学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第44話:証明、結晶龍の王─暗雲来たりて

 一瞬で全てを覆し、一瞬で全てを滅ぼす災厄の化身。

 それがノゾム兄の手に入れた答えだったんだ。

 無邪気な夢が詰まったその機械は、邪悪な口をぽっかりと開け、翻ったマントには何処に行くかも分からない絶望の宇宙が広がっていた。

 無邪気とは、時に最も残酷なものであること。

 ヒーローとは、時に最も冷酷なものであること。

 それを示すかのように、桑原先輩のクリーチャーたちを一瞬で屠った。

 

「こいつの効果で、お前のクリーチャーを全て山札の一番下に戻す」

「なっ……」

「6体以上いればエクストラウィンだが……2体しかいないからな。だが、それでもこいつはパワー71000のワールドブレイカーだぜ」

「だ、だが、軍勢を吹き飛ばしたところで――!」

「2手。《Q.E.D.》は1ターンに1度、水の呪文もタダで唱えられる」

 

 言ったノゾム兄は、もう1枚のカードを掲げた。

 

 

 

「呪文、《神々の逆流》! 互いのマナゾーンのカードを全て手札に戻す!」

 

 

 

 桑原先輩の顔は今度こそ凍り付いた。

 完全に詰んだ。クリーチャーを全て排除された上に、マナゾーンのカードはゼロ。

 対して、ノゾム兄の場にはワールド・ブレイカーの《ギュウジン丸》がいる。

 

「《オール・フォー・ワン》の効果は使わない。ターンエンドだ」

「お、俺のターン……マナにカードを置いてターン終了……」

 

 しかし、もう桑原先輩は何も出来ないのだ。

 そう、もう何も――

 カードを組み替え、2枚引いたノゾム兄は、容赦なくその鉄槌を振るう。

 過去に縛られ続ける芸術家に向かって。

 

「《ギュウジン丸》でワールド・ブレイク」

 

 吹き飛ぶシールド。

 その中にトリガーはあったかもしれない。

 しかし、先輩のデッキに入っているカードでは、もうこの軍勢を止めることは出来なかった。

 場には3体のクリーチャー。しかも、呪文では選ばれない《Q.E.D.》までいるのだから。

 いや、仮に逆転できたとして――桑原先輩にはもう、何も出来ないのであるが。

 

 

「《最終龍理 Q.E.D.+》でダイレクトアタック!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「負けた……我が尊厳たる絵画を穢された挙句、魂のデッキまで粉砕されるとは……一生分の辱めだ」

 

 床に手をつき、完全に意気消沈といった様子で溜息をつく桑原先輩。

 一生の辱めって……前に犬の着ぐるみ着せられた俺はどうなるんだ。

 ノゾム兄が、慰めるかのように言った。

 

「い、いや、そんなに大袈裟に落ち込まなくっても……」

「でも元はと言えばお兄が悪いよね」

 

 ぐいっ、と花梨がノゾム兄の耳を思いっきり掴んだ。

 いだだだだ、と引きちぎれそうな悲鳴が響いた。

 

「あだだだだ、返す言葉もありません……」

「ふん、まあ良いさ。俺の絵なんざ、泥水を啜るのがお似合いさ」

「負けて卑屈になってる!! 正気になって先輩!! 大体濡れたのラフじゃないですか!! 本番の絵が濡れたわけじゃないんだから……」

「私そろそろ寝ても良いですか」

「お前もお前で関心を失ってんじゃねえ!」

 

 それにしてもノゾム兄は相変わらず凄まじい強さだった。

 水文明だけで、ああやって相手の動きを完全に封じることが出来るんだな。

 先輩のキーカードをシールドに埋めまくり、出てきた切札も一掃、マナも一掃して反撃を封じるところまでがワンセット。

 それはそうと、桑原先輩がそろそろ哀れに思えてきたな……今回ずっとやられっぱなしじゃないか。

 

「と、ところで、お前、美術部なんだろ? ちょっと、どんな絵を描くのか興味が沸いてきたなー、なんて」

「本当か!?」

 

 うわ、露骨に元気になった。 

 やっぱ絵を誰かに見て貰うのが一番の楽しみなのか、この人。

 そしてあんたも露骨に機嫌取ろうとしてるんじゃねえよ。

 

「よし、ならばこっちに来い!! 屋上に俺が描いた絵がたっぷり置いてある、じっくり見せてやろう」

「お、オイ!? オイ!? こいつチビなのに力強――耀、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 桑原先輩にぐいっ、と袖を掴まれて部室を出て行くノゾム兄。

 まあ、お灸をすえる代わりにはなったはずだ。あの人芸術とかそういう類には疎いからな。

 絵画を見せられるのはかなり苦痛のはずだぜ。

 

「全く、お調子者なんだから」

「まあ、どっちの言い分も分かるんだけどな……」

「ですが、桑原先輩は本気で怒っていたようには見えませんがね」

 

 そうなのか? と俺は紫月の顔を覗き込む。

 彼女は頷くと続けた。

 

「何だかんだで、ノゾムさんとデュエマを楽しんでいたと思いますよ」

「何でそう思うんだよ?」

「結局、デュエマしようってのは口実だったんじゃないですか? あの人口下手でオマケに人見知りの気がありますし」

「それ、お前が言っちゃう?」

 

 爪先が思いっきり踏みつぶされたが、俺は負けないぞ。

 ともあれ、どれだけ桑原先輩が強い人と戦いたがってたのかが分かった気がする。

 

「何かノゾム兄行っちゃったし、あたしはそろそろ部活の方に少し顔出してくるね。弁当挟んで昼からまた練習だからさ」

「ああ。時間ぎりぎりまで付き合わせて悪かったな」

 

 こうして、嵐のような時間は過ぎ去った。

 そろそろブランが来てもおかしくはないのだが、まだだろうか。

 頃合いが来たら、桑原先輩に絵のありがたさをたっぷり叩き込まれているであろうノゾム兄を連れ戻しに行かないとな。

 

「先輩」

 

 紫月が唐突に口を開いた。

 何処か、神妙そうな顔つきだった。

 

「どうしたんだ」

「これは私の推測に過ぎないのですが……」

 

 くるくる、と彼女は自分の髪を弄りながら言った。

 

「桑原先輩は、相当焦っているのではないでしょうか」

「焦っている?」

「はい。……あの人は、私達と違ってエリアフォースカードを持っていません。だから、急に強くなろうとして埋め合わせようとしているのではないのか、と時折思うのです」

「無理してる、ってことか」

「……はい。あの人は義理堅い人ですから」

 

 それを聞いた途端、桑原先輩のデュエマへの打ち込みようも納得が出来た。

 断言は出来ないけど、火廣金に負けた時に無力さを実感した俺なら分かる。俺が同じ立場なら、間違いなくそうするという確信は持てるからだ。

 

「……負け続けるのを自分の無力だと勘違いして、意気消沈してくれなければ良いのですがね。負ける理由は、必ずしも弱いで済まされるものではない。師匠は、そう言ってました」

「……そうか」

「トチ狂わなければ良いのですが――」

 

 そこまで紫月が言ったその時だった。

 

『マスター!』

「!」

 

 チョートッQの声が聞こえてきた。

 本当にいきなりだな!

 会話を遮ってきた相棒のカードを睨みつけながら、俺は問い質した。

 

「どうしたんだよ。そんなに慌てて。またワイルドカードか?」

『とにかく強い反応であります! 場所は屋上でありますよ! 正体は分からないでありますが』

 

 屋上――それって、桑原先輩にノゾム兄がいる方向じゃないか。

 彼が焦って言うほどの強い反応って、どういうことだ? 只事ではないのは間違いないが。

 しかもこいつ今、正体不明って言わなかったか?

 

 

 

『非常に強い、魔力の塊が――この建物の上に浮き上がっているであります!!』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ――数時間前。某所にて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時は来た。

 今こそ復活の時。

 私が唯一持つこのエリアフォースカードを媒体に捧げ、貴殿を復活させるとしよう。

 その光は虚構となり、

 その水は謀略となり、

 その闇は欺瞞となり、

 その炎は戦乱となり、

 その力はその全てを生み出した根源となり、地盤にして礎となるだろう。

 偽りの天使と偽りの悪魔の力。

 天へ来たりて、罪業を並べ、堕落を齎す道化の将。

 

 

 

 

「――まだ、完全ではないが」

 

 

 

 梁に縛り付けられたカード。

 再生は出来たものの、そこに宿るクリーチャーは未だ真名を表してはいない。

 

「今回こそ、お前1人で行くのか?」

 

 トリス・メギスの刺々しい声が背後から聞こえてくる。

 

「ああ」

 

 言った彼女は遂に、重い脚を上げた。

 傍に止まっていた鴉――ファルクスが鳴き声を上げる。

 

「久方振りに、こいつの力を存分に振るわねばいけない。それに――私は孤軍ではないからな」

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