るだけ協力する為か、カードを買い集めている姿がブランによって目撃されている。

 というかブラン。お前のそれは下手したらストーカーか盗撮だからな。

 

「しかし、何でそんなに良い学校行ってるのに、デュエマ強いんだ、刀堂の兄貴は」

「さ、さあ。あたしも、お兄のことは余り知らないので……」

「あまり知らない?」

 

 困惑する桑原先輩。花梨はすぐに理由を察し、付け足した。

 

「血が繋がってないんです。お兄は、うちに養子に来たから……」

「……ああ。まあ、人の家の事に首突っ込むつもりはねぇが、大変なんだな」

「は、はい。それに、お兄は私に過去の事とか話したことないし、親も教えてくれなかったから……お兄がどうしてデュエマがそんなに強いのかも知らないんです。ずっと前からやってたってのは分かるんだけど」

 

 そう言えば、俺もノゾム兄の経歴を知らない。

 この街にやってくる前のノゾム兄のことを知らなすぎる。

 いつも笑顔で、人のペースに割り込むように元気を、活気をふりまくムードメーカー。

 花梨に似て気さくな彼だからこそ、一見何の悩みも抱えていないように見えるからこそ、俺も何処か不透明なノゾム兄の過去に疑問を抱いたことが無いわけではなかった。

 だけど、それは詮索すべきことではない。ノゾム兄が異様に強いのは、元々頭が良いからだ、と結論付けてそれで終わりだ。

 

「お前の兄貴に会ってみたいもんだ。俺は、昔調べたから色んなデュエリストの顔を知ってるが、そこまで凄まじい実力の持ち主はそうそういねぇよ。どんなクリーチャーを操るか、楽しみだな」

「それは対戦してからのお楽しみということで」

「そうか。ククッ、今日は久々に息抜きが出来るからな。お前らと対戦しようとデッキを持って来ていた甲斐があったぜ」

 

 本当は、万が一ワイルドカードの事件が起こった時のために持っていたのだろうが、それも本心なのだろう。

 とても楽しみそうに見えた。

 そんな彼を見て、花梨が不思議そうに言った。

 

「それにしても、桑原先輩ってデュエマが大好きなんですね……美術部の同級生から聞いたイメージは、何か絵に拘りがすっごく強くて、職人タイプって言ってたから、カードゲームなんか興味ないのかと」

「絵が無くしてトレーディングカードゲームは成り立たねえよ。今の俺は背景画が中心だが、絵を描き始めたきっかけは、小学生の頃にデュエマのクリーチャーを自分で考えて描いてたことだったからな」

「そ、そうなんですか?」

 

 確かに絵を描くことが好きな人は誰しも1度はやりそうだ。

 

「姉貴が男子っぽい趣味を持っててな。男勝りで、デュエマも好きだったからな。よくやったもんだ。俺はこのカードゲームの絵に惚れてたわけだが」

「……みづ姉と同じですね」

「そうか。俺もあいつと似た者同士、か」

 

 くくっ、と低く笑うと、彼は続けた。

 

「その後は何となく美術部に入ったが――あまり身が入らなくてな。入りたての頃に、自分が本当はどんな絵が描きたいのか分からなくなっちまったことがあった。デッサンばっかり、基礎練の繰り返しだからな。これでよかったのかって迷っちまった時期がある」

「や、やっぱり大変なんですね」

「何事も基礎錬は大事って言うけど、好んでやる人はなかなかいないんだよね……耀」

 

 そう言う花梨は何事にも一生懸命だから、いやある意味剣道馬鹿だから疑うことなく地味な基礎錬もやっていた覚えがある。

 とはいえ、普通の人はやはり好きな絵が描きたくなるものだよな。

 

「そんな中、デュエリスト養成学校の対抗試合を見に行ったことがあった。デュエマが好きだった姉貴が、部活が上手くいかなくて落ち込んでる俺を無理矢理引っ張っていったんだが、結果的にそれは俺から絵を離れなくした」

「デュエリスト養成学校の対抗試合……?」

「ああ。ある企業が作った最新式のデュエルシステム。その時、俺とそんなに年が変わらないやつらが、最新鋭のホログラムCGとして浮き上がったクリーチャーを操る姿を見て、言葉が出なかった」

 

 初めて語った桑原先輩の過去。

 俺達は、それを静かに聞いていた。

 

「その時、隣にいた姉貴が、言ったのさ。あなたが描いたクリーチャーも、あそこに出てくれば良いのにね、ってな。俺は、ようやく、どうして自分が絵を描き始めたのか思い出せたのさ」

「それで、今までずっと絵を」

「ああ。それに、極めれば極めるほど、絵って楽しいんだ。辛いことも山積みだけどな。だけど、姉貴とデュエマが、いや、あの時の試合が俺を此処まで連れて来たんだろうな」

「あの時の試合?」

「ああ」

 

 桑原先輩は言った。

 

「あれは鎧龍のデュエリストだったはずだ。俺と同じくらいのチビなのに、上級生や格上と肩を並べて必死に戦ってるんだ。そして、そいつが逆転のカギになってな……後から気になって調べたら、案の定俺と同い年で、しかもとんでもなく規格外のデュエリストだったよ。また一回会ってみてえもんだ」

 

 先輩の顔は、どこか遠くを見渡しているようだった。

 まるで、遠くの情景を眺めているような――

 

 

 

「よーう、待たせたな!」

 

 

 次の瞬間、陽気な声と共に部室の扉が開く。

 一瞬だけブランかと思ったけど、声と姿ですぐに今日の約束を取り付けた人物である、と俺達は気付いた。

 

「ノゾム兄!」

「もう、遅いよ!」

「これで、ブラン先輩以外は全員揃いましたか」

「いやあ、すまん。講習が少し遅くなってな」

 

 言ったノゾム兄は部屋の中を見渡す。

 が、桑原先輩に目を合わせた瞬間、身体が硬直したようだった。

 俺達は思わず、先輩の顔を見る。

 

「おい、テメェ」

 

 静かな怒声。 

 くぐもったような怒りが部室を支配する。

 

「あー、いや、あんたは今朝の」

「テメェは今朝の……!」

 

 剣呑になる場の雰囲気。

 花梨は、ノゾム兄を睨む。

 

「ノゾム兄。また何かやらかしたの? ねえ?」

「あ、ああ、ちょっと、朝……自転車で」

「じゃあ、桑原先輩に朝自転車で泥水をぶっかけたのは――」

「どうやらノゾムさんだったようですね」

「いや、すまなかった。あの時は本当に急いでいて――」

 

 

 

「今朝はよくも、俺に泥水を飲ませてくれたなぁ? あ?ガキンチョ呼ばわりしてくれたなぁ!?」

 

 

 

 チンピラのようなドスの利いた声が響いた。

 間違いない。桑原先輩に、朝自転車で水ぶっかけたのはノゾム兄だったんだ!  

 あーあ、俺はもう知らねえぞ。先輩怒ったら、めっちゃくちゃ怖いのに……。

 

「ま、まあ、桑原先輩、ノゾム兄も悪気があったわけじゃないみたいだし――」

「うるせぇ!! 此処で会ったが百年目!! テメェが刀堂の兄貴だってんなら、話は早い!」

 

 言った桑原先輩が、手にしたのは――

 

 

 

「デュエマでぶちのめしてやる!!」

 

 

 

 ――デッキケースであった。

 俺達は、喧嘩でもおっぱじまるのかと思っていたので、肩の力が抜けてしまう。

 

「自然な流れでのデュエマ!!」

「自然ですね」

「ええ!? 自然なのこれぇ!?」

「面白ぇ!! 受けて立つぜ!!」

「良いけど、お兄は後でしっかり謝ってね!!」

 

 怒ってる風に見せかけて、絶対あんたデュエマしたかっただけだろ桑原先輩。

 ともあれ、こうして桑原先輩とノゾム兄による平和的なタイマンが始まったのである。

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